
2023年11月7日の週刊現代オンラインの表題の記事を紹介します。
「待ち受けている「大きな落とし穴」
郊外の駅から遠い戸建てを処分して、駅近のマンションを購入して住み替える――わりあいによく見られるパターンである。引っ越しは様々な面で負担だが、リタイアして65歳前後までならまだ何とかなる場合が多い。人によっては退職金もあって資金面でも余裕があるケースもある。
しかし、そこには大きな落とし穴があったりする。やはり、いちばんの問題は「お金」であることが多い。多くの人は気づいていないが、今、マンションは「日常のコストが高い住形態」に変わりつつある。どういうことか?
分譲マンションの所有者は、自動的に管理組合の組合員である。そして、管理費や修繕積立金を支払う義務が課せられる。これを逃れることはできない。仮に「そんなもの払わないよ」と拒み続けると、どうなるのか。
タワマンは64%も上昇
最近、日本のマンションを購入する外国人は多い。一部の外国人が管理費や修繕積立金の支払いを拒否することがあるという。
そうなると、管理組合は管理費等の債権に基づき、支払いを拒否している区分所有者の住戸を差し押さえることができる。それでも支払われなければ、最終的に競売にかけて回収することができる。ちなみに、日本の法律では管理費債権が優先される規定がある。つまり、管理費や修繕積立金の支払いを拒否することは、実質的に不可能。
そうした状況の中、管理費や修繕積立金がここ数年、猛烈な勢いで値上がりしており、とりわけ注目したいのが、20階以上の「タワーマンション」だ。
国土交通省「修繕積立金に関するガイドライン」を見てみよう。それによると、2011年と21年の10年間でタワマンの場合、64%も上昇している。そして、これは今後さらに上昇する可能性を国土交通省も示唆している。
管理員の人手不足とインフレが影響
管理費や修繕積立金の基準値が上昇している主な原因は、人手不足とインフレである。人手不足は今や日本の慢性的な社会問題となりつつある。多くの方がそれを感じていることだろう。
一例をあげよう。タクシーの運転手はこの4年間で2割減少したと言われる。私の住んでいる街の地下鉄駅前ロータリーでも、近頃は乗客が列をなしてタクシーが来るのを待っている。数年前ならタクシーが車列を連ねて客待ちしていた。タクシーなら、待てばそのうち乗れるだろう。しかし、マンションに管理員さんがいないと、困ったことがさまざま起きる。
規模が数十戸のマンションの場合、「通勤管理」である場合が多い。管理員さんが日中だけ勤務する。日本の多くのマンションはこのスタイルだろう。そういった場合の管理員さんの主な業務はゴミ出しと清掃。軽作業とはいえ、それなりの肉体労働だ。
管理員のなり手は「定年退職した管理職サラリーマン」が向いていると言われている。その理由の第一は、低賃金でも働いてくれるからだ。業務自体は軽作業をこなせる体力があれば定年後の方でもOK。住人とのコミュニケーションに支障がない程度の社会経験を有する管理職経験者向き、ということであろうか。
引退しつつある「団塊の世代」
10年ほど前までの日本には団塊の世代の定年退職者がたくさんいた。マンションの管理人を募集すると、彼らが多数応募してきたのだ。だから低賃金でも無理なく採用できた。
ところが団塊の世代は今、75歳に達してしまった。その年齢になると、ゴミ出しや清掃といった軽作業もやや困難。彼らは管理員という「第二の職業」から引退しつつある。数年前から、マンション管理業界では管理員の募集に悩むようになった。当然、賃金水準が引き上げられている。それでなくても、日本全体で最低賃金も上昇。今やファーストフード店のアルバイトでさえ、時給は1500円だ。
管理員の人件費上昇は、当然のことながら管理会社の経費上昇につながる。それは業務を依頼してくるマンション管理組合への業務受託費の値上げ要求へとなる。
最終的には、マンションの区分所有者が支払う管理費の上昇に帰結するのだ。
追い打ちをかけるもの
さらに、マンション管理に必要な備品類や消耗品も値上がりしている。これらも基本的に区分所有者が負担する管理費で賄わなければならない。だからこそ、今、マンションは「コストの高い」住形態といえるわけだ。
ただし、修繕積立金が上昇する原因は、ほかにもある。
一気に100%の値上げも珍しくない
修繕積立金が値上がりする直接的な原因を一言でいえば、「建築コストの上昇」である。その原因も、基本的には管理費の上昇と同じ構造。人手不足と建築資材費の値上がりだ。実のところ、マンション関連の建築コストはこの20年上がり続けている。私の体感でざっと2倍にはなっている。それは当然、マンションの修繕工事のコストアップにもつながっている。
