2023年9月19日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。
「出すゴミ袋に部屋番号と名前を記入する
もはや「限界団地」「限界マンション」だ――。
今、静かに深い社会問題として認識されつつあるマンションの管理問題である。マンションの管理は、大きく分けて、これを専門とする管理会社への「委託型」とマンション住民たち自身の手による「自主管理型」に分かれている。それぞれのマンションの事情と背景にもよるので一概にはいえないものの、仮に同条件のマンションであれば、プロの手が入る委託型よりも自主管理型のほうが、その管理費は割安といわれている。
もっとも割安、かつ住民たち自身の手による管理、すなわち“素人”の手によるものだからこそ、想像を超えたトラブルが起こり得る……という可能性は否定できないだろう。
そんな素人の手による自主管理型マンションでのトラブルを深く掘り下げていく。
「捨てるゴミ袋に『〇〇号棟□□号室・誰それ』と名前を書いて出せ――と言われました。これはプライバシーの侵害ですよね?」
こう語るのは神戸市須磨区で暮らすアイコさん(30)だ。大学卒業後、派遣社員として働き、約400万円の価格でフルリフォーム済み。3LDK・55㎡という条件の良さに惹かれて購入した。
戸建て住宅とは異なりマンションには管理費もかかる。アイコさんが購入したマンションの場合、その価格は月額1万5000円だ。アイコさんによると、神戸市内で3LDK・55㎡という条件でこの管理費の額は割安とみていい。プロである管理会社がかかわらない、いわゆる自主管理型だからこそ、成し得る価格である。
「正直、『自主管理型』とか『委託型』とか、よくわかっていませんでした。自主管理型のマンションがこんなに大変だとは……。もう委託型のマンションに住み替えようかと思っています」
アイコさんの済むマンションは、今では「かつてのニュータウン」と呼ばれる立地に位置する団地型のそれだ。高度経済成長期、「あらゆる職業の人が住む夢の団地」と呼ばれた、当時、最先端を走る働き盛りの30代、40代がこぞって購入した物件である。
ご近所付き合いは求めてない
入居開始が1970年代以降、ちょうど日本が高度経済成長を遂げて、その次へ――という時期と符合する。1970年代から1980年代、まだ人々の間では「ご近所づきあい」という古き良き時代の残り香が未だ強かった時代だ。当時から住む人の話によると、それこそ毎月一度のペースで住民全員参加の清掃会が行われ、住民同士互いに顔をつき合わせ、誰か困っている人はいないか、いれば住民同士、手を差し伸べるといったこともしばしばあったという。
清掃活動のほかにも、団地でのテニスや合唱、囲碁・将棋といったサークル活動も盛んだった。第二次ベビーブームの時代である。団地内では子どもの「お誕生日会」が毎月のように行われていた。そのときは団地内で料理上手なママさんがケーキを焼いたり、お菓子を作ってお祝いしていた。自分の子もよその子も関係なく祝う、それが常識だったという。
だからよそのご家庭の事情もうっすら近隣住民、皆が知っている。そうした空気感に誰も違和感を持つこともなかった。
「でも、それは1970年代とか80年代の話ですよね。私の生まれる前の話です。当時の常識と今の常識を一緒にされても。2023年の常識がまったくここでは通用しないんです」
こう語るアイコさんだが、そもそもこの団地に入居したのは、今、失われつつある「人と人との繋がり」への憧れなどまったくなく、ただ単に「(購入した物件が)安かったから」という理由、それだけだ。
もちろん入居したからには、住民同士仲良く、明るく暮らしたいという思いこそある。しかし団地で暮らしていけばいくほど言いようのない違和感に悩まされる。
それが先でも触れた「捨てたゴミのゴミ袋に名前を書け――」の一件だ。
引っ越し後でもおかまいなし
「たしかに団地内にはゴミ捨てのルールを守らない人もいます。生ゴミの日にペットボトルを捨てたりとかね。だからといって自治会の役員の権限でゴミ袋に名前まで書かせて、時にはゴミ袋を開けて検査するなんてこと認められるわけないですよね?」
実際、取材の限りだが、自主管理型のマンションでは、この「ゴミ袋への署名」を求めることがひと頃多々あったようだ。とくにこのアイコさんが暮らす「かつてのニュータウン」に位置する団地型マンションほど、その傾向が顕著である。
