
2023年9月14日のダイヤモンドオンラインの表題の記事を紹介します。
「「全国で空き家が急増している」という報道をしばしば見聞きする。だが総務省の調査結果を確認すると、空き家の増加率は必ずしも危機的水準ではないことが分かる。以前は「コロナ禍を機に不動産バブルが崩壊する」という記事もよく見かけたが、不動産価格は上がる一方だ。不動産を巡る情報は全てが正しいわけではないのだ。人々のバイアスを強めるような報道に左右されず、データや事実に基づいて業界動向をウオッチするための心構えをお伝えする。(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)
「確証バイアス」がかかると物事の本質を見失う
今回は不動産を取りまく報道と、その受け止め方について警鐘を鳴らしたい。
人々が自身の思い込みや先入観を肯定するために、自分に都合の良い情報ばかりを集める傾向を「確証バイアス」(以下、バイアス)という。この傾向は誰にでも多かれ少なかれあり、0%にはできないだろう。
「血液型占い」もバイアスの良い例だ。「A型は几帳面」という通説に合致する人ばかりに目が行き、「あの人はキッチリしていると思ったら、やっぱりA型か」などと思い込む。一方で、ずぼらなA型の人がいても例外として無視する。
最近の例だと「コロナ離婚」も似たようなものかもしれない。新型コロナウイルス感染拡大を機にステイホームとなり、夫婦が共にいる時間が増えたことで欠点が目に付き、離婚が増えたという話だ。それが日本で頻繁に起きていると思い込み、離婚関連の記事などに日常的に触れるようになった結果、バイアスから抜け出せなくなるのだ。
だが厚生労働省による「離婚件数の年次推移」を見てみると、2020年の離婚件数は前年よりもむしろ減少している。
厚生労働省による調査結果(離婚件数の年次推移)出典:厚生労働省
本題に入ると、不動産関連で人々にバイアスがかかりやすいのは「空き家問題」だ。「少子高齢化に伴い、住人がいなくなって放置される空き家が猛スピードで増え、社会問題化している」というのが通説となり、メディアなどでしばしば取り沙汰されている。
その結果、人々は空き家の増加率が危機的状況に達していると思い込む。だが実は、増加率は必ずしも高水準というわけではない。
誤解が広がる端緒となったのは、野村総合研究所が15年に発表した予測値だと私は考える。
野村総研が発表した予測値と現実の驚くべき差
その予測とは「13年に約820万戸あった空き家数が、18年に約1076万戸まで増えるだろう」というものだった。このデータは空き家問題が語られる際によく引用されてきた。
2015年に野村総合研究所が発表した予測 出典:野村総合研究所ニュースリリース
だがふたを開けてみると、総務省が発表した実態調査結果では、18年時点での空き家数は約846万戸。13~18年の5年間で約256万戸増えると予測されていたものの、実際は約26万戸しか増えておらず、野村総研の予測は桁違いの大外れになってしまった。
総務省による「平成30年住宅・土地統計調査住宅数概数集計 結果の概要」より 出典:総務省
にもかかわらず、それ以降も「空き家問題」はセンセーショナルに報道されている。「日本の人口が減っている」「新築物件がたくさん建てられている」という前提知識を基に、メディアが「だから古い家が急増している」というストーリーを描きやすいからだと思われる。
一方で、空き家の取得経緯について国土交通省が調べたところ、50%以上が「親から相続した」と回答。「不明・不詳」は4%だった。また、空き家を保有する人の約60%が、空き家にしておく理由を「物置として必要」だからだと説明していた。持ち主不明のまま朽ちていく物件ばかりではないのだ。
国土交通省の資料「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」より 出典:国土交通省
国土交通省の資料「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」より 出典:国土交通省
空き家が増えていたり、買い手が付かなかったりするのは事実かもしれないが、その増加ペースは人々の思い込みより遅い。そして、異臭などを放たない場合は近隣に迷惑をかけることもない。親から相続され、物置として使われている物件が大半なら「大問題」というほどでもない。
