2023年10月28日のForzaStyleの表題の記事を紹介します。
「「都内、一等地のタワマン」。そう聞いて皆さんはどんな印象をお持ちだろうか。億ション、お金持ち、富裕層…そんな言葉が並ぶのではないだろうか。欠陥という言葉を思いつく人は、きっとそう多くはないだろう。しかし、実際のところはそうでもないらしい。都内一等地であろうとどこであろうと欠陥は起こりうると話すのは、これまで多くの欠陥を見抜いてきたその道のパイオニア・日本建築検査研究所の岩山健一氏だ。
「タワーマンションは、基本的に不動産の企画や開発を行うディベロッパーがゼネコンに依頼して建築します。皆さんはディベロッパーとゼネコンの知名度が高ければ高いほど、価値のある、安全なマンションだと思うでしょう?しかし、そんなことはありません。むしろタワマンは、欠陥の宝庫。安全に建てるのが非常に難しい代物なのです」。
欠陥の宝庫…恐ろしいパワーワードである。
「脅して申し訳ないですが、それがリアルなところです。欠陥と言ってもね、違反建築である可能性がかなり高いんですよ。例えば設置されているはずの遮音壁が規定より薄い仕様になっていたりするでしょう?するともちろんうるさいですよね。でも何より問題なのは、それが耐火違反になりうること。しかし、耐火というのは有事にならないとわかりません。だからこそ、音がうるさいとか、水圧が弱いとかそういう不具合から、欠陥や違反建築を見抜く必要があるんです」。
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今回は多くの人が夢に描く、都内の億ションで起こったある欠陥とその欠陥に向き合った元理事長にお話を聞くことができた。訪ねたのはまさに都心の一等地。空高くそびえるマンションが今回の舞台だ。
ことの発端は「エレベーターホールで音がする」というものだったと岩山氏は話す。
「ホールに音というか人が話す声、さらに言えば、言葉まで聞こえると。これだけ聞くと怪奇現象ですよね。ディベロッパーに話をするとBGMでもかけますかと冗談めいた言葉が返ってきて、驚きましたよ」。
岩山氏に相談を求めた人物こそ、今回の主人公でもある工藤知行さんだ。このマンション元理事長である。
「工藤さんから相談を受けたときには、ほかにもいくつか欠陥と思われる事象が出ていました。機械式駐車場がよく止まるとかね。それで調査をしようということになったわけです」。
しかし調査をすると一口に言ってもマンションでは簡単にはいかない。これが戸建てと異なるところである。岩山氏はさらに述べる。
「戸建てであれば、多くは持ち主が1人または家族でしょう。ですから、合意形成が図りやすい。それに対してマンションは部屋ごとに所有者が異なるのでそう一筋縄ではいきません。しかもこの規模のマンションの調査になると数百万かかるのが一般的です。それを管理組合負担するとなるとどうしても拒む人が出てきたり、文句を言う人が出てきたり…。それをまとめるのが理事長なんです。しかし、理事長の多くは輪番制。当事者意識を持って対応に当たることのできる聡明な人はあまりいないのが現実です」。
今回は何より、今までに例をみない速さで解決したことでも注目を集めている。
「この事例はかなりのスピード解決です。問題発覚が2019年、2021年には相手側が瑕疵を認め、2022年に工事。2023年には住民が戻ってきています。実質3年程度。マンションでこんな事例は後にも先にも見たことがありませんね」。
さっそく、元理事長に話を聞いていこう。工藤さんがこのマンションに入居したのは、2019年の春のことだった。
「初期に入居しました。購入契約はそれから2年ほど前になりますかね。入居してすぐにおかしいなと思う箇所があって、何度かディベロッパーや管理会社に問い合わせをしたんです。だって、安い買い物じゃないですから」。
この立地。無論、億ションである。
「でもいくら相談しても解決しようという意思がまるで感じられない。これはまずいぞと思って、最初の臨時総会で立候補して自ら理事長になりました。それが2019年夏のことです。岩山さんにきていただき、相談をし始めたのは秋くらいでしたね」。
