2023年11月7日の日経クロステックの表題の記事を紹介します。
「同一フロアでのつまずきを招くもう1つの要因は段差だ。大抵の人は、ちょっとした段差につまずいた経験を持つだろう。高齢者を中心に、つまずきによる転倒が大きなけがや死亡事故に至る事例は少なくない。
今回は、この段差がもたらすリスクを取り上げる。本連載では、「一級建築士矩子の設計思考」(鬼ノ仁/日本文芸社)のキャラクターを使って新規に描き下ろしたイラストとともに、建築の危険なデザインを振り返る。
「一級建築士矩子の設計思考」(鬼ノ仁/日本文芸社)のキャラクターを基に制作
看板を置いてもリスク回避できず
まずは、日経アーキテクチュア2008年2月25日号で、同編集部に所属していた増田剛記者(当時)が執筆した記事を紹介する。
「ここの段差は分かりにくく、危ない」。東京・上野公園にある国際子ども図書館の職員たちは、館が全面オープンする直前、3階の通路にある段差の危険性を非常に気にした。
女性が転んだ3階の段差部。ホールから出た女性は、階段室へ向かったが、段差に気付かず、足を踏み外した(写真:日経アーキテクチュア)
階段室は、この写真の中央奥に見える黒いドアの先にある。ドアは通常開いている(写真:日経アーキテクチュア)
3階平面図
段差は、同館の増築部をつくる関係で発生したものだ。空調設備を通路の床下に設けるため、増築部の床を約13cm高くする必要があった。この段差の存在を利用者に分かりやすく伝える必要があると考えた館は、注意喚起のポスターを作製し、掲示した。
段差部に設置した注意喚起の看板(写真:日経アーキテクチュア)
「『足元にご注意ください』という文字情報だけよりも、段差をイラストで描いた上で、『段差があります』と直接的に表現した方が、安全性が高まると考えた」と、同館企画広報係のスタッフは説明する。この看板を2つ用意し、段差部それぞれに置いた。
階段室から見た段差部。注意喚起の看板は段差がある2カ所に設置した(写真:日経アーキテクチュア)
それでも、転倒する人が出てしまった。ホールから出て階段室に向かった中年の女性が段差に気付かず、足を踏み外したのだ。「転んだ女性は、他の人と話をしながら歩いていたため、注意を促す看板を見逃したようだ。看板を立てても転んでしまう人が出る分かりにくい段差なのか……」と、同館企画広報係のスタッフは困惑する。
1階のエレベーター前通路。出入り口からここまで床はフラットだ。3階だけに段差がある(写真:日経アーキテクチュア)
建築デザインの転倒事故を研究する吉村英祐・大阪工業大学教授は、国際子ども図書館の段差について次のように分析する。
「階段に向かうときは階段室の方が明るいため、視線が前方にいきやすい。そうなると、足元に注意がいかず、段差があると足を踏み外しやすい。そもそも1段の段差はスロープ化すべきだが、既存ビルの場合はそうはいかないことがある。看板が注意喚起のためのものであることに気付かなければ効果がない。意匠性の高い引き出しベルト式の可動柵で通る範囲と幅を絞ること、段鼻の明示が効果的だと考える」
(注)日経アーキテクチュア2008年2月25日号の特集「注意!転ぶデザイン」の一部を再構成。登場する組織、肩書などは取材当時のもの
「一級建築士矩子の設計思考」(鬼ノ仁/日本文芸社)のキャラクターを基に制作
「一級建築士矩子の設計思考」(鬼ノ仁/日本文芸社)のキャラクターを基に制作
「一級建築士矩子の設計思考」(鬼ノ仁/日本文芸社)のキャラクターを基に制作
トイレ入り口の段差で賠償命令
ちょっとした段差に、人は気付きにくい。上で紹介した記事の他にも、日経アーキテクチュアでは23年4月13日号の記事で、建築法務に詳しい富田裕弁護士が、段差が招くリスクを分かりやすく解説している。引き合いに出したのは、携帯電話ショップ内のトイレの入り口にあった段差で足を取られて転倒、骨折のけがを負った客が治療費などを求めて起こした裁判だ。
被告となった携帯電話ショップの運営会社は、トイレで過去に転倒事故が頻発していた事実はない、段差が著しく認識しにくいことはないという趣旨で反論した。それでもこの争いで地方裁判所が下した判決では、建物側の瑕疵を認め、被告側が約230万円を原告の客に支払うよう命じている。被告は控訴を選んだ。
地裁判決では、トイレのドアを開けた際に目に飛び込むのは便器であって段差を認識できない危険性がある点やドア付近とトイレの床の色の違いが分かりにくい点、トイレのドアの前後に段差を設けないようにすべきだと規定した設計マニュアルの存在などを、瑕疵を認めた理由に掲げている。
転倒事故が生じたトイレの配置イメージ。内開きのドアの足元に、2辺の段差(高さ約10cm)があった。右前方に便器があり、利用者は段差に気付きにくかった(資料:判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)
原告側の注意不足も考慮して5割の過失相殺となったものの、施設運営者側には厳しい判決となった。施設運営者は施設自体のいわゆる工作物責任については、設計者や施工者に問うことができる。こうした事案では、施設設計者などが責任を追及される可能性は否定できない。
そもそも、建築計画において1つの平面内に段差を設けるリスクは大きい。階段部で最初の1段だけ踏面を広く取るような不規則な設計もつまずきを招きやすい。
建物改修時に設備などの配置条件によって、同一階層内にどうしても段差が生じるケースは存在する。こうした場合は、段差の存在を誰でも簡単に分かるようにしたり、スロープなどで段差自体を解消したりするような配慮が欠かせない。」
この記事にもあるように微妙な段差は、ころんでケガをするおそれが高いです。高齢化が進行し、視力が衰えると事故のおそれはより高くなります。微妙な段差は設計時に作らないのが一番です。もしあるのであればスロープ等に変更したり、進行方向を変える等、歩行者が足元を注意するような仕掛けが必要です。
あえて、踏面の床の色を変える等、気づきやすくすることが重要になります。
上下の段差が同じ色であるのも気づきにくい一因でもあると考えます。
上下段差に色違いの表示をする。更に縞模様(縦、横あるいは斜め等)の表示をするのも事故防止になるのではと考えます。