2022年4月26日の新・公民連携最前線の表題の記事を紹介します。
「経済成長期に大都市圏の周辺に続々と開拓されたニュータウン。現在は高層マンションの建設などによって、住宅需要が郊外から都市部に移り、若年層人口が減少することで急激な高齢化が進んでいる。こうしてオールドニュータウンと呼ばれるようになった街では、高齢者の移動を支援するモビリティの整備が喫緊の課題だ。オールドニュータウンの1つとなった大阪府池田市の伏尾台エリアでは、こうしたモビリティの課題を住民同士の助け合いによって解決しようとしており、その取り組みを市や民間企業が支援している。
住民による相互扶助から始まった送迎サービス
池田市(いけだし)
大阪府の北部に位置する。市域は南北に細長く、南部には阪急電鉄と国道171号が通り、大阪国際空港と接している。北部は伏尾台に自然に囲まれた郊外住宅地が広がる。面積22.14km2。人口10万3272人(2022年2月末現在)
大阪府池田市は、市の南部に位置する中心街から大阪市内(梅田)まで電車で20分ほどで通えるベッドタウンだ。北部の伏尾台エリアも電車とバスを乗り継いで40分ほどで大阪市内に通勤できる。
この立地を生かし、伏尾台エリアは1970年から郊外型ニュータウンとして宅地が開発された。池田市南部の鉄道駅(阪急電鉄石橋阪大前駅・池田駅)からは離れているものの、新名神高速道路の出入り口(箕面とどろみIC)に近く自動車での移動に便利な場所で、1980年代には小中学校や府立高校などがエリア内に開校し、ピーク時は約8000人の住民がいた。
しかし現在の伏尾台エリアは、少子高齢化によって住民の数も5000人台まで減少。高齢化率も45%に近くなり、小学校の閉校など他のオールドニュータウンと同様の課題を抱えることになった。さらに、もともと山地を造成したエリアであるため坂道が多く、高齢者にとってはスーパーや診療所、最寄りのバス停などへの移動の負担が大きいという点も課題となっている(写真1)。
こうしたモビリティの課題を、伏尾台の住民による相互扶助によって解決しようと実施されているのが、住民組織「ほそごう地域コミュニティ推進協議会(伏尾台地区)」(以下、協議会)が運営する地域内無償送迎サービス「らくらく送迎」だ(写真2)。
発端となったのは、住民から「自家用車を使用して住民を送迎できないか」との相談を受けた池田市が、総務省から500万円の補助金を取り付けて2018年10~12月に行った実証実験だ。池田市が自家用車有償旅客運送者になり、協議会に運行を委託する形で国土交通省の認可を取って、運転手となる住民の自家用車12台を運行車両として登録。送迎の範囲は自宅から、スーパーや病院、コミュニティセンターなどが集まる「伏尾台センター」(写真3)までとし、運賃は1人1回250円。伏尾台センターのバス停からは阪急バスの路線バスが複数発着しており、鉄道駅や郵便局など他の施設に行く場合はここからバスで向かうことになる。
(写真1)どこに行くにも坂道での移動が必要になる伏尾台(写真:元田光一)
(写真2)「らくらく送迎」のサービス提供の様子(写真提供:ほそごう地域コミュニティ推進協議会)
(写真3)伏尾台の中心部に位置する阪急池田伏尾台マンション。ここの1階にスーパーや病院、集会施設(伏尾台コミュニティプラザ・下写真)などが集まっており、催しが開かれる広場なども含め一帯で「伏尾台センター」を構成している(写真:元田光一)
実験期間中は利用者として150人が事前登録し、ボランティア12人の住民ドライバーによって52回の送迎が行われた。利用者からの反応としては、「伏尾台センターだけでなく、他の場所にも行きたい」「料金をもっと安くして欲しい」などの声が上がった。
ほそごう地域コミュニティ推進協議会(伏尾台地区)事務局長で、「らくらく送迎」のサービス運用に協力する一般社団法人伏尾台コミュニティの代表理事も務める春山俊一氏(写真4)は、「地域内でも目的地が限られるのでは、外出の利便性が得られない」と痛感したという。実験終了後には、「通院のために250円でも良いから続けて欲しい」といった要望が寄せられたこともあり、「事業免許を受けなくても運行できる無償無料の送迎サービスとして継続するしかない」と感じ、「らくらく送迎」を始めることとした。
市の地域分権制度を活用して無償で継続
