2022年1月14日の東洋経済オンラインに掲載された「さくら事務所」会長の長嶋修さんの表題の記事を紹介します。
「最新設備を有し、どれだけ堅牢なつくりのマンションであっても、竣工から年を重ねると劣化が目立つようになる。適切なメンテナンスを行わないままではマンションの外観や機能面が低下、居住性が悪くなっていく。場合によっては安全面でのリスクも考えられ、資産価値にも影響しかねない。おおよそ12年に1度の周期で大規模修繕工事が必要になるのはそのためだ。
ところが、2013年の秋以降、工事費の高騰が続いている。原因の1つとも言われていた東京オリンピックが終わった現在も、高止まりの状態に変化はない。
工事価格が突如高騰した5つのワケ
2000年頃から2013年春先までの建設工事価格は安定していた。しかし先述のように、同年の秋頃から一気に20~30%も工事費がアップすることになる。これには次の5つの要因が関係していた。
1. アベノミクス効果への期待 2. オリンピック誘致の成功 3. 消費税増税前の駆け込み需要 4. 震災復興特需 5. 慢性的な人手不足
順に見ていこう。2008年のリーマンショックで打撃を受けていた建設業界は、翌年の「公共事業削減」を掲げる民主党・鳩山由紀夫政権の誕生でさらなるダメージを負った。ところが2012年、民主党政権から再び自民党が政権奪回し、風向きが変わる。安倍晋三首相は「3本の矢」を柱とする経済政策、アベノミクスを表明。2本目の矢に財政政策として公共事業を据えたことで、アベノミクスへの期待値が高まっていく。2013年9月には2020年のオリンピック開催地に東京が選ばれた。これにより、長らく公共事業の削減と景気停滞に苦しんできた建設業界は一転、「オリンピック特需」に沸いた。
2011年に起きた東日本大震災からの復興需要もあり、上昇基調にあった建設業界。「復興」と「オリンピック」の2つの特需で、人手不足が深刻な問題となっていた。さらに同じ年、2014年4月に消費税率が現行の5%から8%に引き上げられることも決定された。そのため、増税前に大規模修繕工事をと多くのマンションが駆け込み実施を行っている。これら5つの要因が同時期に起こったことで建設ラッシュの発生が見込まれることから、工事費の高騰に拍車がかかることとなったのだ。
われわれさくら事務所が手がける現場においても、工事費の高騰の影響は顕著であった。例えば、外壁の塗装やタイルの補修工事において、吹き付け塗装のマンションでの工事費は80万円程度からおおよそ100万円に跳ね上がった。また、タイル張りのマンションにおいては約100万円から約130万円に。金額はあくまで感覚値ではあるが、工事費の急上昇が止まらない状況にあったと記憶している。
想定外の新型コロナの影響
2013年の秋に東京オリンピックの開催が決まり、工事費の高騰が続く中、大規模修繕工事を延期したマンション管理組合も少なくない。2016、2017年頃までは「東京オリンピック後、マンションの大規模修繕工事費用は下落する」と考える向きも多かった。日本で初めてオリンピックが開催された1964年以降、深刻な景気後退の局面を迎えたことから、今回も同様になると予測したためだ。
一方で、国土交通省によると、1960年代半ばから分譲マンションは増え続け、2020年末時点でのマンションストック総数は約675.3万戸にのぼる。築40年超のマンションは現在103.3万戸と、マンションストック総数の約15%にあたる。つまり大規模修繕を含むメンテナンスが必要なマンションは多数あり、工事のニーズは衰えないわけだ。
1回目の大規模修繕工事の見送りを検討したのが、2003~2007年頃に竣工したマンションだった。それらに加え、供給戸数の多かった2008~2010年竣工のマンションも大規模修繕工事の時期を迎えることとなる。
東京オリンピックなどで高騰した工事費のため、一時的に大規模修繕工事を控えたマンションの需要が噴き出せば、さらなる工事費の高騰につながるだろう。東京オリンピック直前の2018、2019年時点では、「工事費はこのまま高騰し続けるのではないか」との観測も広がっていた。
結果的に2020年、コロナ禍という予想外の状況下でオリンピックの延期が決まった。延期していた大規模修繕工事の実施に動きだそうとするマンション組合もあったものの、コロナ禍でストップを余儀なくされた。ここまでが2020年夏頃までの状況となる。
では、2022年以降、大規模修繕工事費がダウンすることはあるのだろうか。先ほども触れたが、ストックマンションの戸数はどんどん積み上がってきているのが現状だ。
国交省のデータによれば、1960年後半~1970年代(昭和30年後半~40年代)にかけては約44万戸、1970(昭和50)年代後半を加えると約140万戸となる。さらに1985~1994(昭和60~平成6)年までの10年間の分譲数を足すと約277万戸、1995~2004(平成7~16)年にはわずか10年で約170万戸のストック戸数増となっている。さらに2005~2020(平成17~令和2)年、つまり現在まで約210万戸がプラスされた。
さらなる需要の逼迫、工事費高騰は避けられない
またマンションの大規模修繕工事は1回目の実施が終わっても、周期的に行う必要がある。一度修繕をすればそれで終わりということではなく、おおよそ12~15年程度のサイクルで2回目、3回目を計画するのが一般的だ。ストックマンションがどんどん積み上がるにつれて、工事のニーズは膨らみ続けていくのだ。
大規模修繕工事の需要が増えているのに、携わる施工会社、必要な人材は相変わらず不足している。年々少子高齢化が進む中で、働き手の不足はどの業界においても悩みの種だ。ただ、建設業界において問題はより深刻だといえよう。
もともと「3K」のイメージが強く、若い世代から敬遠されがちであったうえ、工事の担い手である職人は高齢化の一途をたどっている。またリーマンショックなどの影響で資金繰りに窮し、廃業した会社や現場を離れた職人も少なくない。
今後も施工会社、および職人の減少は止まらず、慢性的な人手不足が続くと予想される。需要と供給のバランスが崩れ、施工費用は高止まりの状態が続くだろう。もしくは再度高騰することも考えられるのだ。
大規模修繕工事は、回数を重ねるごとに内容も変わり、負担も大きくなるものだ。1回目の工事は築十数年のときに行うため、ケースバイケースではあるが、建物や設備が大きく劣化することは少ない。しかし2回目、3回目と回を重ねるごとに建物は老朽化が進行し、修繕を検討するべき範囲も広くなる。その分コストもかさむのはある意味当然のことだとも言える。
国交省によれば、築40年超のマンションは現状の103.3万戸から10年後には約2.2倍の231.9万戸、 20年後には約3.9倍の404.6万戸となる見込みだという。日本中のマンションがどんどん老い「高齢化」し続けていく中、大規模修繕工事は不可欠なものだ。さらなる需要の逼迫、工事費高騰は避けられないだろう。」
このブログにもあるように、大規模修繕工事の工事金額は、ますます上昇傾向です。消費税アップの時期に駆け込み需要がありましたが、その後、オリンピック前の適齢期物件が、持ち送られた結果、大規模修繕工事適実施必要物件は積み上がった状況にあります。施工会社のキャパオーバーもあり、工事費の下がる要素は見当たりません。また、今年に入り色々なものの価格が上昇基調にあり、工事を延期しても何もメリットはない状況です。長期修繕計画に基づき、適切な時期に大規模修繕工事を実施することが重要だと思います。
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