2023年3月27日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。
「本当のことを知っていれば…
引っ越し業者にとって3~4月は繁忙期だ。大学進学や就職、勤務先の転勤や異動などを機に、この時期、不動産屋を訪れた人も多いに違いない。
その際、「不動産屋にダマされた」という人は、多いのではないだろうか。
・不動産屋で聞いたより、最寄り駅から時間がかかる ・物件の内観写真が広角レンズで撮影されており、実際に見たら狭く感じた ・「今なら値引き枠が〇万円あるけど、それは今週いっぱいまで」 ・「この部屋は人気ですが、たまたまキャンセルが出た。ラッキーですね」 ・「こんなにいい物件はなかなか出てきませんよ」 ・「近くの小中学校はすこぶる評判がいいんです」 ・「こういう間取りはお子さんの成績を上げますよ」
……その中身は様々だろう。ほんの軽いウソもあれば、「(本当のことを)知っていれば借りなかったのに」あるいは「買わなかったのに」といった、深刻なものもある。場合によっては、「あとン千万円高く売れたかもしれない」という類もあるだろう。
いずれにしても、そのン千万円で人生の風景が変わったとしたら、かなり痛いはずだ。不動産屋はウソをつく――これは世間一般の常識的な感覚と言っていい。何ヵ月か前、NHKドラマとして放送された『正直不動産』は、かなり好評だったという。
あることがキッカケでウソがつけなくなった不動産仲介の営業マンをコミカルに描いた内容で、原作は小学館のビッグコミックに連載されているマンガ。こちらもなかなかヒットしている。
「正直」不動産のワケ
しかし、よく考えてみるとこのタイトルは意味深長といえないだろうか。なぜなら、世の中の不動産屋がおおむね正直であれば、こんなタイトルは成立しないからだ。例えば『正直ドクター』とか『正直税理士』といったタイトルでは、マンガもドラマも出てこないはずだ。
不動産屋には「正直」な人が少ない、あるいは世間で圧倒的にそういう風に考えられているからこそ、『正直不動産』というタイトルが生まれ、それなりのインパクトを与えたわけである。
では、不動産屋にはそんなに「正直ではない」ウソつきが多いのか?「正直」に答えさせていただくと、その通りだ。
以前、ある情報番組にコメンテーターとして出演させていただいた際、「不動産屋というのは10人いれば8人か9人は悪い奴ですから」と言ったら、スタジオ内でドッとウケた。「へえ、そうなんですか」というノリである。女性タレントが「私が会った不動産屋さんはみんないい人でしたけど」というので、私が「それはまだダマされていることに気付いていないだけかもしれませんよ」と返したら、またウケた。
さほどメジャーな番組ではないので、まさか知り合いなんか、誰も見ていないだろうとタカをくくっていた。ところがその数日後、私がある不動産仲介業者さんと組んで開催している「不動産売却相談会」の会場に着くと、その仲介業者さんに「あの番組、見ていましたよ」と言われたので、冷や汗が吹きだした。
初対面は「危なっかしい」
「いや、アレはテレビ向きの発言でして……」しどろもどろの言い訳をする私に、そのお方はニコニコ笑いながらこうおっしゃった。
「その通りですよ。だから私は決まったメンツとしか取引しません」
つまり、初対面の不動産業者とは危なっかしくて取引できない、と言うのだ。
その理由とはいったい何なのかーー。
法的にウソはご法度
不動産業界では、業者間の取引では「ダマされた方が悪い」というのが商慣行である。つまり、業者なら取引の安全のために「手を尽くす」のが当たり前。それを怠けて残念な物件を掴まされても、ダマされた方がよくない、という感覚だ。
そのいい例が、何年か前、地面師に60数億円をダマし取られ、業界の笑いものにされた大手ハウスメーカーだ。だからといって、エンドさん(一般消費者)を相手にする取引では、法的にウソはご法度。場合によっては手が後ろに回る。
しかし、そこは蛇の道は蛇。いろいろなテクニックが使われる。
よく耳にする営業トーク
「他にも検討している熱心なお客さんがいます」
購入を検討しているエンドさんに対する常套句である。そう言われると「早く決めなきゃ」とエンドさんは焦る。しかし、そんな客はいない場合がほとんどだ。中には、そういった客を装うサクラを仕込む場合もある。中古マンションの内見などでは、時間を合わせてわざとサクラをぶつけるのだ。サクラは「まあ、素敵な物件ね」と大きな声でつぶやく。それで焦ったエンドさんは「私が買います」なんて言ってしまう。
