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執筆者の写真快適マンションパートナーズ 石田

「築50年」マンション建て替え「10年奮闘記」 住民が愛着あるマンションの将来を直視せざるを得なくなった“非常事態”とは? 



 2024年5月15日のデイリー新潮の表題の記事を紹介します。


「新築マンションの価格高騰が叫ばれて久しい。東京23区では70平方メートルの新築マンションなら1億円超えは当たりまえ。千代田区、中央区、港区のいわゆる「都心3区」においては、中古ですら2億円を超える物件が珍しくない。一方、「都心・駅近」の中古マンションには建設時期が古く老朽化した物件も多く、これから先「建て替え問題」と無縁ではいられないのだという。老朽化する築50年のマンションの“再生”で、6000万円ものキャピタルゲイン(差益)を手にした人物から話を聞いた。


リーマンショック後の不動産価格が底値の時代

 一般的に、マンションの平均寿命は約70年と言われている。これは国土交通省が2013年に発表した資料の中で、鉄筋コンクリート造のマンションが平均して「約68年」で取り壊されるという調査結果を発表したことに由来があるようだ。管理状態が良ければ100年以上住むことが可能という調査結果もあるが、マンションの造りや耐震構造によっては、もっと早く建て替えが必要になるケースもある。

 今後、都心マンションの老朽化が進み、実例も増えるであろうマンションの建て替え。

 実際に港区の築50年の一等地マンションに住み、管理組合のメンバーとして、敷地売却と建て替えに関わってきた男性に“先行事例”となりそうな話を聞くことができた。


 50代の会社員Yさんは、2008年に港区麻布エリアの一等地に建つ中古マンションを購入。

「当時はリーマンショックの起きた直後で、不動産価格が底値の時代でした。安かったから買ったという訳ではなく、結婚してパートナーと同居する家が必要になったので購入したのですが、まさかここまで都心の不動産が値上がりするとは思いませんでした」(Y氏)

 当時、Y氏が購入したマンションは、築年数こそ35年ほど経ってはいたが、駅徒歩5分のまさに一等地。70平方メートル超の2LDKで、購入価格は5000万円弱だった。今では考えられない価格ではあるものの、Yさんにとっては一大決心だった。

「今の基準に照らせば割安なのはその通りですが、5000万円も大金ですからね。その頃は将来的な家族構成も分からなかったので、どれぐらいの期間そこに住むかも特に決めてはいませんでした。ただ、やっぱり都心はなにかと便利だし、麻布界隈の雰囲気も好きで、気が付くと夫婦2人で15年住むことに」(Y氏)


古いマンション特有の構造的な弱点

 住み始めた当時は、将来的な建て替えの可能性までは想定していなかったというYさん。潮目が変わったのは、10年前の2014年頃。物件内の住戸で漏水事故が起こったことがきっかけだった。

「40戸に満たないマンションで、半分ぐらいは賃貸に出されていたので、すぐに管理組合のお鉢が回ってきまして、かれこれ10年ぐらい役職を担当しています。ちょうど組合に入った頃、漏水事故が起きて対応にあたったのですが、築古マンションゆえの問題がありましてね」(Y氏)

 それはずばり、配管スペースの問題だった。

 最近の一定グレード以上のマンションは「二重床・二重天井」と呼ばれる構造で、その名の通り、上の階の床から下の階の天井までが二重になっている場合が多い。しかし、Y氏のマンションをはじめ築50年クラスのマンションは「直床・直天井」の構造が多く、こちらは上の階の床の下がそのまま下の階の天井となっている。

「スラブ下配管って言うんですけどね、漏水を起こした配管の修理をするには、下の階の天井を開けて工事する必要がある。漏水を未然に防ぐための排水管の更新工事については、工事に協力してもらえないケースもあって、これがなかなか一筋縄にはいかないんですよ」(Y氏)

 その部屋で起きた漏水の修繕工事はなんとか無事に終わったものの、その後も別の部屋で漏水が起きるなどし、一気にマンションの老朽化問題が明るみに。管理組合が建設会社に依頼し「汚水管劣化度調査報告書」を作成してもらうと、あちこちで排水管が劣化していることが分かった。

