2024年5月27日の現代ビジネスオンラインの表題の記事を紹介します。
「そろそろエレベーターのリニューアル工事が必要だということで、管理会社経由で数社から見積もりを取ったところ、安い社で1500万円でした。それでも少し高いと思ったので、外部のコンサルに相談して、独自に見積もりをとったところ、なんと900万円で済むことがわかったのです。
うちの管理会社は財閥系でもあり、ブランドで信用していたのに、管理会社が提出した見積はいったい何だったのか。ひょっとしたら、裏で談合され、キックバック込みの見積だったのではないのか。今までの工事も余計な費用が水増しをされているのでは、という疑念は拭えません」(関東の築32年のマンション理事の男性)
「斡旋業者がいつも同じ」は要注意
物価高の折、工事費が高額化するのは仕方がない。しかしその高い理由が、管理会社のキックバック分による“水増し”だとしたら──。
実は管理会社が事務手続きを代行した見積もりは、裏では“調整”され、工事業者から管理会社へ、各種手数料名目で事実上のキックバック(バックマージン)が発生しているケースが少なくないという。理事会が探した経緯のある業者であっても、管理会社経由の見積もりであれば同様だ。
国交省はHP上で大規模修繕の際に発生するキックバックに警鐘を鳴らしているが、住民のチェックの緩い日常的な小修繕工事や設備更新では、「ほぼ当たり前の商習慣となっている。財閥系管理会社もキックバックはあるが、独立系管理会社はもっと露骨だ」と業界関係者は指摘する。
都内のある塗装業者幹部がいう。
「私は以前、管理会社と頻繁に取引のある工事会社にいたことがあるが、その会社では工事を受注すると、一般的な工事費の相場の5~20%程度を『業務紹介料』のような名目で、管理会社にバックするのが常でした。そしてその分が水増しされて管理組合に提出する『工事費』の見積もりとなるのです。
管理組合が直接見積もりを取ってきて関係ができた場合でも、その次回以降の見積もりの窓口が管理会社になると、当たり前のように彼らに紹介料を要求されることもあります。『あんたら何なんだ』と思いますよが、拒絶すると次回からは業者選定の候補に挙げてもらえなくなるので、渋々です。管理会社が提案する工事業者がいつも一緒なら、それは、実績や信頼性ではなく、キックバック取引をしてもらえるお抱えの業者と見るべきです。そもそも代理店的な立ち位置である管理会社が、タダで業者に仕事を斡旋してくれるほど甘くはありません。今、私は、マンション管理会社との不適切な付き合いがない会社にいますが、マンションの管理組合の理事さんから直の問い合わせも多く、見積もりを提示すると『こんなに安かったのか』と驚かれることは多い。しかも、現場を見ると、管理会社が介在する工事の提案には必要性の低い工事も少なくありません。
例えば塗装は、屋根がある部分と、直射日光や雨水に晒される屋外とでは劣化スピードに倍以上の差がありますが、それを同じタイミングでやろうとする工事が多く、とても顧客目線に立っているとは思えません。時には『緊急性がある』と説明し、実施を押し切ろうとする場合もよくあります」
キックバックがあると、管理会社は修繕に対する必要性ではなく、売上のための提案が増えてしまうという。工事会社も売り上げが欲しく、必然的に“共犯関係”で営業色の強い内容になり、高額化してしまうというワケだ。
キックバックが存在する“証拠”
業界関係者が言う。
「そもそも、見積もりの取得を営利企業に依頼する以上、手数料(キックバック)が発生するのはある意味、仕方のない面はあります。一般の方は信じられないかもしれませんが、管理会社によって程度の差はありますが、10万円を超えるような工事であれば、ほぼあたり前に上乗せされていると思っておいた方がいい。管理組合が独自に探した工事会社であっても、後の仕事を期待して、自ら申し出て管理会社に“紹介料”を支払う業者も珍しくありません。
