少し古いですが、2018年7月26日の朝日新聞デジタルに表題の記事がありましたので紹介します。
「賃貸アパートを業者が一括で借り上げ、家賃も業者からオーナーに一括で支払う「サブリース契約」。その保証期間が切れて家賃を引き下げられ、アパートを建てたときの借金の返済に窮するオーナーがいる。
「家賃は30年間下がらない」
近畿地方の40代の夫婦はいま、生活保護を受けながら暮らしている。夫婦の生計を助けようと、夫の亡き父親が16年前に建てたアパートが、夫婦を追い詰めることになってしまった。
夫の父親は大手のレオパレス21(東京)とサブリース契約を結び、約2億円の借金をして2002年に自分の土地に2棟のアパートを建てた。父親が亡くなったときの相続税対策に加え、体が弱く働けなかった夫の将来のために、家賃収入で生計を立ててほしいという父親の願いが込められていた。父親と業者の話し合いに夫婦が同席することもあった。「30年間ほとんど家賃は下がらない」と業者が説明していたと、夫婦は記憶している。
契約から2年後に父親は他界。夫はアパートも借金も相続した。最初は順調に家賃が入っていたが、建築から9年目に家賃の引き下げを持ちかけられ、10年目に家賃を2割引き下げるか、サブリース契約を途中解約するか迫られた。
夫婦の生活は家賃に頼り切っていたため、引き下げをのむことはできず、別の業者と新たに契約した。しかし、その業者は3年前に行方をくらませた。
入居者探しやアパート経営のノウハウは、夫婦にはない。借金は1億4千万円も残っていた。自己破産するしか道はなかった。夫の看病を続ける妻は「ローン返済が月80万円以上もあり、精神的にも追い詰められた。借金してまでアパート経営するものではない」と話す。
千葉県に住む藤澤勇治さん(77)は今年、30年住み慣れた野田市の自宅を出て、松戸市の借家に引っ越した。借金を返せず、自宅は差し押さえられた。業者とサブリース契約を結び、安易にアパートを購入してしまった26年前の判断を悔やんでいる。
バブル景気のさなか、藤澤さんは知人に紹介されたエムディアイ(現・レオパレス21)の営業社員に「これからは地方の時代。好景気も波及します」と勧められ、1992年、縁のない甲府市の2階建てアパートの土地・建物を約6千万円で購入した。
一定の家賃が保証されていた最初の10年間は、順調に入ってくる家賃収入で借金を返していた。約30年の返済を終えたら、家賃が年金の足しになると考えていた。ところが、家賃保証期間が切れた契約10年後の2002年、事態は暗転した。家賃をそれまでの4割程度に引き下げると業者から通告されたのだ。契約書には、保証期間が切れた後は2年ごとに契約を更新できると書かれているが、藤澤さんは購入時、営業社員から「保証期間後の家賃は毎年3%程度上がる」と説明されたと記憶している。
家賃の引き下げで借金の返済ができないと考えた藤澤さんは業者との契約を打ち切り、別の不動産会社に管理を委託した。だが、思い通りに家賃収入は入らず、借金返済に行き詰まり、アパートは競売にかけられた。70代後半となった今、週3日ほど仕事をして生計を立てている。「いま考えると何の警戒もしていなかった。賃貸経営は順調にいくと思っていた」
レオパレス21は「オーナーに納得してもらうよう努め、合意による減額を行っている。一方的に減額したことはない」(広報部)としている。
いつかくるかもしれない家賃引き下げに身構えるオーナーもいる。群馬県内の男性は3年前、大手の大東建託(東京)とサブリース契約を結び、賃貸アパートのオーナーになった。同社と仕事で取引があり、節税対策として有効だと考えたという。
いまは満室だが、将来、築年数が経てば空室が増えると予想する。30年の契約で、家賃保証の10年を過ぎれば家賃の引き下げを迫られる可能性もあるとみて、安定した家賃収入があるうちに蓄えているという。それも厳しければ、自らが経営する会社の社員寮にする選択肢も視野に入れる。「アパートは供給過剰。もうかるとは思っていない」と男性は語る。
日銀緩和と相続増税が後押し
人口減が進む日本で、賃貸アパートは増え続けている。国土交通省の統計では貸家の新設着工戸数は16年度から2年連続で40万戸を超えた。08年のリーマン・ショックでいったん大きく落ち込んだアパート建築を再び勢いづけたのが、13年からの日本銀行の大規模金融緩和と、15年の相続税増税だ。
日銀の統計では、17年度末の個人の賃貸業向けの融資残高は約23兆円で、金融緩和前の12年度に比べ12%増えている。金融緩和によって、担保を取りやすい不動産市場に大量のマネーが流れ込んだ。とりわけ、企業向け貸し出しが伸びずに困っていた地方銀行がサブリース物件に積極的に融資し、個人の賃貸業向け融資残高全体の6割を地銀が占める。
15年1月には相続税が増税され、課税対象者も増えた。アパート経営など土地の有効活用で相続税の評価額が下がり、節税になるため、広い土地を持つオーナーらに業者が節税をうたって営業攻勢をかけ、建築を促したケースが取材でも複数確認された。
建築ラッシュは供給過剰をうみ、賃貸アパートの空室率は高まる傾向にある。不動産調査会社タスによると、首都圏の1都3県で、入居者を募集しているアパートの空室率は15年半ばの30%前後から上昇し、今は35%を超える地域が多い。
アパートの供給過剰は、オーナーたちの将来の借金返済に影を落とす。お金を借りているのはサブリース業者ではなく、オーナー。空室が増えれば業者は家賃引き下げでしのげるが、オーナーは家賃収入が減っても決められた額の返済を続けなくてはいけない。物件が古くなるほど、アパート経営は苦しくなる。
金融庁は昨年、賃貸不動産向け融資の実態調査結果をまとめた。抽出した地銀7行を対象に、融資先の入居率や家賃、サブリース契約の有無などを聞いた。
朝日新聞の情報公開請求で、調査結果の一部として、7行が融資した少なくとも672件の状況が開示された。それによると、新築から5年経るごとに空室率は上がり、築20年では11・6%に達した。家賃水準は、築15年までは新築の90%超を維持するが、築20年では75・1%に急落した。家賃収入だけでは修繕費や返済金をまかなえない赤字物件の割合は築15年と20年でいずれも20%前後になっていた。
2010年代半ばに建ったサブリース物件の家賃保証が10年間だった場合、切れるのは20年代半ば。そのころ、日本の世帯数は減少に転じる。家賃の引き下げが相次ぎ、オーナーたちが借金返済に困ることはないのか。この問題に詳しい青山財産ネットワークスの高田吉孝執行役員は、「いまは問題が表面化していなくても、時間の経過とともにサブリースは時限爆弾になり得る」と警告する。」
香川県でも、遊休農地の有効活用や相続税対策として、アパートが多く建設されてきた経緯があります。今後、より一層の人口減の中、郊外のアパートは空きが目立ち、記事にあるような事態が既に出始めているのではと思います。
不動産投資には出口戦略が重要だと言われています。昔、中国のデベロッパーと付き合った時に彼らに言われたのは、貸して収益を上げるのはもちろんだが、最後は売却して利益を出すということでした。自分が保有する物件が今売ったら幾らになるのか?これを常に把握しておくことが、不動産投資で損を出さないためにはとても重要というわけです。
先祖伝来の土地を守るという発想だけでのアパート経営だけでは、出口戦略がなく、最後は、賃貸マンションのオーナーにつけが廻るように思います。
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