
暖かい居室からトイレや洗面所に行くと、室温差に思わず震えてしまうことはないでしょうか。この気温差が、実は高齢者にヒートショックを引き起こす原因にもなります。
ヒートショックとは、家の中の急激な温度差により血圧が大きく変動することで失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こし、身体へ悪影響を及ぼすことです。一方で、生活環境を改善することで、未然に防ぐことが可能となります。
消費者庁の資料によると、平成 27年の家庭の浴槽での溺死者数は4,804人にのぼり、うち高齢者(65 歳以上)が約9割を占めています。特に 75 歳以上の年齢層で、10年前よりも大きく増加しています。また、東京都健康長寿医療センター研究所の2014年の調査によれば、外気温が低くなる1月は、入浴中に心肺機能停止となる人が最も少ない8月のおよそ11倍で、この増加の原因はヒートショックによるものとしています。

入浴中のヒートショック等による意識障害により浴槽に倒れ、沈み込んで溺死する、というパターンが多いといわれています。
真冬は、暖房をつけている暖かい部屋と暖房をつけていない浴室やトイレの温度差は、10℃を超えるといわれています。暖かい部屋から寒い浴室に移動すると、体は室温の急激な変化から体温を調節するために、ブルブルと筋肉を震わせて熱を作ります。同時に血管を細くして、皮膚の下に流れる血液の量を減らし、体の熱を外に逃がさないように調節します。血管が縮むと、血液が流れにくくなるので、血圧は急上昇します。
しかし、浴槽の温かい湯につかることで、血管は拡張し、急上昇した血圧が、今度は急激に低下してしまうのです。その後も、浴槽から出て体を洗ったり、あるいは熱い湯船からいきなり出て寒い脱衣所に移動することなど、一連の入浴行動の中で血圧は急激に大きく変動します。

健康な若い人なら、血圧の急上昇や急下降にも耐えられるかもしれませんが、高血圧や糖尿病、脂質異常症など動脈硬化が進行した高齢者では、血圧の上昇による心筋梗塞、致命的な不整脈、脳梗塞や脳出血などを引き起こしやすくなっています。反対に、血圧が低下することでめまいやふらつきが起き、または意識を失って、転倒や溺死という結果を引き起こすこともあるのです。

戸建て住宅に比べて、マンションの方が断熱性が高いため、ヒートショックは起こりにくいですが、事前に対策することで、ヒートショックを防いで欲しいと思います。
ヒートショック対策1.【浴室と脱衣所を事前に暖める】
お風呂に入る前にシャワーでお湯を出しておいて浴室を温めたり、浴槽のふたをせずにお湯をためて湯気で浴室を温めることも有効的ですが、この場合、脱衣所が寒いままですと浴室との温度差が広がってしまうので、脱衣所にも小型ヒーターなどの設置が必要です。 浴室乾燥機であれば、暖房機能を活用し、入浴前に20分程度(電気式100Vの場合)つけておくことでお風呂全体が温まります。また、浴室のドアを開けておけば、脱衣所も一緒に温めることができるので、おすすめです。
ヒートショック対策2.【お風呂の湯温は38度~40度の低めの温度で】
ヒートショック対策には、お風呂の湯温にも注意が必要です。 寒い時期は、熱いお湯で温まりたいと思いますが、ぬるめの38℃と熱めの42℃では、血圧変動に大きな差があります。42℃の熱めのお湯では入浴直後に血圧が大きく上昇し、お風呂から出る時にまた大きく下降するため、この差が大きいほどヒートショックの危険度が高まります。 ヒートショックは、血圧の大きな変化が身体に負担をかけるので、『浴室内の温度は高く、お湯の温度は低く』を心がけましょう。
最近のマンションでは浴室の換気扇が標準で「24時間換気機能付き浴室暖房機」になっています。冬場の入浴前や入浴中は、暖房機能を使って浴室内を温めておきましょう。雨天時の洗濯物の乾燥にしか使わないという方もいらっしゃいますが、もったいないです。私のお勧めは、夏場に冷風機能を使って、お湯につかっていない頭部を冷やすことです。熱い夏場でも、露天風呂につかっているような爽快感を味わえます。
また、古いマンションにお住まいの方は、浴室リフォームの際には、換気扇を24時間換気機能付き浴室暖房機に変更することを、是非お勧めします。
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