ただ、キックバックについては管理会社が絶対に認められない部分です。ですが、試しに、同等内容の工事で他の工事業者に管理組合が直接、見積もりを取ってみてください。仮に管理会社が間に入った見積もりと、ある程度の差額があれば、それはキックバックの存在を示唆するもので、おそらくは10%以上の差が出るケースが多いと思います。
いずれにせよ、キックバックが事業者間の取引である以上、管理組合はその証拠は掴めません」
このような、“水増し分”を支払うハメにならないためには、「キックバックは存在する可能性が高いもの」と見なして、高額が予想される工事であれば、管理組合による工事業者の独自選定を心掛けるなど、できるだけ管理会社が関与する取引を「避ける」対応をするしかない。そのために、まずはどういう費用に“キックバック分”が多く含まれているかを知る必要がある。
「相見積もり」は無意味な“出来レース”
住宅ジャーナリストがいう。
「管理会社もバカではないので、相場が明快な市販品の購入なら手数料は乗せません。そして、さも、手数料を取ってないように印象付けて、相場が分かりにくい工事や設備更新の方で、ごっそり手数料を乗せるのが、彼らのやり方なのです。また、管理会社はキックバックを支払ってくれる業者をあらかじめ「選別」して抱え込んでいるいるため、管理会社に“相見積もり”を依頼したとしても、実際には競争原理は働いておらず、“茶番”に終わってしまいます。しかも、キックバックに精を出して仕事を得る業者はその分、施工品質がおざなりになっている可能性もある。管理会社もキックバックをくれる業者に対しては、住民目線でしっかり工事を監督してくれるのか、施工に問題があった際にシビアにアフター保証を要求してくれるか、疑問もあります。
また、工事や設備更新費などと同様に、管理組合が直接契約している各種保守費や点検費など日々の管理項目も、管理会社は事務手続きを代行することで、裏では事実上のキックバックが発生しているケースも少なくない。管理会社は『管理委託費』だけが、収益源ではないのです。
仮に管理会社にキックバックの収益がなく、管理委託費の10〜20%程度を占める表向きの取り分である『管理報酬』や『事務管理業務費』の収益だけでは、どう考えても会社を維持できません。実際、公表されている管理会社の決算書をみると、売上総利益(粗利)が20〜25%程度と、キックバックなどの収益源なしでは辻褄が合わない」
キックバックが軽い問題ではない理由
こうした、管理会社によるキックバックの商習慣は「3つの問題がある」と前出の住宅ジャーナリストが指摘する。
「1つ目は当然ですが、キックバック分の水増しで高額になり、利益相反にあたる。しかも、相場が分かりにくい工事などの場合はより高額化しやすくなる。
2つ目は管理会社経由の“水増し”された見積もり金額が、“本当の価格”と誤認されていれば、管理組合が管理会社の手数料を避けるために独自に安価な見積もりを取る動機と機会が奪われてしまいかねない。
3つ目の問題は、管理会社が提案して、自らが儲けるという実質的な『自己発注』の状態になる。つまり、必要性があって工事を提案するのではなく、自社利益のための我田引水の工事提案が増えてしまいかねないのだ。この状態は、民法108条で禁止されている『自己契約及び双方代理』に近い状態で、管理組合は損失を被りやすい。結果、必要性の低い工事が増えて修繕積立金を食い潰してしまいます。これが一番の問題です」
こうした管理会社のキックバックの商習慣が、いかに異常で、顧客であるはずの管理組合が不利益を被りやすい構造であることを、マンションの所有者は知っておくべきだろう。
管理会社の工事斡旋「手数料」 は二重取り?
