2022年2月16日の朝日新聞デジタルの表題の記事を紹介します。
「「屋上から下の部屋に雨漏りしている」
神奈川県大和市内のマンションの管理組合の会計業務を担う会社に、住民から連絡があったのは、5年ほど前のことだ。マンションは全部で9戸で、築40年以上経つ。
修理の見積もりをとると高額だったため、住民の意向もあり、簡単な修理にとどめた。その数年後の台風で屋根が飛び、雨漏りはさらに拡大。だが、修繕積立金が足りず、仮の補修しかできなかった。排水管の修理もできていない。状況は昨秋、さらに悪化した。
理事長と会計責任者の2人が体調不良などを理由に退任。会計責任者が入院したため、組合から修理業者への修繕費などの支払いが滞るようになった。管理会社への委託費用の捻出も難しい。
もともと修繕計画はなく、積立金が足りないため、修理すべきところもできていない。積立金の滞納者が1人いるほか、全体の戸数が少なく、少額しか集まらないことも背景にある。
70代の前理事長は「資金もなく、住民の多くも管理は人任せ。計画的に修繕するのは難しく、問題が大きくなってから対処するしかできない」と漏らす。なぜ、こんな状況に陥ってしまったのか。
廃墟マンション、今後は大きな問題に?
10年ほど、このマンションの管理組合の会計事務の代行業務を担ってきた「横浜サンユー」(横浜)の利根宏社長は、管理不全になった理由として、住民の管理意識の低さをあげる。
9戸のうち、5戸の所有者は居住しておらず、総会などにもほぼ参加していない。残りの4戸の所有者も、高齢なことなどもあり、積極的に管理に関わることが難しいという。
同社では、管理が行き届かず、設備などが老朽化して廃虚のようになった「スラム化」したマンションの管理組合の相談に乗ってきた。スラム化は、10~20戸ほどの小規模マンションで特に顕著だという。
「規模の経済が働かないので、管理費や修繕積立金が少額しか集まらず、運営しにくい。このマンションもそうだが、自主管理といいつつ、事実上の『無管理』状態は潜在的に多い」と明かす。
利根さんは、老朽化したマンションの「看取(みと)り」の重要性を訴えてきた一人だ。費用面などから建て替えが困難で、廃虚化した建物を放置しないためにも、たとえば、マンション管理士などの専門家を無償で派遣して、組合が積極的に管理に関わり最後まで責任を持てるようにするための法制度など、未来を見据えた対策が必要だと考えている。このほか、修繕積立金に加え、取り壊し資金をあらかじめ積み立てるマンションも出てきているという。
「今は廃虚マンションの放置はそれほど問題になっていないが、将来、老朽化する建物が増えれば、大きな問題になる」と話す。
国土交通省によると、築40年以上のマンションは2020年は103万戸。40年には4倍の404万戸になると推計される。
マンションの管理を巡っては20年6月、改正マンション管理適正化法が成立。これまでマンションは私有財産であることから管理組合の自主的な管理に委ねられてきたが、管理の適正化のため、組合などの求めがなくても行政が積極的に関与できるようになった。
「最終的に取り壊しや建て直しを住民だけで進めるのは難しい。行政や専門家が管理をサポートすることが必要だ」と利根さんは話す。
適正管理に向け、新たな制度も
適正な管理に向けた動きもある。改正マンション管理適正化法に基づき、今年4月から始まる国の「管理計画認定制度」がその一つだ。
制度は、適正な管理のための基準を提示して、管理意識を向上させて管理不全を防ぐのが目的。国や地方自治体が示す約16項目を審査し、地方自治体が管理組合を「認定」する。一方、基準に満たない場合は助言や指導し、さらに改善を勧告することもできる。
これとは別に、マンション管理会社の業界団体のマンション管理業協会が運営する制度も、4月から始まる。こちらは、管理状況が市場価値に反映されることをめざす。
管理状況を100点満点で点数化する。申請のあったマンションを管理組合の運営態勢や支出、設備の状態など約30項目について採点し、最高位の「星5個」から「星ゼロ個」までの6段階でランク付けする。不動産ポータルサイトの物件ページに評価結果を掲載することも検討する。
国の認定制度とも連携し、この制度で評価を受ければ、国の制度でも認定を受けられる方向性で検討を進めるという。
ただ、課題も指摘されている。一つは、どちらの制度も強制力がないことだ。
マンション管理組合に助言する活動をする東京都マンション管理士会の担当者は、「制度は任意のため、管理意識の低いマンションは申請せず、管理不全マンションを把握できずに埋もれてしまう可能性がある」と指摘する。
「特に国の制度では、申請していない組合が支援から外れないように、自治体が独自にどこまで積極的に実態を把握し、支援できるかが課題」と話す。
不動産コンサルティングを行う「さくら事務所」(東京)のマンション管理コンサルタント、土屋輝之さんは、管理状況が良いマンションと、住民の高齢化や積立金の不足などで改善できない「頑張れないマンション」の二極化が進むことを懸念する。
「自治体も管理業協会においても、どう組合を支援していくかが鍵になる」と話す。
外観から調査、アドバイザー派遣
自治体の中には、独自に実態調査に取り組むところもある。
全世帯の約4分の1をマンション住まいが占める川崎市では、20年度におおむね築40年超となる旧耐震マンションの外観の目視調査を独自に実施。管理水準に応じて4段階のランクに分類した。
管理の行き届いていないマンションは、壁にひび割れがあったり、手すりがさびていたりと、外観からでもおおよそ把握できる。立ち入り権限がなくても円滑に調査できると考えたという。問題がありそうなマンションの組合には、後日、アンケートやヒアリング調査をして、詳細に調べた。
この調査で管理状況が良くなかった管理組合などには、市独自にマンション管理のアドバイザーの派遣などの支援を検討する。今後も定期的に外観調査を継続する予定だ。
ただ、どこまで行政が踏み込んで支援するのかといった課題はある。
川崎市の担当者は「4月からの新制度で、行政が助言や勧告できる権限を持ったことは大きい」とする一方、「管理不全マンションは、組合自体が事実上機能していないことも多く、支援も難しい。私有財産であるマンションに、行政がどこまで介入できるかは整理する必要がある」と話す。
管理不全の兆候があるマンションにアドバイザーの派遣などを行う東京都の担当者は、「公費を使って無償で講座などを受けてもらったとしても、その後にどうするかは組合次第。どこまで実効的な支援ができるかが課題だ」と指摘する。」
記事にもあるように、築年数の古い小規模マンションは管理不全に陥る可能性が高いです。私が1年前に高松市内の全マンションを訪問調査した時にも、築年数の古いマンションで、郵便ポストにガムテープが貼られ、空き家になっている住戸が多いマンションが散見されました。現在、高松市では、市内のマンションの管理実態について調査中です。その結果をもとに、4月以降、改正マンション適正化法に基づき、管理不全マンションの支援策が決定されていくと思います。
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