少し古いですが2017年10月11日のダイヤモンドオンラインの表題の記事を紹介します。
「「破綻」という嫌な響きの言葉が最近はよく使われる。もはやダイヤモンド・オンラインのカテゴリー“政治経済”の中だけには収まらない。分譲マンションに住む企業戦士諸氏は、プライベートでも「破綻」と戦わなければならないのだ。「破綻」をカテゴリー“ライフ”でお伝えするのは心苦しいが、現実を見ないわけにはいかない。
それが“修繕積立金破綻”だ。
私は、何年も前から「我が国の三大破綻<財政破綻><年金医療費破綻>、そして<修繕積立金破綻>」と警告してきたのだが、修繕積立金破綻のリアルは未だに実感していただけていないようだ。
先月、 大規模修繕工事で、積立金の値上げや、一時金の徴収、果ては銀行借り入れまでさせて“住民を食い物にする呆れた業界の実態(2017.9.8)”についてお伝えしたが、実は積立金破綻の芽は新築購入の時に既に存在していて、大規模修繕時に突然出てくるものではない。世にあるマンションの90%以上は、その先行きに<修繕積立金破綻>が待っている。それはつまり「長期修繕計画」という、マンションを長く維持していくために必要不可欠のロードマップ自体がフェイクだったということを意味する。
しかし希望はある。出ている芽をなるべく大きくならないうちに摘めばいいのだ。適切な手を打てば、まだ間に合うケースがほとんどだ。まずは最近の管理組合総会議案書、議事録、長期修繕計画書を見直してみよう。
欠陥長期修繕計画戦慄の実態
仕事柄、多くのマンションの長期修繕計画を見てきたが、そのほとんどが同じ末路を辿ることが目に見えている。現在、資金は足りているものの20~30年後には大幅な資金不足になることが確実なのだ。各戸で負担する修繕積立金を20年後には3~5倍に値上げしなければ足りなくなるところばかり。稀には10倍近く値上げしなければ大規模修繕ができなくなるケースさえあった。私の目には滅茶苦茶に映るものがほとんどだ。値上げではなく、50万、100万といった一時金が計画されているところもある。さらには、値上げと一時金の両方を盛り込んだ、まさにダブルパンチな長期修繕計画も珍しくはないのだ。
なぜ破綻が目に見える長期修繕計画が横行するのか?
それは、購入者には知られたくない不都合な事実、業界の裏事情があるからだ。新築マンションの販売時は、マンション購入金額に付随する管理費などの費用は、販売のしやすさを考えればできるだけ抑えたい。そこで販売側は、売るだけの事を優先して、将来の大規模修繕工事の修繕費を考えず、低額の積立金を設定しているのだ。購入の数年後に突きつけられる値上げや一時金の要請を認識している購入者は皆無だ。管理費積立金の総額しか見ないから、そんな商売が成り立つ。これは無知に付け込んだ、計画倒産ならぬ「計画破綻」というほかない。30年後にマンション管理組合が破綻しても、販売会社は咎められない。管理会社にとっては逃げ出せばいいだけの泥舟だ。全ては住民の上にのしかかってくる。
私が見るところ、今後30年間で修繕積立金を値上げせずに破綻しない健全な長期修繕計画を持っている管理組合は、全体のおよそ3%に過ぎない。
8年間で修繕積立金が4倍に
私が相談を受けた、一番ひどいと思われる例を紹介したい。築25年、約100㎡の広々としたマンションを購入した40代前半のご夫婦のケースだ。
購入当時、月額の修繕積立金は1㎡あたり150円、ご夫婦の負担は約1万5000円だった。入居3年後、管理組合総会で1㎡あたり350円とする値上げ案が可決して3万5000円、さらにその5年後、1㎡あたり600円に値上げされた。
物価の上昇がほとんどなかった8年間で修繕積立金は1万5000円から6万円になってしまったのだ。ご夫婦が毎月支払うのは、それに2万円の管理費を加えて8万円だ。100㎡の広さとはいえ築33年のマンション、それに加えて月8万円の固定費がかかる。売りに出しても買い手がつきにくく資産としての価値にも悪影響だ。
これは決して他人事では済まされない。
金額の多寡、深刻度の違いはあっても、冒頭で触れたように90%以上のマンションの長期修繕計画には問題があるのだ。そして修繕積立金破綻は家計を直撃する。40代のご夫婦ならまだ先の増収が見込めるだろうが、これがリタイアメントに近いタイミングでの購入であればどうか?月額3万5000円が8万円に跳ね上がれば、修繕積立金の前に家計が破綻してしまうだろう。
収入を増やすか?支出を減らすか?品質を落とさず支出を減らす秘策
この破綻をどうすれば回避することができるのか?
