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まちなかの空きスペースを農園に、多様な“関わりしろ”が魅力

執筆者の写真: 快適マンションパートナーズ 石田快適マンションパートナーズ 石田

更新日:19 時間前



 2024年11月22日の新・公民連携最前線の表題の記事を紹介します。


近年、まちなかの空きスペースに小規模な農園を設け、コミュニティの醸成などに役立てる動きが目立ってきた。都市部に“農”の空間を整備するトレンドは、どのような経緯で生まれ、どのような効果を生み出していくのか。さらなる発展には何が必要で、そこに行政が果たす役割は何か。都市×農による社会課題解決を研究する兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科の新保奈穂美准教授に話を聞いた。

兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科の新保奈穂美准教授(写真:水野浩志)


都市型農園に必要なのは土地と人と制度

――最近、空き地や公園の一角などを農園にする例が増えてきたように思います。こうしたまちなかの農園化はトレンドになっていくのでしょうか?

 確かに、空いた土地、スペースを農の空間にしていこうという取り組みが最近流行っていると思います。従来の農業ではなく、地域住民が農的な活動に参加する場として整備されるもので、「都市型農園」と呼ばれることが多いですね。

 少し前から緑化していたビルの屋上や、既存の農地、商店街の空き物件、公園の中のあまり使われていないスペースなどに農園を設ける例が増えました。かつ、地域住民やNPO、まちづくり会社、民間企業、行政など様々な主体が関わるようになってきています。事例もバリエーションが豊富で整理するのが難しいぐらいで、“なんでもあり”の様相を呈しています。


――都市型農園はどのような背景、理由で増えてきているのだと思われますか?

 いくつかの要素が絡んでいると思います。まず、環境保全、食の安全、食育、心身の健康、地域コミュニティ、生物多様性など、農園には様々な意義があり、様々な“関わりしろ”があって、様々な人が活動に参加できます。SDGs、気候変動や生物多様性への対策などが意識されるなかで、農園をやってみたいと思う人が増え、それが受け入れられやすい状況になってきたのだと思います。

 都市部に空き地や空き家が増え続けていることも背景にあります。使えるスペースがあるということです。柏市や神戸市など、空き地、空き家の活用を支援する制度を整備した自治体もあります。

 食に関する意識の高まりも影響していると思います。自分たちで食べ物をつくるべきなんじゃないか、どこから来たのか分からないものばかり食べていていいのか、といった焦燥感をいやす活動、場所になりえます。

 コロナ禍を経て世界的にフードセキュリティへの意識が高まっていますし、日本でもガーデニング関連グッズがよく売れたり、貸し農園が人気になったりしました。日本では1990年代にガーデニングが流行していたので、揺り戻し的に人気が再燃したところもあるかもしれません。


――都市型農園に適しているは、どのような場所でしょうか。今日は神戸市内の都市型農園「いちばたけ」でインタビューしていますが、ここはアーケード(灘中央市場)にある空き店舗を更地にして農園として活用しています。

 神戸市は人口減少が進んでいる政令都市で、人口が150万人割れ(2023年10月1日時点の推計人口)というニュースもありましたが、それは見方を変えれば、使える土地が増えたということです。利用できる空き地が増えてきて、かつ、周辺にまだまだいろんな人が住んでいて、うまく呼び込めば参加者が確保できる。こういう場所が理想的です。

灘中央市場の空き店舗だったスペースを活用した「いちばたけ」は、登録した地域住民が自由に参加できる「コミュニティ農園」型の運営をしている(写真:水野浩志)


アーケードの通路側から見た「いちばたけ」。向かいの建物でインタビューしている間にも、通りすがりの人が菜園をのぞいたり、見学を申し出たりした。灘中央市場は神戸市灘区で1925年から続くアーケード商店街(写真:水野浩志)


 神戸市は支援制度も充実しています。この辺りもそうですが、住宅などの建造物が密集した地域が多く、防災空地が必要なので、「密集市街地まちなか防災空地事業」という取り組みを進めています。火災の際に延焼しないように、密集市街地に建物のないスペースをつくっておいて、普段はそこをポケットパークのように使う。そのための建物の除去や防災空地の整備に関わる費用を市が補助し、固定資産税を免除する制度です。