「その頃からマンション内の空気が、そろそろ“再生”について本気で考えないとね…という雰囲気に少しずつ変わっていきました」(Y氏)


3つの「マンション再生検討案」

 とはいえ、まずはどんな再生方法があるのか、勉強するところから始めなくてはならない。Yさんたちマンション管理組合は、建設会社に相談し「マンション再生検討案」を出してもらうことにした。


 建設会社が提示した再生方法は全部で3つ。

A案:耐震補強を含む大規模な改修・修繕工事 排水管の一新や建物内のバリアフリー化、耐震工事やオートロックキー導入、居室の床の張り替えなどで、現在のマンションの基準に近いような設備や構造にアップデートする。

B案:建て替え 一戸一戸が応分の費用を出し合い、マンションを建て替える。ただし、資金面の問題から現実的にはほぼ不可能。現在の建築基準に照らし合わせ、階数を増やすなどで建物の延べ面積を増やせる場合もあり、そちらをデベロッパーに買い取ってもらい、建て替え費用に充てられるケースもある。逆に、現在の建築基準に合わない物件は「既存不適格」となり、元通りへの建て直しが出来ないケースもある。

C案:敷地売却 マンションの敷地をデベロッパーに売却する。再建されたマンションに一定の割引を得て再入居するか、売却代金をもって転居することも可能。再建する物件は必ずしもマンションとは限らない。


 まずA案から検討を進めたが、ネックとなったのが「耐震工事」だった。マンション再生プランを策定してもらうには、マンションの「耐震診断」を受ける必要があったのだが、その結果はなかなかにシビアなものだった。

「耐震診断を受けるのにも住民の半数以上の賛成が必要なのですが、それはクリアできた。問題は診断結果で、コンクリート強度が必要な基準を下回っていたのです。必要な基準まで強度を上げるためには耐震補強工事が必要で、費用は2~3億円かかるということでした」(Y氏)


建て替えの“旨み”は都市計画法の用途区域しだい?

 修繕積立金の残高を、今回のようなイレギュラーな出費に使うわけにもいかず、工事の実施には一戸あたり700~800万円の自己負担金が発生することに。ただ、意見が賛成でまとまる気配はなかったという。

「各戸それぞれに事情がありますからね。終の棲家のつもりで何十年も住んでいる人もいれば、つい最近、中古の物件として購入した世帯もいる。そうした方たちからすれば、いきなり追加費用が発生するのはキツいし、賃貸に出しているオーナーさんたちにとっても、追加費用=利回り低下ということになりますから、賛成で意見をまとめるのは難しそうでした」(Y氏)

 とはいえ、老朽化したマンションに永遠に住み続けることはできない。とすると、残る再生案はB案の「建て替え」とC案の「敷地売却」となる。ただこの2案は、マンションの建つ敷地が、現在の都市計画法の用途区域でどのように定められているかによって、新たに建てられるマンションの内容が大きく異なってくる。

 例えば、「第一種低層住居専用地域」と定められた敷地だと、建物の高さが10メートルや12メートルなどに制限されている。一方で「近隣商業地域」と定められていれば、そうした制限は大きく緩和され、住居に加え飲食店や事務所、小規模な工場も建設することが可能になる。このような用途区分は全部で13種類ある。

「私たちのマンションが建っていた敷地は“商業地域”と定められていたので、立て替える際にもう少し階数を積み増すことが可能だと分かりました。同じ敷地でより階数の高いマンションに建て替えることができれば、新たに販売できる部屋数が生まれるため、その利益分を建て替え費用に充てることができるのです」(Y氏)

 一等地に建つY氏の住むマンションは、プランCの「敷地売却」により多額のキャピタルゲイン(差益)を得ることが可能だと分かったのだ。ただ、実際にマンションの建て替えを実現させるためには、まだ数々の障壁が残っていた。

 

