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フラット35、不正利用

最終更新: 17時間前



 2020年6月の不動産投資新聞「楽待」に以下の記事が載っていましたので紹介します。少し長い文章ですが深刻な問題です。


住宅金融支援機構が提供する低金利の住宅ローン「フラット35」を不動産投資に不正利用していたオーナー約150人が、契約違反として機構から残債の一括返済を求められ、一部が自己破産に追い込まれていることが分かった。オーナーからの相談を受けている加藤博太郎弁護士によると、相談者9人のうちすでに2人が自己破産の申し立て手続き中で、残りもほぼ全員が自己破産を避けられない見通しだという。

 オーナーのほとんどは実勢価格を大きく上回る価格で物件を購入しており、競売にかけられたとしても多額の債務が残る状況で、サブリース契約を打ち切られて家賃収入が途絶えているケースも少なくない。加藤弁護士は「購入者は年収の低い若年層も多く、売却後に1000万円近い負債が残れば持ちこたえられない。自己破産者はこれから100人を超える可能性がある」とみている。


 自己居住用と偽って投資物件を購入する行為は「なんちゃって」と呼ばれ、業界では古くから横行していた手口だ。今回、調査を進めていくと、業者側が巧みな営業トークで投資家にフラット35のローンを組ませ、さらに二重売買契約や架空のリフォームローン契約などによって組織的に金をむしり取るスキームの実態が浮かび上がってきた。フラット35販売首位のアルヒ(東京都)による審査の甘さも問題視されている。


148件中145件で不正認定

 フラット35は自己居住目的の住宅購入者に対し、アルヒなど住宅金融支援機構と提携した民間金融機関(モーゲージバンク)が融資をする仕組みで、1%ほどの固定金利で最長35年の融資が受けられる。投資目的の利用は認められていないが、金利の高い投資用ローンを使うより収益性が上がるため、自己居住と偽って投資用物件を購入する「なんちゃって」と呼ばれる不正が以前から横行していた。

 住宅金融支援機構が昨年、外部の指摘で不正利用の疑いが浮上した案件162件について調査したところ、購入者にヒアリングした148件のうち145件で自己居住用と偽った不正な申し込みがあったことが発覚。いずれも「なんちゃって」の不正だけでなく、金額の異なる2種類の売買契約書を作って融資額をかさ上げする「二重売買契約」も行われていた。

 金消契約書には、債務者が貸主の承諾を得ず自己居住目的以外に借入金を使用した場合は「期限の利益(一定期限までは債務の履行を請求されない債務者側の利益)」を喪失し、全額返済義務を負うという条項がある。機構はこの条項に基づき、これらの不正があった案件のオーナー約150人に対して残債の一括返済を求めている。


オーナーを「食い物」にするスキーム

 もちろん、住宅ローンと知りながら契約したオーナー側にも大きな落ち度がある。しかし、加藤弁護士は「今回のフラット35をめぐる不正は、マンションの売主業者、投資家を見つけてくるブローカー、仲介業者、サブリース業者、そして融資審査を行うモーゲージバンクが絡み、組織的に行われていた詐欺的なスキームといえる」と指摘する。


 加藤弁護士の調査や関係業者の証言、複数のオーナーへの取材結果を総合すると、このスキームの基本的な仕組みはこうだ。


 まず、ブローカーが投資セミナーや異業種交流会などでマンションを売りつける投資家を見つけ、仲介業者に引き合わせる。仲介業者は投資家に「みんなやっているから問題ない」などとフラット35の利用を促し、投資用マンションを購入させる。自己居住用と見せかけるために住民票を購入物件の所在地へ移すよう指示し、郵便物は管理会社などに転送させることで居住実態がないことの発覚を防ぐ。

 契約時は金額の異なる2種類の売買契約書を作り、実際の物件価格を上回る融資を引き出す。その差額分は裏金として、ブローカーや仲介業者、保証賃料を払うサブリース業者らにわたる。このスキームでは多重債務者が買主となっているケースも多く、「不動産を買って借金を帳消しにできる」などと勧誘して二重売契の差額分を買主の借金返済に充てていた事例も多いとみられる。

 加藤弁護士によると、物件価格は実勢価格より2倍ほどに水増しされているケースも多い。裏金は1件500万円前後で、単純計算すると、機構が不正を認定した145件だけで7億円ほどが闇に消えていることになる。


リフォームローンによるさらなる水増しも

 今回のスキームがさらに悪質なのは、二重売契による融資額のかさ上げだけでなく、買主に架空のリフォームローンや諸費用ローンなどを組ませて融資額を水増しさせていたケースもあったことだ。「オーナーの多くはそういったローンが組まれていたことを購入時に認識しておらず、勝手に申込書に記入された人もいた。ほとんどのケースでは実際にリフォームは行われていない」と加藤弁護士は指摘する。

 オーナーは契約時に、売主のほか、サブリース会社など複数の関係先に送金をしているケースがある。


「破綻前提」のサブリース契約

 オーナーはブローカーや仲介業者から「入居者がいなくても家賃が入ってくる」「その間はずっと手出しゼロで、返済が終われば物件があなたのものになる」といった営業トークで勧誘されていた。多くのケースでは「20年保証」といった内容のサブリース契約が結ばれているが、その契約のウラにも大きな問題が隠されている。

 通常のサブリース契約では、サブリース業者が入居者から賃料を受け取り、10〜20%の手数料を引いた残りを保証賃料としてオーナーに支払う形が一般的だ。しかし、今回のサブリース契約書をみると、多くのケースで「借入返済の同額と管理費・修繕積立金の全額を支払う」という内容の取り決めになっている。