 また、「空き地活用応援制度」という、空き地を地域活動に供すると、不動産の賃貸借や売買に関わる仲介手数料や所有権移転登記費用、固定資産税、整備費などを市が補助する制度もあります。

 例えばこの「いちばたけ」は商店街の中で2つの隣り合って空いていた区画を合わせて農園にし、その向かいの建物を集会所のように利用しています。2区画のうち、片方は神戸市空き家・空き地地域利用応援制度(当時)で整備し、片方は防災空地事業で建物を解体しました。

 神戸市は防災空地をつくる制度、空き地・空き家を活用する制度があるのが強みですね。さらに、コミュニティ・デザイナーが結構います。いちばたけも、市役所の職員さんたちが仕事ではなく自主的な取り組みとして始め、そこに若いコミュニティ・デザイナーさんが加わって、活動が発展してきました。


計画段階から地域住民を呼び込むことが成功のカギ

――東京も東側は木造住宅密集地域が多いので、空き地を緑地にしようという動きはありますが、実現した例はまだ少ないようです。

 東京は住宅ニーズがあり、開発圧力が強いので、空いた土地に建物をつく らずに緑地や農園にするのは難しいのでしょうね。

 墨田区北部の「たもんじ交流農園」のような取り組みが広がるといいと思いますが――。たもんじ交流農園は、まさに木密地域、それも緑の少ないエリアに、交流機能を持った農園を整備した例です。地元の商店街を中心にまちづくり協議会が発足し、協議会がNPO法人格を取得して、農園を立ち上げました。

 よく「都市型農園に適しているのはどんなまちですか?」「やっぱり大都市のほうがいいんでしょうか?」という質問を受けますが、必ずしも大都市が適しているとはいえません。ある程度、農園に使える土地が出てきて、かつ、いろんな人がいる場所がいい。神戸も住宅ニーズがさほど旺盛でない事情もあって、フィットしたのだと思います。


――「いろんな人がいる」とは、コミュニティ・デザイナーのような人もいて、という意味ですか?

 それもありますが、まず参加者がいないと始まりませんからね。子どもに土いじりを経験させようとか、若い人と関わって何かしてみたいとか、なんとなく面白そうだとか、いろんな理由で人が訪れることが大切です。


――確かに、地元の参加者が集まらないと、長い目で見て維持管理は難しそうです。ほかに留意すべき点はありますか。

 地域で何か新しいことを始めようというときに大切なことは、やはり地元の理解を得ることです。特に行政が公有地を使って委託事業として行う場合、丁寧に説明して、地元から意見やアイデアを吸い上げなければ反発を招きます。

 一方で、民間が自腹でやる分には説明やヒアリングは不要かというと、それは間違いで、やはり地域との対話は欠かせません。そうしないと、今度は地域住民から“自分には関係のないこと”と認識されてしまって、活動が広がりません。


――参加者が増えて、活動が盛んで持続しているような都市型農園は、地元との関係もいいというわけですね。

 うまくいっているところは総じて、計画段階からチラシをまいたり、ワークショップを開いたりして、「一緒につくっていきませんか」と市民へ呼びかけています。「どういう農園にしたいか」「何のためにやるのか」、みんなでアイデアを出し合ってつくっていく。ベンチや木枠の設置などで一緒に手を動かす。そのパターンはうまくいく印象があります。

 まだ開業していないので成功例に数えてはいけないかもしれませんが、大阪の船場地区でも、計画段階から丁寧に地域に呼びかけながら農園をつくっています。現地は心斎橋駅と本町駅の中間の大都会で、公園緑地も少ない場所ですが、久宝公園の隣に農園をつくろうというプランです。土地のオーナーは地元で不動産業を営む辰野株式会社(大阪市中央区)。来春の開業に向けて今年度は辰野と一般社団法人環境事業協会がワークショップやイベントを重ねています。私も初回のワークショップで講演をさせてもらいましたが、非常に盛況でした。


少子化や人口減少で低利用化する公園、農的利用に新たな可能性

――いち早く2013年に取り組みを開始した富山市「街区公園コミュニティガーデン事業」などがよく知られていますが、公園内の空きスペースを農園にする例も今後増えていくのでしょうか?