「もうこんな物件は二度とこの価格で買えません」
新築マンションの販売現場では良くささやかれるトークの一種。ただし、これは厳密に言えば宅建業法違反である。ボイスレコーダーに録っておいて、所管官庁の担当部署に持ち込まれれば、業者にはキツーい処分が待っている。なぜなら、神様でないのに未来の可能性なんて誰にもわからない。それをエンドさんに囁くのはご法度だ。
「この物件については、〇×さんに対して優先的にご案内させていただいております」
その「〇×さん」が興味を示さなければ、次のエンドさんにも同じセリフを使う。新築マンションのオフィシャルページを見ると、こんな表示をよく見かける。
法律に触れないギリギリがポイント
「キャンセル住戸限定1戸」
だが、たいていは売れ残りが他に何戸もある。「あと1戸しかない」と購入を検討しているエンドさんを焦らせ、契約に結びつけようというやり方だ。
不動産屋という職業は、「正直」ではなかなか成績を上げられない。なぜなら、他の不動産屋の多くが「正直ではない」テクニックを駆使しているから。つまり、法律に触れないギリギリのトークを展開しているのである。
それに対して正直を貫こうとすると、どうしても他の不動産屋に後れを取ってしまう。その葛藤を『正直不動産』は巧みに描いていた。そのあたりが注目を集める理由だろう。
ほかにも、こんなフレーズを聞いたことがないだろうか。
・「今後出る物件は、〇割ほど値上がりしているはずです」 ・「このあたりの価格はどんどん上がっていきますよ」 ・「開発が進むと、〇年後には2倍に値上がりしていてもおかしくありません」 ・「新線(新駅)ができると、価値が2倍になります」 ・「近くに大きなスーパーができるので、価格が1.5倍になる」 ・「隣のマンションを買った人は今、買い値の1.2倍になっている。まだまだ上がる」 ・「このマンションは有名人も購入(契約)していますよ」 (ずいぶん前の話だが、客の前で「この住戸の上階は松田聖子のお母さんが契約」なんて言っていた営業マンがいた) ・「風水から見て、この住戸に住むと幸せになる」
・「ここ(タワマンなど)に住む人は、このエリアの方々の憧れになります」
物件の買い手や借り手だけではなく、売り手にこんなことを言って焦らせたり不安にさせたりすることもある。
・「この客に売らないと、次の買い手は出てきませんよ」 ・「この価格で売れるなんて、ラッキーじゃないですか」 ・「この物件は〇✖なので、この価格で売れれば上出来だと思います」 ・「リフォームには○○○万円掛かりますから、このぐらいの価格(安め)が適切」 ・「この価格(希望値)では、何ヵ月たっても買い手は付きませんよ」
・「この物件は問題が多いので、プロでないと買いません」(だからウチに売れ) ・「当社に売ってください、他より高い評価額で買います」 ・「市場に出すと、いろいろなところからうるさく電話がかかってきますよ」(だからウチに売れ)
ただし、『正直不動産』が放映されてどんなに注目を集めても、不動産業界の根本体質は変わらない。不動産の取引でエンドさんがダマされないようにするには、可能性の低いけれど正直な業者を見つけるか、ウソを見抜くための知識を蓄えるしかないのが現状なのである。」
新築マンションで「完売御礼」の垂れ幕が出ているケースがありますが、実際は残り2~3戸の段階で出すケースが多いです。この完売御礼の垂れ幕を見て、あわてて買いにくるお客様もいらっしゃいます。「キャンセル住戸発生」も、お客様を焦らせる目的で周知されるケースもあり、実際にはキャンセルが発生していない場合もあります。また、販売を期分けして、申し込み即日完売と、煽ることで、好調物件だと勘違いさせることもあります。
この記事にもあるように、不動産業者はさまざまな話法で、その気にさせ、契約を迫ります。業界では、この行為をクロージングといい、出来る営業マンは、言葉巧みに、契約を迷わせずに、時間を掛けずに契約書に判を押させることに注力します。逆に、あれこれ迷い出すと、他のマンションや戸建てメーカーと競合となり、契約できないケースも多くあります。契約を急がせる業者には、特に注意して、確約はせずに、家族や知り合いに良く相談して、納得してから契約することが重要です。
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