2021年11月19日の東洋経済オンライン 不動産コンサルタント:沖有人さんの表題の記事を紹介します。
「持家と賃貸のどちらが得かは永遠の論争と言われたりする。しかし、それは大人の事情に過ぎない。どちらが有利と言ってしまうと、物件検索ポータルとしては分譲も賃貸もやっているので、立場がなくなるだけなのだ。
そもそも支払期間に1.5倍の差
まず、住宅ローンの返済と家賃が月額で同じだった場合、生涯の支払い期間は持家35年に対して、賃貸は50年以上になる。持家のローン期間は通常35年で終わる。その後は、管理費等を払うだけだ。ローンの金利が変動なら、今は0.5%程度の低金利で、住宅ローン控除という減税策で年末のローン残高の1%が還付されるので、実質マイナス金利になっている(住宅ローン控除の制度は22年の税制改正で見直される見通し。見直し後は、マイナス金利とはならないものの、実質ゼロ金利となる見通し)。
一方、家賃は一生涯支払い続ける必要がある。持家の平均取得年齢が37歳ほどなので、生涯となると、50年を見ないといけない。この時点で、35年対50年以上なので、約1.5倍の差がつく。
こんな単純な計算でも、物件検索サイトではほぼ同額になる様に「操作」される。この操作はたいてい面積をいじる。持家70㎡のマンションに対して、賃貸50㎡のマンションに設定し、この設定条件は小さい字や欄外にまとめられることになる。これは大人の編集能力というものだ。50㎡と70㎡なので、約1.4倍異なるので、おおむね拮抗するようになる。
別の角度から計算もしてみよう。都心の新築マンションの表面利回りは4%程度であるケースが多い。表面利回りとは、年間家賃÷分譲マンション価格で算出される。4%の家賃を25年支払うと、100%の分譲価格になる。50年支払ったら200%なので、自宅2軒分を負担したことになる。
こんな単純な計算をすると、金利・税金・管理費・修繕積立金・リフォーム代が入っていないと言われることもあるが、どんな計算をしても1.5~2倍の違いを揺るがすことなんてない。些末なことより、少なくても重要な事実を的確にとらえることの方が人生では大事なのである。
国が「持ち家」を推す理由
高齢者の持ち家率は80%を超えている。持家を推進するのは国の政策として、戦後一貫して行われている。それは戦争で家の数が極端に少なかったからだ。地主には賃貸住宅をつくることを誘導し、国民の多くが自宅を持てるように金利や税制を優遇してきたのだ。
2013年に始まるアベノミクス以降、金融緩和が行われたことで、金利が下がり、住宅ローン金利は変動金利であれば0.5%程度になった。ほとんどの人が毎月同じ金額を返済する「元利均等返済」を行うので、金利が高いと元本の返済が進まない。
金利が3%なら1000万円の借入で金利は616万円に及ぶが、0.5%なら90万円なので雲泥の差になる。金利が安い分、購入できる価格も上昇する。上記の2.5%金利が下がるとおよそ48%(=1,616÷1,090)価格が上がっても月の返済額は同じになる。こうして持ち家取得にはかっこうの環境になっている。
実は不動産は税金をかけやすい。取得の際に売買契約とローンの契約(金銭消費貸借契約)をするが、その際に印紙税を徴収される。購入だけでなく、売却する時も同じだけかかる。また、「この不動産は私のものです」という意味の登記をするので登録免許税も不動産取得税もかかるし、持っているだけで固定資産台帳にて土地と建物が管理されるので、固定資産税・都市計画税が毎年かかる。売却したらその利益にも重税が課せられる。
要は徴税側がすべての取引を漏れなく管理しやすいのだ。だからこそ、不動産投資をする人には利益が吹っ飛ぶほどの重税なのだ。こうした重税を払っているのは賃貸住宅の場合はオーナーで、その負担は家賃にはね返っている。住宅ローンより家賃が高いのはこうした重い税制度の結果なのだ。
持ち家は税制も優遇されている。上記のすべての税金が持家(自己居住)だけかなり優遇される。これに加えて、冒頭で説明した住宅ローン控除がある。
あなたが賃貸住宅のオーナーなら、どんな品質の建物を建てるだろうか?高品質でコスト高か、そこそこの品質でコスト安なのかという選択だ。例えば、壁の遮音性を高めるにはコストがかさむので、ほとんどのオーナーは安普請な造りにする。
もっとわかりやすく言うと、自分の持ち家より立派にするオーナーはいないだろう。他人が住んで家賃をもらうものは、どこか他人事な仕様で造るものだ。悪くすると、ガスの配管工事を下げるためにプロパンガスを導入するオーナーもいまだにいる。その配管工事分はプロパンガス会社が負担し、その代わりにプロパンガス代で回収されるので、賃貸入居者が都市ガスの約2倍の代金を支払わせられているのが実態となる。
「分譲仕様」という言葉がある。賃貸が安普請ならば、分譲は自分が住むので、細かくて厳しいチェックを行う。それに見合うだけの仕様が「分譲仕様」なのだ。だからこそ、住み心地が違う。遮音性だけでなく、気密性が高いので冬暖かく、夏涼しい環境を提供するし、水周りの設備も食洗器・オーブン・シャワーヘッド・バスタブの保温性・洗浄便器など標準仕様がまったく違っている。生涯の住居費負担額の差だけでなく、生涯の生活の豊かさも違うのである。
「賃貸派」の人の特徴
先日もある配信番組で持家VS賃貸の討論をした。もちろん私は持家派なのだが、賃貸派の方には持ち家にまつわるトラウマを抱えている人もいる。それは離婚だ。離婚すると、家は必ず売らなければならない。なぜなら、家を配偶者に譲ってもローンの支払いがまるまる残っていて、自分の家の費用も掛かるので、結局清算する以外に方法がないからだ。
その売るタイミングが悪く、資産価値が落ちていたりすると、売却時に損が発生する。住宅の売却が成立するには住宅ローンを全額返済する場合に限られる。家を売る金額が住宅ローンの残債を下回るとその差額を自分で埋め合わさないと売ることすら許されないものだ。離婚したくても、家に価値がなく貯金もなければ離婚できないのだ。
持家の重要なリスクを挙げるとしたら、「資産性」だ。資産性がある物件とは、買った価格から売る際の価格があまり下がらない物件を指す。下がりづらいなら、超低金利で元本返済が急速に進むので、含み損を発生させることはほとんどない。
そして過去の膨大な量のマンションの資産性について私は分析している。そこからわかったことは、「資産性は立地でほぼ決まる」ということだ。都心寄りで、駅近のマンションは資産価値が落ちにくいということで、非常に簡単だ。その法則を忠実に守った人の多くは、マンションを買った時よりも高い価格で売っている。つまり、賃貸よりお得なんて当たり前のことではなく、住居費を負担しないだけでなく、資産を膨らませることも可能なのである。」
このブログの内容に私もまったく同感です。将来のことも考えれば、中古住宅でも良いので、利便性の良い中古価格が下がりにくいエリアの物件を早く購入するべきだと思います。住宅も金融資産の一部と考えて、住み替えや、いざとなれば他人に賃貸することも考えて、自分の住まいを考えることが重要です。
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