そもそも、管理会社はマンション適正化法で定められている『マンションの維持又は修繕に関する企画、実施の調整』にあたる基幹事務に対しては、すでに報酬を得ており、中間マージンや工事費に上乗せされたキックバック分は、実質的には“二重取り”にあたるという見方もある。
前出の住宅ジャーナリストが指摘する。
「ただ、問題は手数料を取ること自体というより、手数料を工事費に紛れ込ませ、ブラックボックス化してしまうことです。手数料が不明瞭であれば、もともと一般人にわかりにくい工事費の相場に紛れて、必然的に“手数料”が高額化してしまいます」
そして何より大きい弊害は、キックバック目当ての側面が強い不要な工事が増えて、管理組合のトータルの経済的“損失”がより膨れ上がってしまうことだ。
不要な工事も承認してしまえば理事会の責任に
管理会社は発注業務の“対価”が『責任が伴っており、正当である』と主張するなら、キックバックではなく、堂々と手数料を明示して請求すべきで、その手数料を支払って依頼するかどうかは理事会の判断であるべきだろう。
それができないのは、得ている“手数料”に対し、仕事内容に対価が伴っていない自信の無さの表れかもしれない。いずれにせよ、管理組合が純粋な工事費と認識している金額に、実は管理会社の手数料が含まれているという状態は健全な取引とは言えないだろう。
「しかも、現行の管理会社への委託管理方式は、実質的な提案と発注業務を行いながら、その責任を問われない仕組みなのです。実は、管理業務の主体はあくまで理事会であり、理事長が兼務する『管理者』がその責任者です。管理会社は管理業務の支援をするだけの立場なのです。
管理会社が作成を代行する理事会議事録をよく読んでください。『理事会が工事の見積取得を管理会社に指示した』と記載されており、管理会社は実質的に自ら提案した工事であっても、あくまで理事会の指示によって事務手続きを代行しただけ、という形になっています。理事会がその工事の必要性や費用の妥当性が判断できなくても、了承してしまったら最後、それは理事会の責任になってしまうのです。
つまり、管理会社は、理事会を自社に依存状態にできれば、責任を問われることなく利益をあげられるということです」(同)
管理会社はサービスを売るビジネスというより、理事会を誘導することで“利益を引き出す”ビジネスと考えてもよさそうだ。本来は、提案業務と発注業務は責任の所在を明確にしたうえで、完全に切り分けるべきだろう。工事の提案者がその工事から利益を得ることは、やはりおかしい。発注業務自体が利権だという意識を持ち、面倒でも当事者である管理組合自ら発注業務をしないと、不適切取引と損失は防げない。
管理会社のフロント社員は「営業マン」
そういう意味で、管理組合の理事会業務を支援する管理会社のフロント社員は管理組合の管理費や修繕積立金から収益を得る「営業マン」でもある。
「管理会社も“松竹梅”のような営業のイロハ的な提案をよくやります。修繕工事などの提案で、『この500万円の工事は施工会社からの提案ですが、必要ないと思います。でも、この200万円の工事はやった方がいい』と言われないでしょうか。不必要なら最初から、提案自体を持ってくるな、と言う話なのですが、200万の工事を決めたいから、それを安く見せるためにあえてそう演出するのです。
また、本来、管理組合が直接、業者から見積もりを取れば、50万円で済むような工事を『73万円の提示でしたが、端数はカットして70万にしてもらいました』と、理事会議事録に記載し、わずかな値引きを理事会の手柄のように花を持たせるのです。
また、なかなか工事を承認してくれない理事会だと、建物や設備の『診断』や『検査』を、やたらとやりたがる。この費用自体は少額にするが、検査をすると大抵は異常値が出るものです。そうなると、営業提案は格段に通りやすくなる。しかも、検査する業者も管理会社の斡旋であったり、グループ会社であるケースも多い。工事の実施判断を左右する、その検査結果が“忖度”されたものだったら、と疑いたくなります」(同)
「後で大変なことになりますよ」
