2022年2月4日のAERA.dotの表題の記事を紹介します。
「新築マンションの高騰が止まらない。1月25日に公表された不動産経済研究所の調査で、2021年に首都圏で発売された新築マンションの平均価格が6260万円になったことが明らかになった。バブル期の1990年に記録した6123万円を超える価格となった。また同研究所の調査では、東京23区に限ると、2021年8月の平均価格は1億812万円と1億超えを記録した。なぜ新築マンションはここまで高くなってしまったのか。大手マンション分譲会社の元社員で『マンション大全』(朝日新聞出版)などの著書もあるマンション評論家の三井健太氏がその“カラクリ”を解説した。
私は大手マンション分譲会社に長年勤務し、設計、企画から営業までマンションビジネスにまつわるほとんどの実務を経験しました。そのため、新築マンションの価格がどのように決まっているかは経験則から分かっています。
そこで、まずは新築マンションを売り出すデベロッパーが、どのように価格を決めているか、そのプロセスから説明しましょう。
たとえば、1戸の平均価格が7000万円のマンションで、総戸数が200戸くらいの「都区内の大規模マンション」を例に考えてみましょう。
概算ですが、この立地・規模感だと「用地費」が約60億円、「建設費」が約60億円というのが2大原価になります。そこに広告宣伝費が約5億円、販売委託費が約5億円、原価総額は130億円くらいでしょう。そこにデベの利益約13億円が乗ってきます。
つまり、マンションにかかる原価のほとんどは「用地費」と「建築費」なのです。この2大原価の上昇がマンション価格が高騰し続けている一番の要因です。
昨今はマンション建設に向く売り地が少ないので、条件の良い売り地には買い手が殺到します。その結果、土地の価格は地主の期待以上になり、どんどんつり上がっていきます。
最寄り駅が人気のあるターミナル駅、駅に近い、環境が良いなどの条件がそろえば分譲価格が高くなっても売れると判断し、デベロッパーは高値でも用地を取得しようとします。それに加えて重要視されるのは、敷地の広さです。広い敷地には大型のマンションが建てられるので、建築費を抑え込むことができます。マンションを建設するゼネコンもできるだけ大型案件を受注したいと考えているので競争も激しくなり、結果的にデベロッパーの思惑に近い金額で発注できるのです。
立地条件の良い土地、しかも規模の大きい土地であれば、付加価値の高いマンションが建設できるので、デベロッパーは強気な姿勢で用地買収に臨みます。マンション用地は多くが競争入札方式なので、高値で入札したほうが購入の可能性は高いため、マンション業者にとって垂涎の用地は競りあがって、どんどん高くなっていくのです。
次に建築費ですが、これも年々値上がりしています。
2011年3月の東日本大震災以降、多くの職人が復興事業に従事することになったため、職人の不足が指摘されてきました。また、そこに東京五輪の競技施設建設工事が重なったため、資材費や人件費が値上がり、建築費はずっと上昇基調にあります。国土交通省の「建築工事費デフレータ」(21年10月29日付)をみると、2015年度を基準値「100」とすると2020年度は7・9ポイントの上昇、2011年から比較すると13・2ポイントも上がっています。人件費については、同じく国交省の「公共工事設計労務単価」を参照します。算出方法が変更された2013年度から比較しても、2021年度は30%以上値上がりしています。2013年以降は不動産市況が好調でマンションのみならず、一戸建て住宅もどんどん建てられていることから、この傾向はしばらく続くものと思われます。
■新築マンション価格は「売り手」が決める
前述したように、今や東京23区内の新築マンションの価格は1億円を超えることも多く、庶民の手が届く価格ではなくなっています。しかし、いくら2大原価が上昇しているとはいえ、需要と供給のバランスが崩れれば価格は調整されて下がりそうなものです。しかし、新築マンションはそうはなりません。次にその理由をご説明します。
