少し古いですが、2022年10月12日の日経クロステックの表題の記事を紹介します。
「これはホテルか、それとも住宅か──。宮崎空港から車で10分強。夏は海水浴やマリンスポーツでにぎわう観光地・青島(宮崎市)で、常識を覆す建築物が11月の利用開始を控えている。
新婚旅行ブームでにぎわった橘ホテルの跡地に建つのは「NOT A HOTEL AOSHIMA」。その名の通り単なるホテル“ではない”。時には自宅に、時には別荘に、時にはホテルになる。これまでの語彙では「ホテルとしても別荘としても自宅としても利用可能な建築物」という表現しかできない。説明に困るのは、用途や運用の方法が常識にとらわれていないからだ。
「NOT A HOTEL AOSHIMA」の外観。11月に開業する(写真:NOT A HOTEL)
まずは概要を説明しよう。建物名称と同名のスタートアップNOT A HOTEL(東京・渋谷)は、自宅・別荘とホテルをアプリですぐに切り替えられるサービスを提供する。建築物は同社が企画・建設する。これまでに青島のほか、石垣(沖縄県石垣市)、北軽井沢(群馬県長野原町)、水上(群馬県みなかみ町)、那須(栃木県那須町)、福岡(福岡市)などの建設を発表している。同社は3年以内に、これらを含む国内30カ所の開発を目指している。
「NOT A HOTEL FUKUOKA」の外観パース。2023年夏に竣工予定。監修は小山薫堂氏、設計は佐々⽊慧建築設計事務所+NKS2 architects(出所:NOT A HOTEL)
1戸8億円の住宅をネットで「ポチる」
特徴的なのは、1戸の住宅を複数人で「シェア」できる点だ。NOT A HOTELは1戸を1人のオーナーが購入しメンテナンス日を除き1年中利用できる権利(原則として所有権。NOT A HOTEL AOSHIMAのみ信託受益権)を取得する方法に加えて、30日単位での購入も可能。つまり、1戸につき最大12人のオーナーで所有権をシェアできる。申し込みから契約までは全てオンラインで行うことが可能で、サイトから直接申し込み、約1週間後には審査結果が通知される。いわば「住宅のシェアリングエコノミー」「住宅購入のDX(デジタルトランスフォーメーション)」として位置付けられる。
2021年9月に発売した青島と那須の2拠点の販売価格は1戸購入で3億960万〜8億3760万円。NOT A HOTELの濱渦伸次代表取締役CEO(最高経営責任者)は「この価格帯の商品をEC(電子商取引)で扱うというのは我々にとってもチャレンジングだった」と振り返る。
結果、まだ建設が始まる前だったにもかかわらず、これらの物件は2カ月でほぼ完売。今年に入って売り出した福岡も含め「販売状況は非常に好調。広い住戸から先に売れている」(同社広報)という。
もっとも、単に別荘として年に決められた日数を利用するという点で言えば、会員制リゾートホテルも類似のサービスを提供している。NOT A HOTELがユニークなのは、オーナーは自身が利用しない日に物件をホテルとして他者に貸し出し、運用できる点にある。
「アップデートする建築」をつくる
実際の管理と運用はNOT A HOTELの子会社であるNOT A HOTEL MANAGEMENTが担う。利用権をオーナーから買い上げ、NOT A HOTELはホテル利用の有無にかかわらず、管理費を差し引いた分をオーナーに対して収益として配分する。稼働によって収入が変動しないため、オーナーは一定の固定収入を確実に得ることができる。いわば「建築の資産化」という側面も持つわけだ。
また、オーナーは自身が持つ宿泊の権利を、購入した物件以外のNOT A HOTELにも利用できる。これを「相互利用」と呼ぶ。オーナーは30カ所の開発予定物件も含め、別荘やホテルとして利用できる。
仕組みだけではない。NOT A HOTELの濱渦CEOは「これまでの建築物は買ったときがベスト。そうではない在り方に挑戦したい」と語る。
その手立ての1つがソフトウエアだ。NOT A HOTELの内部には、電気類などのスイッチが一切ない。iPadと音声アシスタントデバイスからホームコントローラーを経由して照明や空調、カーテンなど全ての設備を操作する。ソフトウエアは自社開発だ。「ソフトウエアは常に改善し、使いやすさや機能をアップデートしていく。買ってから価値が落ちるのではなく、上がっていく建築を目指している」(濱渦CEO)
自社開発によってUX(ユーザー体験)やUI(ユーザーインターフェース)にこだわっているのは、前述した相互利用が念頭にある。
物件ごとにスイッチの位置や設備の使い方が異なれば、相互利用で初めて使う物件に宿泊するとき、ユーザーは滞在の度にスイッチを探し、エアコンの温度設定を見直す必要がある。「全国に自宅を持つ世界観」を目指す同社にとって、拠点ごとの使い勝手を統一し、ストレスなく利用できるようにするのは重要なポイントだ。
iPadの操作画面のイメージ。あらゆる設備を操作できる(出所:NOT A HOTEL)
オーナーが操作するスマートフォンアプリのイメージ。予約や収支の確認ができる(出所:NOT A HOTEL)
建築のハードウエアにもこだわる。「安くていいものはあふれている。我々がつくりたいのは、ワクワクさせてくれるもの。琴線に触れるようなもの。メタバースではないリアルな空間が持つ絶対的な価値を信じている」と濱渦CEOは語る。
大手建築設計事務所やアトリエ事務所から設計者を同社で雇用し、外部の建築設計事務所と共同して建築設計に当たっている。物件ごとの設計者は次ページの通りだ。
石垣島の物件は藤本壮介氏が設計
「NOT A HOTEL NASU」の完成イメージ。設計:SUPPOSE DESIGN OFFICE、建築家:谷尻誠氏、吉田愛氏(出所:NOT A HOTEL)
「NOT A HOTEL AOSHIMA」の完成イメージ。設計:ジェネラルデザイン一級建築士事務所、建築家:大堀伸氏(出所:NOT A HOTEL)
「NOT A HOTEL FUKUOKA」の完成イメージ。監修:小山薫堂氏、設計:佐々⽊慧建築設計事務所+NKS2 architects、建築家:佐々⽊慧氏、NKS2 architects(出所:NOT A HOTEL)
「NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA」の完成イメージ。建築家:スミルハン・ラディック氏、中川エリカ氏、原田雄次氏(出所:NOT A HOTEL)
「NOT A HOTEL ISHIGAKI」の完成イメージ。設計:藤本壮介建築設計事務所、建築家:藤本壮介氏(出所:NOT A HOTEL)
「NOT A HOTEL MINAKAMI」の完成イメージ。設計:SUPPOSE DESIGN OFFICE、建築家:谷尻誠氏、吉田愛氏(出所:NOT A HOTEL)
「NOT A HOTEL PRODUCTS」の完成イメージ。ディレクター:相澤陽介氏、設計:NOT A HOTEL、建築家:松井一哲氏、北田翔氏(出所:NOT A HOTEL)」
どちらかというと会員制のリゾートホテルに近い感じですが、もう少し小規模で、一棟貸のホテルにも見えます。ただ、どの建物も個性的であり、立地よりも、建物を目的に泊まりたくなるような施設です。別荘であり、使っていない間は、ホテルとして収益物件にもなる。新しい発想の建物だと思います。また、建物がそれぞれ個性的であり、建物単体でも付加価値があり、資産低下にならないように思います。従来の効率一辺倒に建物とは、全く違ったアプローチで作られていると思います。
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