マンション管理の素人の集まりである管理組合と管理会社では、もともと大きな情報格差が存在する。例え必要性の低い工事でも、「今やらないと後で大変なことになりますよ。もし事故が起きれば理事会の責任ですよ」と不安をかき立てられれば、不要な工事でも承認され、理事会がその発注責任を負う。
管理会社は工事をやらない心配はしても、積立金が減ってしまう心配は決してしないものだ。このようにして、修繕積立金が食い潰されてしまい、そして「お金が足りないので積立金の値上げをしましょう」となるのがお決まりだ。
管理会社は本当に「適切な会社」なのか
こうした不適切な工事の営業にあわないために、自分のマンションの管理が適切に行われているかのチェックは重要だ。
住宅ジャーナリストが言う。
「年1回の定期総会の時に配布される管理委託契約書や収支報告書を見て、項目別に相場より高くないか、日々の工事などの支出が相場より高くないか、第三者のマンションコンサルなどへセカンドオピニオンをもらう方法があります。最初の相談だけなら無料のところもある。
予算案も『予備費』が過大に計上されていたら怪しい。予備費は本来、想定外の出費に備えたものですが、毎年のように積立金の年間収入の3~4割以上が計上され、それを使い切っていたら不要な工事が多いことが示唆されます。また、これまで実施した工事や設備更新費の見積書などの費用の内訳を、同業他社に問い合わせれば、適正価格が分かります。そこで、それなりの差額があれば、管理会社が得ている“利ザヤ”なのかもしれません。
その工事も、必要性を示すための事前の画像の提示があるか。見積書も、各項目別の金額の内訳がきちんと記載されているか。例えば、塗装と補修が合計されていたら、単価が分からず金額の妥当性の検証が難しくなる。『一式』という記載は“水増し”を示唆する単語なので要注意です。
一方で、例えば大掛かりな工事でもないのに、『コア抜き』『運搬費』『撤去代』など一連の作業工程に検証しにくい値段がいちいち付いているのも作業量を多く見せかけて“水増し”費用に納得感を持たせようとしているかもしれない。こういったことは、相場の確認を困難にさせるために、わざとやっている可能性が高く、こういう見積もりを出す時点で怪しい。
また、工事内容だけでなく、仕様と施工範囲が明確か、設備更新も型番と数量が記載されているかは最低限、チェックすべきです。予算計上の説明では、酷いと『防犯カメラ一式 200万円』など、用途と金額だけだったりして、単価も分からず、これだと予算計上の根拠になりません。つまり、工事予算の妥当性を検証する上で、元となる情報が記載されているかが重要なのです。ここを誤魔化しているように見えたらアウトです。
“中抜き” 手口によっては警察案件の場合も
各種工事など大きな金額の工事が承認された時、その支払いまでは管理組合によるチェックがしっかりと行き届いていないものです。特に各種支払い用の『収納口座』が管理会社名義だと、ブラックボックスになっている場合もある。本当に承認された見積もり金額のまま、管理会社が工事業者に振り込んでいるのか。万一、不当な“中抜き”が行われていないか、監事役員による定期総会のチェック以外にも、たまにはじっくり確認することも大切です。
過去に明らかに割高に感じた支払いがあれば、領収書や請求書だけではなく、ごまかしの効かない銀行の支払い証明の、『元本』を求めて、しっかり確認した方がいい場合があるかもしれません。これは、管理会社が大幅な“水増し”をしたい場合、工事業者が紹介料やコンサル料名目でのキックバックで対応しようとすると、損金処理が難しくなるという事情が考えられるからです。
もちろん、こんなことが発覚すれば業務停止以上の警察案件です。ただ、相場と明らかに乖離した費用になっている工事も少なくないのも実情です」
他にも犯罪絡みでは空工事なども業界内では囁かれており、注意したい。
「他社見積もり」による管理費値下げの可能性
マンション管理費の適性額診断サイト「テキカン」を運営する別所毅謙氏が言う。
