2024年2月20日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。
「突然の異臭騒ぎ
高齢化社会をむかえてマンションでは様々な問題を抱えています。建物の老朽化、組合員の高齢化に加えて最近では居住者の単身化も急増し、国勢調査によれば、2015年には約1842世帯だった単身世帯も、202年には約2115世帯と、およそ2.5世帯に1世帯が単身世帯となっています。これに伴い、近隣住戸とのコミュニティも稀有になり、さらにマンションでの孤独死のご相談も目立って多くなってきました。そうなれば、当然人と人との間にも距離が生まれます。住民同士の交流がなくなり、部屋を訪れる者も向かい入れる者もおらず、そのため、隣人が「どのような状態で暮らしているか」が見えにくくなります。
今回は、都内の築年数40年、280戸のマンションで実際に起こった出来事から、単身化が進むマンションで想定されるトラブルの一例をお伝えしたいと思います。
ことの発端はマンションの居住者からの「数日前から同じフロアの部屋から異臭がして、玄関扉の隙間から虫がわいていたので調べてほしい」という相談でした。管理員やそのフロアの居住者は、異臭がする部屋の照明が、深夜や早朝にもかかわらず点いていてので、『電気を消し忘れて、旅行かどこかへ行ってしまったんだろう』と、気にも留めていなかったようです。しかしそれからしばらく経ち、フロア内に異臭が漏れてきたところで、異変に気が付いたのでしょう。
さっそく管理会社から理事長に連絡を入れて、警察に来てもらいました。警察官がカギを壊して入ったその部屋にあったのは、こたつに入ったまま息を引き取った、高齢男性のご遺体でした。その時、管理組合の理事長が室内の状況とご遺体を確認するために、警察に入室を申し出ましたが、ご遺体の腐乱が進んでいて、腐乱臭もひどく原型をとどめていないので、一般の人にはショックが凄すぎる状況であることから断られたそうです。
室内の清掃が「法に触れる」
亡くなったその高齢の男性の居住者名簿は提出されていたものの、緊急連絡先の記載はなく身寄りもいないようでした。その居住者が過去に勤務していた会社の名刺が室内に残されていたので、警察がその会社にも尋ねましたが、親戚縁者はいないのではないかと説明を受けたようです。
ご遺体は死因を調べるために警察が引き取っていきましたが、それから数日後に、その部屋の玄関扉から小さな虫やウジ虫が這いだして異臭もするようになりました。当然ですが、警察はご遺体の引き取りはしますが、室内の清掃などは行いません。そこで理事長が警察に連絡をして、室内を清掃するので中に入りたいと申し出ました。しかし、警察からの回答は「専有部分は相続人などの承諾がないと管理組合の理事長でも入室はできない』というものでした。
困った理事長は、管理会社の顧問弁護士に清掃の相談をもちかけました。ところが、そこでも「法的な問題があり管理組合の理事長でも専有部分の立ち入りは難しい」との回答だったのです。つまり、相続人の許可がなければ、どんなに悪臭があろうが、害虫が発生しようが、他人が立ち立ち入れば“法に触れる”ということです。
そこで仕方なく、玄関扉の隙間にガムテープで目張りをして、悪臭が漏れないような対策を講じました。しかし、所詮は付け焼刃。異臭は収まらず、居住者から毎日のように苦情が殺到して、管理組合と管理会社はその対応に困り果てていました。
この悪臭騒ぎのために開かれた緊急理事会では、「入室して相続人から訴えられたとしても、相続人が見つかるので、結果的には良いのではないか」という意見と、マンション全体の利益を考えた場合、心理的影響や資産価値の低下などの観点から、このまま放置する方が不利益になるという判断がくだされまでした。
その後、管理組合で事故物件専門の特殊清掃業者に清掃を依頼しました。具体的には、体液の除去、室内消毒、消臭・脱臭の作業などです。30万円以上の費用が請求され、お金は管理費の予備費から支出しました。幸いなことに、この“違法行為”は、現在まで誰からも提訴されておりません。
一方で、区分所有者が死亡すれば銀行口座は凍結され管理費、修繕積立金の滞納が始まります。相続人が判明しない場合や相続人が判明しても相続放棄した場合には、管理費、修繕積立金の滞納が続くことになります。そこでこのような場合に、行うのが『相続財産管理員の選任』です。死亡した区分所有者の最後の住所地の管理組合が、家庭裁判所で請求の申し立てを行うことになります。一般的に、相続財産管理員はその地域の弁護士が選任され、報酬は予納金として管理組合が一旦立て替えることになります。費用は概ね100万円程度が相場でしょうか。
その後マンションが競売などで落札されたら、その費用から管理組合が一旦立て替えた予納金と滞納した管理費、修繕積立金などを返してもらい、債権者に支払いを済ませのち、余ったお金は国庫に帰属することになります。
相続人の存在を明らかにしないまま、単身でお亡くなりになれば、多大な労力と手続きが、同じマンションに住む「まったくの他人」に降りかかってしまうのです。」
マンションが老朽化し、高齢者の単身者が増えてくると、この記事のような孤独死は当然増えてきます。管理会社も含めて、理事会でも、万が一の事態に備えて対応方法を検討しておくことが重要です。
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