「自治会の役員は平気で捨てたゴミ袋を開けてチェックしていました。さすがに反対の声を何人かがあげて、名前を書くことは控えられました。これも長年住んでいるボス的な住民で役員――“有力住民”への配慮で『控える』なんです。『やめる』ではありません」
このアイコさんが言うように、ときとして住民同士仲の良いマンションでは、そこで長年暮らしている有力住民を軸とするコミュニティ化が著しく、皆が皆、その有力住民の顔色を窺うようにして暮らしている。そんな現実があるという。
「私が入居してすぐの頃でした。70歳を超えたご夫婦がお引越しされました。その後、毎月の清掃会で、長年ここで暮らしていて何度も自治会の役員をしている方が言うんです。『人手が足りないから呼び出せ』と――」
次の月の清掃会では、すでに引っ越した70歳夫婦の妻のほうが、引っ越し先である車で1時間ほど離れた地からやって来て清掃に参加、挙句、「急な引っ越しで皆さまにご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした」と謝罪までさせられていた。
「このお引越しをした70歳夫婦の方は、この団地を区分所有、分譲で購入されて、すでに家の方は売却され、もう団地とは何の関係もないのです。にもかかわらず有力住民というべき方から呼び出されてそれに応じてしまう。これをみて私も怖くなりました」
結局、この引っ越し後も清掃会に参加を余儀なくされた70歳夫婦は、その年度中の清掃会には、「住民として『立つ鳥跡を濁さず』の精神で」参加することを約束させられた。
高齢層“有力住民”との間でトラブル
この件は住民の間でも事件として捉えられた。ここのマンションでは“若手”にあたる現在50歳、40歳代の住民たちから、「すでに家を売却して引っ越しした人を何の権限もない人が呼び出して清掃に参加させた」「年度内だけでも参加させること、それこそが大問題」だと異論が噴出。
これを受けて自治会の役員というオフィシャルなメンバーのみならず、長年この地で暮らし自治会の決定をも左右する役員OB、すなわち“有力住民”たちも交えて協議の機会が持たれた。だが話し合いはなし崩し的に終わり、何の解決もみなかった。
「もう80歳超えの“有力住民”と、社会の第一線で働いている50歳代の“若手”とでは、まったく話がかみ合わなかったようです。そこに自治会の実働部隊ともいえる70歳代の主婦たちが出てきて、協議は混沌とした形で終わったようです」
疲れ切った表情で話すアイコさんだが、ただ、その話し合いの席が持たれた団地内の集会所で出されたペットボトルのお茶、ジュースについて「(自治会の)理事長さんが奢ってくれた」ので、特に誰からも不満の声があがらずに済んだことが幸いだったという。
「こういう話し合いにもならない話し合い、協議の機会で話が纏まらず、お茶代の原資もはっきりしないと、またそれをネタに騒動となることもあるのです。といっても、せいぜい回覧板で事の顛末を記したモノが廻って来る程度なのですが」
辟易としたといった感でアイコさんはこう話す。
実際、関係者に取材を進めると、この神戸市須磨区の「かつてのニュータウン」に位置する団地型マンション、そのなかでも自主管理型のそれのほうが住民同士の接点が密な分、コミュニティ化が顕著で、それだけトラブルが頻発しているという。
すでに管理会社への委託を決めた団地型マンションの自治会役員は、記者の取材にこう応えた。
「申し訳ないけれど名前だけの役員、理事長だから何もわからない。全部、管理会社にやってもらっている。強いて言えば(管理会社に委託してからは)住民同士揉めることがなくて助かっている」」
自主管理のマンションは管理費は割安ですが、実態は管理に熱心な一部の住民のボランティアで成り立っています。高齢化により、無償で管理を行う住民も減り、自主管理自体が成り立たなくなってきたマンションからの相談も増えてきているのが、現状です。
また、自主管理のマンションで多い相談は、管理費や修繕積立金の問題が多く、滞納者への督促が行われていないことや、管理費や修繕積立金が一部の組合員によって遣い込まれている疑いがあるマンションも多いです。せめて、現金を扱う業務だけでも、管理会社に委託することが、よりよい管理という意味でも重要だと思います。
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