2023年1月6日の日経クロステックの表題の記事を紹介します。
「 コンクリートに二酸化炭素(CO2)を固定する新しい技術の開発が盛んになってきた。そこで課題になるのが、コンクリートの中性化である。鉄筋コンクリート(RC)造の建物において、中性化は耐久性を脅かす現象として長年、問題視されてきた。しかし脱炭素社会では、コンクリートの中性化を「CO2貯蔵技術」と捉え直す、価値観の転換が起ころうとしている。
なぜコンクリートの中性化が建物の耐久性に悪影響を及ぼすのか。建築分野以外の読者のために、簡単に説明していく。
世界文化遺産の「軍艦島」(正式名:端島)。1916年に建設された日本最古の鉄筋コンクリート造アパートなどがある。完成から長期間を経ており、コンクリートの中性化や鉄筋の腐食などの劣化が進行している。保存のための調査研究が行われている(写真:日経クロステック)
鉄筋コンクリート造は、鉄筋とコンクリートのそれぞれの弱点を互いに補完し合うことで利点を引き出した画期的な構造形式である。圧縮には強いが引っ張りには弱いコンクリートと引っ張りに強い鉄筋を組み合わせることで、コンクリートの弱点を補っている。一方、鉄筋が酸素によってさびる弱点を、アルカリ性のコンクリートで包み込むことで防ぐ。このアルカリ性を失う現象が中性化である。
コンクリートはセメント成分が水と反応してアルカリ性になる。実際の現象はもっと複雑だが、分かりやすい例としては、酸化カルシウム(CaO)が水(H2O)と反応して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)になることが挙げられる。水酸化カルシウム水溶液はアルカリ性を示す物質として、中学校の教科書などでおなじみだ。
このアルカリ性がCO2と反応することで変化した結果が中性化である。水酸化カルシウム(Ca(OH)2)でいうと、CO2と反応して炭酸カルシウム(CaCO3)になり、アルカリ性が弱まる。つまり、コンクリートとCO2の化学反応を促すことは中性化を意味する。アルカリ性が失われると、鉄筋を酸素によるさびから守れなくなるわけだ。
日本建築学会のJASS5がコンクリートの中性化を容認
鉄筋コンクリート造では「中性化を許容するのは難しい」とされてきた。だが、この考えを見直す動きが出てきた。2022年11月に、13年ぶりの大改定を実施した日本建築学会の「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 (鉄筋コンクリート工事)」だ。
今回の改定で、コンクリートが劣化する環境として「非腐食環境」が追加された。「鉄筋の腐食因子が存在しないと見なせる部位」と定義する。例えば、外気に接することがない屋内環境にある部位で、直接の水ぬれ、結露などによる水分供給の可能性がない部位を指す。
一般的な腐食環境では、建物の使用年数に応じた耐久設計基準強度を求めている。だが非腐食環境では「設定しない」とした。コンクリートが中性化しても、鉄筋にさびを発生させる水分がなければ、耐久性には問題ないと考えるわけだ。つまり、鉄筋がさびないなら、中性化を許容するということである。
「海外では、コンクリートを中性化させてCO2を固定する取り組みが先行している。日本も置いていかれないように、CO2の固定化に取り組む必要がある」。JASS5改定の小委員会で主査を務めた東京大学大学院の野口貴文教授は、改定の狙いをこう説明する。
脱炭素社会が求める建築の役割の1つがCO2の固定だとすれば、鉄筋コンクリート造という建築形式は変更を余儀なくされるだろう。鉄筋を被覆してさびを防げば、既存の鉄筋コンクリートでも中性化を許容できるが、中性化を前提とする脱炭素社会にふさわしい別の構造形式がきっとあるはずだ。
コンクリートとCO2の反応を意図的に進めるため、表面積を増やす工夫が必要になるかもしれない。そのとき、鉄筋の引っ張り力は期待できなくなるだろう。どんな組み合わせや構法になるのか、全く未知の世界だ。脱炭素社会を象徴する新しいコンクリート形式の出現に期待する。」
コンクリートの中性化はコンクリートの耐久性に有害だとされてきていましたが、CO2削減策として中性化を前向きに捉えるというのがこの記事の趣旨です。
サビの原因となる水が浸入しない部位であればコンクリートの中性化も許容するという考えに私も同意します。大規模修繕工事前に実施する中性化診断も必要ないかもしれません。個人的には中性化よりも、コンクリートクラックからの雨水侵入の方が、建物にとっては、深刻だと思います。
コンクリートの主成分は多量の二酸化炭素をその中に固定化している石灰石であり、その元になっているのはサンゴ礁です。サンゴ礁にはCO2吸収能力もあると言われており、これらのことを考えると建物を長寿命化することもCO2を長期に固定化するという意味で環境的に優れた方法なのかもしれません。
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