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償却期間47年の5階建て「木造マンション」

執筆者の写真: 快適マンションパートナーズ 石田快適マンションパートナーズ 石田

更新日:2022年3月17日



 2022年2月4日の日経クロステックの表題の記事を紹介します。


日経BP 総合研究所は、林野庁の令和3年度(2021年度)補助事業における中高層・中大規模木造建築物の設計・施工者育成推進のための提案として、木造建築に取り組む実務者に向けて情報を発信している。5階建ての木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」が2021年11月に完成した。1階は鉄筋コンクリート(RC)造、2階から5階が木造の枠組み壁工法となる。モクシオン稲城は「国土交通省 令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されている。



 モクシオン稲城は、三井ホームが設計・施工を手掛けた5階建て、延べ面積3738.3m2の賃貸マンションだ。1階はRC造、2~5階は木造枠組み壁工法を採用した。三井ホームは自社物件となるモクシオン稲城をモデルケースとし、木造マンションブランドのモクシオンを設計・施工者として土地所有者やデベロッパー、投資家などに提案していく。

 建築基準法では、4階以上の階を共同住宅の用途に使用する場合や、延べ面積が3000m2を超える場合は耐火建築物等にしなくてはならない。柱や梁(はり)など構造部材に必要な耐火性能は、最上階から数えて4以内の階は1時間、5以上で14以内の階は2時間、15以上の階は3時間となる。

 そこでモクシオン稲城では経済合理性の観点から、最上階から数えて4階分は1時間耐火構造による木造とし、残りの階をRC造とするモデルを選択。「モクシオンは、5階建ての場合は1階をRC造、6階建ての場合は1~2階をRC造とするケースが多くなりそうだ」と、三井ホーム施設事業本部事業推進室営業推進グループ長の依田明史氏は説明する。

 これまで不動産業界では、集合住宅の呼称について、RC造やその他堅固な建物を「マンション」、木造や軽量鉄骨造などを「アパート」と一般的に呼んできた。三井ホームは複数の大手住宅会社とともにプレハブ建築協会を通じて、SUUMOなどの不動産ポータルサイトや首都圏不動産公正取引協議会と協議し、21年12月6日から木造・3階建て以上の一定の要件を満たした集合住宅を「マンション」として登録できるようにした。

 マンションとして登録するには、住宅性能評価書の取得が必須だ。劣化対策等級3を取得したうえで、耐震等級3、耐火等級4、耐火構造のいずれかを満たす必要がある。

 「性能面ではRC造や重量鉄骨造のマンションにひけを取らない。アパートだと、賃料が安い、性能が低いというイメージがあり、土地所有者やデベロッパーも二の足を踏んでしまいがち。木造でもマンションと名乗れるようになったことで、選ばれやすくなったのではないか」(依田氏)


信州カラマツを2×10材に

 モクシオン稲城では、国産材(信州カラマツ)による2×10材を、床根太として床組みの一部に採用している。「枠組み壁工法用の製材では、国産材は2×4材や2×6材などの小断面に限られていた。信州カラマツは順調に育ってきており、2×10材は国産材の新たな用途として期待できる」と依田氏は話す。

 このほか、北海道にある三井不動産グループの保有林で伐採に適した時期を迎えたトドマツなどの木材、間伐材を軒裏や内装材として活用。建物全体で使用した約819m3の木材のうち、約150m3が国産材となっている。

 また、一部の床組みにNLT(Nail-Laminated Timber)を採用。一般に市場で流通している枠組み壁工法用の構造用製材を繊維方向が平行になるように釘(くぎ)を使用して製作した構造材だ。短い製材を継いで長尺のパネルを製作することができる。

 NLTは2020年に日本ツーバイフォー建築協会が準耐火構造大臣認定を取得したことで、準耐火建築物への床版・屋根版として現し仕上げでの使用が可能となった。構造用製材を釘で接合していく製造方法なので、特別な生産設備は不要だ。「中層木造建築物のように質量が大きな場合、他の集成材と比べてコストメリットも期待できる。モクシオン稲城では生産や施工の検証を行っている」と依田氏は説明する。

 枠組み壁工法を用いた構造躯体については、面材パネルを工場で製造し、工期の短縮につなげた。「木造による建物の軽量化によって、基礎や地盤改良などのコストを低減する効果が見込める。こうした木造ならではの特長を生かしてコスト面や施工面のメリットを追求することは、木造建築の普及のためには重要な要素だと考えている」(依田氏)

