2022年2月20日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。
「管理費と修繕積立金を値上げするマンションも
分譲マンションを購入すると毎月住宅ローンのほかに管理費や修繕積立金、自動車を持っていれば駐車場使用料も支払わなければなりません。最近では、管理費や修繕積立金が不足して、こうした費用を値上げするマンションが増えており、弊所にご相談が多く寄せられています。その原因は、人件費が高騰し、管理会社に支払う管理委託費や工事代金が上昇傾向にあるからです。
新築マンションは、売りやすく、そして買いやすくするため月額の修繕積立金の設定が適正な金額よりかなり低く設定されるケースもあります。実際、1平方メートルあたり100円を切るような設定になっている場合も少なくありません。
新築販売時の修繕積立金の算出の根拠になる長期修繕計画書という書類がありますが、この計画書で30年間黒字になっていることを確認して新築マンションを購入したのに、3年とか、5年しか経っていないのに修繕積立金を何倍にも値上げすることが総会に上程され、「そんな話、聞いていない!」と国土交通省や行政機関に相談や苦情が寄せられることが多いです。
新築マンション購入時には一世帯当たり30万~50万円の「修繕積立基金」という一時金を一括で支払いますので、最初は修繕積立金のキャッシュフローは潤沢に見えるのですが、マンションは30年を過ぎると、エレベーターの更新、機械式駐車場の更新工事、給・排水管の更新工事等の補修工事が目白押しになり、支出が増えます。
購入後、そのことに気付いた組合員から総会で修繕計画について質問が出ると、管理会社などが早いうちに修繕積立金の値上げの提案を行うこともあるのです。
修繕積立金見直しの方法は?
修繕積立金の見直しは、大規模修繕を行うときに一世帯100万円~150万円の一時金を徴収する方式、5年~10年毎に段階的に修繕積立金を値上げする段階増額方式、建物や設備の維持管理に生涯必要となる費用を竣工当初からできるだけ均等に按分して徴収する均等積立方式の3つがあります。
一時金の徴収方式は、一時金を一括で支払うことができる人とできない人がいるので合意形成が図りにくいです。また、段階増額方式も当面の負担額は少なく済みますが、将来に大きく増額されるため、組合員が高齢になって若い時のように稼ぐことができなくなることを想定して合意形成が得られないことが多くなります。
均等積立方式は比較的築年数が浅いうちは、段階増額に比べて割高になりますが、永住を意識している方にとっては将来的に修繕積立金が大幅に増額することがないので、老後の生活設計にもゆとりを持たせることができます。そのマンションを終の棲家と考えている人には良い方法ですが、途中で転売する人にとっては無駄が多い方式です。
国土交通省では、修繕積立金の見直し方法としては、長期にわたって金額の変更がないので、増額のための合意形成について度々取り組む必要がない均等積立方式を推奨しています。
修繕積立金の値上げを抑えるには
マンション側が、上がる管理費や修繕積立金を低く抑えるにはどうすればよいのでしょうか。その方法は、節約をする、投資する、収入を増やす、の3つに大別できます。
・節約をする 多くのマンションでは、共用部のエアコンの温度設定を変えて電気代を節約したり管理員の勤務時間を減らしたり、定期清掃の回数を減らしたりするなどして節約して管理費からの支出を抑えています。管理会社を変更して管理委託費の支出を抑えて余ったお金を修繕積立金に繰り入れて修繕積立金の不足を補っているマンションも少なくありません。しかしながら、支出を抑えるにも限界があります。
・修繕積立金の運用 バブルの頃は財テクブームで修繕積立金を株式投資や投資信託で運用して潤っていた時代もありました。しかし、バブル崩壊で大損して総会が紛糾、投資信託を提案した理事長や理事がそのマンションに住めなくなったという泣くに泣けない出来事もありました。
この20年ほどでそのようなマンションは皆無になりました。現在では、国債を購入したり地方債を購入したりする管理組合もありますが、多くのマンションでは、国土交通省と財務省が所管する独立行政法人住宅金融支援機構の「すまい・る債」で運用しています。この「すまい・る債」は修繕積立金の計画的な積み立て等をサポートするマンション管理組合向けの債券です。管理組合は債券を購入することで修繕積立金を機構に預け、管理してもらうことができます。
一方、修繕積立金は「大切な組合員全員の重要な財産なので資産運用をしない方がいい」と考え、「運用しないことが運用」といった理由で、金融機関が破綻した時でも預金が全額保護され、利息の付かない「決済用預金」にしている管理組合も少なくありません。
また、修繕積立金を1000万円ずつに分け、定期預金で色々な銀行にペイオフ対策をしているマンションもあります。しかし、あまりにも利息が少な過ぎるために総会の収支報告書に添付する預金の残高証明書の手数料の方が銀行の利息より高くなり結果的にマイナスの運用になってしまいます。
・収入を増やす 3つ目の「収入を増やす」について、前述の通り、管理費と修繕積立金は総会決議で値上げが承認されれば収入は増えるのですが、管理費等の値上げは、組合員の日々の生活に影響が出るので、反対も多く簡単に合意形成が得られるはずがありません。管理費等の値上げをしないで収入を増やすためのトレンドは、マンションにお金を稼いでもらうことです。このことについて詳しく見ていきましょう。
マンションが収益事業を行うことができるのか