実際の選択肢は少ない

 マンションの再生方法について、建設会社が提示したプランは以下の3つだった。

A案:耐震補強を含む大規模な改修・修繕工事B案:建て替えC案:敷地売却

 ただ、A案は耐震補強工事に2~3億円の費用がかかることが分かり断念。

 B案の場合では、同じ敷地でより階数の高いマンションに建て替えることができれば、新たに販売できる部屋数が生まれ、その利益分を建て替え費用に充てることができる。ただ、建材費の高騰も相まって、建て替え後のマンションに住み続けるためには多額の購入費用の発生は不可避。全戸の住人が多額の購入費用を捻出する、という前提条件はあまりにハードルが高すぎた。

 残ったC案の敷地売却であれば、希望者で購入費用を捻出できる世帯は、同じ敷地に建つ新しいマンションに住むこともできるし、売却益をもとに別のマンションに転居するという選択肢も生まれる。

 結果的に、それぞれの世帯の事情に合わせて選択肢を持たせられるC案が、住民の合意をまとめる上で、最も現実的なプランだと判断された。ただ、それでも住民全体の合意形成に至るまでは一朝一夕ではいかない長い道のりが存在した。


建て替えには一戸あたり約6000万円の負担金が必要に

「3つの再生案を吟味し、C案の敷地売却がもっとも現実的だろう、という話で方向性が決まったわけですが、3つの案を1つに絞るまでも大変でした。耐震診断や配管の劣化度調査を実施するのも、費用がかかりますよね。その予算を取るためにも決議が必要なんです」(Y氏)

 マンション再生案の検討を進めるため、調査に必要な予算を確保するために、まず「マンション建替検討推進決議」を採択することになる。この決議は住人の過半数の賛成で成立する。

「この決議を採択したのが2020年です。組合のメンバーで建設会社を招いての勉強会を始めてから、2年ほどが経過していました。この時、合わせて“住まい調査アンケート”という質問票を配布したのですが、その時点で建て替えや敷地売却など、“マンションの将来を真剣に考える必要がある”と回答したのは、まだマンション内の半数ほどでした」(Y氏)

 B案の建て替えについて、実際にデベロッパーに見積もりを依頼したところ、多額の負担金が必要だと判明したのもこの時期だった。

「建て替え時にマンションの階数を2つほど積み増せることが分かっていたので、デベロッパーの販売利益を鑑みれば、負担金は2000~3000万円ぐらいだろうと予想していたのですが、甘かったですね。実際は一戸あたり6000万円前後かかるというのが、デベ側の試算でした」(Y氏)

 建て替え費用の捻出には、全戸が負担金の支払いをする必要があるが、区分所有者の全員が高額な負担金を支払う「建て替え案」に賛成するのは非現実的だった。マンションの約半数はオーナーが賃貸物件として貸し出しており、賃借人の一次退去などの交渉も難航が予想された。


住民の多数決が2社のプランで拮抗

 こうした段階を経て、マンション住民の総意は「敷地売却」にぐっと傾くことになるのだが、さらに本格的な話を進めるためには、新たに「敷地売却推進決議」を採択する必要があった。

「この決議自体も過半数の賛成で成立するのですが、この時点で反対する世帯もあったので、最終的に“敷地売却決議”を採択できるかはまだまだ予断を許さない状況でした」(Y氏)

 昨年の決議を経て、Yさんたちマンション管理組合は、コンサル会社に間に入ってもらい、デベロッパーA社とハウスメーカーB社とC社、建設会社のD社、計4社に敷地売却に向けてのプラン出しを依頼。A、B、Cの3社から回答を得た。

「いわゆるコンペですね。3社に順番に住民への説明会を実施してもらい、どの社のプランを採用するか、多数決を取りました」(Y氏)

 この中で1番高値での敷地売却を提示してきたのは、ハウスメーカーのB社だった。ところが、最終的に採用されたのはデベロッパーA社のプランだったという。どうせ敷地を売却するのであれば、なるべく高値で売れる方が望ましいはずだが、一体なぜか――。