「実は同等仕様の物件でも、特段の理由がないのに管理費に2倍近い差があるケースは少なくありません。そもそも、分譲時に設定された管理費は、子会社の管理会社が無競争で受注した言い値であり、もともと市場で探すより割高なまま放置されている場合がほとんどです。管理会社の選定をやり直せば、物価高の今でも、それなりに毎月の管理費が削減できている事例は少なくありません」
分譲ディベロッパー系列だから「安心だ」と、同じ管理会社へ長期間の委託が前提になっていると、管理会社にとってはサービスや顧客満足度を上げる動機が働かない。逆に「物価高」などもっともらしい理由をで清掃回数や管理人の勤務時間を減らすなど、経費削減ができれば、管理会社はその差額が儲けになる。つまり、「ステルス値上げ」に繋がってしまうのだ。
例えば、委託契約が長期にわたる社員食堂の味が悪いのと一緒で、味の向上より、契約の権限を持つ総務部長1人を取り込む方が楽なのと構造が似ているかもしれない。管理会社も「囲い込んだ理事会だけに営業活動をすればいい」となる。このような、不健全な市場環境で、管理サービスの受益者であるはずの住民は不利益を被りやすくなっていると言える。
分譲時から変わらない管理費は「割高」
住宅ジャーナリストが言う。
「そもそも、管理組合は管理会社を変更して選定し直すという発想がありません。サービスの質を担保する競争原理が全く働いておらず、大きな機会損失が続いていることに気が付いていないのです。管理会社は分譲時から必ず決まっていますが、これでは物件に付随する一体的なものと誤認されやすく、大きな機会損失を産んでいるのです。独占禁止法により『不公正な取引方法』とされる“抱き合わせ販売”に近い状態とも言えるでしょう」
独禁法のいわゆる“抱き合わせ販売”の定義では「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させること」(独禁法19条)とある。分譲時に管理会社が決まっているのは条文に触れる気がするが…。また、韓国では分譲後の入居時にコンペで管理会社を選ぶという。
「いずれにせよ、マンションの管理費は、避けられない管理コストを反映した出費ではなく、管理委託費を含めた管理会社の利潤追求に大きな影響を受けているのが実情で、その部分は見直せば安くはなります。また、安くなった余剰金を修繕積立金に振り替えて、そちらの値上げを抑えている組合も少なくありません」(前出の別所氏)
したがって、同じ管理会社による管理でも、マンションにより管理費から得る利益率には差があり、顧客から見れば、“割高”と“割安”という「不公平」が存在する。
同じ管理会社でも港区の高級タワマンより高い中野区のマンション
前出の住宅ジャーナリストがいう。
「『管理費』はそもそも、駐車場料金などとともに、管理組合会計の収入にあたりますが、その算定根拠は支出である、管理会社に支払う委託費や各種外注費などの管理コストであり、この部分が、管理会社によって高額な言い値で“設定”されている結果、高い管理費になるのです。そして管理費の設定に影響するのは分譲時の不動産市況です。現在のように不動産価格が高騰している時は管理費も強気の設定です。しかし、これは正味のコストやサービスを反映した値付けではありません。管理会社の委託契約は1年更新なので、設備やサービスが同等なら新築も中古も実際の管理コストはほとんど変わらないはずです。管理人の時給やメンテナンスコストも、物件の築年数で変わるわけではないですからね。
こうした正味の管理コストを反映していない管理費の『捻じれ』の状況は同一の管理会社の管理物件でも確認できます。例えば、最近、売りに出ていた中古物件の情報によれば、大手財閥系M社が管理する東京都港区の駅直結タワマン『白金タワー(05年築)』は73平米の住戸の管理費は月1万5400円です。同じく港区の高級タワマン『パークコート麻布十番ザ・タワー(10年築)』は68平米で月2万3000円で、こちらはドアマンも付く超高級物件です。
ところが、同じM社が管理する中野区内の22年築のマンションは、目立った共用施設もない一般的な40戸程度の物件ですが、58平米の住戸では、管理費が月2万4300円。しかも管理員は巡回で、さすがに正当化しにくい値付けだと思います」
