2021年10月1日のダイアモンドオンラインに掲載された表題の記事を紹介します。
「恒大経営危機で高まる「不動産バブル」崩壊の懸念
ここ数日、中国の不動産大手、恒大集団の経営危機問題について日本でも大きく報道されている。同社の負債額は1兆9700億元(約33兆4000億円)に上り、フィンランドの年間GDPを超えるほどの額であるといわれている。そのため、世界の主な金融市場で株価が一時急落した。当然のことながら、中国国内ではこの話題が大きな関心を集め、SNSでさまざまな意見が飛び交っている。
不動産は、常に中国人の生活の中心である。中国人民銀行の調査によれば、都市部に住む世帯の住宅保有率は96%に上るという。多くの中国人は、持ち家にこだわり、その方が「安心」だと考えている。それだけに、多くの人が今回の経営危機騒動に高い関心を持って、行く末を見守っている。
急速な経済成長を遂げた中国。これに伴い、都市部への人口流入が活発化した。そうした影響が、都市部の不動産価格を押し上げている。20年前に500万円で買ったマンションが、今では1億円を超えているというケースも決して珍しくない。20倍の価格上昇である。今、北京や上海などの都会では、築20年以上のボロボロのマンションでも1億円は下らない。ほかの投資手段に比べて、不動産投資はお金持ちになる一番近道であることを歴史がはっきりと証明しているのだ。
また、投資手段としてだけではなく、「持ち家があること」は中国人にとって一種のステータスだといえる。中国では「1人が家を買うため、6人のポケットからお金を出す」という言葉がある。つまり、我が子が家を買うために両親と祖父母6人から資金を出し合うのだ。家を買うというのは、それくらい、一家の一大イベントなのである。結婚の際は男性が持ち家を用意する習慣があり、お見合いの場では、まず「マンションを持っているか?」と質問される。
「持ち家信仰」が今も根強い中国では、マンションを持つことが多くの若者にとって一生をかけての夢である。住宅価格が平均年収の40倍を超えるほどに達していようとも、無理をしてローンを組み、家を買うのだ。「房奴」(住宅ローンの奴隷)という言葉が誕生するなど、不動産にかかる費用は中国で生活する上で非常に大きな重荷となっている。
不動産価格の高騰により物件が買えずに苦しんでいる人がいるだけでなく、すでに買った人も、もし失業してローンの返済ができなくなったら……と強い危機感を抱く。また、不動産を何戸も持っている人は、バブルが崩壊し資産価値が一気に下がることを懸念している。このように、中国では多くの人が不動産に翻弄されてしまっているのが実情だ。
「不動産」は主要な資産偽装離婚して購入する人も
こうした中、政府は過熱した不動産市場を鎮静化すべく、2010年から度々制限政策を実施してきた。例えば、一世帯において現有の住宅以外の新規購入は1戸までと決められている。
しかし、こうした規制の目をすり抜けるように、「偽装離婚」をする人が続出。まさに「上に政策あれば、下に対策あり」といったところだ。
ただこの場合、購入が成功すれば復縁する人がほとんどだが、以前から夫婦間で何らかのもつれがあった場合、復縁せずそのまま別れる人もそれなりにいるという。愛情より不動産を選ぶ人も少なくない。
不動産価格の高騰は、多くの悪い影響をもたらした。不動産のための費用が家計を圧迫するケースは少なくない。家計に余裕がないため、たとえ結婚しても子どもを作らない夫婦もおり、少子化にも間接的につながっているといえる。
中国人民銀行が、2019年10月に全国30の省・市の3万世帯に行った調査によると、都市の世帯総平均資産は317.9万元(約5400万円)だった。資産の内訳を見ると、自宅の不動産は59.1%と約6割を占める。ちなみに、純金融資産はわずか20.4%だ。
また、負債を抱える世帯は56.5%に上り、そのうち75.9%は不動産ローンによるものだという。調査では、不動産を1戸(自分の住まい)所有している世帯が58.4%、2戸所有する世帯が31%、3戸以上は10.5%に上り、世帯平均の不動産所有数はおよそ1.5軒であることが明らかとなった。
これらのデータで示されているように、不動産は多くの中国人にとって最も重要な財産である。その価格の動向は、人々の生活を大きく左右する。
これまで筆者も度々体験してきたが、とにかく皆、不動産の話が大好きだ。友人や知人との集まりや数年ぶりの同窓会など、人が集まるときはまるで挨拶のごとく、「マンションを買った?」という話が出る。不動産情報を共有し、盛り上がるのだ。
余談だが、日本では勤め先企業名や役職などが人の成功を語る上での指標になることがよくある。一方で、中国ではもっぱら、その人が持っている不動産が話題に上る。「○○さんは、上海にマンションを〇戸持っている」「こんな高い物件を買った」「これだけ家賃収入がある」など……良い物件(資産)をたくさん持っている人が、成功している人とみなされる傾向にある。
