2024年3月9日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。
「ビジネスの問題は「情報の非対称性」にあると言われるが、不動産業界はその情報格差があまりにも大きい。それゆえに不当な金額での契約が横行している—。知識を手に入れて損を未然に防ごう。
管理会社に騙されるな
本誌記者(55歳)は東京都品川区にある30戸、築21年のマンションに住んでいる。妻、娘と3人暮らしで、約80平方メートル・3LDKの間取りだ。このマンションの管理組合は、長年、理事のなり手不足に悩まされてきた。本誌記者も忙しさを理由に断っていたが、「輪番制だから断らないで。理事会に出てくれさえすればいい」と言われ、渋々承諾。2年前から副理事を務めている。
そうは言っても、やることと言えば年に数回あるオンラインでの理事会に顔を出すだけ。管理会社からの報告を受け、送られてくる書類にハンコをつく簡単な業務だ。
しかし、最近になって管理会社から、妙な提案をされた。それが「第三者管理方式」の導入だ。管理会社によると、高齢化による理事のなり手不足を解消するために、第三者(管理会社)が理事となる制度で、以前から所有者が居住しない投資用マンションなどで採用されてきたという。さらに近年では、一般的なファミリータイプのマンションでも導入が進んでいるというのだ。
自分が理事をせずとも、他人に任せておけるのでこれほど楽なことはない。だが、提案を受け入れようと考えていたなかで、本企画の取材が始まり、愕然とした。マンションコンサルタントで別所マンション管理事務所代表の別所毅謙氏にこんな話をされたからだ。
「第三者管理方式は、理事会という目の上のたんこぶを排除するための管理会社の手口です。もし第三者管理方式を受け入れてしまうと、管理会社の提案をチェックする機能が失われ、やりたい放題におカネを使われてしまいます」
その工事は本当に必要?
近年、老朽化マンションの増加に伴い、管理費や修繕積立金の高騰が問題になっている。だが実際には、こうした”社会情勢”を理由に、不当に高すぎる金額を請求する管理会社が急増しているという。別所氏が続ける。
「管理会社は『管理費』が高くなればなるほど儲かります。だから、あの手この手で上げようとする。『修繕積立金』も同じです」マンション管理の素人である管理組合と、管理会社とでは、大きな情報格差があり、そこに管理会社は付け込んでくる。
「工事一つとっても、素人には工事費の適正価格がわかりません。そこで管理会社は、関係の深い複数の工事業者から、キックバック分を上乗せした相見積もりを出し、これを本当の価格だと誤認させているケースがあります。たとえ必要のない工事であっても『今やらないと後で大変なことになりますよ。なにか起きたら理事会の責任になります』と不安を煽り、不要・不急の工事でも承認させるようなことが平気で起きているのです」(別所氏)
こうした管理会社の卑怯な儲け方は、一部の悪徳管理会社だけでなく、大手でも横行していると別所氏は言う。
「管理会社からすれば、パートナーだと信じ込んでくれたほうが、管理費を値上げしたり、割高な工事費を受注させたりできる。管理会社のなかには、現場の社員にノルマや成果報酬を与えているところもあり、いかにマンション管理組合からおカネを引っ張れるかが重視されています」
こういうスキームだからこそ、管理会社は本来必要のない工事を連発するのだ。
よく提案されるのが、屋上防水の工事だ。「屋上にひび割れがあるので修理が必要」などと、写真を見せてくるのが一般的なやり方で、実際、本誌記者も昨夏の台風の後にサインをしてしまった。
一級建築士でマンションコンサルタントの須藤桂一氏は「そもそも工事の必要がないケースも多い」と話す。
「屋上防水の故障率は築25年を経過した時点でわずか4%程度とされています。小さな傷程度で屋上防水の工事をする必要はほとんどないでしょう。そもそもマンションの一般的なアスファルト防水は何層もシートがあり、表面層が傷んでいても、防水性能にはほぼ影響しません」
屋上の防水と同じく、過剰な工事がされがちなのが外壁修繕だ。須藤氏が続ける。
「外壁タイルの修繕では、タイル境界部を埋める『シーリング』を打ち替えないと、劣化部分からコンクリート内部に雨水が侵入し、漏水などの『恐れがある』……などと管理会社は言うのですが、それが何年後にどれほどの住戸に何%の確率で起きるかを誰も説明できません。たしかに可能性はゼロではないですが、そもそも劣化したシーリングから雨水が染みてもコンクリートに亀裂がないと内部の鉄筋までは到達しません。こちらもほぼ不要な工事と言えるでしょう」
大規模修繕でボロ儲け
毎年1〜2回、各住戸でやる雑排水管清掃も必要のない業務だ。これも管理会社がキックバックを得る目的で定期的に管理費を使っている可能性がある。