管理費は物価高の今でも下げられる
これらの事例における管理費の歪みを考えると、今のように分譲価格が高い時代に設定された管理費は、管理会社の変更を視野に見直せば、大きく下げられる可能性はある。
前記の中野区のマンションの事例も、おそらく1万円程度は割高で、この状態が10年続けば大規模修繕一回分に相当する金額になる。
管理会社変更(リプレイス)提案事例
分譲時から管理費が変わっていないマンションでは、物価高の現在でも管理費の値下げの余地が大きい場合が多いという。別所氏の会社でも、24年1月に管理会社に支払う管理委託費の18%の減額事例がある。
独立系管理会社は安いが、高額な工事営業も
管理費減額に繋がる具体的な方法は基本的には管理会社の見直しだ。
現行の管理サービス水準を前提に、複数の管理会社から見積もりを取得したり、面倒ならマンション管理費削減コンサルに依頼する手もある。見積もり提示までなら無料のところが多く、とりあえず他社に頼んだ場合の費用を確認するだけならノーリスクと言える。
「注意点としては、独立系の管理会社は管理費が安い反面、工事費が高いという面がある。財閥系は工事費はそこそこで、管理費が高い。財閥系に安い管理費で頼むか、値下げに応じてくれればベスト。独立系なら、月数万円の顧問料でマンションコンサルに業務監査を依頼して目を光らせてもらうのも手です」(同)
管理コストを簡単に下げられる“裏ワザ”
管理会社を変えるのはちょっと...と思うなら、それなりのコストがかかるエレベーター保守業務の見直しが有効だ。保守会社を『メーカー系』から『独立系』に変えるだけでも保守費が半額近くに下がるケースは少なくないとい。特に大規模マンションであれば、削減効果が高いという。
メーカー系が高額なのは、製造コストを保守業務で回収するビジネスモデルのためで、独立系保守会社とサービスに差はないとされる。同じように、毎月の清掃費や各種保守費なども、業者を管理組合主導で直接見直せば安くなる可能性がある。
「特にタワマンを中心に、近年分譲されているマンションの維持費は物価上昇率以上に高額化しています。その要因は不要で割高な工事や、高すぎる管理会社の中間マージンなどです。多くの住民はマンション関連の書類もチェックしていないし、管理組合の理事会もお金に無頓着になっているケースが少なくない。大規模修繕のキックバックなどの問題は比較的知られていますが、管理会社を通したマンションの小規模な工事や設備更新費や日常的な点検業務や清掃業務での支出でも同様で、監視が緩い分、より、はびこっているとも言えます。こうしたことは業界内では、なかば慣習化していて、本来は支払う必要のないお金が実はどんどん出て行ってしまっているのです」
こう話すのは別所マンション管理事務所の別所毅謙氏だ。
マンション管理の“搾取構造”
管理会社が得るキックバックや過剰な中間マージンの問題については以前の連載でも詳述しているように、マンションの維持費高騰の原因にもなる。特に、都内のタワマンなら平均的な70平米で管理費で3万5000円、修繕積立金で2万5000円程度と6万円を超えることも今や珍しくない。年間予算がマンション全体で億単位になると、工事や日常の管理項目も、中間マージンの上乗せで、それだけ巨額になっている可能性が高い。
「こうした状況を見直さずにいるのは、それだけで損を垂れ流しているようなものです。例えば、タワマンだと大阪と東京の物価はそこまで違わないのに、管理費では同等仕様の物件でも2倍近い差がある場合もあります。東京の500戸のタワマン管理費でも適正な金額に改訂できれば、3万円が2万円を切るくらいに見直せる余地は十分あります。仮に戸あたり1万円分を減額できれば、マンション全体では、10年で6億の削減が可能で、その分で、修繕積立金の値上げを抑えることもできます」(別所氏)
これらの高額な維持費の要因となっている、余分な管理会社へのマージン分を排除したいなら、日常的な管理項目や工事の見積や発注業務は面倒でも管理組合が独力でやるのが理想だ。例えば10万円以上のある程度高額になることが想定される工事や設備更新費を管理組合が独自に見積もりを取得すれば、安価で発注できる可能性が高い。