なんというスピード感。
「マンションは全部で数百戸と大規模です。僕自身、理事長になったのははじめてでしたし、ましてや欠陥住宅をみたことはありませんでした。でも、いろいろ調べていくうちに、これまで住んできたマンションは欠陥に気がついていなかっただけかもと思うようになりました。大なり小なり、多くのマンションで欠陥は見つかるんじゃないかな?」。
岩山さんも賛同する。
「大きなマンションは、ディベロッパーがいて、ゼネコンがいて…と多くの人が関わってできています。だからこそ責任の所在がどうしても曖昧になりがちです。さらに言えば、現場監督や職人などの、質が明らかに低下していると言わざるを得ません。昨今の建築材料や人件費の高騰も大きな影響を与えているでしょうね。それに欠陥の多くは、壁の中、床の下と建ってしまえば見えない場所でのこと。それもどうせバレない…と手を抜くことにつながるのかもしれません」。
理事長になったもののそこに教科書はない。ここからの道のりは、すべて自分の手と頭で切り開くほかない。
「日本にはタワマンの欠陥を暴き、補償を経て、修繕工事をする、そんな事例はほとんどありません。お手本になるパイオニアがいない以上、自分で考えてやっていくしかないんです。正直、はじめたときはこんなに労力と時間がかかるとは思ってもみませんでした」。
何はともあれ、本当に欠陥があるかどうか、その事実を突き止めないうちは始まらないと感じた工藤さんは、所有者である住人たちから調査の承諾を得るため奔走することになる。
「理事会を開いてみると同じように不具合を感じている人がいることがわかりました。電子レンジのチンする音が廊下まで聞こえるなんていう声もありましたね。原因を探るには、もはや調査しかないと感じました。しかし、ここで壁になるのが住民の合意形成です。
管理組合負担で調査するとなると理事会と総会での承認が必須です。理事長の一存では決められません。ですから、まず調査をするために定期的に説明会を開催しました。夫婦で個別に面談をしたことも1度や2度ではありません。もちろんこれらは、すべて自前で行ったもの。
僕自身、いち所有者なので本来、住人のみなさんとは同じ立場です。しかし、そういっていては話がすすまないのでとにかく、住民のみなさんにわかっていただけるよう、丁寧に対応に当たりましたね」。
工藤さんが理事長になっておよそ1年。臨時総会で調査の議案が可決される。
「おそらく、ですが、調査費用が1部屋2万円程度とさほど高額でなかったことがよかったのでしょう。結局、調査は岩山さんにお願いをすることとなりました」。
岩山氏が率いる日本建築検査研究所が本格的な調査に乗り出す。
「予想通りといいますか、数々の欠陥が浮かび上がりました。岩山さんにお願いをしてよかったと心から思いましたね。表面的ではなく、一体何が不具合の原因なのかをしっかりと調査していただきました」。
岩山氏はこう話す。
「不幸中の幸いだったのが、建物の根幹部分に欠陥がなかったこと。そもそもですが、住む前にマンションの欠陥を見つけるのは至難の技です。大切なことは不具合があったときに、どのように調査するかということ。不具合の原因がどこにあるかを徹底的に調べないことには、改修も何もできませんからね。もちろん、ここでもとことん調査をしました。調査報告がまとまったのが、2020年11月頃でしたね」。
この調査結果で、今まで興味を持っていなかった住民たちの目の色が変わる。
「これまでは私が1人で騒ぎ立てている、そう思っている住人も少なくなかったじゃないですかね。それが報告書で一変しました。危機意識や怒り、そういうものがやっと住人からも伝わってくるようになっていったんです」。
工藤さんはここからが本番だという予感があったという。
「欠陥の理由がわかったわけですから、なんとしてでも認めてもらい、修繕工事をしてもらわなくて は!という思いでした。もちろん大きな壁となるのはディベロッパーとゼネコンだとこのときはそう疑いもしていませんでした…」。