 少子化や人口減少で、公園も低利用化していくので、空いたスペースを農的利用に回すという考え方はあると思います。実際に、神戸市兵庫区の平野展望公園の中にある「平野コープ農園」や、神戸市長田区の新湊川公園の中にある「Ujamaa(ウジャマー)菜園」などの取り組みもあります。

 ウジャマー菜園は神戸市の経済観光局 農水産課が主導したプロジェクトで、もとは実証実験だったのが今は本運営に移行しています。このような農園の特徴として、30代や40代の比較的若い参加者が多いことが挙げられます。ワークショップの呼びかけ方や、発起人のもともとのコネクションによって、そのような年齢構成になるのだと思われます。

 公園内コミュニティ農園の若い参加者が、公園全体に関しても、従来は自治会などが担っていた公園愛護会的な役割を果たしていく可能性があります。公園愛護の世代交代のツールとして、公園内コミュニティ農園が機能させることが期待できるかもしれません。実際に、平野コープ農園では、農園を区画借りしている主に30代、40代のお母さんたちが公園全体の管理も手伝うことになったと聞いています。

 今はまだ、公園に畑をつくるとなると自治体としては抵抗感があるかもしれませんが、今後は変わってくるだろうと楽しみにしています。「地域コミュニティを形成する」など、公共の利益になる目標を設定できれば、自治体でも取り組みやすいかもしれませんね。

「まずは普及することが大事」と語る新保准教授。「いちばたけ」にて撮影(写真:水野浩志)


――公園内の農園だと、共同栽培エリアが要件になるのでしょうか?

 そんなことはありません。法律的には公園内で農園の区画貸しも可能で、横浜市には貸し農園付きの公園もあります。公園の指定管理者が農園も管理する形態です。

 最近のコミュニティ農園はみんなで一緒に育てるエリアと個人が有料で借りて育てるエリアを併設しているケースも多いです。自分の好きなように野菜などを育てられる場所が欲しい人もいるでしょうし、自分の区画の手入れをするという目的がなければ参加が続かない人もいるかもしれません。

 一方で、区画貸しエリアのない日野市の「せせらぎ農園」もうまくいっているので、区画貸しエリアがないとダメということではないですね。せせらぎ農園では、メーリングリストを活用して、その日の作業内容などを随時知らせ合っています。そうしたこまめな連絡がメンバーの参加意欲を盛り上げるのかもしれません。本当に生きがいのように思って、仕事のように責任感を持って活動している人が何人もいます。


行政に求められる窓口、制度、コミュニティ人材の支援

――こうした都市型農園の盛り上がりは、SDGs、脱炭素などの施策を掲げる行政としても生かしていきたいところですね。

 そうですね。緑が持つ機能を意識して、都市にもっと緑が配置されるといいと思います。ただ、今は制度がまだ追いつかないというか、行政の方でどうしたらいいのか思案しているような印象を受けます。空き地を農的利用に結び付ける制度が、今はまだごく一部の自治体にしかないんです。(やり方次第で実現可能であっても)制度がないと、行政のどの部署が担当なのか、市民は分かりません。土地を使って農園をつくりたいと考えた人がいたとして、まずどこに相談したらいいのか分からない状況ではないでしょうか。

 空き地、農地、生産緑地はそれぞれ担当部署が異なるという自治体がほとんどのはずです。横断的なプログラムが求められますが、そうしたプログラムの立ち上げは容易ではありません。

 「グリーンインフラ」「ネイチャーポジティブ」といった言葉はよく聞かれるようになりました。ただ、本来は「緑にあふれている」「農の空間が豊かである」など、自治体として都市の理想像をまず描き、そのビジョンに基づいて、各部局の役割を整理するべきだと思いますが、なかなかそのような形にはなっていません。

 海外では、例えば独・ベルリンなどはそうした形を取っています。アーバンガーデニングを進めていくためのプラットフォームをつくって、緑政部局が推進している。日本の自治体では、そのような試みをしている例は少ないですね。


空港跡地が住民の声で公園となった、独・ベルリンのテンペルホーファー・フェルトにあるコミュニティガーデン「アルメンデ・コントーア(Allmende-Kontor)」。数多くのコミュニティガーデンがある都市として知られるベルリンにおいても草分け的存在だ。右下写真は公園側から見たアルメンデ・コントーア(写真:3点とも新保奈穂美)


