2024年8月16日のAERAdot.の表題の記事を紹介します。
「集合住宅の修繕工事の原資「修繕積立金」の不足が深刻化している。国土交通省によると、積立金不足のマンションの割合は、2018年度までの5年間で約2倍に増えた。一方で、積立金を積極的に運用し、大きな利益を生み出したマンションがある。
15年で2億4000万円の利益
「15年間の資産運用で、約2億4000万円の利益が出ました」
そう語るのは、神奈川県川崎市のタワーマンション「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」の管理組合法人で代表理事副理事長を務める志村仁さんだ。
この利益は、敷地内駐車場を「外部貸し」するなどの実物資産運用と、修繕積立金を原資とした金融資産運用による利益を合わせた金額だ。
近年、駐車場の外貸しを行う集合住宅は珍しくない。だが、「管理組合が積極的な資金運用を行っているとは言いがたい」(大和ライフネクスト・マンションみらい価値研究所)現状がある。そんな状況下で、同管理組合法人は、現在、20億円強の資金を社債で運用している。
なぜ、彼らはそこまで「増やせた」のか。
修繕積立金を「運用して増やす」
集合住宅は一定年数の経過ごとに修繕(長期修繕)を計画的に行う。それを目的に積み立てられるのが修繕積立金だ。
だが、老朽化が進んだ集合住宅では、居住者の高齢化も進んでいる。大規模改修に向け、積立金を値上げしようにも「生活に支障が出る」などの理由で困難な場合が少なくない。
そこで、注目されるのが「運用して増やす」という選択肢だ。管理組合にとって積立金は毎月の定額収入だが、改修などで実際に支出が発生するのは数年から十数年ごと。つまり、多額の資金が存在する期間があるということだ。
積極的な運用はわずか
国交省が行った「令和5(2023)年度マンション総合調査」によると、修繕積立金制度がある全国1522件の管理組合に、積立金の運用先を複数回答で尋ねたところ、以下のような結果になった。
銀行の普通預金は1169件(76.8%)、定期預金は534件(35.1%)、利息がつかない決済性預金は390件(25.6%)、住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」は290件(19.1%)、積み立て型マンション保険は22件(1.4%)、国債は2件(0.1%)など。
管理組合の資産運用では、基本的に、元本割れをしない運用が重視される。
しかし、マンションみらい価値研究所は「低金利の時代、リスクの低い金融商品だけでは、資金は増えない。修繕積立金不足の解消などの課題解決には役立たないことは明らか」と指摘する。
「定期預金はもったいない」
武蔵小杉駅のすぐ近くに59階建ての「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」が竣工したのは09年。794戸に約2000人が暮らす。
竣工の翌年、志村さんは管理組合の副理事長となった。当時は、修繕積立金は定期預金で運用していた。国債に切り替え始めたのは13年で、同年7月に開かれた定期総会がきっかけだった。百数十人の組合員が集まるなか、1人の男性が、こう言った。
「修繕積立金は、今後15年ほどは使いませんよね。その間、定期預金のかたちで置いておくのはもったいない。あまり危ないことはしなくていいと思いますが、例えば、『国債』がありますよね」
この発言を聞いた志村さんは、ハッとし、「ああ、そうだな」と思った。ただ、「微妙な時期だな」とも思ったという。
00年以降、長期金利は1~2%程度で推移していたが、13年4月に日銀は黒田東彦総裁(当時)のもとで大規模な金融緩和策に踏み出した。いわゆる「黒田バズーカ」である。これを機に金利は大きく低下していく。
「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」のエントランスホール=神奈川県川崎市、米倉昭仁撮影
資産運用のプロから見れば
それでも国債を買い始めた13年に、10年国債の利回りは0.7%前後。定期預金の利率は0.15%前後(1000万円以上、5年)だった。
しかし、なぜ志村さんらは管理組合が債券で資産運用をする際の定番「すまい・る債」ではなく、「国債」を選んだのか。
「資産運用のプロからすれば、『すまい・る債』も『国債』も同等商品です。すまい・る債のほうが『流動性』が高いぶん、利率が低い。それだけです」