単純な話だ。収入を増やすか支出を減らすかだ。値上げ、一時金、借り入れなどで収入を増やすことは、修繕積立金の破綻は回避できても、家計の負担は増大することになる。だから、収入を増やす方策は、住民にとっては最後の手段、使わないで済むなら使いたくない。
一方、管理会社にしてみれば、収入増は大歓迎だが、支出を減らすことは売り上げの減少を意味する。支出減に熱心でないのは当然のことで、管理組合の方から積極的に働きかけなければ、そんなことには決してならない。支出にメスを入れなければ破綻は避けられない。それは長期修繕計画の見直しと、修繕積立金会計と管理費会計の健全化を意味する。
長期修繕計画の見直しは非常に単純な話だ。大規模修繕工事のサイクルを伸ばすのだ。今お住まいのマンションの長期修繕計画書を開いてみよう。大規模修繕は何年周期で計画されているだろうか?現在、多くのマンションの長期修繕計画では12年周期としているところが多い。平成20年に国土交通省が策定した長期修繕計画作成ガイドラインのコメントとして「大規模修繕工事の周期が12年程度」とあることが根拠とされている。
しかし、「12年『程度』」とあるように、これはあくまでもガイドラインで、個々のケースによって変わっていいものなのだ。中には、10年ごとが最適と宣伝している業者もある。ガイドライン策定からほぼ10年が経って実状も変わっている。
最近では、一般社団法人「マンション大規模修繕協議会」が15年サイクルを提案している。単純に30年スパンで考えてみよう。10年サイクルなら3回、15年サイクルなら2回、この差は大きい。これだけでも住人の負担増と積立金破綻の両方を回避できるケースもあるだろう。
無駄な支出は、総会議案書でも発見できる。細かいところからいえば、共用部分の電気料金、火災保険料などの見直しが必要だ。省エネ技術、電力自由化によって低減できる支出がある。LED化、契約先、契約内容の変更だ。火災保険の見直しについては改めて詳しくお伝えしたいと考えている。
“削減の本丸”は管理委託費だ。
販売時の管理委託費は長期修繕積立金とは逆で、多くの場合、多少なりとも販売会社に関係する管理会社のために詰めの甘い設定となっている。さらに競争原理は働いていないので、その金額に見合う管理がなされていない場合が多い。
“あなたのマンションは管理会社の「カモ」にされていないか(2017.7.7)” で紹介させていただいたような「管理会社を変える」ことまでを視野に入れて競争原理を導入するなら、破綻回避どころか、数少ない健全な長期修繕計画を持つマンションとして生まれ変わることができる。
ただし、単に安ければいいのではない、ということは忘れずに。品質を落としては意味がない。管理会社を維持するにしても、変えるにしても、重要なのは適正な金額で適正な管理がなされることだ。現状は、適正を上回る金額で、適正を下回る管理がなされている可能性が高い。
(株式会社シーアイピー代表取締役・一級建築士 須藤桂一)」
管理費の安い独立系の管理会社は、管理費以外でも儲けないと会社の利益が確保できないため、しきりに修繕工事を進める傾向にあります。聞いた話ではフロントマン1人あたり、工事発注でいくら利益を出すというノルマのある管理会社もあるようです。そこで、工事費支出の元となる修繕積立金の値上げを盛んに提案する管理会社も増えているようです。
しかしこのブログにある㎡あたり600円、月々6万円の修繕積立金はどう見ても高すぎです。年間72万円、14年で1000万円超の修繕積立金が溜まる計算になります。大規模修繕工事の相場は戸当たり100~120万程度ですから、1000万円もの修繕積立金は必要ありません。高額な管理費や修繕積立金は、中古マンション売買でもデメリットになります。
このマンションにマンション管理士や一級建築士の顧問がいれば、こんな高額な修繕積立金は必要なかったのに、と思います。
管理会社のカモにされないためにも、是非専門家の活用を検討してください。
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