――都市型農園の広がりのためには、行政が制度をつくって、市民に窓口を明示することが重要なのですね。

 もちろん、制度でプロジェクトを経済的に支援することも大切です。固定資産税がパブリックスペースにもかかってしまう現状は、行政で解消すべき課題だと考えます。

 国土交通省の市民緑地認定制度にも税制措置特例がありますが、市民緑地認定の要件に加えて、税制措置特例を受けるための追加条件もあって、クリアできるプロジェクトはそう多くないですね。

 自治体では、神戸市のまちなか防災空地、空き地活用応援が適用できるという話を先ほどしましたが、柏市(千葉県)の「カシニワ制度」も参考になります。カシニワ制度は基本的に土地所有者と活動団体をマッチングするという比較的シンプルな仕組みなので、ほかの自治体でも取り入れやすい気がします。


――空き家バンクを始めた自治体は多いので、それを基点にカシニワ制度のようなマッチング制度を併設することは、行政にとってもハードルは高くないかもしれません。

 そう思います。そういう自治体がどんどん増えれば、面白いまちがたくさん生まれそうです。大きな一軒家にオーナーさんが住み続けながら「うちの庭だけ、よかったらどうぞ」と一部オープンスペース化して、そこで活動団体が農園をやるみたいなことがあっても面白いかもしれません。そのような“寛容な関係”が許されるといいですよね。

 それから、コミュニティ・デザイナーの確保に行政の支援があると非常に有効だと思います。都市型農園のような活動では、本当はやってみたいと思っている地域の人々をうまく呼び起こすことが大切で、そこはコミュニティ・デザイナーの腕が求められるところです。コミュニティ・デザイナーがその仕事で食べていける状況を行政がつくる、委託事業にすることで、プロジェクトが成功する可能性は高まりますし、成功すれば様々な社会的効果が生まれます。


――効果を測定できれば、行政としても予算を割いて事業化しやすいのだと思いますが、どのような効果をどう測定することができそうですか。

 行政にとってのメリットでいうと、都市型農園がうまくいけば、シニアのフレイル予防などにもつながって、社会保障費を低減できるはずですし、若い世代にウケがいいので農園の存在が移住先を選ぶ理由の一つになることも考えられます。農園が地域を好きになるきっかけになる可能性はおおいにあって、関係人口や交流人口の増加にもつながります。ただ、いずれも効果実証が難しいですね。

 KPIは参加者の数、活動日数やイベント回数、参加者の満足度といったところになります。生物多様性という意味で、農園で観察できた鳥や虫の数なども効果測定指標になりますね。本当はほかにも数字として表れない効果がたくさんあるのですが……。

 例えば、食料自給率への寄与は、パーセンテージでいえば小さいですが、啓発の意味では大きいと思います。都市型農園には、近隣の若い農家が指導役で参画することが多いので、農園をきっかけに、農家への感謝が生まれたり、地元産の野菜を優先的に買う人が増えたり、さらには新規就農する人も出てきたりするかもしれません。

 なんにせよ、まずは普及することが大事なのかなと思います。


――新しいことが普及していく過程では、制度や効果検証は後からついてくることが多いので、どんどん広がっていってほしいですね。ところで、これまで研究のために多くの都市型農園を見てきた新保准教授ですが、ご自身としては都市型農園にどのような効果や魅力を感じていますか?

 大量出荷、商業流通を目指してはいない“農”なので、それ特有の楽しみがありますよね。農薬を使わなくても虫は人手で除けばいいし、うまく育たなかったりしてもみんなで笑ってしまえます。

 個人的には、「天候や植物が相手なので、どんなに頑張ってもどうにもならないこともある」ということを、農作業を通じて経験することが精神の安定に大事だなと思ったりします。

 パソコンでプログラムを書いていて、一文字間違ったら、そのプログラムは全く動かない。そういう意味では完璧を求められる世界です。でも別に世の中はそんなに完璧でもないし、野菜の栽培などは自分が完璧にやったところで気候の関係でダメになったり、理由もよく分からないまま失敗したりということがあり得ます。それは逆に“救い”のような気がするんです。ネガティブなことが起きたときに「くよくよしたってしょうがない!」と前を向く考え方を身につける場として、農の空間は重要だと思います。」


 都市の空地を農園にする試みは、とても良いと思います。マンションでも、子供が大きくなって利用されないプレイロットや花壇等を家庭菜園として活用すれば住民のコミュニティー活性化に役立つのではないでしょうか?是非取り入れてみたいアイデアです。



 
 
 

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