2019年3月29日のダイヤモンドオンラインの株式会社シーピーアイ代表取締役須藤桂一さんの表題のブログを紹介します。
「マンションを適切に維持していくには「事後保全」よりも「予防保全」がいい?
マンションは適切な時期に、適切な修繕工事を継続して行っていくことで、その価値を維持し、質を向上していくことができる。反対に言えば、マンションの寿命を延ばすためには、建物や設備の定期的な補修・更新は欠かせない。
マンションの建物や設備に関して、当初の用途や機能、性能を維持するための回復を図ることを「維持保全」という。一方、時代に応じた用途や機能の追加、性能の向上を図ることを「改良保全」という。今回は維持保全について話していきたいと思う。
維持保全には「予防保全」と「事後保全」という方法がある。もう1つ、「予知保全」という方法もあるが、ここでは予防保全と事後保全に限って説明していこう。
まず、予防保全とは、設備や機器の故障・劣化が進むのを未然に防ぐために、定期的に部品の交換や補修を行うことを指す。対して、事後保全とは、故障したり劣化が進んだりしたときに、設備や機器の交換・補修を行うことを指す。
わかりやすく言うと、例えば電球が切れたら、切れた電球をその都度交換することが事後保全で、電球の色や点灯具合を見ながら、一定の時間経過とともに、球切れが起こる前にすべての電球を交換することが予防保全にあたる。
ウェブサイトなどを見てみると、「対症療法的に劣化箇所を補修するのが事後保全で、劣化が進む前にこまめに補修するのが予防保全。予防保全のほうが、事後保全よりも構造物や設備を長持ちさせて更新時期を先送りすることができ、大がかりな補修も抑えられるので、コスト削減につながる」などと説明しているサイトが少なくない。
「素人」であるマンション管理組合にしてみれば、「大規模修繕工事のプロ」と称する設計士やコンサルタントからそのような提案をされたならば、「そういうものなのか。じゃあ、予防保全のほうがいいんだな」と頭から信じきってしまうのも無理はないだろう。
しかし、私に言わせれば、これは「嘘(うそ)」である。マンションの維持保全はそんなに単純に言い切れるものではないのだ。
「予防保全はコスト削減につながる」という定説は間違っている
マンションで大きな維持保全といえば、大規模修繕工事が挙げられる。よく「大規模修繕工事は12年周期で行うべき」といわれるが、これは「一定の時間経過とともに修繕をする」ことになり、予防保全に該当する。
しかし、実際に築12年程度ではマンションはそこまで大きく傷んだりはしない。にもかかわらず、「一定の時間が経過したから」というだけの理由で行う修繕工事ほど不経済なものはない。
「大規模修繕工事は12年周期で行うべき」というのは、そのことで利益を得る人々によって広められた“都市伝説”のようなものにすぎないのだ。私はこの「大規模修繕工事12年周期説」を真っ向から否定する。
もちろん、「12年経っても、修繕工事をまったくする必要はない」というわけではない。例えば機械式駐車場の場合、急に機械が故障して、車を出すことができなくなってしまった、ということになっては困る。エレベーターについても同じことがいえるだろう。このように、故障に至ってから修繕対応をしていては間に合わないという設備の場合は、定期的なメンテナンスが必要だ。こうした設備については予防保全の考え方でいいだろう。
そんな「故障したらすぐに困る」という設備は除くとして、壊れてもいないのに、入念すぎるほど整備を施したり、一定期間が過ぎたらすべてを取り替えたりすると聞けば、単純に考えて無駄だとは思わないだろうか。皆さんの自宅で、電球を使い始めて一定時間が経過したからと、まだ切れてもいない電球を一斉に交換するだろうか。そんなことをしている家があるとはとても思えない。見栄えやイメージを重視するホテルですら、電球は切れたら交換するというスタンスなのだ。
考えていただきたいのは、「最後まで使い切る」という事後保全のメリットを金銭価値に置き換えてみた場合、それがいくらになるかという点である。ある大学の建築学科の論文によれば、予防保全は事後保全よりおよそ3倍のコストがかかるという。実際には、論文ではもう少し細かく条件が設定されており、単純に約3倍のコストがかかると言い切ってしまうのは少々乱暴なのだが、私としてはおおむね間違ってはいないと感じている。
住民生活に直結する給水ポンプは予防保全にするべき?
