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執筆者の写真快適マンションパートナーズ 石田

「避雷針交換工事」でわかった「マンション管理会社に見積もりを素直に依頼してはいけない」ワケ

更新日:2023年4月3日


 2022年9月13日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。



「今年の夏は大変な酷暑でひとたび天気が崩れると激しい雷雨が各地を襲いました。そうした雷雨についても、実は御多分に漏れずマンション管理組合の仕事になることをご存じでしょうか。今回は雷の避雷針の交換工事にともなって発生した、マンション管理組合のトラブル事例をご紹介します。

 雷のエネルギーは、電流値が数十万アンペア、電圧も1億ボルトから10億ボルトという想像を絶する膨大なものです。そのため雷がマンションを直撃するとパソコンや家電製品など電気設備が破壊され、居住者の生活に大きな支障が出ます。近年の温暖化や異常気象で雷雨の頻度や規模が大きくなっているように感じますから、不安を実感した読者も多いのではないかと思います。

 そのような雷雨の被災への対策として、屋上の一番高い場所に設置した避雷突針で雷を受けて、大地に安全に放電させる設備、それが避雷針設備です。そして雷は高い位置に落ちる性質があるため、建築基準法第33条では高さ20メートルの建物には原則として避雷針設備を設置することが義務付けられています。


事務所に寄せられた避雷針交換工事についての相談

 普段は目や耳にしないこの避雷針設備ですが、これも設備ですからもちろん耐用年数というものが設定されています。それは一般的に15年~20年といわれており、マンション管理の現場でもだいたい20年~30年を経過したら交換することになっているのです。

 さて、過去に私の事務所に寄せられた相談で、都内の築45年超えの15階建てマンションで、「老朽化した避雷針が折れて落下する危険があるので早急に取り換え工事が必要である」という建物の点検結果が管理会社から報告されたケースがありました。

 そのマンションでは、屋上に大きな避雷針が3本設置されていていましたが、築45年であるにもかかわらず竣工以来1度も取り変えられていない状況で、一部が錆びており専門家でない管理組合の理事が確認しても劣化状態は著しく、早急な交換工事が必要という状態のものでした。マンション管理組合の理事としては当然、交換工事のために建設会社に要請して見積もりを取ることになりますが、ここで意外なトラブルに見舞われることになったのです。

 早急な避雷針設備の交換工事が必要であるという事態を受け、マンション管理組合の要請により、その点検報告書と避雷針設備の交換工事の見積もりがマンション管理会社の協力業者のA社から出されました。

 そのA社の見積もりと説明では、15階の建物の屋上の一番高い部分に、避雷針設備を地上から上げて設置するための高い技術力が求められる工事なので、見積もり金額は3本で総額1,480万円という高額になるというものでした。

 管理組合は、特殊な工事なので高額なのは理解したものの支出削減のために競争原理を働かせるべきという結論となり、相見積もりを同業他社の2社からも取得するようにマンションの管理会社に指示をしました。その結果、管理会社の協力業者であるB社の見積もりとして工事代金1,510万円、C社は1,550万円という相見積もりが提出されました。

 そこでマンションの管理組合理事会では、3社のうちで最も金額の安いA社に工事を発注することを決めました。ところが発注先をA社に決めたことが理事会議事録として全戸配布されると、一人の組合員から「工事代金が高すぎる」「管理会社を通さないで、独自に相見積を取ったのか?」などの意見が理事会に寄せられました。

 しかしその指摘は、あながち見当外れというものではなく、「3社から提出された相見積もりを比較すると、数量や金額が3社ともそっくりで、A社の見積もり書を参考に、他社の見積もり書に勝手に内容を少しだけ変えて金額を少し高くしただけの稚拙なダミーの相見積もりの可能性が高いのではないか?」という疑問をその組合員は持ったということだったのです。

 そして、その組合員から私の事務所に「工事代金が適正なのか調べたい」「相見積もりが適正に取得されたどうか確かめるにはどのようにするのか」、その方法を教えてほしいというご相談をいただくことに至ったのです。

