
前回に続き法律用語のお話です。皆さんは善管注意義務という言葉はご存じですか?
この言葉は「善良な管理者の注意義務」の略で、業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される程度の注意義務のことです。
このまま放置すれば事故につながると解っていながら、何の対策も取らなかった場合等、注意義務を怠り、履行遅滞・不完全履行・履行不能などに至る場合は民法上過失があると見なされ、状況に応じて損害賠償や契約解除などが可能となります。その結果、甚大な事故が発生すれば、不法行為として責任を問われるケースも発生します。
民法第644条には「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」とあります。
マンション管理会社の善管注意義務
マンション標準管理規約第5条には、「管理会社は、善良なる管理者の注意を持って管理業務を行うものとする。」と記載されています。
善管注意義務違反の具体的な事例としては下記のような事例が考えられます。
・建物・設備等の損傷、危険性、不具合に気付かず、または知っていながら報告しなかった。
・修理、補修を依頼されたが、正当な理由なく放置し、事故が発生した。
・総会、理事会が開催されず、または管理事務についての報告がなされず、マンション管理が滞った。
・会計が不適切に処理された。
以上のような善管注意義務を怠ると、債務不履行(履行遅滞、不完全履行、履行不能)などの民法上の過失とみなされ、状況に応じて損害賠償や契約解除などが起こり得ます。
管理会社とトラブルになったときには、管理会社には「善管注意義務」があることを、知っておくことは重要です。
マンション管理組合と善管注意義務
善管注意義務は、管理者(管理組合理事長)、管理組合の役員にも適用されます。理事長と組合員の関係、そして管理組合役員と組合員の関係も委任関係が成立しますから、受任者として同様に義務を負うことになります。
理事になられた方は、老朽化等によりマンションの危険な状況を知りながら、何の対策も取らず、重大な事故が発生した場合は、不法行為責任を取るおそれもあることを十分認識しておく必要があります。
善管注意義務違反の具体的事例としては以下のような事例が考えられます。
・タイルが剥がれそうになっているのを知りながら、何の対策も取らず、落ちてきたタイルで通行人がケガをした。
・手摺の足元が腐っていて交換が必要なのに、対策を講じなかったために、入居者がバルコニーから転落した。
・インターホンが故障していたのに、修理・交換しなかったために、火災警報が作動せず、火災が拡大した。
まとめ
たまたま輪番で理事になっただけなのに、善管注意義務が発生すると言われても釈然としないと思います。しかし業務怠慢で、自分の住んでいるマンションで事故等が発生しないためにも、常にこの「善管注意義務」を意識して業務を行うことは重要です。
修繕積立金不足で、大規模修繕工事を先延ばしするケースもありますが、危険性の高い緊急性の高い修繕は、素早く対応するよう心掛けてください。
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