マンション隣接の「ろくまる公園」を事業者がリニューアル、つくば市
- 快適マンションパートナーズ 石田
- 2024年12月4日
- 読了時間: 12分
更新日:1月8日

2024年8月27日の新・公民連携最前線の表題の記事を紹介します。
「茨城県つくば市と住宅デベロッパーの総合地所(東京都港区)、近鉄不動産(大阪府大阪市)、エリアマネジメント会社のつくばまちなかデザイン(つくば市)の4者は共同で、つくば市吾妻1丁目の「ろくまる公園」をリニューアルした。隣接する国家公務員宿舎跡地でマンション開発を進めていた総合地所と近鉄不動産が、ろくまる公園に新しい遊具などを設置し、市に無償で寄贈したもの。2023年11月に改修工事が完了し、以前よりも利用度が上がっているという。
官舎跡に隣接する街区公園、新遊具は事業者負担

ろくまる公園。奥に見えるマンション「TSUKUBA TERRACE(つくばテラス)」を開発した総合地所らがこの公園を整備した(写真:総合地所)

「つくばテラス(正式名称:TSUKUBA TERRACE/ルネつくばローレルコート)」の宣伝チラシ。ろくまる公園に面していることが“売り”の1つになっている(出所:総合地所)
ろくまる公園は、つくばエクスプレス(TX、運行:首都圏新都市鉄道)つくば駅からペデストリアンデッキを渡って徒歩5~7分、商業施設「トナリエつくばスクエア」の西側に位置する面積3574m2のつくば市の街区公園だ。1979年に整備され40年以上が経過したこの公園は、遊具など公園施設が老朽化していた上に、雑草の管理なども十分ではなく、さらに廃止された官舎の古い建物が隣接していることもあり雰囲気も明るいとは言えなかった。そのためもあってか、今回のリニューアル前はあまり利用されておらず、いつも閑散としている公園だったという。
このろくまる公園を、隣接する官舎跡地(吾妻一丁目国家公務員宿舎跡地)でマンション開発に取り組んでいた総合地所らがリニューアルした。公園の魅力を高め、隣接して開発していたファミリー層向け分譲マンションの魅力向上を図ることが狙いだ。
具体的には、既存の樹木や遊具をベースにして、民間側の費用で新たな遊具やベンチなどを設置。完成後につくば市へ無償で寄贈するという事業スキームだ。なお、事業者側の工事に合わせて、つくば市も老朽化した東屋の撤去や既存遊具の再塗装などを市の予算で進めた。
今回のリニューアルで新たに設置したのは、筑波山の形をイメージした築山や、周辺住民で草花を育てるシンボリックな花壇、ユニークな形状のベンチ、登って遊べる筑波山麓産の大きな天然岩、乳幼児用の砂場などだ。

筑波山の形を模した築山。トンネルやすべり台を配置している。新たに設置した遊具の1つだ(写真:日経BP 総合研究所)

長いベンチを新たに2カ所設置した。保護者が何人か集まって座り、遊んでいる子供たちを見守りやすいデザインと配置だ(写真:日経BP 総合研究所)
公園全体の維持管理は市が担っているが、花壇はクラウドファンディングで当初の整備費用をまかない、市民有志の「チームろくまる」が維持管理をしている。花壇に植える花や今後の活動についても皆で話し合って決めていく。チームろくまるは現在10~20人ほどで構成され、約半数が既存の地域住民、残り半数が新たに完成したマンションの住民だという。つくば市の公園ボランティア支援制度「アダプト・ア・パーク」の対象にもなっている。

市民で育てていく花壇。公園の周縁部ではなく、公園内で人々の行きかう動線上に設置している。クラウドファンディングで44人から70万2000円を調達した(写真:赤坂麻実)
公園愛護(花壇の手入れ)という観点だけにとどまらず、リニューアルオープンまでに、周辺住民に公園に愛着を感じてもらう様々な取り組みも行った。総合地所らは移動図書館や、焼きいも、フリーマーケットなどのイベントを現地で開催した。イベントは2022年5月から4回にわたって実施。入居前のマンション購入者にも周知され、既存の地域住民と新たな住民の交流の場にもなった。


