
2024年10月24日の朝日新聞デジタルの表題の記事を紹介します。
「小口に分割された建物の所有権を持つことができる「不動産小口化商品」という投資商品の購入者が増えている。国土交通省によると、同商品への出資額はこの10年で8倍超に急増した。背景には、相続税を節税したいと考える高齢の富裕層の存在がある。どんな仕組みなのか。リスクをどう考えればいいのか。
東京都墨田区の両国国技館の近くに立つ5階建ての賃貸マンション。都内の80代の女性は昨年、このマンションに設定された「不動産小口化商品」を6千万円分、購入した。
自分の死後、3人の娘にのしかかる相続税負担を減らすためだ。
2年前に夫に先立たれ、現金約1億2千万円と、一軒家の自宅を相続した。対策をしなければ、今度は娘たちに多額の相続税がかかると心配し、税理士に相談したところ、勧められたのが不動産小口化商品だった。
不動産特定共同事業法(不特法)という法律に基づいた、「任意組合型」という仕組みを説明された。どんな仕組みなのか。
投資対象となる墨田区のマンションの所有権は細かく分割され、計1345口の「持ち分」が設定されていた。1口あたりの金額は100万円。出資したい人たちがマンションを管理・運用する不動産会社との間で「組合契約」を結ぶと、5口(500万円)以上から購入が可能になる。
女性は出資者となって60口(6千万円分)を購入した。女性がこのマンションに住むわけではなく、全体の約4.5%分の所有権を持つことになる投資商品を買ったにすぎない。
これがなぜ「節税」につながるのか。
バブル期に登場した不動産投資の手法が、富裕な高齢層の節税需要をつかみ、再び注目を集めています。「タワマン節税封じ」の税制改正も影響しているようです
相続税を課すにあたって故人の財産を評価する際、不動産の方が現金よりも評価額が低くなるのが一般的だ。
不動産の場合、土地は時価の80%程度が目安になる「路線価」をもとに、建物は時価の60%程度が目安になる「固定資産税評価額」をもとに評価額が決まるからだ。
不動産の取引価格にあたる時価は、立地や用途によって価格も変わる。だが税金の計算に使う評価額は公平性が求められるため、公的な指標となる路線価などが用いられ、その結果、評価額が下がる。
さらに賃貸物件だと居住者がいて「換金」がより難しくなるため、評価額がもう一段引き下げられる仕組みもある。
相続税負担は約7分の1に
税理士によると、女性が持ち分を購入した賃貸マンションの場合、評価額は時価より約70%低くなる、と知らされた。
相続時、6千万円の持ち分は「約1800万円の不動産」として評価され、そこからはじかれる相続税は70万円ほど。もし6千万円を現金で持っていたら相続税額は約470万円になっていたので、約7分の1に「圧縮」できる計算になる。
現物の不動産では難しい「分割」が容易なことも小口化商品のメリットとされる。
女性は「争続」を避けるため、60口の持ち分を3人の娘に20口ずつ分け与える考えだ。
「現金を不動産に置き換えるだけで、こんなに節税につながるなんて。娘たちの苦労が減って、ありがたい限りです」
女性は残りの現金6千万円で生活しつつ、年110万円まで非課税になる「暦年贈与」なども3人の娘に行って、さらに相続対策を進める考えという。
投資商品なので、通常の不動産投資と同様、賃貸収入に基づく分配金や、マンションが高値で売れた場合のリターンも期待できる。一方で、空き部屋が増えて賃貸収入が減ったり、高値で売れず出資が元本割れしたりするリスクもある。
相続税法改正きっかけに需要増
不動産小口化商品は、不動産バブルに沸いた1980年代に登場したが、90年代初頭にバブルがはじけると、体力のない業者の倒産が相次ぎ、出資者が多額の損失を被るケースが続出した。
このため95年、出資者を保護するための不動産特定共同事業法(不特法)が施行された。一定の資本要件などを満たし、国土交通相か都道府県知事の許可を得た業者しか、事業を営めないようになった。
目立って需要が高まったのは、この10年ほどのことだ。
2015年の相続税法改正で相続税の課税対象者が一気に増え、「節税需要」が高まったことが背景にある。
国土交通省によると、23年度の「任意組合型」の新規出資額は558億円で、10年前に比べて8.5倍に増えている。
小口化商品にはもう一つ、「不動産小口信託受益権」という商品もある。不動産として相続税評価を引き下げる仕組みは同じだが、こちらは金融商品取引法に基づき、証券会社や信託会社が主な売り手だ。
SBIマネープラザの24年度の受益権の販売目標は、3年前の3倍以上の250億円超。
東京都港区や千代田区など値下がりしにくい都心の居住物件を主な対象にしており、担当者は「高い賃料収入や売却益が見込める」という。
背景にタワマン節税の見直しも
SBIなどからの委託を受けて小口化商品を顧客に紹介する税理士によると、購入者の大半は60~80代で、資産規模が1.5億~2億円ほどの富裕層という。
とりわけここ数年、販売が急伸している理由について、この税理士は「タワーマンションを舞台にした節税が税務当局から狙い撃ちされ、メリットが減ったことも背景にある」と明かす。
タワマン節税は、高層階ほど高くなる物件価格に対し、1戸あたりの底地の小ささなどから相続税評価額が著しく下がる点に着目した節税策で、富裕層に人気だった。
だが行き過ぎた節税が問題視され、24年以降は評価額が下がり過ぎないように計算式が見直された経緯がある。
資材高などでタワマン自体の価格も高騰する中、高齢な富裕層の目線が近年、小口化商品に向くようになったという。
出資金の「元本割れ」などリスクも
もっとも投資商品なので、リスクもある。
購入した持ち分は「元本保証」されているわけではない。不動産市況が落ち込んで物件の売却損が出れば、持ち分が元本割れするかもしれない。
また運用期間の途中でお金が必要になり、持ち分を換金したいと思っても、市場で売買できる商品ではないので、他の出資者らと相対取引する必要がある。安値でしか買い取ってもらえなければ、やはり元本割れしかねない。
小口化商品を販売する業者が、本当に「許可」を受けた業者なのかの確認も大切だ。できれば物件を見にいったり、周辺の賃料相場を調べたりして、空室や値下がりのリスクがないかも確認したいところだ。
小口化商品に詳しい税理士の岸田康雄さんは「老後の大切なお金を確保したうえで、余剰資金で投資するようにしてほしい」とアドバイスする。(本田靖明)
《不動産小口化商品》 小口に分割された不動産を、複数の投資家で共同購入し、賃貸や売買で得られた収益が分配される投資商品。不動産特定共同事業法(不特法)に基づき、投資家保護の観点から、許可を得た事業者だけが販売や運用を許されている。購入した不動産の所有権を得る「任意組合型」と、所有権は生じない「匿名組合型」がある。」
新しい節税対策の方法としての記事です。首都圏で不動産価値が下がりにくい地域では、有効な節税方法だと思います。お金持ちにとっては、次から次に、新しい節税方法が考案されています。
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