
2022年4月13日のダイアモンドオンラインの表題の記事を紹介します。
「マンションの購入時に手渡される管理規約。マンション生活と管理運営の根幹となるルールブックだが、その重要性を認識している人はどれだけいるだろうか。また、2022年4月から始まった「マンション管理計画認定制度」によって、今後はマンションの管理状況がその資産価値に影響することになるかもしれない。そこで今回は、マンションの将来を左右する存在でもある管理規約について見ていきたい。(株式会社シーアイピー代表取締役・一級建築士 須藤桂一)
理事になったら一読すべし 管理規約は「マンションの憲法」
マンションを所有している皆さんの中で、自分のマンションの管理規約を読んだことがあるという人はどれくらいいるだろうか? 中には、マンションの購入時に渡されたきり、一度もページを開いたことがないという人もいるかもしれない。
管理規約とは、分譲マンションなどの区分所有建物に関する権利関係や管理運営について定めた法律である「区分所有法」(正式名称は「建物の区分所有等に関する法律」)に基づいて決められた規約のことだ。敷地、建物、付属施設の範囲とその使用方法、集会、管理組合、理事会、会計に関する事項など、快適で円滑な共同生活を送るためのルールや管理組合の運営に必要な事柄などが定められている。
区分所有法と違って、管理規約に法的な拘束力はないが、全ての区分所有者に対して効力が及ぶマンションの自治規範であり、「マンションの憲法」ともいえる存在だ。たとえ区分所有権を持たない賃借人(占有者)であっても、建物の使用方法や生活上のルールについては、管理規約の規定を守る必要がある。そして、マンションの管理運営を行う管理組合も、管理規約に定められた内容に従うことになり、管理組合の業務の執行に当たる理事会も、その運営においては当然、管理規約の内容を順守することが求められる。
そこで、輪番制なり、立候補なりで、いざ理事会の理事(役員)になったなら、まずは管理規約を読んでいただきたい。本来なら、マンションにお住まいの皆さん全員が管理規約に目を通していることが望ましいが、少なくとも理事に就任した方には、ぜひ管理規約を一読していただきたいと思う。
ほとんどのマンションの管理規約は、国土交通省が作成した規約のモデルである「マンション標準管理規約」を基にして作られている。多くの条文から成る内容で、条文間の引用も多く、決して読みやすいものとはいえない代物だ。それを、いきなり最初から最後まで読み通し、内容を全て理解しろといっても容易なことではないだろう。
理事になったからといって、なにも管理規約の内容を一語一句読み解いたり、暗記したりする必要はない。これから管理組合の業務に携わるに当たり、どんなことがルール化されているのかを知ることが目的なので、まずは目次や見出しを眺める程度でいい。ぜひ、ざっとでも管理規約に目を通し、最初の理事会に臨んでいただきたい。
そして、手ぶらで理事会に参加するのではなく、常に管理規約を持参しよう。理事会の議題にはさまざまな事柄が上るが、何が問題なのかを検討したり、何かを決めたり、判断するのに迷いや不安があるようなときには、必ず管理規約に立ち戻るようにするのだ。
理事会において、理事長も、理事も、監事も、そして理事会の会議に立ち合う管理会社のフロント担当者も、管理規約に違反したり、規約を逸脱するような事柄を決定したりすることは許されない。なんといっても、管理規約は「マンションの憲法」だからだ。
マンション管理と共同生活のルールブック 管理規約と使用細則を知る
では、管理規約には具体的にどのようなことが書かれているのだろうか。国交省のマンション標準管理規約では、主に次のようなことが定められている。
●建物や敷地の用途・区分に関する規定 専有部分と共用部分の範囲、それぞれの用途や用法、専有部分の修繕・改修についての承認の範囲と手続きなど
●管理費・修繕積立金などに関する規定 管理費や修繕積立金の納入や積み立てに関する取り決め、金額や算出方法、駐車場などの使用料の使途など
●管理組合に関する規定 組合員の要件、管理組合の業務とその内容、役員の人数や役職、任期、職務の内容、理事長の権限など
●総会に関する規定 総会の定義、招集のための手続き、出席者の要件、議決権の割合、議事の内容など
●理事会に関する規定 理事会の定義、職務の内容、専門委員会の設置など
●会計に関する規定 会計年度、管理組合の収入と支出の定義、会計報告、管理費等の徴収方法など
●その他の規定 義務違反者に対する措置、法的措置についてなど