にもかかわらず世間一般では、今にも崩れ落ちそうな空き家が急増しているかのように思われている模様だ。これはバイアスが悪さをした結果ではないだろうか。
「もうすぐ崩壊する」と言われながら一向にはじけない不動産バブル
そして、私が特に問題視しているのが「不動産バブル」に関するバイアスだ。
故・安倍晋三元首相による経済政策「アベノミクス」が始まった12年末以降、マンション価格は7割以上高くなった。この価格高騰を「バブル」とする報道もよく見られるようになった。バブルはいつか崩壊するものだが、それが「いつ、どんなきっかけで起こるか」をはっきり予測できる報道関係者・有識者はいるのだろうか。
というのも、数年前から「コロナショックに伴って不動産バブルが崩壊する」と言い始める有識者が増えた。似た趣旨の雑誌特集もよく見かけるようになった。
しかし実際は、コロナ禍に入ると以前よりも不動産価格は上昇した。通説とは真逆のことが起こったのだ。景気と不動産価格の相関関係はほぼないことの証左だ。にもかかわらず、明確な根拠がないまま「不動産価格は近いうちに急落する」とあおるような報道や、それを真に受ける人がいまだに見受けられる。これはメディア・市民双方のバイアスの産物ではないだろうか。
ちなみに、アベノミクスによる金融緩和で物件価格が高騰したのは確かだが、金利が下がった分、トータルでは買いやすくなった側面もあることを忘れてはいけない。「金融緩和のせいで家を買いづらくなった」とは一概には言えないので、この思い込みにも注意が必要だ。
そして、本連載で過去に解説した通り、不動産事業者への資金の流れは「日銀短観」で確認できる。もちろん「バブル崩壊」は突然起こるので、100%の予測は難しいかもしれない。だが日銀短観の数値を追っていくと、ある程度はマンション価格の動向をつかむことが可能になるのだ。
ここで、バブルが崩壊するという論者に問いたい。「それは何年後に起こるのですか?」と。バブル崩壊が「まもなく起こる」と言われ始めてから、その到来時期は引き延ばされ続け、少なくとも5年以上経過しているように思える。
「見たいものを見て、聞きたいことを聞く」のではなくデータを基に判断すべき
メディアは「一般市民はこう思っているはずだ」というネタを好みがちだ。そして、その国民のバイアスを裏付けるように、もっともらしいストーリーを報じている場合もある。
メディアからの取材が多い身としては、そうしたストーリーありきでニュースが作られていることに辟易(へきえき)する。バイアスを強化する情報やバッドニュースの方が、事実よりも数字を取りやすいのかもしれないが、そこに加担する気にはなれない。
私はコラムを書いたり動画メディアに出たりするが、そこで「自分の意見だけ」を述べることはまずない。先ほどの「空き家問題」の例もそうだが、私が伝えていることはエビデンスに基づいた情報だ。不動産コンサルタントとしての業務で得た一次情報(知見・データ)をお伝えすることも多い。
もちろん、メディアで報じられる情報の中にも元データが一般公開されているものがあり、このデータは一次情報に当たる。
ただ、そうしたデータの考察や取材を基に書かれた記事は二次情報であり、書き手の解釈や判断が入る。二次情報は人のフィルターがかかっているので、ニュースソース(元ネタ)を知りたければ一次情報を見に行く必要がある。
一次情報の身近な例が、前述した「国が発表した空き家調査」であり「日銀短観」だ。客観的データを基に、全ての通説を疑って、検証するのだ。それが先入観や偏見、思い込みなどによるバイアスに左右され、認識や判断を間違わないための防御策の一つである。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』というベストセラーがある。人間による思い込みには間違いが多いため、データや事実に基づいて世界を正しく見ることを推奨している。私はこの本と同じことを言っている。だが、多くの人間が「見たいものを見て、聞きたいことを聞きがち」なことからすると、私と違う考えの人はこのコラムすら読まないかもしれない。」
確かにマスコミ等は、自分の主張にあったデータを基に、記事を書き、説得力があるように見せかけます。このコラムの著者である沖さんが言うように、色々なデータを参照し、自分なりに分析する冷静さが、これからは求められると思います。
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