ところが既存の多くのマンションの場合、修繕積立金の設定は、新築時の建築コスト相場観を基準としている。築20年のマンションなら、20年前の建築コストが基準だ。そうだとすれば、かなりの不足が生じてもおかしくない。
現状、多くの管理組合では修繕積立金の値上げが喫緊の課題になっている。それも1割や2割ではなく、一気に50%や100%の値上げ事例も珍しくない。
それでも管理会社の変更が困難なワケ
郊外の戸建てを処分し、新たに移り住もうとしているマンションは、リタイアした夫婦の場合、駅前にある価格が手ごろな中古マンションであることが多い。築20年から30年程度の物件が選ばれるのではないかと推測する。そういう物件の多くは今、この管理費と修繕積立金の不足や、それに伴う「値上げ」という深刻な問題に悩まされている可能性が高い。
つまり、購入時点において管理費や修繕積立金が「これなら払えそう」という水準でも、入居して何年かすると大幅に値上がりする可能性があるというワケだ。
管理組合が管理費や修繕積立金を値上げする場合、現状の区分所有法では総会の普通決議で可能だ。普通決議とは、出席者(あるいは議決権行使者)の過半数の賛成で可決される。したがって、ほとんどの管理組合で普通決議は99%以上が可決されているはずだ。
10年以上前なら、管理会社から値上げを要求されると「だったら他の会社に頼むよ」と言って、他社を何社か呼んで相見積を取るようなことも行えた。しかし、現状で数十戸の規模のマンションならこれは不可能だ。
管理費や修繕積立金の上昇は「必然」
仮に他社を呼んで見積もりを取っても、契約中の管理会社の値上後の業務受託費の金額よりも高い数字が出てくる可能性が高い。
値上げ要求を飲まなければ「では受託契約は終了させていただきます」ということになる。
管理会社が手を引くとどうなるのか。
ゴミ置き場にゴミが散乱し、共用部分が汚れ、整理整頓されない状態で放置しておくと、そのマンションはやがて居住不能となる。そうならないためには、管理会社からの値上げ要求を受け入れざるを得ない、というのが現実。そうなると、管理費や修繕積立金は必然的に値上げされる。
現在、国土交通省がガイドラインで示している、延べ床面積5000㎡以下のマンションの管理費は月235 円~430 円/㎡、修繕積立金は月335 円/㎡。管理費の平均額と修繕積立金を合わせると635円/㎡となる。
つまり、65㎡のマンションなら月額にして4万1300円ほどの管理費と修繕積立金がかかる。
月々の負担額は右肩上がりに増えていく
たしかにこの程度であれば、平均的な年金生活者でも、払えない額ではなさそうだ。この他に、固定資産税がかかる。駐車場を借りているとエリアにもよるが月額1万~2万円程度の使用料も発生するので、月々の負担額は7万円近くに達するかもしれない。
ただし、これはあくまでも国土交通省の示すガイドラインであって、その金額が最後に改定されたのは2021年。翻って現状では、人件費も物価もさらに上昇している。それらが今後、値下がりするとは考えにくい。要するに、マンションを保有して住むコストは、これからも徐々に上昇していくのだ。
私は近い将来、管理費と修繕積立金を合わせたランニングコストは1000円/㎡に達すると予測している。その理由はいうまでもなく、人手不足とインフレ。
いまいちど65㎡のマンションを引き合いに出せば、管理費と修繕積立金は現在の4万1300円から6万5000円に上昇することになる。ここに、固定資産税や駐車場使用料が加算される。
さらに危惧される「ヤバい事態」
しかし、その一方で、高齢者が手にする年金額は減ることはあっても増えることはないだろう。むしろ、社会保険料や消費税の上昇も考えられる。分譲マンションを購入して居住するということは、日々増大するコスト負担に耐えねばならない、ということになる。
数年後には「マンションは管理費が高い住まい」というイメージが浸透するかもしれない。リタイア後の高齢者だけでなく、新たにマイホームを買おうと考える若年層も、ランニングコストの負担を避けて分譲マンションの購入を避ける動きが出てきても、決して不思議ではないのだ。」
記事は誇張されている部分もありますが、最悪のケースとして現実になるおそれもあります。管理費と修繕積立金の合計が㎡あたり1000円となると70㎡のファミリータイプのマンションで7万円、これに駐車場代や電気・ガス・水道代を加えると、月々10万円以上の費用がかかります。これに社会保険料が加われば、年金だけでは生活できないケースも出てきそうです。
いつかは、分譲マンションを手放して、公営住宅に入居する。そのような選択が必要なことも頭に入れておく必要がありそうです。
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