「日常の排水の水流より、汚れの蓄積が上回っていれば、1週間もたたずに詰まるはずです。そうならないのは、排水管に汚れが付着しても汚水で流されるから。清掃しているのは単純に数日前までの汚れを綺麗にしているだけかもしれません。詰まるのは、固形物や油などを誤って流した場合。そもそも、雑排水管清掃を戸建てで定期的にやる家はほとんどなく、まったくやっていない賃貸マンションもあります。街中の飲食ビルですらやらないところが多数です」(須藤氏)
こうした防水や外壁、排水管のほか、エレベーターや自動ドアなどのリニューアルにも過剰な金額が上乗せされているケースがある。実際の適正価格は左ページの表を参考にしながら見ていただきたい。
日常的な修理について見てきたが、ここからは大規模修繕についても見ていこう。横浜市の築13年、約60戸のマンションに住む男性の実例を紹介する。
「私のマンションは、大手管理会社Aが管理していますが、1回目の大規模修繕の際にA社から提案された見積もりは1億7000万円でした。あまりに高額で、今の修繕積立金ではとても賄いきれません。一戸あたり50万円程度の一時金が必要な金額でしたが、『A社が言うなら仕方がない』と一旦はまとまりかけていました。しかし後に、『やはり高すぎる』ということで、管理会社を通さずにマンションコンサルに依頼して他社から見積もりを取ってもらうと、工事内容を削らずに6000万円でできることがわかったのです」
こうした例の背景にあるのも、管理組合と管理会社との間にある情報格差だ。大規模修繕はオーダーメード性が高く、市場相場と比較するのが難しい。たとえ割高でも、もっともらしい説明をされれば、それを適正価格だと誤解してしまい、気付かずに高い買い物を強いられてしまう。
須藤氏は「管理会社が提示してくる『国交省公表の大規模修繕費用の平均値』には注意」と警告する。
「多くの大規模修繕は通常よりもそもそも割高な金額になっていて、そうした工事費のデータが、国交省が出している平均値になってしまっています。管理組合はこの平均値データを適正額だと勘違いして、割高な工事を受け入れてしまいがちなのです」
これまでは独立系の管理会社が大規模修繕の高額見積もりを出すケースが多かったが、最近では大手でも同じ「ふっかけ」の手口が見られるそうだ。別所氏が解説する。
「高額で提案してみて、受注できたらラッキー。そんな厚利少売の戦略にシフトしてきている。特にタワマンは、積立金が豊富に溜まっているのでターゲットになりやすい」
さらに近年は物価高の認識が広まった影響で、工事費の値上げが容易になっているという。須藤氏が語る。
「工事費はたしかに上がっています。しかし、問題なのは少ししか上がっていないのに、それ以上に上がったかのように割高な工事費を正当化していることです。従来の想定額より3割も工事費が上がっているようなら、別の業者を独自に探してやり直すべきでしょう」
実際、ある修繕系の施工会社によれば、コロナ前と比べても5〜10%程度しか受注価格は上がっていないという。
「修繕工事はさほど物価高の影響は受けません。新築マンションなどの建築工事は大量の輸入資材を使うので確かに工事費は高くはなっていますが、修繕は実質的に人件費の割合が多くを占めていて、修繕系の職人さんの賃金は実はそこまで上がっていないのです」(須藤氏)
管理組合の理事たちはマンション管理の素人。ほかの住人も知識や情報に乏しく無関心であることがほとんどだ。管理会社にとって、素人の理事と無関心の住人を相手に高額の大規模修繕を売りつけることほど”おいしいビジネス”はない。割高な工事費の被害を受けないために、自分のマンションの管理会社が適切な管理会社なのかどうかをチェックしてみるのもいい。
ポイントは、年1回の定期総会の時に配布される管理委託契約書や収支報告書だ。項目別に見て相場よりも高い金額になっていないか、不要な工事がなされていないかを確認してみよう。
大規模修繕の提案などは、マンションコンサルなどにセカンドオピニオンをもらうのがいいだろう。最初の相談だけなら無料のところもあるのでうまく使いたい。無関心でいると知らず知らずのうちに損をしている—そんなことだけは避けたいものだ。」
私も会社員時代に、築12年程度の1回目の大規模修繕工事に、屋上防水の全面改修を提案していたのを見て、大いに疑問を感じていました。アスファルト防水の一般的な耐用年数は18年、実際の寿命はその倍の40年程度はあると思います。工事提案をしていた担当者は10年で防水の保証が切れるので、12年目毎の大規模修繕工事で、屋上防水の全面やり替えを提案している。と言っていましたが、修繕積立金の無駄遣いだなと思っていました。
経験豊富な、大規模修繕工事コンサルタントに依頼して、工事の必要性を見極めてもらうだけでも、工事費用の減額は可能だと思います。
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