 中層の建築物を木造化する場合、規定の構造性能と耐火基準を満たすために構造壁が厚くなりがちだ。その課題を解決するために、国内最高レベルの壁倍率30倍の高強度耐力壁「MOCX wall(モクスウォール)30」を開発した。これにより、壁厚を従来の約半分に減らして有効床面積を増加させるなど、設計の自由度を高めながら木造4階建てであれば耐震等級3の取得も可能とした。

 木造建築では遮音性も課題となる。モクシオン稲城では、独自に開発した高性能遮音床システムを取り入れた。床仕上げと床組みとの間に制振パッドをはさみ、衝撃音を吸収。また下階の天井を支持するつり天井根太の接合部に防振金物を採用。RC造の集合住宅で求められる性能(重量床衝撃音LH-55以下、軽量床衝撃音LL-45以下)と同等程度の遮音性能を実現した。



 モクシオン稲城は、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)のZEH-M Orientedの評価を取得した。再生可能エネルギーを除く設計1次エネルギー消費量の削減率は36%となる。「モクシオンはZEH-Mで提案していく。ZEH-M Orientedを前提に試算すると、躯体の断熱性能強化に伴うコストはRC造が約3.4%アップするのに対し、木造は約1.6%アップで済む。ZEH-Mは木造と相性がいい」と依田氏は説明する。



償却年数をRC造と同等の47年に

 一般的に、木造建築は減価償却上の法定耐用年数が22年とされている。しかし、現在の建築技術による耐久性向上などの取り組みによって、木造建築の実質的な寿命はもっと長いことが見込まれる。

 そこで三井ホームでは、モクシオン稲城をきっかけに、木造建築の物理的な耐用年数の算出を含めたエンジニアリングレポートを発行する仕組みを構築。対象となる不動産の立地、管理状況、順法性、建築物の劣化状況、性能面などについて第三者調査を実施し、RC造と同等の47年の償却年数を選択可能とした。

 「投資判断として減価償却後の利益を前提としている投資家にとっては、より実態に即した耐用年数で運用することが望まれていた。エンジニアリングレポートを通じた評価に基づく監査法人の承認を経て、償却年数を木造の22年と、RC造と同等の47年のいずれかを選ぶことが可能となる」(依田氏)

 モクシオン稲城では、近隣の相場に比べて高い賃料を設定した。住宅としての性能の高さのほか、ZEH-M Orientedによる光熱費の削減、防災対策による太陽光発電、蓄電池、備蓄倉庫保存食、飲料水の確保、新型コロナウイルス対策によるエントランスやエレベーターの顔認証システム、抗ウイルスフローリング、タッチレス水栓の導入、といったニーズの高い設備・仕様を採用しているなどの点を考慮したという。

 「さまざまな技術開発に加え、『マンション』という呼称の再定義、鑑定評価額の向上、減価償却期間の長期化など、従来の仕組みそのものを変えることで、『木造はRC造より賃料が低い』という先入観を覆していきたい」と依田氏は話す。




建築概要

  • 所在地:東京都稲城市

  • 地域区分(用途地域など):第2種住居地域、準防火地域

  • 敷地面積:1499.20m2

  • 建築面積:875.44m2

  • 延べ面積:3738.30m2

  • 最高高さ:18.46m

  • 構造・階数:混構造(1階:RC造 2~5階:木造枠組み壁工法)

  • 用途:中層共同住宅(51戸)

  • 完成:2021年11月

  • 建築主:三井ホーム

  • 設計:三井ホーム、三井ホームデザイン研究所

  • デザイン監修:アーキヴィジョン広谷スタジオ

  • 構造設計:COSM建築設計事務所・ろふと

  • 設備設計:パラダイム

  • 施工:三井ホーム

  • 耐火性能:1階(2時間耐火)、2~5階(1時間耐火)

  • 建築工事費:約13億8000万円」


 SDGsの高まりもあり、ビルの木造化も増えてきています。ヨーロッパでは実施例も多く、また日本でも住友林業が2041年までに「W350」のプロジェクト名で高さ350メートル、地上70階建ての木造超高層ビルを建てる計画を発表しています。

 実際の建設業界でも、コンビニや店舗・アパート等で鉄骨造の代わりに、建築コストの安い木造は増えてきています。今回のモクシオン稲城の建築概要を見ると、51戸で建築費は13億8000万円、1戸あたりの建築費は2700万円です。コストだけを見るとRC造の分譲マンションの原価と変わりません。耐久性や耐火性を考えると、あえて木造を選ぶ理由が見当たりません。更なるコストダウンを図らないと今後木造のマンションの普及は難しいように思います。


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