2022年11月28日の朝日新聞デジタルの表題の記事を紹介します。
「羽田空港を行き交うジェット音が響く、東京都大田区東糀谷(ひがしこうじや)6丁目。約3千ある東京23区の町丁目の中で最も高齢化率が高く、64%にのぼる。
町の「中心部」は、築50年を超える都営の「東糀谷六丁目アパート」。5~12階建ての全5棟、総戸数は748戸からなる。1号棟には、かつて食品や日用品を扱う店が10軒ほどあったが、「水戸屋」と呼ばれて親しまれる「水戸屋天海(あまがい)酒店」だけになった。
棚にあるのは、レトルトカレーや缶飲料など、常温で日持ちするものだけ。店を訪れた高齢女性が、店主の天海和則さん(56)に「お米を届けてほしいのだけど」と頼んだ。店に米は置いていないが、女性に代わって買いに行き、部屋まで届けるのだという。
最寄りの京急穴守稲荷駅からは高齢者の足で徒歩20分、食料品を扱うスーパーまでは1キロほど。住人たちの頼みの綱が、水戸屋なのだ。「電球を替えてほしい」と言われれば替えてあげ、「エアコンのリモコンが利かない」と言われれば部屋まで直しに行く。店の売り上げは収入の1割にも満たず、宅配の仕事と掛け持ちして家計を支えている。3年前から始まった建て替え工事で店の入る1号棟が取り壊されるまで、店を閉めるつもりはない。「若い人はネット通販とか色々なツールを使えばいいけれど、使えない人がここで生きていくにはどうしたらいいの。困っている人がたくさんいて、頼りにしてくれている。できる限りのことをして支え合うしかない」
自治会長の今野奏平さん(84)はほぼ毎日、午前9時から午後9時まで、自治会集会室で「スタンバイ」している。おむつをトイレに流してしまったり、雨どいにスプーンを詰まらせたり。思いも寄らない「事件」が毎日のように起こるという。「自治会というより管理人ですね」
新築当時から暮らす今野さんは、団地を、子どもたちの「ふるさと」にしたくて、公園で夏には盆踊りを、秋には運動会を開いた。しかし1990年代後半ごろから入居資格が厳格化され、世帯の合計の所得が制限を超えると住み続けられなくなり、子どもたちは社会人になると外に独立していった。現在、住人の約3分の1は流動的で、転入してくる人も大半が65歳以上の高齢者だという。
自治会の役員の平均年齢はおよそ80歳。「私たちもいずれ活動できなくなる。そうすればコミュニティーや横のつながりは完全に無くなるでしょう。限界に近い」と今野さんは言う。
高齢化率が50%を超え、コミュニティーの維持が難しい地域を「限界集落」と呼ぶ。過疎地と事情は違うが、困難を抱えているという点では、この団地も同じだ。高齢化した「地域」を、誰が、どう支えていくのか。
■都営住宅、住人の自治に重荷 23区内の複数地域で50%超
各地から人々が集まり、活気に満ちた街のイメージのある東京23区。人口データを分析してみると、別の側面が見えてくる。
5年ごとの国勢調査の結果を使って、23区の町丁目単位で65歳以上が人口に占める割合の高齢化率の推移を調べると、2020年の調査で、約3千ある23区の町丁目のうち、15カ所で高齢化率が50%を超えていた。高齢者施設があるといった特殊要因を排除するため、人口が500人以上の町丁目に限定すると9カ所あり、すべて、町の大部分を都営住宅が占めていた。
最も高かった大田区東糀谷6丁目(64%)では、00年からの20年間で、高齢化率が43・5ポイント上がっていた。次が世田谷区大蔵3丁目で60・9%(00年から32ポイント増)、北区桐ケ丘1丁目で58・9%(同22・3ポイント増)と続いた。全国の高齢化率が20年間で17・4%から28・7%と、11・3ポイントの上昇だったのと比べ、際立って高齢化が進んでいることがわかる。
都営住宅の建設のピークは、高度経済成長期まっただ中の1969年度。都が20年度末に調べたところ、都営住宅の名義人の69・2%が65歳以上で、単身入居者に限ると82・4%に上った。過去10年間で、都営住宅内での孤独死は400人前後で推移していたが、17年度以降上昇傾向で、20年度は755人だった。
ただ、押さえておきたいのは、高齢化がただちに問題というわけではない、ということだ。人の流動性が高い東京では、「高齢者が住み続けられる」ことの裏返しでもある。問題は、それを支える仕組みがあるかどうかだ。