このように、管理規約には建物の管理や使用、管理組合の運営といったマンション管理の重要かつ基本事項が定められているが、日常生活における細かな取り決めや注意事項までは盛り込まれていない。
そこで、管理規約の内容をさらに掘り下げて、例えば専有部分や共用部分の使い方、ゴミの出し方、ペット飼育の可否や飼育方法、共用部分での喫煙の可否など、日常生活に関する詳細なルールを「使用細則」に定めている。使用細則は、管理規約を補完する役割を持つ存在といえる。
快適なマンション生活を実現するためには、区分所有者、賃借人、そして管理組合と理事会が、この管理規約と使用細則を順守することが必須なのである。
「作って終わり」ではない 実情に合わせた規約改正が必須
前述のように、大半のマンションの管理規約は、国交省のマンション標準管理規約をベースに、それぞれのマンションに合わせてカスタマイズされた形で作られている。
しかし、管理規約や使用細則は「一度作ったら終わり」というものではない。社会情勢の変化やマンションの高経年化、区分所有者や居住者の高齢化など、マンションの実情が変わるに従って、管理運営や生活ルールなどに求められるものも変わってくるため、その変化に応じて、管理規約も改正する必要がある。
例えば、この数年だけを見ても、新型コロナの影響で、理事会や総会を開くこともままならず、それでも開催の必要に迫られる状況に対応するために、多くのマンションで規約の改正が求められている。ところが、時々、新築時から管理規約に全く手を加えていないというマンションに出くわすことがある。新築時に作成された管理規約を「原始規約」というが、マンションの実情が変化しているにもかかわらず、原始規約のままになっているため、規約の内容に不備や不正が生じてしまい、その是正に悩まされているというマンションも少なくない。
ベースとなっている国交省のマンション標準管理規約自体も、時代の変化に合わせて定期的に改正されている。例に挙げたように、コロナ禍における理事会や総会をオンラインで実施する管理組合も増えていることを考慮し、オンラインで実施する場合の方法や手続きに関する内容が加えられている。
マンション標準管理規約は国交省のサイトで確認できるので、ぜひ皆さんのマンションの管理規約と見比べてみて、最新のマンション標準管理規約の内容と大きく乖離(かいり)しているような場合は、規約改正の検討を行うほうがいいだろう。
規約改正時に立ちはだかる特別決議の高いハードル
ただし、管理規約は簡単に改正できるものではない。「マンションの憲法」を変えることになるわけで、本来であれば、管理規約のために専門委員会を立ち上げ、勉強会を開くなどして、時間をかけて改正の検討を行うべき重要な事柄なのだ。
また、管理規約を改正するためには、どんなにささいな内容の変更でも、総会で特別決議の決議要件が必要になる。この特別決議も規約改正の高いハードルとなる。
総会での決議事項は、議案の重要性に応じて普通決議と特別決議に分かれる。総会出席者(委任状や議決権行使書を含む)の過半数(2分の1を超える)の賛成で可決される普通決議と違い、特別決議は区分所有者および議決権総数の4分の3以上の賛成が必要となる。
普通決議の場合は、総会出席者の人数と議決権が基準(分母となる数)となるが、特別決議の場合は全区分所有者の人数と議決権が基準となる。つまり、欠席はもとより、委任状も議決権行使書も提出しない区分所有者が4分の1いると、特別決議は可決できなくなるのだ。それほど、規約改正は重要な議決事項なのである。
なお、使用細則については、普通決議によって内容の新設や変更を行うことができるため、管理規約の改正よりはハードルが低くなっている。
そして、規約改正を何度も行うと、手元にある管理規約集は古くなるので、その更新も重要な作業だ。だが、これまでに多くのマンションで、適切に更新されず、表紙が色あせた管理規約集を見てきた。そんな古びた管理規約集を最新版にするには、規約改正が行われた過去の総会の議案書と議事録を頼りに、古い管理規約の内容を更新する必要がある。ところが、これがなかなか大変な作業で、正確に更新していくのには相当な苦労と労力が伴う。
管理規約を適切に更新することが大切なのはいうまでもないが、さらに、できれば管理規約は製本された規約集の形ではなく、PDFなどのデータに電子化して、パソコンやタブレット、スマートフォンなどで読めるようにしておくといいだろう。そして、改正を行うたびにデータを更新し、常に最新の状態に保つようにするのが理想的だ。