伏尾台コミュニティでは池田市に支援を求め、まず2020年1月から3月まで池田市のアクティブシニア応援基金から31万2000円の補助を受け、「らくらく送迎」のサービスを実施した。また、4月からは池田市の「地域分権制度」を活用し、協議会が年間約70万円の補助金を受けて無償の送迎サービスを続けることになった。
池田市が取り入れている地域分権制度とは、「自分たちのまちは自分たちでつくろう」を合言葉に、地域住民が自主的かつ自立的にまちづくりを行うことで地域内の共通課題の解決を図り、市との協働でまちづくりを進めていく制度だ。市内の市立小学校や義務教育学校の通学区ごとに設立された、地域内の課題抽出・解決を検討する「地域コミュニティ推進協議会」が、概ね年間500万~700万円を上限として事業予算を提案できるようになっている。2021年度は市から「ほそごう地域コミュニティ推進協議会」に対して768万2000円の補助金が出ている。このうち75万円が「伏尾台地域送迎 サービス事業」分である。
協議会は池田市からの補助金を、車のリース代やガソリン代、自動車保険の支払いなどに当てている(写真5)。送迎用にリースしている車両は1台だけだが、足りない場合はボランティアの住民ドライバーの自家用車や、自主防犯パトロールで利用されている通称「青パト」を使うこともあるという(写真6)。
(写真6)「らくらく送迎」に使われることもある青パト(写真:元田光一)
実際に送迎を行うのは月曜日から金曜日だ。時間は9~18時で、予約は前日(月曜日の予約は金曜日)の9時半から18時までに電話で行う必要がある(写真7)。現在、利用登録者は200人を超え、2020年1月からの累積で約1200件の予約があり、約1600人を送迎した。10人いるボランティアの住民ドライバーは平均年齢が75歳で、平均年齢80歳の利用登録者を運んでいる。「一番多く利用されているのは90代の方。利用者からは、無償ではなく100円でもいいから料金を取ってくれた方が乗りやすいという意見も出るが、事業免許を持てないからできないと説明している。コロナ禍の影響で波があるが、3割くらいがヘビーユーザーとなっている」(春山氏)。
(写真7)「らくらく送迎」の予約を受け付ける電話当番も、ボランティアの住民が交代で担当している(写真:元田光一)
ITサービスを組み合わせたMaaSの取り組み
「らくらく送迎」を利用するのは高齢者だが、それを支えるのも高齢者。このままではいずれ継続が難しくなってくる。伏尾台コミュニティとしてはできる限りこの取り組みを継続させたいと考え、池田市に協力を求めて国土交通省の日本版MaaS推進・支援事業の公募に応募し、採択された。
これによって、2020年12月1日から2021年2月末までは「オールドニュータウンにおける超低負荷型MaaS~住民主体の送迎サービスとIoT先進技術の連動~」として実証実験が行われた(図1、表)。実証実験の内容は、「らくらく送迎」のサービスを軸にして、スマートフォンのアプリによる配車支援や歩行者感知センサーによる安全性向上、ビーコンによる高齢者の安否サービスなどを実施したものだ。
(図1)国土交通省の公募に採択された「オールドニュータウンにおける超低負荷型MaaS」のサービスエリア(出所:池田市の資料より引用)
実証実験では、伏尾台コミュニティと大阪大学、Momoによって開発された「らくらく送迎システム」のアプリのほか、スマートフォンやパソコンが使えない高齢者向けにボタン操作で予約ができる専用デバイスも開発された(図2、写真8)。また、「らくらく送迎システム」には阪急バスとの情報連携機能も組み込まれ、予約画面のスペースに伏尾台センターからの路線バスの接近情報や時刻表を掲載し、市街地方面への乗り継ぎ利用を促進している(図3)。
(図2)「らくらく送迎システム」のアプリは、スマートフォンを持っていない人でもパソコンからWebブラウザで利用可能(資料提供:伏尾台コミュニティ)。(写真10)「らくらく送迎」をボタン操作だけで予約できる高齢者向けの専用デバイス(写真:元田光一)
(図3)「らくらく送迎システム」に組み込まれた阪急バスとの情報連携機能(資料提供:伏尾台コミュニティ)
さらに、実証実験では送迎サービスだけでなく、最新のIT機器を活用した「MaaS統合地域交流プラットフォーム」の提供など、さまざまなサービスの検証も実施している(図4)。例えば、「らくらく送迎」の利用者とドライバーの双方に安心安全を提供するため、道路上の1カ所に設置したレーザセンサーと低出力の発信装置によって歩行者の飛び出しを「らくらく送迎」のドライバーに社内の受信機で知らせるシステム(図5)や、登録者に配布したビーコンを使って伏尾台センターのバス停に設置された「スマートステーション」に利用者が到着したことをドライバーに知らせるシステムなども検証された(写真9)。