見守りや地域の支え合いに、誰が主体となって取り組むべきなのか。都の都営住宅経営部の担当者は「都は都営住宅を作り、管理するのが役割。ソフトの部分は、行政としてできることに取り組んでいるが、誰がどこまでやるべきかは答えがない」と話す。都営住宅を管理する「東京都住宅供給公社」が、希望者に限って2カ月に1回程度、定期的な訪問サービスを行っている。区によっては、足が不自由な住人のために、ゴミを自宅まで取りに行くサービスも行われてはいる。
現代の孤立問題などに詳しい石田光規・早稲田大教授(社会学)は、「一義的に基礎自治体にその義務があるが、自治体は弱り続けているので、住人自治で何とかするしかない部分が大きい」と話す。都営住宅だけの問題ではない。国土交通省の17年の調査によると、計画的に開発された住宅団地(一戸建て含む)の高齢化率は22・7%。全国の高齢化率を下回るが、入居開始から40年以上が経過すると高齢化率が高くなる傾向にある。1974年以前に入居を開始した団地の高齢化率は、2015年では28・7%だが、40年には45・9%に急上昇すると推計される。
また、マンションという単位で見たとき、住民の50%以上が高齢者というところも少なくない。
不動産コンサルティングの「さくら事務所」(東京)のマンション管理コンサルタント、土屋輝之さんは「多摩ニュータウンは今や『オールドタウン』と言われるが、立地の悪い郊外から、マンション自体が『オールドタウン化』する可能性はある」と話す。
■医療・介護、集約の街づくりを 「介護難民」あふれる可能性
高齢化率が低い町では、別の問題も抱える。
高齢化率が2020年に20・1%と、全国と比べて低い世田谷区。1990年代後半以降、人口も増加傾向だ。高齢化に悩む地域からすると理想的にも思えるが、世帯構成を見ると別の側面も浮かび上がる。3世代で同居する高齢者の割合は、23区中22位。世田谷以外では、3世代の同居が多いと独り暮らしが少ない傾向があるのに対し、独り暮らしの割合も低めだ。配偶者と死別したりして一人暮らしになった高齢者が、区外へ転出しているとみられる。
その要因の一つが、比較的安価な特別養護老人ホームの「待機高齢者」が多いことだ。地元の介護事業者によると、区内の特養が決まるまでの間、比較的安価で空きがある栃木や神奈川、東京・多摩地域の有料老人ホームなどに「一時避難」したり、区外の特養に移ったりする人がいるという。
年を取ったら、他の地域にたらい回し――。今の東京では、そんな現実が生まれている。
世田谷だけの問題ではない。厚生労働省によると、特養の申込者(待機者)は、全国で約29万人(19年4月時点)。東京、埼玉、神奈川、千葉では計約6万1千人と2割を占め、都市部に集中する。
「『年老いる地方、若々しい首都圏』という認識は時代遅れ。将来的に特に都市部で介護施設に入れない『介護難民』が大量に発生する可能性がある」。社会保障に詳しい小黒一正・法政大教授(公共経済学)は警鐘をならす。
東京都のある幹部は「若い世代を呼び込むことは、都市の活力を生む施策になる一方で、その世代もいずれは高齢者になる。呼び込んだ後にどう支えていくのかの視点は弱い部分はあるかもしれない」と漏らす。
では、何が必要なのか。
小黒さんが掲げるのは、医療・介護など生活に必要なサービスを集約し、高齢者が出かけやすい地域の空間を作る「街づくり」の視点を盛り込んだ対策だ。例えば、商業施設などの生活空間の近くに介護施設を作って立体的な形で整備するなどの方法があるという。「長期的な視点に立って街づくりを進めていく必要がある」と小黒さんは話す。」
高齢化の問題は過疎地だけでなく、都会でも深刻な問題です。団塊の世代が後期高齢者となるこれからは、都市部の高齢者用住宅が不足し、郊外の高齢者施設に押し寄せるという現象もおきています。また多摩地域のような郊外のオールドタウンだけでなく、この記事にあるように、街中の集合住宅でも高齢化が進行しているようです。先日も、高松駅から徒歩5分程度の街中の築50年超の高経年分譲マンションから、今後のマンションの行く末を考えたいという相談もありました。郊外のマンションとは違い、利便性の高い街中の高経年マンションでは、やり方によって色々な解決方法が見つかりそうです。ここは、入居者が力を併せて、今後のマンションの在り方について知恵を絞って欲しいと思います。
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