 私は「まずは、見積もり書提出業者を訪問して確認してどうですか」と勧めました。組合員の方は納得され、調査が目的なので、アポなしで訪問したところ、驚くようなことが判明しました。

 それは最初に管理会社から紹介された電気工事業者A社についてですが、A社に対するマンション管理組合理事の印象は、会社案内のパンフレットも立派で何回か管理会社からの紹介で電気工事などをお願いしていた実績もある会社なので信頼のおけるものと思っていました。


直接調査して明らかになった、驚きの事実の数々

 しかし、組合員の方が念のため事前にホームページで確認するとA社は電気工事業者ではあるものの、建設業の許可を取っていることが確認できず、そのため訪問時に直接確認したところ、なんと建設業の許可のない業者だったのです。

 建設業法第3条では、500万円(税込み)以上の電気工事を行う場合には電気工事業の建設業許可が必要なので、500万円以上費用のかかる工事を行うことは法律に違反するおそれあります。

また次の事実として更に、組合員の方がB社を訪問したところ、会社の所在を見積書に記載されていた住所で見つけることができず、電話で確認したところ隣の町にあることがわかったため、訪問しました。見積書に記載している住所に誤りがあったというのです。

 また訪問した際に受付で、見積書に記載されている担当者から見積書について詳細の説明を聞きたいと面会をお願いしたところ、その名前の社員はその会社には在籍していませんでした。「B社の見積書」とされていたものは、そのB社が実際に発行した見積書ではなく誰かが勝手に作成した見積書だったようです。

 そしてC社は、実際に存在している避雷針設備の設置業者で、実績もある業者でした。しかしよく調べてみると、もともと管理会社から紹介されたA社の下請けとなって、実際の工事はそのC社が行う予定であり、筋書きであったことが判明しました。管理会社は、最初に見積書を提出した業者のAに受注させたかったという背景があるようでした。

 以上のことが発覚したため理事会が管理会社に説明を求めたところ、悪びれた様子もなくA社は建設業の許可を取っていない業者ということをあっさりと認めました。しかし、A社が工事の元請けになって、建設業の許可を取っているC社に工事を行わせれば法律上何ら問題ないという回答でした。

 また、B社については、「見積もりを勝手に作成したのではなく当方の手違いからこのような結果になり、大変ご迷惑をおかけし誠に申しわけございません」と謝罪の言葉があり、それ以上の説明はありませんでした。

 C社については、特に説明はありませんでした。しかし、相見積もりの体裁を装って他社の見積もりを勝手に作成することは、『有印私文書偽造』という違法行為になると指摘する法律の専門家もいます。


相見積もりは独自で取ろう

 理事会では、管理会社から相見積もりを取ることはあきらめて、理事会が独自でネットなど避雷針設備の設置業者を探して、管理会社から提出された避雷針の点検報告書を参考に現場調査と見積もりを依頼しました。

 その結果、新しい業者からは、970万円の見積書が提出されました。

 結果、この会社に交換工事を発注して無事工事は完了しました。管理会社からの相見積もりではなく、管理組合が独自で取得した相見積もりで支出は大幅に削減されたわけです。理事会が同時に見積もりを取得して適正な費用で大きい工事を成し遂げたことで達成感と満足感を得たことは間違いありません。

 一般的に、多くのマンションでは相見積もりを提示されると金額の多寡だけで決定する場合がほとんどです。本来は、各社のホームページなどで業者の実績、規模などを比較・検討したうえで、相見積もりの金額の妥当性を検証して発注先を決定しなければなりませんが、理事会のメンバーは素人ばかりなので比較・検討の方法が良くわからないのと、面倒なことにかかわりたくないと考えている管理組合の役員ばかりです。ですから、A社・B社・C社から相見積もりを取る場合、管理会社が一番決定してもらいたい本命の業者の金額を少し低く、ほかの2社の金額をそれより少し高く設定した相見積もりを提出することで、管理会社が望む業者に誘導することは往々にして赤子の手をひねるほど簡単なものであることが多いのです。しかし、管理組合はきちんと3社の見積もりを比較検討して決定したと思ってしまいます。

