
2021年4月24日のダイヤモンドオンラインの株式会社シーピーアイ代表取締役須藤桂一さんの表題のブログを紹介します。
「デべ系の管理会社だけでなく独立系の管理会社も値上げ要求をするように
現在はどのような動向になっているか見ていこう。
まず、最低賃金の現状はどうなっているだろうか。近年の東京都における最低賃金について推移を見てみると、
2015年:907円 2016年:932円(+25円) 2017年:958円(+26円) 2018年:985円(+27円) 2019年:1013円(+28円) 2020年:1013円(+0円)
となっている。20年が前年から据え置きなのは、新型コロナウイルスによる景気低迷が影響しているためだ。上昇傾向にあった最低賃金も一段落という印象ではあるが、コロナ問題が収束したのちにはまた上昇トレンドに向かうと考えられる。
19年の記事の時点では、デベロッパー系の管理会社が管理委託費の値上げを要求するケースが多く見られた。しかし、最近では独立系の管理会社も値上げを申し入れるケースが増えているうえ、以前にも増して強気の値上げ要求が目につくようになっている。中には、いきなり契約解除を通告してくる管理会社も少なくない。
値上げ要求の態度から分かる管理会社の本音
管理会社が契約解除を求めてくるケースでは、大きく次の二つのパターンがある。
1.「どうしても契約を解除させていただきたい」
もし、管理会社がこうした態度に出てきた場合、その管理組合は管理会社から見て“大きなお荷物”のような存在になっているケースが多い。
例えば、「管理組合から過剰な要求がある」「毎日のように理事や区分所有者から電話がかかってくる」「モンスタークレーマーがいて手に負えない」など、管理会社の手に余る状況になっているようなマンションが該当する。
管理会社にしてみれば、受け取っている管理委託費以上の負担があり、その対応に充てているフロント担当者などのリソースを、できれば別の管理組合に向けたい、というのが本音だ。
仮に、少しばかり管理委託費を値上げしてもらったところで、負担の多い業務に会社のリソースを割かなければならない状況は変わらない。であれば、“お荷物”マンションとは契約を解除して、もっと別の“うまみ”のあるマンションに乗り換えるほうが得策だと考えるのは当然だろう。だから、「どうしても契約を解除させていただきたい」という態度で出てくるわけだ。
この場合、管理会社は管理組合に対して、リプレイス(管理会社変更)のためのコンサルタントの紹介や、リプレイスまでの助言、指導など、思いのほか丁寧に対応してくれる。「契約を解除させてくれるなら、引き継ぎまでは丁寧にやりますよ」という、言ってみれば管理会社からの「お餞別(せんべつ)」のようなものである。
2.「ぜひ、管理委託費の値上げをお願いしたい」
管理会社が強い態度でこのように申し入れてきた場合は、管理会社にとって実際に「今の管理委託費では、これ以上やっていくのはかなり厳しい」という状況だ。
管理員や清掃員、コンシェルジュなど、マンションの管理業務は人間の労働力に頼る割合の多い労働集約型産業であり、人件費率が非常に高い。
また、彼らは基本的に管理会社の社員ではなく、下請けや孫請けで雇用されたパートタイマーであり、その賃金も最低賃金、あるいはそれに少しばかりのプラスアルファ程度の設定となっている場合が多い。そうした中で、最低賃金の引き上げが必須となれば、管理会社にとっては大きな打撃となる。
バブル崩壊後、30年近くもデフレ経済下にあった中では、管理組合に対して「管理委託費の値上げをお願いしたい」などとは口が裂けても言える状況ではなかった。しかし、最低賃金の引き上げが社会全体の共通認識となってきたために、ようやく管理会社が対等な立場から値上げを要求できるようになった、というのがここ数年の状況だ。
管理会社としては、最低賃金の上昇を受けて利益が圧迫されているという実情にあることから、値上げをしてもらえないと本気で立ち行かなくなる管理組合に対しては、かなり強気で臨んでくる。「値上げを受け入れていただけないなら、契約解除も視野に入れざるを得ない」と、契約解除を人質に取るような管理会社もあり、私のところにもそうした値上げ要求の圧力に困った多くの管理組合から相談が寄せられている。
一方で、最低賃金がどんどん引き上げられているにもかかわらず、「管理会社から値上げの相談などは一言もない」というところは、管理会社にとってもうけの多いマンションである確率が高い。
最低賃金が多少上昇しようが、管理会社の利益を圧迫するほどのダメージはないわけで、完全に管理会社の“食い物”にされているマンションと言っていいだろう。
管理委託費の値上げがマンションのバリューアップにつながる?
