
2024年10月31日の日経クロステックの表題の記事を紹介します。
「大阪城を望む地上8階建ての木造マンション「リブウッド大阪城(都島プロジェクト)」(大阪市)が2024年10月に完成した。発注者でもあり施工者でもあるオリオン建設(大阪市)は、初めて建設した木造マンションの完成をどのような思いで迎えたのか。同社社長の樋上雅一氏に聞く。
賃貸マンションとなるリブウッド大阪城の魅力は言うまでもない。大阪城を間近に望める点、木造・木質である点の2つ。敷地の南側を流れる寝屋川を挟んですぐ大阪城公園が広がり、その中央には大阪城の天守がそびえる。住戸内は、柱・梁や耐震壁などの構造部材をLVL(単板積層材)やCLT(直交集成板)の現しで構成する。

最上階のオーナー住戸から大阪城方面を眺める。下階とのメゾネットタイプとなる(写真:生田将人)
構造は厳密にいえば、混構造となる。1階から3階までは鉄骨(S)造、4階は木造2時間耐火構造、5階から8階までは木造1時間耐火構造、という構成だ。計5フロアにまたがる木造部分は柱と梁による軸組構法。木構造ファブリケーターのシェルター(山形市)が開発・供給する木質耐火部材「COOL WOOD」を採用した1時間・2時間耐火構造の認定工法や、一般社団法人全国LVL協会が開発・供給するLVL被覆1時間耐火構造部材を用いることで、柱や梁の多くは木部を現しで仕上げている。

構造イメージモデル。1階にはテナント店舗とオリオン建設の倉庫、2階にはオリオン建設の事務所と賃貸住戸、3階以上に賃貸住戸とオーナー住戸を配置する(出所:ビルディングランドスケープ)
賃貸住宅マーケットへの打ち出し方は「西日本最高の地上8階建て都市木造マンション」である。不動産検索サイトで「木造マンション」をうたうには、(1)住宅性能評価上、劣化対策等級(構造躯体等)が「等級3」であること(2)住宅性能評価上、耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)が「等級3」であること、または耐火等級(延焼のおそれのある部分/開口部以外)が「等級4」もしくは耐火構造であること――という大きく2つの点が求められる。
リブウッド大阪城は劣化対策等級として「等級3」、耐火等級として「等級4」を取得した。金融機関の融資期間は、木造住宅の法定耐用年数に基づく「22年」に比べるとやや長めの「30年」に設定された。
月額賃料は坪9400~1万3400円
賃貸用の住戸は地上2階から7階までの23戸。住戸面積は約42~93m2と多岐にわたる。募集中の住戸の月額賃料は、2024年10月16日時点で坪当たり約9400~約1万3400円。
リブウッド大阪城の発注者で貸主でもあるオリオン建設社長の樋上雅一氏は「入居者募集を依頼した不動産仲介会社から、この程度の水準なら借り手を確保できる、とお墨付きを得た金額で設定した。大阪城を間近に望める点や木造・木質である点を織り込んだ金額と見ている」と賃料設定の考え方を説く。

7階住戸から大阪城を望む。正面左はLVLのK型ブレース、正面右はCLTの耐震壁(写真:生田将人)

4階住戸。下層階や眺めが良い場所には、高耐力を期待できるうえに見通しが利きやすいK型ブレースを配置する(写真:生田将人)
不動産仲介会社の入居者募集サイトによれば、2024年10月16日時点で地上3階と5階の3戸が成約済み。「これまではやはり、木造・木質への関心が高い入居希望者が多く内覧に来ていた。手応えは十分に感じている。今後マンション内にモデルルームを開設し、入居者募集を一段と強化していく予定だ」(樋上氏)

北側外観。最上階の8階は、ここで一番上に見えている7階部分に塔屋のように載るため、この角度からは見えない(写真:生田将人)
木造化・木質化は発注者であるオリオン建設側のたっての希望でもあった。同社の前身は1902年創業の木材製材・販売会社。樋上氏にとって木材は身近な存在だ。鉄骨や鉄筋コンクリートで建物をつくり、二酸化炭素(CO2)の排出量が増えることに後ろめたさを感じていた中、CO2を吸収して炭素として貯蔵する木材で建物をつくり、森林の自然循環を維持していく意義に気付いたという。賃貸マンションの建設にあたって、脱炭素社会の実現を念頭に木造化・木質化を目指したのである。
樋上氏は現し仕上げで木部を見せることにもこだわった。「10年以上前から本当のサステナビリティ―とは何かを考え続けてきた。そして、自然との関わりが疎遠になる中、人と自然との距離をもっと縮め、森林の自然循環を維持していく必要がある、と考えるようになった。建物内では木部をもっと露出させ、建築の文化を変えていくことが今求められているはずだ」(樋上氏)
ただ、こうした熱い思いの実現に向け、乗り越えるべき課題は少なくなかった。
髙惣木工ビルで木造の実現性を確信
プロジェクトは、樋上氏がビルディングランドスケープ(東京・豊島)に賃貸マンション建設の相談を持ち掛けたことに端を発する。折しも、シェルターがJR仙台駅前に木造賃貸オフィスビル「髙惣木工ビル」(仙台市、2021年2月完成)を建設していた時期と重なった。このビルは、日本農林規格(JAS)製材品を100%用いた木質耐火部材「COOL WOOD」で柱・梁を構成し、地上7階建ての躯体を木造軸組構法でつくり上げている。このビルが先導役を果たした。
ビルディングランドスケープ共同代表の山代悟氏は相談を受けた時の思いを次のように明かす。「髙惣木工ビルの事例があったからこそ、地上8階建て程度なら木質耐火部材を用いた軸組構法で建設できるという確信が得られた。このビルがまだ建設されていない段階に相談を受けていれば、新たな技術開発に取り組む必要があるので『すぐには対応できない』と言わざるを得なかった」
発注者のオリオン建設にとっても、髙惣木工ビルの事例には事業面から背中を押されたという。「木造マンションの建設にどの程度の建設工事費が掛かるのか見当がつかない中、このビルの単価を聞くと『鉄筋コンクリート(RC)造のビルと同等程度』とのことだった。それなら賃貸事業として成り立たせられるはずだ、と判断した」(樋上氏)
そうして木造マンション建設へのチャレンジが始まった。とはいえ初めての経験だったことから、施工にはさまざまな苦労を重ねることになった。
「1時間耐火構造や2時間耐火構造と開口や防水の納まりに不慣れだったことから、手戻りが発生した箇所があった。サッシも当初はうまく納まらず、手直し工事が発生してしまった」。樋上氏はそう振り返る。