 また背景として、マンションの管理会社経由で相見積もりを取ると、登場する各社に元々の金額にいくらかマージン(利益)を上乗せする管理会社さえもあるといいます。人に頼まないで自分でやれば安くなることは世の中ではよくあることです。本当に支出削減を目的に相見積もりを取る場合には、管理組合が独自で相見積もりを取るべきなのです。


正しい相見積もりの取り方

 管理会社は、管理委託契約に基づいてマンションの共用部の点検を行い、不具合箇所や劣化している箇所があると報告書と見積書を理事会に提出して工事の提案をします。では、提出された見積書に素直に応じて工事を発注する管理組合はどのくらいあるのでしょうか?

国土交通省の平成30年度マンション総合調査extension://elhekieabhbkpmcefcoobjddigjcaadp/https://www.mlit.go.jp/common/001287412.pdfでは、「大規模な修繕・改修工事の発注・業者選定に関するルールがある」がマンション全体では48%と最も多く、次いで「明文化していないが暗黙のルールがある」が35.3%、「明文化したルールがある」が11.5%になっています。

 また、大規模な修繕・改修工事の発注・業者選定で「相見積もりを取っている」が85%、「区分所有者向け説明会を開催している」が64.7%となっています。100万円以上の工事は、3社以上、50万円以上の工事には2社以上とルールを決めているマンションもあります。

 しかしながら、実際に素人集団の管理組合が独自で工事の相見積もりを取ることは、思うよりも簡単なことではありません。

 排水管や給水管のような設備業者を探す場合には、一般的に地元の水道局に登録している設備業者から探したり、大工仕事の場合には地元の建設業協会の登録業者から探したりするのも一案です。

 地元の業者は、地元で一つでも悪い評判があれば仕事がしていけていないことから、しっかりとした仕事することが多く、距離が近いのでコストパフォーマンスが良く何かあればすぐに駆け付けてくれる場合が多いといいます。要するに、何か建物のことで困りごとがあるとなんでも相談できる信頼のおけるかかりつけの医者のような業者の存在が望まれます。

 個人資産の中で最も金額が大きい財産は、不動産であるマンションという方は多いと思います。昔から自分の財産は自分で守ることは常識ですが、一方でマンションの管理を人任せにしている組合員は多くいます。ですが今回見てきたように、マンションという財産の価値を高く保つためには、組合員一人一人のマンション管理に関する意識を高く持つことが必要であることがよくお分かりいただけるのではないかと思います。」


 先日相談のあった給水管の漏水事故でも、工事費用は500万以上でありながら、施工した業者は「建設業」の許可を持っていない業者でした。また大規模修繕工事でも、下請負業者への発注金額が4000万円以上でありながら、特定建設業ではなく一般建設業の業者に工事を発注しているケースもあります。これらは、明らかに建設業法違反です。

 信頼のおけない業者に発注した場合には、事故等が発生しても、十分な対応を取ってくれるかは不安です。


 また、この記事にもあるように、形式的に3社見積もりを求めると、形式だけが整えられた天ぷら(ビジネス用語:でっちあげの書類)の見積書が出てきます。管理組合は安易に3社見積もりの提出を管理会社に求めますが、受注するのは1社だけであり、毎回、それ以外の2社に見積もり依頼することに気が引け、結局この記事のように、見積書の偽造がされているケースは多いと思います。この記事にもあるように、地元の工務店や設備業者に継続的に修繕工事を発注し、お互いの信頼性を高めた方が、安価で良質な工事が実施されると思います。

 また工事費用が高額で1000万円超になる場合には、設計事務所やコンサルタントに依頼して、仕様書や見積もり要領書を作成して、管理組合が主体となって見積もり徴収を実施するべきだと思います。

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