
東京都は10年ぶりに改定した首都直下地震の被害想定で、発生後に起こりうる五つの「シナリオ」を時系列で示ししました。今回はその中のマンションでのシナリオを紹介します。
■“陸の孤島”タワーマンションにいるあなたは…
太郎さんの妻・花子さん(45)は、地震発生時、仕事を終え子どもたちと自宅にいました。自宅は湾岸エリアにあるタワーマンションの25階です。
高層階のため、長周期地震動で歩けないほどの大きな揺れに見舞われました。固定していなかった本棚は倒れ、キャスター付きの家具は大きく動きました。マンションの建物自体に目立った被害は無いようですが、全館が停電し真っ暗です。災害に備えた備蓄はしておらず、家には最低限の食べ物しかありません。 花子さんは食糧を調達しようと部屋を出ます。エレベーターは停止しているので階段で地上に降りました。近くのコンビニを何軒も回りますが、生活必需品はあっという間に売り切れてしまっています。周辺の避難所はどこも食料などを求める人であふれています。花子さんは仕方なくマンションに戻り、25階まで階段を上って自宅に帰りました。 翌日になっても停電は続いています。水道から水が出なくなりトイレも使えません。スマートフォンは圏外のまま。太郎さんとは丸1日連絡が取れていません。ご近所づきあいも薄く、困り果ててしまいました。
自宅での避難生活
<発生直後~1日後>
マンション高層階の自宅で強い揺れに襲われた。発生直後は高層マンションでは長周期地震動で歩けないケースもある。家具の転倒等でけが人が発生するおそれもある。電気、ガス、水道のライフラインは不通に。幸い、室内に大きな被害はない。周囲に火災の危険性はなさそうで物資の備蓄もある。在宅での避難生活を始めた。ただしマンションのエレベーターは停止し、階段を何段も上り下りして外出するのは一苦労なのに、スーパーに行っても食料品や生活物資は売り切れている。帰宅してからもトイレが使えないのが厄介だ。
・停電・断水した不便な生活環境の中で在宅避難を続けなければいけないケースもある。
・エレベーターが復旧しない状態で、家庭内備蓄品が枯渇した場合、自宅にとどまり続けることが不可能になるケースもある
<3日後~1週間後>
被災した発電所の稼働停止で、計画停電が始まった。自宅の固定電話、インターネット回線が使用不能になり、エアコンも使えなくなった。1週間後、電力は復旧したものの、保守管理業者による点検を終えていないためエレベーターが使えない状態が続く。
・避難所は多くの人で、廊下や階段まで人があふれるおそれがある
・避難所に非常電源や発電機の燃料がなくなった場合には、スマートフォン等が充電できなくなり、連絡も情報収集もできなくなる。
<1カ月後>
身動きの取れない生活のため、体調が思わしくない。なんとか外出してスーパーに行ってみても、余震を恐れる人たちによる買い占めが起き、ほとんど品物がない。
・避難所に避難した人はエコノミー症候群等で、高齢者等の「災害関連死」のおそれもある。
まとめ
地震発生直後は各住戸の安全確認を行うことが重要です。新耐震のマンションであれば、マンションが倒壊するおそれはほぼありませんが、家具等の転倒による事故が想定されます。耐震補強金物等で、家具の固定をしっかりしておくことが必要です。地震発生直後にはマンションの防災委員会等で手分けして、各戸の安否確認を行う必要があります。
発生後のシナリオでは、エレベーターの停止があげられます。地震で緊急停止したエレベーターはエレベーター保守点検業者の係員が来て安全性が確認できないと運転が再開できません。都内のエレベーターすべてが停止するため、復旧まで1週間程度かかる場合も想定されます。地上まで下りるのに時間がかかる超高層マンションでは、1週間程度の水や非常食を用意しておく必要があります。
マンションの住人は基本的に在宅避難が一般的です。そのため支援物資等は集会室等に設置された臨時の防災対策本部に運び込まれます。また、各戸の困りごとも、この防災対策本部で意見が集約され、対策が行われることとなります。
各マンションでは、上記シナリオを参考に防災マニュアルを作り、防災訓練等で実際に運用してみることが重要です。
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