2022年5月6日の東洋経済オンラインの表題の記事を紹介します。
「事例:大規模修繕のお金がない!?
憧れの街に買い替えしたリノベマンション。じつは管理組合にお金がない「借金マンション」だった。大規模修繕するには多額の一時金を払う必要がある。一時金から逃れるにはどうすればいいか。しかも、ずさんな管理が災いし、行政指導目前。ババ物件を引いてしまったのか。
高橋誠さん(仮名)は、妻の明美さんと都内のマンションで暮らしている。二人は学生時代の同級生で、同窓会をきっかけに交際に発展し結婚をした。早いもので出会ってから、まもなく半世紀になる。2人の子宝にも恵まれ、すでに孫も3人いる。
誠さんは、定年延長で現役時代と同じ会社に勤めている。定年延長時に人事からは、60歳以降の給付水準は「据え置き型」で旧定年と給付水準はほぼ同じだが、60歳以降は退職給付を積み増さない形態での延長になると説明を受けた。
仕事も緩やかになり、2人の終の棲家を探そうと買い替えたのが、いま住んでいるマンションである。それまで住んでいた郊外のファミリータイプ4LDKのマンションの売却資金と貯金を合わせて現金で購入することができた。
築古だが、駅直結ともいえるほど駅前にあり、利便性がとても良い。商店街の中に位置し買い物も便利。電車にのれば、デパートがある繁華街にもすぐに行ける。
部屋の中もお洒落にフルリノベーションされていて、新築マンション同様にきれいな状態で売りに出されていた。住み始めてからちょうど3年になるが、とても気に入っている。
だが1点とても気になることがある。管理組合の懐具合が年々怪しくなり、個々の家庭にも影響し始めていることだ。購入する際に、修繕積立金の見直しを検討しており、値上げされるかもしれないという話は聞いていた。
実際に住んでから1年が過ぎたころ、管理組合の通常総会に「修繕積立金改定の件」と題した議案が上程され、それを見ると購入当初の約3倍に値上げされている。大幅値上げでかなり驚いたが、まぁ致し方ないとそのときは思った。
修繕の一時金が1戸当たり450万円!
ところが、つい半年ほど前のことだ。明美さんが1人で近所のスーパーマーケットで買い物をしていたとき、同じマンションの6階に住む女性を見かけ挨拶をしたところ、もし時間があればと誘われて、近くの喫茶店に移動し2人でお茶をしたときのことだ。じっくり話をするのはこの時がはじめてであった。
その女性は純子さんといい、旦那さんに先立たれ、いまは1人暮らしだという。女性同士世間話に花が咲いたあとで、純子さんが改まって「じつはいまマンションの理事をしているんですけど……」と管理組合のお金の話になった。
「マンションのお金のこと頭が痛いんです。ご存じですか?」
そう聞かれて明美さんは「いえ、知らないです。何かあるんですか?」。
純子さんは「じつはマンションの修繕積立金が足りなくて、大規模修繕ができなさそうなんです」と言う。
「えっ? だって1年半ぐらい前にかなり修繕積立金が値上げされましたよね?」
「ええ。でも足りないそうなんです。不足金は1住戸に試算するとおよそ450万円ほどになるとか……私も年金暮らしなのでこれ以上値上げされると生活していけません」と言う。
自己管理物件の落とし穴
「どうなるんでしょうか?」と明美さんが聞くと、「このマンションはずっと自主管理だったんですよね。5年ほど前にいまの管理会社に部分的に委託することになって、問題がいろいろと出てきまして。
このマンション築40年を超えてますけど、大規模修繕といえるほどの工事は1度しかしておらず、早くしないと、外壁のタイルが浮いていて地震などがきたら落下する危険があるそうです。それに壁もヒビ割れがひどくて、しかも進行性なのでこのままいくと鉄筋が腐食して構造物にも影響するそうなんです」
「その修繕をするために、そんなにお金がかかるんですか?」と明美さん。
「そうらしいんです。大規模修繕をするための修繕費がいままで貯まっていなかったようなんです。確かに十数年前まで修繕積立金は毎月1000円ぐらいだった気がします。それに……」
「それに?」と明美さんが促すと、純子さんが答える。
「戸数が少ないので1戸当たりの負担が大きくなってしまうのと、ずっと自主管理だったので、いろいろとうやむやで。わずかばかり貯まっていた修繕費も以前住んでいた理事長が使い込んだかもしれないというんです」
「その部屋って? まさか?!」
「そうなんです。いま高橋さんが住まれている部屋の前の持ち主が数年前に出て行かれるまではずっと理事長をされていて……管理会社の担当者が疑問を持ったのがきっかけでわかったんです。でもずっとまかせっきりで管理に関心がなかった私たち住民も悪いんです」