住宅ジャーナリストが言う。
管理組合が業者選定するためのヒント
「管理組合による直接の業者選定のメリットは、管理会社へのキックバック分を節約することと、キックバックを期待しただけの不要な工事自体も減らせることです。また、マンションの修繕工事自体、リスクがあったり難度の高い工事は少ないので、業者選定にそこまで神経質になる必要はありません。また、工事品質に悪影響を与える可能性もあり、無理に安い業者を探したり値切る必要もありません。ある程度の実績がHP等で確認できれば十分で、見積依頼の事務作業については、負担感はそこまでではないはずです。
また、毎回、新たに業者を探す必要はなく、ある程度、信頼性を感じる何社かの業者を確保できていれば、継続的にそれらの会社に見積もりを取ればいい。マンションでやる工事は種類も限られているので、業者の目途がついていれば、管理組合もそこまでの手間ではありません。それでも、工事の都度発生する事務作業が手間なら、業者だけ管理組合で何社か目星をつけておき、信頼関係ができていれば、管理会社に事務作業を引き継いでも構いません。ただ、管理組合が感知しないところで、管理会社が業者にキックバックにあたる手数料を要求していたりして“手垢”が付いている場合もあります。不審な点があったり『最近は高額になった』と感じれば、また業者を変えればいいのです。いずれにせよ、発注業務や業者選定はそれ自体が“利権”の側面があるということを忘れてはいけません」
問題はその業者選定を管理組合で誰がやるのか、だ。前出の住宅ジャーナリストが続ける。
「不正を疑われたり、大金が絡むことで、プレッシャーもかかるので、ある程度の手当を出す組合もあります。また、万一、施工不良などトラブルがあった場合も、選定者個人の責任は問わないことを議事録に残すなり、明文化しておくといいでしょう。そうしないと成り手が現れません。また、工事業者選定の担当者は理事会からではなく、一般の組合員の中から有志を募るという方法がオススメです。理事に絞ると、成り手がいなかったり、万一、不正の疑いがあった場合は解任が難しくなるからです。
管理組合での業者選定がどうしても、難しければ、信頼できそうな第三者のマンションコンサルタントなどに依頼する方法もあります」
さらに工事費を安く上げるコツ
また、依頼する業者は塗装や補修など比較的軽めの内容なら、大規模修繕を手掛けるような大手に頼むとそれだけで、高くなるという。しかも現場の職人との間に何人も人が入るので、要望が伝えにくかったり、結局はその大手も“間”を抜くために安価な下請け任せだったりする可能性も考えられる。
「できれば小回りが利き、HPなどで自社施工を謳っていて、料金表示ができるだけ明朗な小~中規模の専門業者へ直接依頼する方がいいでしょう。現場の写真や型番をメールで伝えておけば、現場に来なくても、概算くらいはすぐ出してくれるものです。また、工事業者のマッチングアプリを使えば、口コミもあって、そこまでハズレはない。
細かいテクニックでは、例えば設備更新なら製品だけ通販で購入し、取り付けを町の電気工事士に頼めば安くなります。例えば、防犯カメラの更新などは、通販で高性能な4Kカメラ8台で録画機器やモニタ、コードなど一式で10万円程度で売られています。商品だけ購入し、設置だけ町の電気工事士に依頼すれば、管理会社が紹介する専門業者の1/5以下の費用で済みます。
いずれにせよ、管理組合が直接発注することで格段に管理組合の組合会計は良くなるはずです。管理会社の“発注利権”がなくなれば、不要な工事自体が減る期待もあるからです」(前・同)
問われる「マンション管理会社」の存在意義
とはいえ、そこまで管理組合が管理を主導できれば、管理会社の仕事は、もはや理事会や総会の開催などの行事の運営だけになってしまう。
住宅ジャーナリストが続ける。
「日常のマンション管理業務は管理人でほぼ、事足ります。というのも分譲時には管理体制が構築されているので、管理会社の主な仕事は、理事会に出席して工事の営業をすることと、書類の作成くらい。だからこそ、管理会社のフロント社員は1人で10棟以上の担当物件を持てるほどで、その程度しか経営リソースは割いてもらっていないのです。酷い言い方になりますが、キックバック込みの工事の営業を受けるために管理会社に委託費を払っているようなものだと言えなくもない」