管理状況が資産価値の判断基準に?4月開始「マンション管理計画認定制度」
このように、快適で円滑なマンション生活を送るために非常に重要な管理規約だが、実はマンションの資産価値にも少なからず影響を与える存在である。
過去の記事でも言及したことがあるが、よく「マンションは管理を買え」といわれる。新築のマンションが美しくて設備も最新なのは当然だが、その後、年月を経ても、適切な修繕工事が施されて、住環境も良好な状態が続いているマンションになるか、経年によって建物や住環境が荒れるがままになっているマンションになるか、その運命は管理が握っているといっても過言ではない。
そして、その管理の詳細を規定しているのが、「マンションの憲法」である管理規約だ。つまり、マンションの将来は管理規約の内容に左右されるわけである。
実際、マンションの管理状況は、その資産価値への影響が大きいことから、マンションの不動産鑑定評価においても、管理規約は必須の資料とされている。また、マンションの売買の際には、宅地建物取引業法に基づき、宅地建物取引主任者は管理規約に記載されている内容の重要事項説明を行う必要がある。
さらに、この4月から始まった「マンション管理計画認定制度」によって、マンションの管理状況がその資産価値にも影響を及ぼすことになりそうだ。
マンション管理計画認定制度とは、マンションの管理計画が一定の基準を満たす場合に、「適切な管理計画を持つマンション」として地方自治体の「認定」を受けることができる制度で、マンション管理適正化の推進を目的に創設された。
認定基準などの詳細については別の機会に説明したいと思うが、この認定を受けることで、次の効果が期待される。
●区分所有者の管理への意識が高く保たれ、管理水準を維持向上しやすくなる ●適正に管理されたマンションとして、市場において評価される ●適正に管理されたマンションが存在することで、立地している地域価値の維持向上に繋がる ●住宅金融支援機構の「フラット35」及び「マンション共用部分リフォーム融資」の金利の引下げ等 (神奈川県HPより抜粋)
いわば、マンションの管理状況を資産価値の指標とする制度で、これまでは外部には見えにくかった管理状況を把握することができ、例えば中古マンションの売買において、管理の内容や質が物件購入の判断基準にもなり得る。要するに、新制度の導入によって、これまで以上にマンションの管理状況、ひいては管理規約の重要性が高まるといえるのだ。
マンションの資産価値を維持・向上させ、区分所有者や居住者の住環境を良好に保つためにも、これを機に、管理組合は管理規約の重要性を改めて認識すべきだろう。
理事会や専門委員会では必ず管理規約を手元に置き、何か問題が起こったり、判断したりする必要がある場合には、必ず規約に立ち戻って考えるという習慣をつける。また、管理規約は常に最新の状態にしておき、時代の変化とマンションの実情をタイムリーに捉えて、規約の内容に不備や不足があれば積極的に改定することを心掛けたい。
管理規約の重要性をお分かりいただけただろうか。理事の方には、ぜひそのことを意識しながら、管理規約を読んでいただきたいと思う。」
民泊問題や、コロナ過でのオンライン会議等、マンション内の生活ルールが変わる中、管理規約の改正が行われていないマンションが多く存在します。管理規約改正についても、内容の理解と住んでいるマンションの実態に標準管理規約を改正するためには、別途小委員会を作り1年間程度かけて議論する必要があります。また改正にあたっては総会での4分の3以上の賛成が必要な特別決議が必要と中々に大変な作業です。
この4月に始まった「マンション管理計画認定制度」でも、管理規約第35条に監事の選任・第23条の災害時や緊急時の専有部への立ち入り・第64条の管理組合の財務・管理に関する項目の書面による交付・第28条の管理費と修繕積立金の区分経理等が行われていないと、認定してもらえないことになっています。改めてお住まいの管理規約を確認し、規約が長く更新していないようであれば、この機会に管理規約の更新を理事会内で協議することをお勧めします。
ちなみに、私の住んでいるマンションでは、民泊対応で規約が改正された平成30年以来、改正が行われておらず、私の理事の任期である今年中に管理規約を改正したいと思っています。改正作業が大変ということであれば、マンション管理士がコンサルタントをしてもらえます。是非検討してみてください。
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