「大きな企業を相手に、いわば勝負を挑むわけですから文字通り、一筋縄では行きません。まず、大切にしたのは相手を知ること。相手の立場になってひたすら考えて、戦略を練りました。これまで培ってきた人脈や能力を総動員して、思いつくことはすべて行動にうつしました。夜中にはっと目が覚めて、思いついたことをメモした…なんてこともありましたね」。
さらに法的見解についても深くチェックをしたという。
「知り合いの弁護士に相談という形でお願いをして。本当にありとあらゆる手段を使い、ディベロッパーとゼネコンに粘り強く欠陥を訴え続けました。その結果、ディベロッパーとゼネコン側が調査をするところまで漕ぎ着けたんです。マンション内のとある部屋を岩山さんや僕ら理事同席のもと、解体することになりました。それまで欠陥の一部しか認めていなかったディベロッパーとゼネコンでしたが、実際に壁の中を開いてみたら、非を認めざるを得なくなったというわけです」。
非を認めた=スタートラインに立ったようなもの。ここからは補償内容の決定という、最大の難関が待っている。さらにここで登場するのが第2の壁だ。
「お金が絡むと人は変わる、なんてよく言いますが、リアルにそう感じましたね。改修工事だけでなく、金銭補償が行われることが決まった途端、一部の住人から意見や権利の主張が目立ち始めたんです…」。
感情的になる人、工藤さんを悪者にする人、文句ばかり言う人…さまざまな人がいたという。
「残念だと感じたのは、文章や話を最後まで読まない、聞かない人が多かったこと。それから自分に都合よく、話を切り取る人もいました。これでは通じるものも通じません」。
さらに工藤さんを悩ませたのが常識の相違だ。
「自分の常識がいかに、通用しないか、突きつけられました。こんなこと言うと昭和の人と感じるかもしれませんが、義理とか人情とか、恩とかそういう目に見えないけれど、大切なものをどこかに置き忘れてきてしまった人が多いと感じざるをえませんでした。僕は確かに理事長になりました。でも、住人のみなさんと同じいち所有者でもあります。その事実がすっぽり抜けおちて、あたかも敵が僕であるかのようにぶつかってくる人もいましたね。本来であれば仕事と家庭に使うべき、大切な時間の多くを費やして、解決に向けて奔走していた僕ら夫婦にとって、正直これはキツかったですね」。
そんな憤りを抱えてもなお、歩みを止めなかった理由は味方になってくれた人の存在も大きいと話す。
「妻をはじめ、快く相談に乗ってくれた弁護士や建築業界の友人、公務員時代の上司、理事をやってくださったみなさん、それから積極的に協力してくださった住人の方々には、本当に感謝しています。皆さんの力がいなければ、解決まで辿り着かなかったでしょう」。
そしてなんとか迎えた臨時総会。ここでの議題は提示された改修工事の内容と金銭補償の合意だった。
「結果は99%の賛成、1%反対でした。補償の内容は差し控えますが条件として提示されたのは、2021年12月末までに一旦、全員が転居することでした。みなさん、仮住まいに移って、改修工事の終了を待つというわけです。ここでも一部の人がなかなか退去しないなど、最後の最後まで協力してくれない人がいて残念な気持ちになりましたね」。
2022年年末、ついに工事が終わり、タワマンは新しく生まれ変わった。
「改修工事中も幾度となく、岩山さんとディベロッパーとゼネコンと会議を重ね、現場も確認してきました。ですから、私にとってはやっと終わった、という気持ちでしたね」。
岩山さんは言う。
「おそらく、都内で1番安全なマンションなんじゃないでしょうか。完成したマンションの内部を解体して、瑕疵がないよう細心の注意を払い、作り直したんですから。改修工事の途中で何回もチェックをしましたしね」。
この一件を通して思うことを工藤さんに聞いてみた。