(図4)「オールドニュータウンにおける超低負荷型MaaS」での実験概要(出所:国土交通省「2020年度 日本版MaaS推進・支援事業」の資料より引用)
(写真8)伏尾台センターのバス停にはスマートステーションが設置され、ビーコンセンサーによって利用者の到着をドライバーに知らせた(写真:元田光一)
今回の実証実験ではセンシング技術を活用し、日々の運動状況を元にした健康コンテンツの提供や移動保健室を活用したお出かけ提案など、地域住民の安否確認・健康づくりサービスを高度化する試みも検討された。例えば、高齢者や児童に配布されたビーコンを活用した安否確認サービスの実証では、普段から団地外へ出かける機会の多い高齢者20 人にビーコンを配付した結果、団地出入り口などで正常に検知されたという(写真10)。
こうした実証実験によって、実証開始前時点で119人だった登録者は予約システムなどの導入後に54人増加し、合計173人となった(図6)。また、実証期間中の「らくらく送迎」利用者数は199人で、そのうちアプリやリモコンを通じたシステム利用者は40人となっている。傾向としては、システムを通じた予約は30~40歳代の若い世代で見られる。高齢者については、予約専用デバイスを渡している80歳代の特定の方の利用が18件あったものの利用度は低かった。
(図6)「らくらく送迎」の登録・利用状況(資料提供:3点とも伏尾台コミュニティ)
グリーンスローモビリティの活用による新サービスの検討も
住民の相互扶助によるサービスを継続するには、補助金だけに頼るのではなくさまざまな資金調達の手段も必要になる。そのため、伏尾台コミュニティでは無線LANサービスを住民に有償提供して資金調達する試みなども行っている。
そして、伏尾台コミュニティの次の目標は、時速20km未満で公道を走ることができる電動車を活用した移動サービスであるグリーンスローモビリティの活用による「らくらく送迎」のサービス向上と継続だ。現状では平日しかサービスを提供できず、予約も前日までとなっている。「MaaS で作ってもらったアプリは高齢者が使うには難しく、結局は電話の予約 だけになった。とはいえ、その予約も面倒に感じたり、買い物帰りにコミュニ ティセンターに飛び込んできて乗せて欲しいと頼んでくる人も多い」(ほそごう地域コミュニティ推進協議会〔伏尾台地区〕副会長兼伏尾台コミュニティ理事の竹之下伸治氏)。
エリア内で送迎用のモビリティを定期的に周回させれば、事前の予約無しでも気軽に利用できるようになる。すでに、グリーンスローモビリティでの移動を事業化している事例も全国でいくつかある。池田市としても、「住民主体の取り組みは少ないようなので、既存の交通事業者との協議なども含めて検討したい」と語る。
ただし、他の地域で使われているグリーンスローモビリティはバッテリー容量が小さいため、伏尾台のように坂道多いエリアでは十分に活用できない。また、定期的に運行するには専任ドライバーや運行主体の確保などの課題もある。
こうした課題の解決に向け、伏尾台エリアでは2022年8~10月にトヨタグループの支援を受けて、新たな実証実験の計画も立てられている。従来よりも大きなバッテリーを搭載したグリーンスローモビリティで定期周回を行うというものだ。同時に日本福祉大学の協力を得てアンケートを取り、グリーンスローモビリティの周回による外出促進が健康寿命の延命と介護保険料の低減にどう結び付くのかを数値化して検証する計画もあるという。
「気楽に利用でき、ドライバーにもバイト代が出るようなシステムになれば、サービス継続の可能性は高くなると思っている。この実証実験を、グリーンスローモビリティの導入による効果と運営方法を探る、次のステップを考える機会にしたい」(春山氏)としている。」
高齢化したマンションでの切実な問題は記事にもあるように、高齢者の足をどのように確保するかということです。やはり現実的なのは、ボランティアで個人の車を活用し、タクシー替わりに利用するということでしょうか?記事では有料にすればタクシー事業に該当し、事業免許が必要とのことですが、実情に合わせた規制緩和を行って欲しいと思います。
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