2022年11月27日の日刊ゲンダイデジタルの表題の記事を紹介します。
「「訳あり不動産」というものをご存じか。訳ありと聞くと自殺などの事故物件を思い浮かべるかもしれないが、それだけではない。空き家問題や長引く不況などの事情で売るに売れない物件=訳あり不動産が増えている。それを専門に買い取りを行っているネクスウィルの丸岡社長に詳しく聞いた。 ◇ ◇ ◇
──訳あり不動産とは? 土地や建物に瑕疵がある物件のことで、①物理的瑕疵②法的瑕疵③環境的瑕疵④心理的瑕疵──の4つに分けられます。具体的には①が雨漏りやシロアリ、地盤沈下などがある物件、②がさまざまな法的要因で再建築不可な物件、③は隣が暴力団事務所や墓場など住みづらい環境にある物件、④が自殺などいわゆる事故物件。全体の市場規模は不明ですが、例えば接道条件が悪くて再建築不可な「法的瑕疵物件」だけでも、家屋全体の約3分の1あるといわれています。
■相談が急増している空き家と所有者不明物件。総面積は北海道と同じ ──最近注目の訳あり不動産は?
実は4つの瑕疵物件には含まれていないのですが、所有者不明や共同持ち分でこじれている物件があります。私どもではこれを第5の訳あり不動産として「人間関係の瑕疵物件」と呼んでおり、相談が圧倒的に多い物件です。いま社会的に問題になっている空き家もその一つ。所有者不明物件を合わせると、北海道全域ほどの面積になるといわれています。
親族関係が修復不可能になる前に専門業者に相談を
──どうやって利益化する? まずは戸籍を調べて、所有者を全て洗い出し、1人ずつ買い取り交渉をしていきます。これが結構細分化されている案件が多くて、地道な作業が必要なんです。先日私どもが担当した物件は、法的な所有者が10人もいました。中にはその事実を知らなかった人もいて、最も割合の少ない人は864分の6。それらを地道に買い取っていって、全て買い取りできたら更地にし、ディベロッパーに転売するなどして利益を得ています。
──どうしてもまとまらなかったら? まれにですが、ありますね。例えば、親から相続した家をきょうだい3人で共有して、そのうちの1人が住んでいるという場合。ほかの2人は買い取りに合意しているのに、住んでいる1人は家自体に愛着があったり、転居費用が工面できなかったりの理由で、なかなか首を縦に振ってくれません。そういう場合は家庭裁判所に持ち込まれ、最悪は家を競売にかけられ、売れた金額を3人で分けるよう命じられます。そうなると、相場より手取り額が減るので、なるべく早めに話をつけるのが得策です。
しかし、こういう物件は、住んでいる側が聞く耳を持たないなどの理由で没交渉に陥っている場合が多く、だからこそ私どもに相談が来ます。また、きょうだいだけなら“なあなあ”で済ませられても、それぞれの配偶者が「なぜうちは住んでもいないのに、固定資産税を3分の1払わなければいけないの? 買い取ってもらえば」と言い出し、問題がさらに複雑化します。そうした複雑な問題を、不動産の知識がない人同士で解決しようと思っても不可能です。どうしても住み続けたい場合は、所有権を売った上で、その家の賃貸料を支払う「リース・バック」という方法もあります。こじらせて親族関係が修復不可能になる前に、ぜひうちのような専門業者に相談して欲しいですね。
安易なペアローンの夫婦共有はリスクが髙い
──夫婦が離婚して揉めた場合は? 夫婦がらみの訳あり不動産は最近多いですね。よくあるのが、夫婦で共有持ち分2分の1ずつのペアローンを組んで家を購入、その後離婚して元妻の方が住み続けているケースです。離婚してしばらくは、元夫も慰謝料や養育費のつもりで黙っているのですが、そうした支払いも終わり、元妻も再婚したというような頃合いに、「そろそろ買い取ってよ」となるのです。しかし、元妻にとっては長年タダで暮らしている家。「そんなお金はない」と突っぱねます。それでにっちもさっちもいかなくなって、当社に相談が来るというわけです。
こうした場合、元夫の2分の1の共有持ち分を弊社が買い取った上で、元妻の家に交渉に行くと、「あぁ、分かりました」と素直に観念する場合が多いですね。要は元夫のよしみに甘えていたわけです。であるならば、最初からそのよしみに甘えていれば、もっと安い価格で買い取れたかもしれないのです。そもそも離婚する時に清算しておけば、もっと不動産価値の高い時に転売できたかもしれず、関係をズルズル引きずってしまったツケを払わされた格好です。 ──買い取れない物件もあるの? 当社の場合、問い合わせが100件あったら、そのうち買い取れるのはせいぜい20件です。つまり8割は、不動産の価値が低すぎて転売利益が見込めなかったり、法的に難しかったりして買い取れません。法的に難しいものは、例えば農地です。農地は農業従事者しか買えませんので、われわれが買い取るためには一度宅地に転用しなければなりません。その手続きが非常に煩雑なんです。
そうした買い取れない物件は、弊社が運営するマッチングサイトにご案内しています。市場価値は低くても、人によっては「家は古いけどDIYして住みたい」「この土地の環境が良い」など価値を見いだす場合も。最近はリモートワークで地方に移住する人が増えており、一定のニーズがあります。訳ありだからと諦めて放置せず、まずはご相談ください。
相続登記の義務化で24年から「訳あり物件」が激増する
──今後も訳あり不動産は増えていく? 実は2024年4月に、相続登記が義務化されます。これまでは罰則がなかったので、手続きをしない人が多かったのですが、施行された後は不動産を取得した日から3年以内に登記・名義変更しないと10万円以下の過料の対象になります。法改正以前の不動産も対象になるので、その結果“知られざる共有持ち分”が明るみに出るケースが激増することが予想されます。心当たりのある方は、今のうちに対処しておいた方がいいですね。
そもそもなぜ、こうした訳あり不動産が増えるのか。第1に相続を甘く見ているということ。安易に不動産の所有権を分ければ、後々必ず大きな問題になります。 第2に、一般の方にこうした知識がないこと。だから大手不動産会社の勧めるままペアローンを組んでしまう。共有所有じゃないと家が買えない日本の経済構造も問題ですけどね……。 第3には、家族・親族のつながりが希薄になっていること。昔は、盆暮れになると親族が集まり、家のことや何やら話し合いました。しかし、最近は、そうした機会もめっきり減り、家や土地の責任を持つ人が減っています。つまり長年の核家族化が、訳あり不動産を生み出し続けている大きな原因だと私は思います。」
相続問題を棚上げにした結果、共有状態となり、処分したくてもできなくなった訳あり不動産を、まともな状態に戻し、活用できるように次の所有者に渡していく。これからの不動産会社は、このような業務も行っていく必要があると思います。
2024年の相続登記義務化まで、あと4年しかありません。待ったなしの状況だと思います。
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