「マンションの欠陥をディベロッパーやゼネコンに認めさせ、その上で改修や補償を勝ち取るにはマンション全体の気持ちをひとつにまとめる必要があります。そもそもここは都心の数百戸あるマンションです。地位や職業はみんなバラバラ。さまざまなバックグラウンドを持つ人が住んでいます。その人たちの心を同じ方向に向けなくてはならないんです。人間関係の希薄化が進み、価値観が多様化する現代社会において、それがいかに難しいことだったのかと今、改めて感じています。今後は他人同士が助け合い、同じ方向を向いて、大きな何かを成し遂げるということがさらに難しくなっていくんじゃないですかね。これはある意味で社会問題なのかもしれません」。
もし、今マンションの不具合に悩んでいる人にアドバイスをするなら?と工藤さんに聞いてみた。
「いろいろな意味で、解決は困難を極めると思います。まず、必ず解決には大きな責任がのしかかります。生活の基盤である住まいに関わる問題なので、途中でやめるわけにいきません。一度始めたら、途中でいかなるトラブルに見舞われたとて、後戻りはできないんです。私は小さいながら10年に渡り、会社を経営していますが、この責任は経営者の責任よりもはるかに重いと感じますね。さらに解決に至るまでには、多くの労力と時間を要します。平日はディベロッパーとゼネコンとの協議、休日は住人との面談と時間がいくらあっても足りないというのが実情です。僕ら夫婦は仕事はもとより、幼い我が子との大切な時間までも犠牲にせざるを得ませんでした。そこまでしてもやりきるという覚悟が必要だと思います」。
工藤さんがここまでやり遂げられたのは、理由はどこにあるのだろう。
「岩山先生や弁護士をはじめ、多くの人に協力していただきましたが、自分の大切な家であるからこそ、多くの時間を割いて考え、行動できたんだと思います。仕事と両立するため、朝は4時起き。
とんでもない量のタスクに起き上がれなくなるほど、疲弊したこともありました。それでも諦めず、人生をかけることができたのは、当事者意識があったからにほかなりません」。
今、このタワマンの市場価値は販売当時に比べて、120〜160%上昇しているという。これは、工藤さんの並々ならぬ努力の結晶ともいえよう。
最後に岩山氏に聞いた。
「今回工藤さんが費やした時間や労力を考えると、仮に弁護士に依頼をしていたら、相当な額になっていたと思います。何度もいいますが、欠陥のないタワマンはおそらく夢のまた夢。どんなマンションであっても、究極、探せば欠陥は見つかります。それを入居前に判断するのは、ほぼ無理。だからこそ、不具合がみつかったときが勝負なんです。さらにいえば、その後の対応は理事長の力量にかかっています。マンションに住むのなら、その辺りをしっかりと鑑みて選ばなくては、それこそ取り返しのつかないことになりますよ」。
きちんと建てられた真っ当な家に住む。それがこんなに難しいことだとは、多くの人は知る由もない。しかし、これが現実だ。今の世の中は、情報に溢れている。どんな人であっても勉強をすることができる時代ともいえよう。大手だから安心、高いから安心。そんなまやかしに騙されないようにするためには、常にアンテナを貼り、学び続けなければならないと今回の工藤さんの偉業は、そっと教えてくれるような気がした。」
この記事には参考になる部分が多々あります。まず、欠陥の疑いを持った当事者が理事長になった点、その後、実際に調査費用を予算化して、組合の費用で調査を行った点、さらにゼネコンやデベロッパーに改修工事を行ってもらうために、弁護士を始め様々な知人に協力を求めた点、途中の組合内部の人間関係にも苦労しながら、当事者意識を持って、最後までやり抜いた点は見事です。
この記事にもありますが、多かれ少なかれ、マンションには欠陥が存在します。このケースでは、すべての欠陥を改修することを選択していますが、構造的な問題がなかったのであれば、一時引っ越しをしてまでの改修を行う必用があったのか?慰謝料を貰うだけという解決方法でも良かったのでは?と個人的には思いました。
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