ここ数年、マンション管理会社の業務内容に変化が見られるようになりました。大手の管理会社は、居室内(専有部分)での困りごとやトラブルにまで対応するサービスを提供し始めています。
元来、管理会社が提供する管理サービスは「共用部分」を対象としていました。具体的には以下の4業務を管理会社の基本業務として挙げています。
<管理会社が管理組合に提供する基本4業務>
(1)事務管理業務
(2)管理員業務
(3)清掃業務
(4)建物・設備管理業務
こうした4業務に加え、新たに「専有部分」を対象としたサービスを各社が提供し始めています。居室内で発生したトラブルに専門スタッフが駆けつけるサービスや、育児・介護・健康などの相談に応じるサービス、さらに、ベビーシッターやハウスクリーニングといった家事を代行するサービスまで管理会社が請け負うようになっています。危機意識を持つ管理会社が新たな収益機会を求め、専有部分サービスへと業務を拡大しています。
専有部サービスの3つの柱 「駆け付けサービス」「生活相談」「ライフサポート」
東京建物の系列管理会社である東京建物アメニティサポートは、マンション専有部分への24時間生活支援サービスを開始しました。「ブリリア暮らしのホットライン」と名付けられた当該サービスには大きく3つのメニューが用意されており、(1)カギの紛失やガラスの破損、水回りや電気トラブルなどが発生した際に専門スタッフが駆けつける「緊急駆け付けサービス」、(2)家事代行に健康相談といった日々の暮らしの困りごとに対応する「ソフトサービス」、さらに(3)引越しや売却・賃貸などの不動産に関する相談に対応する「その他サービス」が管理委託契約を締結しているマンション居住者に提供されます。 東急コミュニティーも専有部サービスを刷新。すでに2009年から開始していた専有部サービス「家族力・プラス」の内容を見直し、利用回数の制限撤廃、一部の有償サービスの無料化、さらに年金や税金、育児、ペット、医療などに関する電話相談の無料受付も開始しました。 あなぶきハウジングサービスも「ハピサポ」の名称で、水回りや鍵・ガラス・電気設備等のトラブル対応や、お部屋内の家具移動・照明器具の交換・訪問在宅確認サービス等の高齢化サービスも実施しています。
その他、大手では大京グループの大京アステージが「住まいの駆けつけサービス」や「生活サポートサービス」を提供しており、また、野村不動産グループの野村リビングサポートも2010年から専有部サービス「リビングQコール」を導入。利用者の満足度向上に努めています。こうした傾向は独立系の管理会社にも当てはまり、日本ハウズイングでは外部の運営会社と協力して、専有部サービス「安心快適生活」を受託管理組合の居住者に提供しています。 近年、分譲マンションでは居住者の「高齢化」と「単身化」が進展しています。国土交通省の「平成20年度マンション総合調査」によると、平成11年度には25.7%だった「世帯主年齢60歳以上」の割合が、同15年度には31.7%、同20年度には39.4%へと拡大しており、全体の約4割が60歳以上という高齢化に直面しています。 同様に「単身化」も深刻で、誰にも看取られずに1人暮らしの高齢者が死亡するという孤立死が社会問題になっています。各自治体は対策に乗り出していますが、十分とはいえません。こうした時代の変化に呼応すべく、マンション管理会社も動き始めています。
2009年から専有部サービス「家族力・プラス」をスタートさせている東急コミュニティーは、マンション居住者の変化について、「少子高齢化や小規模世帯の増加、非婚・晩婚化による単身世帯の増加などにより、特に都心のマンション居住者のライフスタイルや価値観、ニーズはますます多様化している」と分析。「ファミリーマンションといえども家長の高齢化や家族数の減少など、家族のライフスタイルは変化している」との認識を示しています。つまり、専有部サービスが“時代の要請”であることを暗に示唆しています。
「ブリリア暮らしのホットライン」を開始した東京建物アメニティサポートも、導入の経緯を「共働き世帯・高齢者世帯・単身者世帯が増加したことなどに伴うお客様の価値観・ニーズの多様化に対応すべく、共用部分だけではなく専有部分へも生活支援サービスを拡大することとした」と説明しています。共用部分のみをサービス範囲とした管理業務の提供では、マンション居住者のニーズを十分に満たせなくなっているのです。これまでは共用部分のみを対象としていればよかった「マンション管理」という概念そのものが、変化し始めている証です。
他社との「差別化」を図るべく、専有部サービスを積極導入する管理会社
専有部分へのサービス拡大は競争が激化するマンション管理業者の「差別化」のためのツール(手段)としても利用されています。 新築マンションの市場規模が拡大しない中にあって、管理会社が受託戸数を拡大させるのは容易ではありません。他社の管理物件をリプレースで受注するためには、他社との差別化を図り、自社の優位性をアピールするしか手立てはありません。そのツールとして専有部サービスは威力を発揮します。 今後、「専有部分」「共用部分」という“垣根”はなくなり、マンション内で発生した困り事すべてに対応できる機動力が管理会社には求められます。マンション居住者の求めに応じ、あらゆるニーズに対応できる能力が管理会社には必要となります。その足がかりとして専有部サービスの普及・拡大は大きな意味を持ちます。
「マンション管理業」=「住生活提案サービス業」へと管理会社の認識も変わってきました。新しいサービスを提供することで、入居者をターゲットに新たなビジネスを行う、マンション管理会社には、まだまだやり方次第で大きなビジネスチャンスが広がっていると思います。
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