値上げ交渉の際に管理会社が取る対応は、その立場や経営方針の違いによって1.と2.に分かれるが、どちらの対応を取るにしろ、管理委託費の値上げ要求は管理会社にとっても「賭け」の要素が含まれる行為だ。
管理委託費の値上げを要求すれば、管理組合側が金額の妥当性を検証するために、必ず相見積もりを取る行動に出ることは分かりきっている。1.の管理会社は、半端な金額の値上げくらいでは契約を継続する意味がないという判断をしているだけに、「値上げは不当だ」として管理組合から他社の安い見積書を突きつけられても、「じゃあ、そちらへリプレイスをどうぞ」と言うだけのことだ。
しかし2.の管理会社は、本音では契約を解除したいわけではないため、より安い管理会社を見つけてきた管理組合から返り討ちに遭う危険性がある。
一方で、管理会社が値上げの必要な根拠を明確に示すことは当然として、値上げ要求と同時に、管理品質の向上やマンションの価値を上げる提案を行い、管理組合側を納得させられれば、値上げに応じてもらうことができる。
冷蔵庫で例えると分かりやすいかもしれない。冷蔵庫を買い換えるとして、本体価格は多少高いが、高機能のうえ電気代が大幅に安くなるという冷蔵庫と、本体価格はそこそこの値段だが、機能も電気代もこれまでのものと同等という冷蔵庫があるとする。支払う金額は少し増えるが、機能やコストのバリューアップを考えて前者を選ぶという人は多いだろう。
つまり、管理委託費の単純な値上げ要求だけでなく、マンションのバリューアップにつながる提案ができるなら、1.の管理会社でも自社のリソースを割くに値する金額まで引き上げることが可能になる。また、2.の管理会社でもこうした提案ができれば、管理組合が持ってくる他社の安いだけの見積書におびえる必要はない。
管理組合としても、管理会社の値上げ要求をただ突っぱねるのではなく、提案内容によってはマンションのバリューアップにつながることを考慮して、その是非をしっかり見極め、適切に対応するべきだろう。
管理会社の「もうけ」も考慮しながらバランス感覚を持った管理組合を目指す
ところで、管理会社は管理委託費だけで利益を得ているわけではない。大規模修繕工事をはじめとするマンションの修繕工事も、管理会社の大きな収入源となっている。
マンション管理業界において、独立系のトップクラスといえる日本ハウズイングを例に見てみよう。同社のホームページに掲載されている売上高や利益に関する株主向けの情報によると、売り上げの44.1%はマンション管理業務によるものだが、42.3%は修繕工事による売り上げ(ホームページ上の表記は営繕工事業)となっている。
このように、修繕工事が管理業務と同程度の売り上げを占めているのは、同社に限らず、大手の管理会社ならどこでも共通する状況だと思われる。
こうした収益体系の管理会社の場合、管理委託費ではもうけがあまりなくても、大規模修繕工事や小修繕工事が受注できるかどうかが大きなポイントになってくる。ここで、皆さんも管理会社の経営者になったつもりで考えてみてほしい。
・管理業務の利益率が(A.高い B.中程度 C.低い) ・修繕工事の利益率が(a.高い b.中程度 c.低い d.受注できない)
この場合、契約先として一番いいのはA-aの管理組合で、一番遠慮したいのはC-dの管理組合になる。経営者として考えるなら、A-aの管理組合は上得意のお客様で、絶対に逃したくない契約先だ。
また、管理業務の利益率が高いということは、多少最低賃金が引き上げられても影響が出ないくらい余裕のある管理委託費をもらっていることになり、そもそも管理委託費の値上げを申し入れる必要がない。
反対に、やっかいなのはC-dの管理組合で、そのままでは会社の経営にも影響が及ぶ可能性が高い。そこで、1.のようにリプレイスのお世話をしてでも手放すか、2.のように強気の値上げ交渉に出るか、経営者として判断する必要が出てくる。
管理組合の立場に戻って考えてみると、自分たちがA-aの管理組合ということは、管理会社の“食い物”にされているということになる。一方、自分たちがC-dの管理組合の場合、管理会社にとってはまったく“うまみ”のない相手であり、ある日いきなり管理会社から高額な値上げを要求されたり、契約解除も辞さないという強硬な態度に出られたりする可能性が高い。
私のところに相談を寄せてきた管理組合の中に、総戸数250戸のマンションで、それまで年間700万円の管理委託費だったのが、管理会社から年間1300万円への値上げ要求が出されたところがある。
確かにそのマンションの管理委託費は相場よりも相当安く抑えられており、昨今の最低賃金の上昇を受けて、ついに耐えられなくなった管理会社が値上げの申し入れをしてきたというケースだ。このマンションは前述の区分でいえばCに該当する管理組合だったため、管理会社もかなり強気の姿勢で値上げを持ちかけてきたのである。