リニューアルオープン前のイベントの様子。地域の人たちが気軽に運営や主催ができるものを多く催した(写真:2点ともつくばまちなかデザイン)
総合地所らが負担したろくまる公園のリニューアル費用は、イベント開催のコストも含めて約1000万円。2023年8月に竣工した320戸の分譲マンション「TSUKUBA TERRACE(つくばテラス)/ルネつくばローレルコート」は、計画より半年ほど早く完売したという。
豊かな緑と回遊性を生かす開発を市が要請
プロジェクトの背景と経緯を振り返る。つくば市は1960年代末から東京の過密緩和を目的に、筑波研究学園都市として開発された。大学や研究機関が多く建設され、公務員住宅も大量に整備されたが、社会情勢の変化を受け、国の政策などにより、2005年から国家公務員宿舎の削減が始まった。官舎跡地を財務省関東財務局が民間へ売却し、民間事業者がマンションを建設する例が相次ぐようになった。
つくば市によれば、そうしたマンション開発が続くなかで課題が明らかになってきたという。つくば市都市計画部学園地区市街地振興課の渋谷亘課長は「つくば市はもともと緑が豊かで公園も多く、それら公園や駅をペデストリアンデッキが結ぶ回遊性も街の魅力だった。しかし、民間開発によって緑地が減少し、敷地内の境界に近い場所にフェンスなどが立てられ、街の魅力が少しずつ損なわれてきた」と説明する。
そこで、つくば市は関東財務局を通じて、土地の購入者に、緑地の保全やペデストリアンデッキの活用といった市からの要請を伝えることにした。


今回のマンション開発では、敷地内にもともと植わっていた樹木をできるだけ活用した。シンボルツリーとしてエントランスに続く車寄せに採用した高さ19メートルのけやきの木も従来から植えられていたものだ(写真:赤坂 麻実)
つくば市都市計画部学園地区市街地振興課の藤原稔久課長補佐は次のように説明する。「法的な規制とは別に“お願い”していることだ。例えば、事業者が開発時に樹木を伐採して新たに植樹した場合でも、数値上は法定の緑化率を満たせるが、樹齢40年を超える木々は失われ、景観や生物にとっての環境が激変してしまう。そういうことをできるだけ避けてほしいと頼んでいる」
このような要請に事業者が応じてマンション開発を進めただけでなく、隣接する公園のリニューアルも民間事業者の費用で一体的に進めていく――。今回のろくまる公園の整備のような官民連携の取り組みは、つくば市では2例目となる。第一弾は、2019年9月にフージャースコーポレーションが手掛けた「竹園西広場公園」のリニューアルだ(関連記事)。
「遊びたい公園」アイデア、小学校の冬休みの宿題に
今回のプロジェクトで、市と事業者の間に入って調整役を担い、さらにプロジェクトと地域のつなぎ役になったのが、2021年4月に発足した第三セクターのまちづくり会社、つくばまちなかデザインだ。
つくば市、総合地所、近鉄不動産、つくばまちなかデザインは2021年9月に「吾妻一丁目国家公務員宿舎跡地における魅力ある開発の推進に関する覚書」を締結。この覚書に基づいて公園リニューアルを進めていった。
総合地所とつくばまちなかデザインは、2021年12月~2022年1月に周辺住民や近隣の小学生を対象にしたアンケートを行い、公園に望むものなどを聞き、その結果を反映してリニューアル案を策定した。さらに2022年7月、そのリニューアル案に対する意見も募集した。

①つくば駅のほど近くにある「ろくまる公園」の位置。公園の周りは、一体的に開発したマンション「つくばテラス」だけでなくマンションの多いエリアだ。②公園のコンセプトを検討するに際しては、市の協力を得て近隣の吾妻小学校の児童にアンケート調査を行った。小学校近くには大きな公園(中央公園)があるものの、遊具などは設置しておらず、小学生が集まって遊ぶというより小さな子供連れや大人が散歩したりくつろいだりする場所として機能しているという(地図:新都市ライフホールディングス、地図中の赤い丸は日経BP 総合研究所が加工)
総合地所分譲事業部マンション開発部開発2課の儀間駿也主任は「やはり、公園は利用されてこそ。事業者目線のリニューアルにしないで、周辺住民や子供の意見を吸い上げた企画にしたかった。意見を聞くプロセスがあることで『自分たちの公園』と感じて愛着が増す効果も見込んでいた。地元と関係が密なつくばまちなかデザインのおかげで、近隣の小学校(吾妻学園つくば市立吾妻小学校)の先生から児童たちへ『遊んでみたい公園』を絵や文で表現するという“宿題”が出て、子供たちの自由な回答がたくさん集まったのはよかった」と振り返る。

公園内のレイアウト図。既存の緑や遊具を生かして配置した(出所:総合地所)

つくば市が再塗装を施した既存のブランコとすべり台(写真:赤坂 麻実)

公園内のゾーニング。多種多様な人の利用を想定してゾーンを分けた。なお、この公園ではボール遊びなどを禁じていない(出所:総合地所)

乳幼児用の遊具の近くに、複数の保護者が座って見守りやすい横長のベンチを配置(写真:赤坂 麻実)
つくばまちなかデザイン専務取締役の小林遼平氏は、「子供たちからは、『電子ゲームで遊べるように電源やWi-Fiが欲しい』との声が多く寄せられた。残念ながらそれは実現できなかったが、電子ゲームやカードゲーム、その他の活動に使えるような座面の広いベンチを設置した。要望の多かったすべり台については、既存のすべり台を残しつつ、築山の側面にも新たに設けた。何でも新しいものを用意するのではなく、自分たちで工夫して遊べる公園を意識した」と説明する。