右のCLTの耐震壁を現しで仕上げるにしても、そのさらに右手の外壁には1時間耐火構造が求められる。そのため、外壁側から耐火被覆を行えるように、ツーバイフォー(2×4)材で組んだ木製パネルを用いて耐火被覆をプレファブ化した(写真:生田将人)
仮防水の機能を担う構造用合板の開発へ
結果、工期が伸び、建物完成が当初の予定から半年ほど遅れる憂き目に遭った。「それによる損失は授業料のようなもの。木造ビルや木造マンションの施工にはやはり経験が欠かせない。それでも実績が徐々に増えれば、木造ビルや木造マンションの建設がもっと広がっていくことは間違いない」(樋上氏)
木造マンションの建設工事を手掛けたのをきっかけに、オリオン建設には新規の木造化・木質化プロジェクトの相談や見積もり依頼が持ち込まれるようになったという。「例えばS造で計画していた福祉施設を木造に変更したい、という相談を受けている。また大手デベロッパーからは、地上2階建ての木造商業施設を建設するにあたって、見積もり依頼を受け、結果工事を受注した。この会社は環境配慮のコンセプトを貫き、建設工事費がかさんでも計画を実行に移すという姿勢に揺るぎがなかった」(樋上氏)
木造・木質のさらなる普及に向けた条件として、建築設計者の山代氏は建材や設備での対応強化の必要性を次のように指摘する。「木構造や防耐火については基礎的な手法が確立されてきた。次は、サッシなどの建材やエレベーターなどの設備を木構造の中にどう納めていくか、という課題に向き合っていく必要がある」
山代氏自身も木造・木質の普及に向け、雨対策という現場の課題に向き合っている。
木造の建設現場では、S造やRC造に比べて雨を避ける必要があることから、養生に関する施工手間が多く発生する。そこで、(1)養生手間の削減(2)構造用合板の品質維持(3)下階への水漏れによる石こうボードの張り替え手間・コストなどの削減――を目的に、仮防水の機能を担う構造用合板を開発中だ。開発主体は構造用合板メーカーである日新(鳥取県境港市)。林野庁補助事業「都市木造建築技術実証事業」の2024年度採択事業の1つとして、次の時代を担う新しい部材の開発を進めている。
この構造用合板は、ウレタン塗装やフィルムなどの加工を施し、雨水の濡れに耐えられる仮防水の仕様となる。施工段階でも、雨水の濡れに耐えながら、柱・梁と一体で高耐力の構造部材を構成する仕組みの構築を目指している。
リブウッド大阪城(都島プロジェクト)
所在地:大阪市都島区
地域地区:商業地域、防火地域(一部準防火地域)
敷地面積:648.38m2
延べ面積:2220.89m2
構造:1~3階/鉄骨造、4~8階/木造
階数:地上8階
用途:共同住宅、事務所、店舗
着工:2022年3月
完成:2024年10月
建築主:オリオン建設
設計者:ビルディングランドスケープ
構造設計者:U'plan
設計協力者:シェルター(構造・防耐火アドバイス)
施工者:オリオン建設・新宅工務店特定建設工事共同体
木材使用量:379m3(うち国産材346m3、設計時)」
この記事を読むと、高さ20m程度のマンションであれば、木造でのマンション建設も可能なようです。コストはRC造とほぼ同等とのことなので、現在24年の耐久性がアップできれば、一般的な工法になるのも時間の問題かもしれません。現状はまだまだ環境に配慮した建築物ということで建設されているのが一般的なようです。この記事を読むと、現在の課題はサッシの防火性能とのこと、木造のサッシは一般的な住宅用のサッシしかなく、ビル用サッシのような、耐風性能・気密性脳・水密性能・耐火性能のアップが課題してあるようです。
Comments