予防保全と事後保全について、車の買い換えを例に考えてみたい。3年ごとに車を買い換えることにして、3年で3回新車に乗り換えて9年が経過したケース(予防保全)と、故障するまで乗り続けることにして、9年間で1台乗りつぶしたケース(事後保全)があったとする。
3年ごとに新車に乗り換えていれば当然故障はないし、故障が起こるリスクもきわめて低い。このケースの場合は、新車を3台購入する費用の合計が累積コストとなる。一方、9年間同じ車に乗り続けた場合は、故障や不具合が発生するたびに修理が必要になる。このケースの場合、1台分の新車購入費と修理費が累積コストとなる。
両者を比較すると、3台新車を乗り継ぐケースのほうが、1台の車に乗り続けるケースよりも明らかに高くなるだろう。つまり、車1台を乗りつぶす事後保全のほうが安くつくわけだ。もちろん9年間も乗り続ければ、ボディーは色あせて車体も古くなり、故障しやすい車に乗っているという感覚になるかもしれない。しかし、コストという点でみれば、1台の車を乗り続けるほうがずっと経済的である。
これはマンションにもいえることだ。
限りある修繕積立金を有効に使うために、不要な予防保全で無駄なコストをかけず、事後保全で済むところは壊れるまで使う、という意識を持つが大切なのである。
ここで、どのマンションにも設置されている給水ポンプを見ていこう。先に挙げた機械式駐車場やエレベーターと同様で、これも故障してしまっては困る設備だ。ならば、これも予防保全の対象になると思われるかもしれないが、実は事後保全で十分な設備なのである。
通常、給水ポンプは2台で交互運転をしている。断水は住民生活の死活問題となるため、断水しないように、たとえ1台が故障しても、残りの1台だけで十分機能するように設計されているのだ。双発の飛行機が、片側のエンジンだけになっても飛び続けていられるのと同じようなものと考えていいだろう。
通常の使い方をしている限り、給水ポンプが2台同時に壊れるということはまずあり得ない。つまり、1台の給水ポンプが壊れても、もう1台は機能し続けるので、もし故障したとしても、それをすぐに修理、あるいは交換すればいいのだ。この場合、かかるコストは1台分の修理費、あるいは新規の給水ポンプ代で済む。
ところで、たいていの給水ポンプは、メーカーや業界から「5~10年でオーバーホールをする」、あるいは「15~20年で更新する」などと耐用年数や推奨期間が提示されている。そのため、管理会社は「耐用年数が過ぎたので、2台同時に交換しましょう」などと言って見積もりを持ってくるのが常だ。この場合のコストは新規の給水ポンプ代2台分となる。
どうだろう。前述のように事後保全でも問題なく機能することを考えれば、壊れてもいないものを、2倍も3倍ものコストをかけて予防保全をする必要があると思われるだろうか?
「壊れたら直す」のスタンスでコスト削減につなげる
マンションによって価値観は大きく異なるので、どこのマンションでもこうすればいいとはいえないが、例えば、以下のような事例は、事後保全の考え方で対応すれば十分だろう。
・廊下の電球:電球が切れるまで使い、切れたら交換する。 ・自動火災報知器:点検で不合格になったり、何度も誤作動を起こしたりした場合は、その故障部分を修理する。 ・自動ドア:オートロックではない部分の自動ドアについては、故障したら修理・交換する。 ・池などの循環ポンプ:壊れたら修理・交換する。 ・増圧直結方式への給水システム変更:寿命や故障などで、給水ポンプや受水槽を交換しなければならない時期が来たら実施する。
先に挙げた機械式駐車場やエレベーターのように、故障したらすぐ致命的な状況に陥る設備は別として、マンション内にはこのように「壊れたら直す」という事後保全の考え方で対応しても大丈夫な設備がいくつもある。すでに説明したように、事後保全にはコスト削減という点でもメリットが大きい。
しかし、残念ながら、世の中にあるのは「予防保全のほうが安心で、メリットも大きいですよ」というスタンスの管理会社ばかりだ。事後保全のメリットを理解し、適材適所で事後保全を行うことをセールスポイントにする管理会社が出てこないのは非常に残念なことである。」
予防保全を行うためには、定期点検が必要で、そのための費用も別途必要になります。このブログにもあるように、エレベーターや機械式駐車場は予防保全が必要だと思いますが、自動ドア等は事後保全でもいいように思います。壊れたらどうなるか?を詳しく聞き、項目毎に、理事会で細かく判断するべきだと思いました。
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