正弦曲線を用いた波形ベンチ(写真:日経BP 総合研究所)

東屋は2つあったうちの1つを残し、屋根の下に座面の広いベンチを設置(写真:赤坂 麻実)

(写真:赤坂 麻実)

(写真:日経BP 総合研究所)
筑波山から続く山並みの北端で採取される稲田花崗岩。岩に登って遊ぶこともできる。子供にも地域特産の花崗岩について関心を持ってもらえるよう、ふりがなを振った花崗岩の解説プレートも側面に取り付けられている
企画を練り上げていく中で、国民的アニメ『ドラえもん』に登場する“空き地の土管”を設置するアイデアも検討されたが、これはそのまま実現することはできなかった。「都市公園法上、土管そのものは遊具と認められなかったため、筑波山を模した築山に土管のトンネルを通したり、土管を3本重ねたようなイメージのインクルーシブ遊具を設置したりして、形を少し変えてアイデアを残すことにした」(小林氏)という。

(写真:日経BP 総合研究所)

土管を3本重ねた形をイメージしたインクルーシブ遊具。「みんなが楽しめるゆうぐがほしい」という小学生のリクエストにも対応させている(出所:つくばまちなかデザイン)
法的根拠の確認と公平性の担保は必須
ろくまる公園のリニューアルを振り返って、つくば市の渋谷課長は次のように公民連携の手ごたえを語った。
「行政として公園の老朽化を把握していても、予算や人員に限りがあり、全ての公園を一斉にリニューアルすることはできない。民間事業者が費用を負担し、主体的に公園をリニューアルしてもらえたのはありがたい。イベントやフリーペーパーなどで雰囲気づくりをするといった細やかな仕掛けは民間ならではの手法だと感じた」

総合地所分譲事業部マンション開発部開発2課の儀間駿也主任(写真:日経BP 総合研究所)
総合地所の儀間主任は「当社は1都3県で事業を展開してきたので、茨城県での事業は挑戦だったが、非常にポテンシャルのある立地だったので、幹事企業としてフラッグシップ的な事業を目指そうと話していた。フラッグシップであるからには、営利だけでなく社会的な意義も追求しようということで、公園リニューアルに取り組んだ。公園に強い地元事業者に工事を発注するなど、初めてのことが多々あったが、市やつくばまちなかデザインとの協働のおかげで地元事業者との関係もスムーズだった。やってみてよかったと感じている」と語る。
では、今後このような取り組みが全国の自治体でも可能だろうか。つくばまちなかデザインの小林氏に聞いてみた。
小林氏は、前職のつくば市職員時代に竹園西広場公園リニューアル事業(民間事業者が公園を整備して市に寄贈するスキームでのつくば市における第一弾事業)に携わった。「その時は法的根拠を確認するのに苦労した」と小林氏は振り返る。

写真左からつくば市都市計画部学園地区市街地振興課の渋谷亘課長、つくばまちなかデザイン専務取締役の小林遼平氏(写真:赤坂 麻実)
当時、都市公園法には、今回のような「民間による公園リニューアル・その後に寄付」というやり方が、仕組みとして明文化されていなかったという。そこでつくば市側では、国土交通省とやり取りをして以下のような2段階の手法で対応可能であることを確認。事業を進めていった。
都市公園法第5条に規定されている「公園管理者以外の者の公園施設の設置」でマンション事業者から市に設置申請を実施
つくば市公有財産規則による財産の寄付でマンション事業者から設置した物品を市に寄付
「制度面はクリアできたので、今後、全国でこのような取り組みが増えて、地域課題の解決に役立てばうれしい」と小林氏は期待を寄せる。
また、この手法への懸念として「公平性」が当初は指摘されたという。だが、その点については丁寧な対応を進めてきたと渋谷課長は説明する。
「費用を拠出した事業者に“都合のいい”リニューアルになってしまったり、その事業者が開発した集合住宅の入居者に、『公園利用において他の地域住民より優先されるべき』という意識が生まれたりすることはあってはならない。今回のように、地元の意見を広く集めて丁寧に計画したり、事業者の広告宣伝のあり方を含めて入念に協議したりすることで、そうした事態は防いでいけるはずだ」」
マンションを販売するデベロッパーにとっても、公園を綺麗にしたい市にとっても、また利用する入居者にとっても、今回の試みは非常に良い試みだと思います。
かっては50戸以上のマンションには敷地の3%以上のプレイロットの設置が義務付けられていましたが、最近のマンションにはそのような施設がないことがほとんどです。マンションの建てられるエリアには市の公園も多く存在すると思うので、そのような公園をマンション住民や近隣の住民が利用しやすくするような今回の取り組みは、今回のケース以外でも民間の資金を活用して実施できるようにして欲しいと思います。
かまどベンチやトイレ・バーベキュー施設等、災害時にも対応できるように、公園がもっと活用できるように、官民共同で考えていければ良いと思います。
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