旧来の「自主管理マンション」が今でも管理会社に委託しない理由
実際、管理会社の手を借りない自主管理物件は、一般的な管理会社の委託管理の物件に比べ、半額程度の管理費で済んでいる物件も少なくないし、修繕積立金も安い。
「自主管理については、清掃員や管理人の間に、管理会社が介在するかしないかの方式の違いです。自主管理物件は、住民が直接、ゴミ出しや清掃、業者の手配をやらなければいけない、など誤った情報がありますが、これは大間違いです。管理会社が顧客マンションの管理人を雇用するように、自主管理物件では、管理組合が直接、管理人を探して管理業務を委託することができます。ある程度の事務経験があって良心的な人物に、管理人と管理会社の業務を委託できれば、仮に1.5倍の報酬を支払ったとしてもコストパフォーマンスは断然に良いはずです」(前出の住宅ジャーナリスト)
自動車を組み立てるのは素人では無理だが、マンション管理はコンサルなどの知恵を借りつつ、少々の知識があれば、日常の管理体制の構築は難しくない。1980年代半ばから、管理で安定的に儲けられることを知った不動産会社は自主管理物件を分譲しなくなったが、それ以前に分譲された自主管理物件は今でも多くが自主管理を続けている。
「自主管理は、管理会社との契約自体が不要なことを知っているのでしょう」(同)
「自主管理マンション」のリスクと管理会社の価値
ただ、一方で、こうした指摘もある。
「自主管理マンションでは、外部の目がないため、理事会業務やお金の管理が杜撰になりやすかったり、理事役員が”暴走”して私益に走りやすくなる環境であったり、理事会メンバーの属人的な能力への依存度が大きくなりすぎたりデメリットもある。このような状況から、管理状態に難ありと見え、銀行ローンも通りにくく、資産性の評価が低いのも難点と言えます。そういう意味では、理事会や総会の運営、及びその書類の作成を適切にリードしてくれる管理会社の存在価値は高いとは言えます」(同)
ただ、管理会社の工事営業を避け、理事会支援業務にだけ限定すれば、管理会社がほとんど儲からなくなり、「撤退」と言う事態もあり、悩ましいとことではある。
シビアに管理会社に要求しすぎるのは良くないが...
前出の別所氏もこう補足する。
「あまりにシビアすぎるのも考えものです。近年は管理会社も撤退する時代であり、地方の小規模物件だけではなく、最近は高級物件だろうが何だろうが、理不尽な要求が多かったり、お金にシビアすぎる組合に対しては、撤退するようになっています。現実的には少額細かい部分には目を瞑るという大人の対応も必要です。カスタマーハラスメントと受け取られかねないような行動も良くない。バランス感覚が重要なのです。
ただ、明らかに相場より高すぎる工事や、不要な工事ばかり提案する管理会社と無理に付き合いを続けても良いことはないと思います。主要都市なら、次の管理会社が見つからないということはないので、選択肢は用意しておくべきで、依存状態はやはり良くありません。管理会社と健全に付き合うためには、管理組合も緊張感を持っておくべきです」
なんとも悩ましい問題だ。」
独立系の管理会社は、管理委託費は安いものの、不要な工事を多く紹介され、それらの工事を実施すると、業者に紹介料を要求し、その紹介料のおかげで工事費が高くなるというのが一般的でした。独立系以外の管理会社でも、3社見積もりの徴収や、工事への立会費用として工事費の5%程度の紹介料を取っているケースは結構あります。
またこの記事にもあるように、管理会社に相見積の徴収を指示しても、高い見積書しか提出されず工事費の低減は見込まれません。本当に修繕費用を抑えたいのであれば、管理組合が汗をかいて自分で業者を探し、自分で見積もりを取ることです。管理組合の中に修繕委員を選任し、手当を払ってでも、これらの業務を組合内で実施すれば、工事費は低く抑えられると思います。
コメント