マンションを買ってからも一苦労…水回り、騒音トラブルも
また、「マンションを買う」までも一苦労なのだが、買ったからといって安心できるわけではない。買ってからもまた、大変なのだ。
中国の新築マンションは、一部を除き、内装工事が施されていない状態での引き渡しが一般的となっている。内装は、契約者自らホームセンターで建材を購入し、施工業者(地方からの出稼ぎ労働者が多い)に工事を依頼する。その上、自分自身が現場監督を務めなければならないのだ。これは施工業者が手抜き工事をしたり、建材を横領したりすることがないように監視するためだ。
そんなこんなで、ようやく家の内装が終わってめでたく新居に入居しても、なかなかくつろぐことができないというケースも多々ある。隣や上下の階で、内装工事による騒音が昼夜を問わず鳴り響くのだ。マンションの売買が活発化している中で、住人が変わる度にリフォーム工事が行われ、常にどこかしらで工事をしている……ということも珍しくない。騒音をめぐる住人同士のトラブルも日常茶飯事だ。
また、住宅の質が価格に見合っていないこともある。中国では、それほど年数がたっていないマンションでも、水道やトイレの配管が詰まったり、天井から水が漏れたりするなど、水回りのトラブルが絶えない。
今年5月、あるニュースが人々に衝撃を与えた。イノベーション先進都市として世界でも注目され、中国国内でも不動産価格の上昇がとりわけ著しい深センでの出来事だ。深センの南山地区にある超高級マンション群(1戸の価格2億円以上)で、連日の暴雨により、排せつ物が含まれる汚水が水道の配管を逆流。水を使った住民が、「シャワー後に、体から変な臭いがした。沸かした水を飲むときに異臭がしていた。下痢や湿疹の人が続出している」などと訴えたのだ。
ほとんどの住民が浄水器を使っており、なんとか臭いは抑えられたというが、それでも約1000世帯の住民たちが2カ月間も汚水を薄めた水を生活用水として使っていたと思うとゾッとする。
これ以外にも日本の不動産の常識と、中国のそれは大きく異なることが多々ある。例えば、中国の住居用マンションの土地は国が所有し、借地期間は70年とされている。また、マンションの販売価格は、建築面積で表すのが一般的だ。建築面積で100平方メートルの物件は、専有面積だと60~70平方メートルほどになる。
一方で日本の場合は、土地の所有ができ、価格は専有面積で示される。当たり前のように感じられるかもしれないが、すでに内装が済んでいることも中国人にとってみれば、大変魅力的な要素の一つだ。日本の物件を見ると皆、「こんな品質でこの値段?安い!うらやましい!」と、口をそろえる。
“不動産神話”は続くか、それとも途絶えるのか
今回の恒大集団の経営危機騒動を受け、中国の不動産バブルが崩壊したり、価格が下落したりすることを懸念する声は大きい。当然ながら、現在不動産を所有しており、価格高騰の恩恵にあずかってきた人たちはそれを望まないだろう。
深センでは先日、建設予定の2億円を超える高級マンションを契約した人たちが集団で不動産開発会社に解約を求めたという。表向きは建設計画と実態が異なっているという理由なのだが、SNS上では「不動産価格が上がると見込んでいたのに下がるなら解約したい」思惑があるのではないかと指摘されており、「わがまますぎる」と批判が殺到している。
多くの中国人たちは、「不動産価格は永遠に上がるものだ」という“不動産神話”を信じてきた。今回の騒動により、国民の夢は暗転してしまうのか、あるいはこの局面を乗り越えられるのか。緊張感のある日々が続いている。」
10年以上前ですが、会社員時代に上海でマンションの建設を企画していた時のことを思い出します。中国のマンションは記事にもある通り、スケルトン(躯体)の状態でデベロッパーが売り出し、買った人は購入後にインフィル(内装工事)をおこなうことが一般的です。したがって、上下階の遮音性能への配慮等は全く行われておらず、寝室の上に上階の風呂場があるようなケースもあるようです。また浴室は昔ながらの在来の浴室しかなく、ユニットバスの説明から相手方にした思い出もあります。その時に相手方の中国の人から言われたのは、ユニットバス下部の配管から水漏れしたときに、その下にもう一つ排水設備を持った器を作ってくれという要望がありました。話を聞くと施工不良による配管からの漏水は良くあるとのこと、このブログに書かれている給水管と排水管が接続されるような事故は日本では考えられないケースですが、中国ではありえる話かもしれません。
しかし、マンションの価格が年収の40倍とか、20年前に500万円で買ったマンションが、今の中古価格が1億円とかいう話を聞くと、これが本当に社会主義の国の出来事かと思います。かつての日本でも、バブル崩壊までは不動産価格は下がらないと信じられていました。中国でも、かつての日本のバブル崩壊と同じような状況になるのでは?と思ってしまいます。
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