2023年3月17日の日経アーキテクチュアの表題の記事を紹介します。
「日本の少子化は、首都・東京から歯止めをかける──。東京都は2023年度の予算案で、子ども関連予算に約1兆6000億円を計上した。22年度比で約2000億円の増額だ。政府が「次元の異なる少子化対策」の策定に向けて動き出すなか、都は「チルドレンファースト社会」の実現に向けて先頭を走る構えだ。
東京都がまとめた2023年度予算案の概要(出所:東京都)
施策のなかで筆者が特に注目しているのが、「東京こどもすくすく住宅認定制度」である。都は同制度による住宅整備を含む「子育て世帯に配慮した住宅の供給促進」として、3億2500万円を計上。子ども関連予算全体で見ると大きな金額ではないが、前年度予算でわずか900万円だったことを考えると、力の入れようが分かる。
小池百合子都知事は23年2月21日に開催された都議会第1回定例会で、同制度に触れている。認定住宅を供給する事業者に対して、都が直接、1戸当たり最大200万円を支援すると表明した。
同制度は、既存の「東京都子育て支援住宅認定制度」を見直して再構築するものだ。既存制度は住まい手の安全性や家事のしやすさに配慮しつつ、子育てがしやすい環境を整備する集合住宅を都が認定してきた。
これに対し、東京こどもすくすく住宅認定制度は、事業者のより幅広い取り組みを対象とする。こうして新制度の認知拡大と認定住宅の供給促進を目指す。
具体的には、認定モデルを認定基準の適合度合いなどに応じて多段階化する方針だ。それぞれのモデルで住宅の専有部の他、子育て世帯間の交流を促すキッズルームなど共用部への直接補助を行う。東京都住宅政策本部民間住宅部安心居住推進課によると、現行制度の補助額は、都と区の合算で1戸当たり最大10万円程度だった。これが大幅に増えるので、共用部を充実させやすくなるだろう。
23年3月24日までの都議会で関連予算案が可決、成立すれば、都は早々に新制度の詳細を詰める。
認定住宅は至れり尽くせり
そもそも読者のみなさんは、現行の東京都子育て支援住宅認定制度をご存じだろうか。新制度のベースになる現行の認定基準を眺めてみると、子育て世帯が暮らす住宅にあるとうれしい配慮が色々盛り込まれていることが分かる。
東京都子育て支援住宅認定制度の住戸内の整備基準(新築)概要。現行基準には必須項目と選択項目がある。新築集合住宅の場合、前者は63項目、後者は全35項目のうち、13項目以上に適合する必要がある(出所:東京都)
例えば、ベビーカーが置けるスペースの確保や、トイレトレーニングが楽にできるトイレの広さを求めている。これらは、インテリアの工夫やDIYなどでは解決しにくいので、住宅の設計段階から配慮されているとありがたい。
幅木や柱など住戸全体の出隅部分は、子どもがぶつかってけがをしにくいように、面取りなどの安全措置を必須にしている。家の中を走ったり転んだりが絶えない子どもの突発的な行動は、見守る親の心臓には悪い。「角」が少ない住宅には好感を持った。その他、バルコニーからの転落防止策や指挟みを防止する建具選定などの基準もある。
柱など住戸内の出隅部分は、面取りなどの措置を必須とする。写真は認定された賃貸マンション「ネウボーノ菊川」(東京・墨田)の柱(写真:日経クロステック)
ネウボーノ菊川の開口部とバルコニー。転落防止のため、子どもが誤ってバルコニーに出ないように、鍵を通常よりも高い位置に付けている。バルコニーに置くエアコンの室外機は、足がかりにならない位置にある(写真:日経クロステック)
認定の必須条件ではないが、キッズルームなどのコミュニティースペースを共用部に設置すると、認定取得の加点になる。立派なキッズスペースを共用部に設置した墨田区の賃貸マンション「ネウボーノ菊川」に行ってみた。
ネウボーノ菊川のキッズスペースとパーティースペース。保育士の資格を持つ管理人が週6日常駐する(写真:日経クロステック)
ネウボーノ菊川は、地上7階建ての賃貸マンション。構造は鉄筋コンクリート造だ。事業者は地場の不動産会社の萬富(東京・中央)である。
16年に竣工し、同年に全26戸のうち認定住宅の前提となる住戸専有面積(50m2以上)を満たす22戸が認定を受けた。1階には約75m2のキッズスペース(パーティースペース・ゲストルームを含む)も用意している。入居者は現在、これから出産を控えている世帯か未就学児(小学校入学前)のいる子育て世帯に限定しているが、入居待ちが絶えない人気ぶりだという。
ネウボーノ菊川の1階平面図。中央にキッズスペースを配置した。自転車を使う入居者は、キッズスペースに面した中庭を通って建物奥側の駐輪場に出入りする。そこで自然なコミュニケーションが生まれる(出所:萬富)
キッズスペースに併設したキッズガーデンを合わせると、子育て応援のための共用部は160m2を超え、住戸約3戸分の面積に相当する。キッズスペースには週6日、一定時間帯に管理人が常駐している。管理人は保育士の資格を持つ人に限るという徹底ぶりだ。
認定基準が定める子育てしやすい仕様は、事業者には工事費の増大に直結するものばかりだ。共用部を充実させようにも、それに見合う賃料を得られなければ、事業収支は厳しくなる。その点、萬富の仲渡孝雄業務課長は、「周辺の賃貸住宅の相場と比べて、同じ2LDKでも5~10%高い家賃をキープできている。多少高くても、子育て世帯向けに振り切った計画の住宅には、確実に需要がある」と語る。
「ネウボーノ菊川Ⅱ」の外観イメージ。キッズスペースを既存のネウボーノの約1.2倍に拡大する。大通りに面した1階には、地域交流も図れる店舗の出店を計画中(出所:萬富)
萬富はネウボーノブランドの第2弾となる「ネウボーノ菊川Ⅱ」の建設を進めている。既存のネウボーノの北側に近接する区画で、全73戸と規模を拡大する計画だ。既に子育て支援住宅の「設計認定」を取得しており、23年12月の竣工時には完了検査後の認定取得に向けて申請を予定している。
子どもが小さいうちは、家事代行や一時預かりなどの自治体サービスを活用する世帯も多いだろう。そうしたソフト面の子育て支援メニューと同様に、子育てのしやすさを前面に打ち出した住宅がもっと存在感を強めても良さそうだ。都がテコ入れする子育て支援住宅で、子どもはすくすく育つのか。新制度に注目したい。」
子供にやさしい住宅は、全ての年代の人々に優しい住宅であり、ユニバーサルデザインに通じるところもあります。東京都以外の地方公共団体でも積極的に採用して欲しい制度です。
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