マンションにお金を稼いでもらうということは、管理組合が収益事業を行うということです。
法人格のない通常のマンション管理組合では、管理費、修繕積立金や、駐車場、プール、フィットネスルームなどの共用施設利用料などの収入は非収益事業の所得となり、それに対して課税はされません。
このように税制面で優遇されているからと言って、管理組合が収益事業を行うことが禁止されているわけではありません。
一般的にマンション管理組合は、区分所有者が全員で建物、敷地及び付属施設を維持管理する団体で、同窓会やPTAと同じように法人格を持ちませんが、マンション管理組合員以外の、外部者からの収入がある収益事業を行うときに限って、法人税の申告と納税義務が生じます。収益事業を行えば法人税法上「人格のない社団等」として法人とみなされ、法人税が課されます。要するに、法人税を正しく納付すれば収益事業を行うことができるということです。
管理組合の所有で本来専有部分となる建物の住戸を、規約で共用部分として組合員以外の人に賃貸して不動産収入としている例では、管理員が住み込みから通勤に変更になり以前に管理員が住んでいた住戸を賃貸住戸として貸し出すケースもあります。また、管理費等の滞納で競売になった住戸を管理組合が落札・所有し、貸し出すことで家賃収入を得ているところもあります。
加えて、屋上に携帯電話のアンテナを立てて携帯基地局設置の不動産収入を得たり、屋上に看板を設置して広告看板設置収入を得たりしているマンションもあります。
業務監査で訪問した都内のあるマンションでは、屋上に3社の携帯基地局を設置し、マンションの前の人通りの多い路面には自動販売機を2台設置。さらに近隣住民も使用できる宅配ロッカーのほか、エントランスホールには、飲食店の宅配業者や不動産の仲介業者から手数料収入が入るチラシのラックやデジタルサイネージを設置し、事業収入だけでも月額30万~40万円稼いでいました。そのマンションは70戸の中型マンションなので、一世帯当たり月額5千円の収入があり、竣工40年以来、一度も管理費と修繕積立金を値上げしていないことが自慢だそうです。
そのほか、駐車場の空き区画が増えて困っているマンションでは駐車場貸付業者に一括して賃貸する駐車場サブリースで収入を得ています。また、電力会社の電柱設置収入、CATV設置収入、インターネット設備設置収入などもあります。
さらに、映画・ドラマの撮影の際に1時間単位の撮影協力金の基準を設け、積極的に営業活動を行い、収入としているマンションも増えてきました。
人気の連続ドラマですと、何回も撮影に使用されるので大きな収入になることに加え、「自分のマンションが人気ドラマのロケ地に採用されて、人気のある俳優さんが来るので、居住者同士の話題が増え、マンション内のコミュニケーションに役立った」と話す“あるタワーマンション”の役員の声もあります。
収益事業のデメリットも
しかし、収益事業もメリットばかりではありません。
管理組合が不動産を購入したり貸し出したりする行為は、管理組合の財産や財産権を変えてしまう法律上の処分行為に当たるので、区分所有者の多数決や3/4以上の賛成ではもはや決定できず、当然に、民法の共有者全員の賛成が必要となるという法律の専門家もいます。後々大きなトラブルになることがあるので、弁護士などのアドバイスのもと、慎重に行うことが大切です。
また、屋上に看板を設置したり携帯電話のアンテナを立てて携帯基地局を設置したりする場合は、アンテナによってマンションに角が生えたようになってしまうなど、マンションのデザインを大きく変えてしまうことや、看板でマンションの品位を損ねたりするので、お金を取るのか、マンションの資産価値を取るかでトラブルになるケースもあります。
加えて、駐車場のサブリースを利用して外部の人への貸し出しを行うマンションでも、居住者以外の人に貸すことで、敷地内に不特定多数の人が立ち入るために安全が保てない等の理由から、マンションによっては合意形成が取りにくい場合があります。
このほか、収益事業を行うと、経理処理が一般の管理組合会計に比べて複雑になるという課題などがあります。
どこに注目してマンション購入すればよい?
将来修繕積立金が不足して困らないマンションを購入するときの目の付け所はどこでしょうか。
国土交通省からは『修繕積立金のガイドライン』が公表されています。このガイドラインではマンションの規模別に修繕積立金の月額の1平方メートルあたりの単価が示されているので、新築マンションを購入するときはそれを目安にすると判断しやすいと思います。
また、中古マンションを購入するときは、長期修繕計画が5年毎に見直され、ガイドラインの金額以上で修繕積立金の月額が設定されていて、最終年で黒字になっていることを確認します。また、直近の管理組合の収支報告書で借入金のないことや長期滞納者がいないことも確認しましよう。
(マンション管理士・東京都マンションアドバイザー 松本 洋)」
この記事の内容で感心したのは、管理組合が収益事業を行っていることでした。マンションで多いのは、屋上に携帯電話の基地局を設置ですが、その外にも、駐車場の外部への貸出や、集会室の時間貸し等が考えらえます。また自販機の設置や、エントランスにミニコンビニの設置等のアイデアも良いかもしれません。マンション入居者以外も利用可能なカーシェアリングもいいかもしれません。
定年退職をした人の中には、経営感覚に優れた入居者もいると思います。マンションという器を使って、どのような収益事業を行っていくのかも、今後のマンション管理では重要な視点だと思います。
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