「お金だけじゃ決められないことも」

「B社の敷地活用のプランは、住居用のマンションではなく、テナントの入る商業ビルだったのです。実は、私も負担金を払って住み続けるのではなく、敷地の売却益で別のマンションに住み替えると決めていました。だから、売却益を最大化するためにはB社のプランに賛成するのが正解でした。ただ、A社とB社が拮抗する様子を見て、最終的にはマンションへの建て替えを計画するA社のプランに入れました。理由は、住民の一定数が“負担金を払ってでも、またこの場所に帰ってきたい”と希望されていたからなんです」(Y氏)

 B社の商業ビルのプランが採用されれば、「帰ってきたい」と希望する住民の想いは叶わないことになる。管理組合のメンバーとして、帰ってきたい人も、転居する人も、それぞれの事情を尊重できるのはA社の案だと判断したのだという。

「お金を取るならB案だったんですけどね(笑)。愛着のあるマンションだし、住民の皆さんの顔も分かりますしね。やっぱりお金だけじゃ決められないですよね」(Y氏)

 Yさんのように考えた住人がいたからなのか、実際のところは分からないが、多数決の結果はデベロッパーA社によるマンションの建て替え案が採用された。ところが、これで終わりではないのである。肝心の「敷地売却決議」が採択されなければ、売却は実現しない。


 しかし、最後にして最大の難関こそ、この敷地売却決議なのである。決議には全部で3つの要件がある。

1 区分所有者の5分の4の賛成

2 議決権の行使数のうち5分の4の賛成

3 敷地利用権の持ち分のうち5分の4の賛成

「2つめの議決権は、例えば共同名義の場合は合わせて1票になります。それより重要なのが3つ目の区分所有権による投票。分かりやすく言えば、全体の10%に満たないものの、マンション内の1番広い部屋を所有する3世帯が反対に回ると、採決できない状況でした」(Y氏)

 しかも、実際にその広い部屋に住む所有者は敷地売却反対派だったそうだ。


約6000万円の売却益

「各家庭の事情をお話しするなど、ご理解を頂けるよう説明を重ねてきましたが、もちろん最終的には所有者の判断ですからね。反対する人にも、やっぱりそれなりの事情がある」(Y氏) 最後まで全戸賛成とはならないまま、緊張の投票日を迎えることになった当日、Yさんは管理組合の役割として、弁護士の開票作業を見守っていた。

「反対票を投じられた方もいて、本当にギリギリでしたが、敷地売却決議は採択されることになりました。正直、ほっとしましたね。もし否決されたら、全部白紙ですからね」(Y氏)

 敷地売却決議が採択された後は、区の認可を受けた「敷地売却組合」が結成され、組合が銀行から売却金額相当額を借り受け、まず金利やコンサルタントへの支払いなどを差し引く。次いで、住戸ごとに算定された評価額に基づき、売却金を分配する流れとなる。その後、デベロッパーが売却金を組合に振り込み、組合の銀行への借受金の返済を持って、ようやく敷地売却の全工程が終了する。

 Yさんの場合は、約6000万円の売却益を得られる予定だという。

「10年の歳月をかけて、住人の皆さんと一緒に1つの答えを導き出せた充実感はありますね。ただ、管理組合の仕事が忙しすぎて、まだ肝心の転居先が決まっていないんですよ。新しいマンションでも管理組合をって? いや、しばらくは勘弁して欲しいですね(笑)」

 そう笑うYさんの表情は、どこか誇らしげに見えた。」


 築50年超の旧耐震マンションの実例としての記事であり、とても参考になります。この記事にもあるように古いマンションは専用面積も狭く、また上下階の床スラブが薄かったり、専有部の給排水管が下階の住戸の天井裏にあったりと、耐震補強して住み続けるには、色々と問題があるケースも多くあります。また新築時に30代で購入したとしても、50年後には80代になっており、建替えたマンションに実際に住むか?という問題もあり、この記事にように敷地を一括売却するケースが一般的には多いと思われます。立地の良いマンションであれば、この記事のような事例が増えてくるのではないか?と思わされる内容でした。


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