「流動性」は、ひと言でいうと、「売買のしやすさ」である。
「元本がほぼ確保されている国債なので、購入に反対する組合員は誰もいませんでした」
国債の利率ゼロに「高格付けの社債しかない」
16年1月、日銀がマイナス金利政策を導入すると、国債の利率はほぼゼロになった。
17年夏、志村さんは「国債ではまったく利益が出ない」と、理事会で問題提起した。そして、「資産運用のプロ」を住民から募り、審議会を立ち上げることを決めた。すると、5人ほどのメンバーが集まった。
「証券会社や投資銀行の現役社員、OB、信託銀行の資産運用の専門家、ヘッジファンドをやっている人など、プロフェッショナルなメンバーがそろいました」
審議会では、「マンションの修繕積立金」を原資とした場合、とりうるリスクと収益性を勘案し、どのような金融商品を購入すべきかを検討した。
2つのリスクの間をどうとるか
現金や預金はインフレリスクに弱く、実質的な価値は目減りしてしまう。一方、株式は価格の変動が大きい。そのため、災害などが発生し、緊急補修工事が必要で現金化する際、株価が値下がりしているリスクがある。
「この2つのリスクの間をどうとるか。最初は皆さん、『修繕積立金での資産運用はやったことがない』と、かなり悩んでいました」
最終的に、元本が毀損する可能性が極めて小さく、かつ利率が高いものは「高格付けの社債しかない」という結論にいたった。
1回あたりの上限は「約1億円」
「格付け」とは、債券の償還確実性を知るための指標で、「信用力が最も高く、リスクは限定的」な「AAA」から、「倒産など、すでに債務不履行に陥っている状態で元利の回収は不可能」な「D」まで、基本的に10段階で評価される。そして、「高格付け」を「A+以上」と定義した。
また、1回あたりの債券購入額の上限を約1億円と決めた。
「上限金額は『絶対』ではありませんが、例えば、ある会社の債券の利率がよいからといって10億円ぶんも買ってしまったら、何かあった際のリスクの分散ができなくなります」
長期修繕計画に基づいて、償還までの期間は「10年まで」と定めた。
59階建ての「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」=神奈川県川崎市、米倉昭仁撮影
売買ルールを規約に明記
18年1月、臨時総会を開催し、これらの売買ルールをマンション管理規約の「財務会計細則」に明記した。
「その後、社債を購入することへの反対やクレームは理事会が把握しているかぎり、ありません」
これまでに三井不動産、日本生命、三菱UFJ銀行、関西電力などの社債を購入してきた。利回りは年0.4~1.2%程度と、差がある。しかし、「どの銘柄を買うか」を話し合うことはないという。
理事会に資産運用のプロはいない
「普段、理事会に資産運用のプロはいません。あるのはルールだけです。それに則って、自動的に運用するのが最も費用がかからず、簡単なのです」
だが、もし誰かが購入する銘柄を決めたら、「なぜ買ったのか」と、後に問われることもあるのではなかろうか。
「理事会の誰かが決めるのではなく、財務会計細則に書かれたルールを証券会社に提示し、証券会社から債券販売の話があったら、選べる商品のなかで『一番利率のよいもの』を原則、機械的に買っていく。ただ、それだけです」
現在、武蔵小杉駅周辺には10棟以上のタワマンがそびえる。
「どのマンションも竣工からしばらく経てば、新築時のプレミアははげ落ちます。その後は、管理の『実力』で資産価値に差がついてくるのだと思います」」
低金利の中、銀行に預けていてもほとんど金利はつかず、残高証明費用で赤字になるケースもあります。またペイオフ対策として複数の銀行に1千万円以下で預けると口座数も膨大になり管理するだけでも大変です。この記事にあるマンションでは入居者が知恵を絞り、比較的安全である社債を購入することで修繕積立金の運用を行いました。この記事にもありますが、金融の予備知識のないマンションであれば、住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」を購入するのが一番だと思います。管理計画認定制度を受けたマンションであれば、預入金利は0.55%、1億円預ければ10年後には550万円の金利が付きます。
国は個人資産についても「貯蓄から投資へ」とアピールしています。マンションの修繕積立金についても、投資を考える時代が来ているのかもしれません。
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