大規模修繕工事を実施する前に行うことが多い建物診断ですが、以下の3項目については実施しなくてもいいと個人的には思っています。今回はその理由について説明します。
中性化試験
一つ目に不要だと思うのは、コンクリートの中性化試験です。中性化試験とは、本来強アルカリであるコンクリートが二酸化炭素等の影響で中性になっているかどうかを測定する試験です。
鉄筋が錆びるとは、鉄筋が酸化することです。コンクリートは本来強アルカリ性であり、その強アルカリの中で鉄筋が守られているために、鉄筋コンクリート構造は錆びに強い構造になっています。
ところが、コンクリートの表面は二酸化炭素等に日々ふれることで、コンクリート表面から徐々に中性化していきます。この中性化の具合を調べるのが「中性化試験」です。
一般的な試験方法としては、コンクリート壁から、円筒状のコンクリートコアを切り出し、フェノールフタレイン液を吹きかけて、紫色に染まらない部分の長さを測定します。一般的なマンションの中性化速度は1年間で0.7mm程度、鉄筋のかぶり厚さ(外部からの最低距離)は40mm程度ありますから、鉄筋のある部分まで中性化が進行するのは60年近い年月が必要です。ある人は「第1回目の大規模修繕工事のために、中性化試験を実施するのは、若者に骨粗しょう症の検査をするようなもの」と言っていましたが、その通りだと思います。不要な検査に高額な費用をかけて、建物を傷つけて検査するメリットは全くありません。
タイル引張試験
二つ目に不要だと思うのは、タイルの引張試験です。この試験は今張られているマンションの外壁タイルが、必要強度以上で張られていることを証明するために行う試験です。
会社員時代に実際に試験を行う担当者に聞いたところ、健全部のタイルの引張試験なので、施工状態の良いタイルを引っ張っているとのこと、強度が出なかったら、別の強度が出る部分のタイルを引っ張ると言っていました。この試験もお金をかけてやる割には、何の目的で行っているかが不明です。どうせ引張試験を行うのであれば、打診検査で浮きが発生している部分のタイルを引っ張り、何キロ出ているかを測定すればどうかと思います。過去に聞いた話では、打音で浮きが確認された部分でタイルの引張試験をしても、強度が出ていたというケースもあったという話も聞いたことがあります。
赤外線診断
タイルの打診調査を行う代わりに、表面温度のわかるサーモカメラを使い、タイルが浮いている部分を判定するのが、赤外線調査です。この調査で分かるのは、タイルが実際に浮いていて、タイルとコンクリート躯体との間に空気層がある場合に、太陽の光で、この空気層が暖められて高温になり、サーモカメラで撮影した場合にその部分が赤くなることで浮きが判定されることです。ところが、タイルが浮いていても、空気層がなければタイルが浮いていることは判りません。また、サーモカメラで判るほど、タイルが浮いているケースでは、既にかなり広範囲にタイルが浮いていることが多いです。
診断方法がサーモカメラの撮影のみのため診断が簡単で、手軽で採用されるケースの多い赤外線診断ですが、測定誤差が多いことを考慮し、赤外線診断だけに頼らず、打診検査と併用して利用することをお勧めします。バルコニーに立ち入らせていただき、赤外線で浮いていると判定された部分を実際に打診調査することで、赤外線調査の信頼性の確認を行うのがベターです。
以上、3つの診断方法は費用がかかる割に、必要なかったり、信頼性の劣る検査です。建物診断もフルスペックで実施すると100万円以上の金額がかかります。大事な修繕積立金で実施するのですから、費用対効果を考えて、診断内容を検討し、検査を依頼するようにしましょう。
ความคิดเห็น