あまりのショックに、明美さんはそのあとの会話はあまり頭に入ってこなくなったという。
青い顔をして帰ってきた明美さんの話を聞き、誠さんがあわてて家にある売買契約書と登記簿謄本をみると、どうやらずっと理事長だった前の住民が、買い取り専門の不動産会社に売却して、それをリノベーション専門の不動産会社が購入してリノベーションをしてから再販売、高橋夫妻が買ったという流れがわかった。
誰がマンションを管理するのか
明美さんと純子さんの会話から、高橋さんがいま居住しているマンションは、ずっと「自主管理」で、管理会社への「一部委託」に変更したと思われるが、自主管理や一部委託とは何だろうか。
マンション管理には「自主管理」と、管理会社への「管理委託」がある。また管理会社にどの程度管理を任せるかによって、「一部委託」と「全部委託」に大別される。
つまり、「自主管理」「一部委託」「全部委託」方式という3つの管理形態がある。
自主管理とは、共用部分の管理を管理会社に委託せずに、管理組合が直接、管理を行う方式。管理組合と直接契約した専門業者だけで管理を行う。所有者自らが管理業務を行うため、労力や時間が負担になる一方で、管理委託と比較して管理費の負担が割安になる。ただし長期間にわたり継続的に管理組合を上手く機能させるのは多くの困難が伴う。
一部委託は、管理業務の一部を管理会社に委託して、その他の業務を管理組合が直接行うか、もしくは専門業者と直接契約する方式である。たとえば、「事務管理業務」のみを管理会社に委託し、清掃や管理員業務は自分たちで行い、エレベーター点検などの設備メンテナンスは専門業者と直接契約するなどがある。全部委託と比べると管理費を抑えられる。
全部委託は、管理業務のすべてを管理会社に委託する方式だ。管理組合の理事などの手間や負担が少なく、管理会社による効率的かつ専門的な管理が期待できる。設備の故障や事故等緊急時の対応なども迅速になる。一方で管理会社に支払う管理委託費がかかるため、管理費が高くなる。また管理会社任せになりがちで、住民の管理への意識の低下を招く懸念もある。
マンション管理には、管理に関する専門知識と豊富なノウハウ、そして継続性が必要である。そのため、いまの新築マンションでは、分譲会社の関連会社などあらかじめ決められた管理会社で「全部委託」を採用していることが多い。なお、全部委託の管理業務とは、「事務管理業務」「管理員業務」「清掃業務」「建物・設備管理業務」をいう。
管理会社難民になる可能性も
一方、特に築古マンションの管理組合の中には、自主管理に限界を感じているマンションも多い。その背景には、住民の高齢化や理事のなり手不足などがあげられる。高橋さんのマンションのように、限界を感じ資産価値を大きく毀損させる前に管理委託へと切り替えるケースも増えている。
その一方で、管理会社に支払う管理委託費が安すぎたり、管理組合の管理会社に対する横柄な態度など扱いの酷さから、管理会社から更新を断られるケースもある。
管理会社への管理委託は、マンション管理適正化法によって自動更新が禁止されている。そのため、1年や2年契約が多く、その都度総会の議題として上程し承認を得てから更新となる。つまり、以前に比べると管理会社を変更しやすいともいえる。
しかし、頻繁に管理会社を変更していると、管理会社の間でも「あの管理組合さんは……」と見積もりすら出してもらえず、管理会社難民になっているマンションもある。
管理会社は、マンションを良くしようというパートナーである。適度な緊張感を持って上手く付き合うことが、マンションの資産価値にも影響することを忘れてはならない。」
かつての労住協マンションも、当初の月々の修繕積立金は1000円だったそうです。月々1000円の修繕積立金では、何の修繕も実施できません。修繕の一時金が戸当り450万円というのは高すぎるように思いますが、通常の大規模修繕工事以外に、給排水管の更新工事やエレベーターの更新工事等を実施するのであれば、かなりの工事費が必要です。築40年超ということですので、耐震補強工事も必要なのかもしれません。
自主管理物件だったことも、対策が遅れた原因かもしれません。管理会社が管理していれば、他のマンションの動向も良くわかったと思いますが、自主管理マンションでは月々1000円の修繕積立金が妥当かどうかもわからない状況だと思います。
この記事のような高経年のマンションは日本中に数多く存在します。マンションの現状の問題点を理解し、前向きに対策していく理事会や専門家の協力がなければ、このようなマンションの問題解決は難しいと思います。
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