先日、顧問をしている管理組合から「管理費滞納者への対応」について、対応案を作って欲しいとの要望がありました。下記に一般的な対応案を示します。皆さんの管理組合でも参考にしてください。
対応1(滞納から6か月まで) 管理会社からの書面通知
滞納が6か月の間は管理会社による「電話」「書面」による催促になります。
また場合によっては、管理会社による自宅訪問も依頼します。
対応2(滞納から7か月目) 内容証明郵便の発送
管理会社の催促でも支払ってもらえない場合は、理事長名での内容証明郵便による「督促状」の発送を行います。内容証明郵便による強い姿勢を見せることで、支払ってもらえることも多いです。督促状には、支払ってもらえなかった場合の、次の対応、駐車場解約と少額訴訟に移行する旨も記載します。
対応3(滞納から8か月) 駐車場解約
内容証明郵便を出しても支払ってもらえない場合は理事会にて駐車場の解約について協議します。理事会協議の結果、賛成多数の場合には、滞納者の駐車場を解約することとなります。
※上記対応を可能にするために管理規約に「6カ月以上管理費等を滞納した組合員にたいしては、理事会の決議により、当該区分所有者の駐車場の使用契約を解除することができる。」等の条文を入れておくことをお勧めします。
対応4(1年以内を目途) 少額訴訟
法的措置を検討します。管理費等の時効は5年です。時効を成立させないためにも、遅くても滞納開始から5年以内には、法的措置を実施する必要があります。
具体的には、少額訴訟の訴えです。これは総額60万円以下の滞納金額であれば対応可能です。少額訴訟は一般の裁判とは違い費用も安く(申し立て費用の1%)、また判決も1回の審議で即日判決と早いのが特徴です。
総額60万円以下の滞納金という条件がありますので、滞納から1年程度すれば少額訴訟を検討する必要があります。
根拠:標準管理規約 第60条3
理事長は、未納の管理費及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他の法的措置を追行することができる。
対応5(対応から1年超) 滞納住戸の競売
少額訴訟で勝訴しても支払ってもらえない場合は、最終手段の「長期滞納者のマンション住戸の競売の訴え」をおこすことになります。長期滞納者のマンションを競売にかけ、その売却費用の中から、滞納管理費等を支払ってもらうことになります。
滞納住戸の競売の訴えを起こすためには総会による議決権総数の4分の3以上の特別決議が必要です。また当該組合員に弁明の機会を与えなければなりません。
根拠:標準管理規約 第47条3
次の各号に揚げる事項に関する総会の議事は、前項にかかわらず、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。
三 区分所有法第59条第1項(区分所有権の競売)
その他
管理等債権の包括継承人及び特定継承人への継承について
標準管理規約第26条では「管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の包括継承人及び特定継承人に対しても行うことができる。」との規約があります。この規約は相続や売買で滞納者の住宅を取得した人も、滞納した管理費等を支払う義務があるという条文です。
この管理費等は標準管理規約第25条では、管理費と修繕積立金しか記載されていません。この25条に追記して管理費等(管理費・水道料金等・修繕積立金・駐車場使用料その他敷地及び共用部分に係る使用料)と明記することで、滞納者のすべての債権を継承人に求めることが可能になります。
この点、管理組合が、Aからマンションを競売により取得したBと、Bからマンションを買ったCに対し、Aが滞納していた駐車場・駐輪場の賃料とその遅延損害金の支払いを請求できるとした裁判例があります(東京地裁平成20年11月27日)。
根拠
区分所有法第8条
前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定継承人に対しても行うことができる。
区分所有法第7条第1項
区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
用語の説明
内容証明郵便とは
内容証明郵便(以下「内容証明」という。) とは、「いつ、誰が誰宛に、どんな内容の文書を送ったか」を公的に証明できる郵便のことです。内容証明は、郵便局で手続きすれば、個人でも送ることができます。内容証明はあくまで、送付した年月日・送付した内容・送付した事実を証明するものです。内容証明を送ることで、強制的に相手を記載内容に従わせることはできません。
しかし、内容証明を送ることは、法的手段に訴える前段階ともいえ、「これ以上問題解決が長引くようならしかるべき措置をとる」という強い意思を相手に表明することが可能です。内容証明は、裁判においても証拠として提出されることも少なくありません。
通常の郵便であれば相手に無視されて終わっていたものが、内容証明を送ることで、事態が一気に動き出すというケースは多々あります。
内容証明郵便を出すことで6か月時効期間を延ばすことができますが、延長効果は一度きりです。
少額訴訟とは
訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払いの請求を目的とする訴えについては、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができます。1回の審理で終結するため、通常訴訟と比べ、債権回収の迅速性が確保されています。 さらに、裁判所という権威ある第三者を利用することで、債務者に対して支払いへのプレッシャーをかけることができ、和解が成立することも少なくありません。 手順としては、まず、少額訴訟の申立てを行う必要があります。通常裁判と同様、債務者の住所・事務所の所在地等、または義務履行地を管轄する簡易裁判所に対して行います。 また、審理の結果、請求認容判決が出る場合には、必ず仮執行宣言が付されます。仮執行宣言付判決は、その確定を待たずとも債務名義となり、強制執行が可能になります。
区分所有法第59条第1項とは
区分所有法59条1項に基づく「区分所有権の競売の請求」をするためには、当該区分所有者に同法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」がなければならないところ(同法59条1項,57条1項,6条1項)、著しい管理費の不払もこれに含まれると解されています。 そして、同法59条1項に基づく競売をするためには、「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である」必要があります。
管理費等滞納の時効期間
管理費の時効は、通常、管理費の発生から5年です。
ただし、滞納管理費を裁判で請求し、債務名義を取得している場合、裁判で請求した管理費については、裁判が確定した時から10年となります。
包括継承人とは
他人の権利義務を一括して継承する者をいい、例えば相続人や合併会社がこれに当たります。包括継承人は、被継承人が有していた債権債務関係も継承し、これに拘束されます。従って、相続に当たっては、必要に応じて相続放棄や限定承認の意思を表明することができます。
特定継承人とは
他人から個別の権利を承継する者をいい、例えば売買によって所有権を取得する者などがこれに当たります。 特定継承人は、特別の定めのない限り、被継承人(例えば売買における売主)が有していた債権・債務関係には拘束されません。そこで、区分所有法では、規約および集会の決議は区分所有者の特定承継人に対しても効力を有すると記載されています。(標準管理規約第5条)
参考にしてください。
Comments