わかりやすいように中古マンションと比較してみましょう。中古マンションは、まず「売り主」である現居住者が仲介会社を通して、周辺相場などを参考に売り出し価格を決めます。売り出し価格を決めたら、依頼した業者の独自サイトとSUUMOやHOMESといった大型のサイトに掲載して買い手を募ることになります。つまり、すぐに「市場」に出して反応をみます。広告の効果で内覧希望者が多ければいいのですが、非常に少ない場合もあります。この価格では売れないとわかれば、売り主は価格の引き下げを決断することになります。
ここで重要なのは、売値は「市場」が決めているという点です。仲介会社の査定が高くても、売れなければ値を下げざるを得ないのです。つまり中古マンション価格は市場、すなわち買い手の動向によって決まる側面があります。価格は買い手が決めているようなものなのです。
一方、新築マンションも、売れなければ値下げをしなければならない事態がないわけではありません。しかし、企業経営の立場から値引きの可能性は限りなくゼロに近いのが実態です。
前述の通り、分譲マンションの利益率は10%程度と多くはないからです。また、値引き販売が定価販売した先行契約者に知られると、非常に厄介なことになるため、値引き販売に踏み切るためには、水面下でひそかに進めるほかないという難しさも抱えているのです。
新築マンションの価格は「売り手デベロッパー」が決めており。市場や買い手の意向は反映されにくい構造になっているのです。
■売れなくても値引きはしない理由
いくら新築マンション市場が活況とはいえ、分譲価格が高ければ売れ残りは発生します。
新築マンションは着工からすぐに販売を開始しますが、数次に分けて販売を行うのが通例です。「第1期新発売」や「最終期新発売」といった売り出し方です。
たとえば100戸のマンションを第1期で20戸売り出して完売すれば、次の広告では「おかげ様で第1期完売。引き続き第2期を発売」などと宣伝します。
それを見た買い手候補者は、人気のあるマンションだと錯覚します。ここが売り手の狙いなのですが、実際は20戸しか売れていないわけです。これを繰り返して行くのですが、この手法が通用するのは最初の半年か長くても1年です。よく売れているように見せ続けても、実際には竣工した時点で売れたのは7割で、3割は売れ残っている新築マンションも少なくありません。
いわゆる「完成在庫」となってもデベロッパーが値引きをしないのには理由があります。前述したように、今は適したマンション用地が少ないことから、新築マンションの供給戸数は10年前に比べると半減しています。価格が高くても競合する物件が少ないことから、時間はかかっても売り続けていれば、やがては買い手が見つかり、完売してしまうのです。とはいえ、完成在庫を抱える期間は短くしたいので、売り主業者は販売促進のために、あの手この手を繰り出しますが、値引きという「奥の手」を打ち出すことはほとんどありません。
ただ例外的に新築マンションが値引き販売をいとわない時期があります。決算期に近いこと、かつ建物が竣工する時期です。その時になれば、交渉次第で多少なりとも安く購入することが可能です。ただ、冒頭に示したように、そもそもマンション事業におけるデベロッパーの利益は10%もありません。「売ってしまいたい」強い理由がない限りは、5%程度の値引きが限界だと知っておいた方がいいでしょう。
総合すると、今の新築マンション価格が「近いうちに下がる」と予測できる環境要因はほとんどありません。住宅は、買いたい時が買い時、とも言われます。「下がるまで待とう」と思っていると、機を逸してしまう可能性があることは覚えておいた方がいいでしょう。」
このブログの内容で精査すると200戸7000万円のマンションの内訳は土地代3000万・建築費3000万・広告宣伝費250万・販売委託費250万・利益650万ということになります。ブログにもあるように建築費は地方でも戸当たり2000万円が普通となってきています。土地代が0円でも、上記内容で試算すると売値は戸当たり3000万近い金額になってしまいます。かつては、戸建てか?マンションか?と家を買う時に迷ったものですが、戸建てであれば地方では土地付きで2000万円でも購入可能です。マンションの高額化に伴い、必然的にマンションは街中の利便性のいい場所でなければ売れないという状況になっています。
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