管理会社は営利企業であるため、もうけがなければ当然離れていってしまう。そのため、管理組合も「管理会社にもある程度もうけさせる」という考えを持っていることが大切である。しかし、だからといって、当然A-aの管理組合になる必要はない。
あくまでも管理委託費は適正な金額で契約しつつ、たとえば大規模修繕工事は他社との相見積もりにするが、小修繕工事は管理会社に発注するなど、バランス感覚を持った付き合い方をしていくべきだ。できれば、B-b~C-cあたりの管理組合を目指すのが理想的だろう。
外部の専門家を活用することも選択肢の一つにする
私もこの業界に30年以上関わってきたが、長いデフレ経済の中で、値上げや契約解除の要求というものは見たことがなかった。その間、管理組合や理事会は管理委託費の値下げを目指し、リプレイスや相見積もりの取得にやっきになる一方で、管理会社は何とかそうした要求に応えつつ、耐えるしかない状況が続いていた。だから、数年前に大手のデベ系管理会社から始まった値上げや契約解除の要求は、起こるべくして起こった事象だと考えている。
本来、契約行為は、お金を払う顧客と業務を受託する会社とが対等な立場であるはずだが、マンション管理においては、いつの間にか顧客が圧倒的に強い「買い手市場」となっていた。
ところが、近年では人口収縮によるフロント担当者不足に加え、管理員の採用にも苦労するようになり、現在では完全な「売り手市場」といえる。今でも「管理戸数を増やしたい」という戦略で、安値での受注に向かっている管理会社もあることはあるが、多くの管理会社が「量より質」を目指し、利益重視の方針を取るようになっている。つまり、管理会社が顧客を選べる時代になったというわけだ。
そこで、これまでは強気一辺倒でよかった管理組合も、これからは自分たちが負担すべきところはしっかりと対応しつつ、管理会社の言いなりになることのないように、主体性をもって正しく対処することが求められる。
そうは言っても、価値観も生活環境もバラバラな区分所有者たちが、1年や2年程度の任期で理事会を運営する現状のシステムでは、管理組合や理事会を良い組織に育てることは至難の業だ。そして、そのことを一番知っているのが管理会社である。だから、管理会社は理事会の弱点を見抜き、手練手管でさまざまな案件を持ちかけてくる。素人集団の理事会が、百戦錬磨の管理会社に対抗するのは非常に難しいのだ。
本来、管理組合や理事会は「将来、こういうマンションを目指そう」というビジョンを持って、継続的に運用できる仕組みを作るべきである。その仕組み作りや支援を外部に求め、専門家を活用することも選択肢の一つとして考えるといいだろう。
国土交通省は「マンションの管理の適正化に関する指針」において、「外部の専門家の活用」を可能とする改定を行い、それを受けて「外部専門家活用ガイドライン」を公表している。
ガイドラインは「区分所有者の高齢化などによる理事や役員のなり手不足」や「マンションの高層化・大規模化などによる管理の高度化・複雑化」といった、管理組合が抱えるさまざまな課題に対し、外部の専門家を活用することで解決策を見いだすことを目的に制定されたものだ。外部専門家の要件や事故があった場合の措置などについての具体例が示されているので、外部専門家への依頼を検討する際の参考になるだろう。
いつまでも住みやすいマンションを維持するために、管理組合や理事会は積極的に外部の専門家に協力を仰ぎながら、管理会社に“食い物”にされることなく、かつ管理会社が適正な利益を得ることも考慮できる、バランス感覚のある組織を目指していただきたいと思う。」
私がいま組合の顧問をしているマンションも、きっかけは管理会社からの大幅な管理費の値上げ要求でした。他の管理会社から相見積もりを取得し、管理費の値上げが少しでも少なくなるよう交渉をしている最中です。確かに最低賃金の見直しで管理員さんの時給アップは考慮せざるを得ないと思いますが、いままの管理費から1.5倍近い値上げ要求は、管理会社からの契約拒否と組合員が受け取ってもしかたないと思います。
このブログにも書かれている通り、最初はデベロッパー系の東急コミュニティが、管理戸数を減らしても、利益率の高い組合への選別を始めましたが、最近は独立系の管理組合も同じような動きをしています。相談のあった管理組合の管理会社も独立系の管理会社でした。
銀行と同じように、地元の企業よりも、県外から参入してきている管理会社の中には、管理戸数のシェアアップも目指して、結構意欲的な金額を提示してくる管理会社もあります。また、会社毎に色々な入居者のための独自サービスも行っており、管理会社変更のハードルは高いですが、これを機会に、管理会社の見直しを行うのも、管理組合としては重要な業務だと思います。
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