 あるオーナーの出入金記録を見ると、2019年4月25日に「15万6531円」という入金があり、これがサブリース業者から毎月振り込まれる保証賃料ということになる。一方、出金欄を見ると、住宅ローンのほか、諸費用ローンやリフォームローン、管理費などオーナーが月々支払う金額が並ぶ。これらを全て足すと「15万6531円」で、入金額と完全に一致するのだ。

 この状態の何が問題かというと、物件の実賃料は8万3000円にすぎず、サブリースの保証賃料が実賃料の2倍近くに膨らんでいるという点。つまり、二重売契や架空のリフォームローンなどで融資額を水増しした結果、見た目上の「手出しゼロ」を実現するために異常な逆ザヤ状態が生まれているのだ。

 二重売契の差額分は保証賃料を払うサブリース会社にもわたっているが、この逆ザヤ状態を「20年保証」するのはもともと実現不可能で、破綻することが前提のサブリースであることが分かる。これは女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐる問題で、サブリースを行うスマートデイズが飛ぶことを前提にしていたのと同じ構図だ。


 なぜ、業者側はこのように無茶なサブリース契約を組んでまで「手出しゼロ」を実現する必要があるのか。黒幕とみられるブローカーは加藤弁護士の聞き取りに対し、「アルヒの都内のフランチャイズ店の担当者から『1年以内にデフォルトを起こすと機構から調査が入るので、1年はデフォルトするな』と言われていた」と証言している。

 加藤弁護士によると、実際にサブリースの開始から1年経過後に保証賃料が止まり、毎月の返済だけがのしかかっているオーナーも多いという。今回のスキームが拡大したウラには、アルヒなどのモーゲージバンクが投資目的の不正利用や実勢価格と購入価格の乖離を見過ごしていたという実態がある。加藤弁護士は「国(住宅金融支援機構)という後ろ盾があるために審査が甘くなるという状況があった」と、構造的な問題点が大きいとみている。

 住宅金融支援機構は全額政府出資の独立行政法人で、モーゲージバンクが融資した住宅ローン債権を買い取って証券化している。モーゲージバンクは貸し倒れリスクを負わずに手数料を稼ぐことができるため、甘い審査につながりやすい構図があったというのが加藤弁護士の見方だ。機構によると、2019年度のフラット35(買取型)の申請は10万3861戸で、融資実行されたのは7万6460戸だった。


 フラット35をめぐるモーゲージバンクの審査体制は、以前から問題視されていた。機構は勤務先の在籍確認や個人信用機関への照会などをモーゲージバンクに求めているが、2012年の会計検査院による調査では、フラット35の取り扱いが多い39金融機関のうち8〜9割がそれらの審査手法を行っていないことが発覚。検査院は「民間金融機関が信用リスクを負っていることを意識しにくい状況が甘い融資審査につながっている可能性がある」とし、機構に金融機関への指導を求めていた。

機構はこれを受け、融資実行時にモーゲージバンクが必要な審査を怠っていた場合、債権の買戻し請求をすることを明確にルール化するなど、不正防止策を強化。機構は「金融機関は審査に問題があれば債権買戻しになるというリスクを負っているので、なんでもかんでも機構に案件を投げて終わりという形にはなっていない」と強調する。

 昨年認定した約150件の不正については「金融機関の職員が不正に関与していたわけではないと認識しており、債権買戻し請求の対象にはしていない」ということだった。


アルヒ「フランチャイズ店の不正関与はない」

 加藤弁護士の調査や関係者の証言によると、今回の不正はアルヒのフランチャイズ店のうち東京都内2店舗、埼玉県内1店舗の計3店舗に集中していたとみられる。加藤弁護士は「アルヒのフランチャイズ店とすれば仮にオーナーが破綻したとしてもリスクを負っていないので、融資をすればするだけ儲かるという状況だった。不正を知っていて黙認していた可能性は高い」とみている。アルヒはあくまでもアプラスへの取り次ぎのみを行っている。しかし、フラット35の場合は機構の本格的な審査に回す前のローン審査の主体という役割を担っており、仮にずさんな審査で融資を通していたのであれば問題といえる。

 アルヒは楽待新聞の取材に対し、「昨年機構が認定した不正は、特定の売主業者らで構成されるグループがフラット35を悪用した事案で、審査に関しては適切なプロセスを経て実施したと認識している。フランチャイズ店の社員が関与・黙認した事実はなかった」と回答した。

 アルヒは昨年12月、不正利用の防止に向けてAIによる不正検知システムを導入するなど、「なんちゃって」の防止策を強化。来年春をめどに価格の適正性についてもAIでチェックできるシステムを開発しているといい、「フラット35の問題がクローズアップされてから、『不正を許さない』という姿勢を段階的に強化している」とした。

 しかし、加藤弁護士は「今年4月にもアルヒのフランチャイズ店で『なんちゃって』による不正があったことを確認している」といい、不正利用の対策が十分に効果を発揮しているかどうかは不透明だ。


黒幕「8年間で3000件の不正をした会社も」

 組織的にオーナーをはめ込むスキームは悪質だが、「みんなやっているから大丈夫」といった業者の巧みな営業トークを信じ込み、住宅ローンということを理解しながら投資物件を買ったオーナー側にも当然落ち度はある。果たして、このスキームで物件を購入したオーナーはどれぐらいいるのだろうか。

 機構によると、昨年10月に住宅ローン控除用の「融資残高証明書」を契約者の住所65万件に転送不要で送ったところ、約7700件が届かず戻ってきたという。これらの物件は契約者の居住実態がないことになる。機構は「転居したが手続きを忘れたという人がほとんどだと考えている」としているが、不正な投資目的による物件が含まれている可能性はある。

 今回のスキームの黒幕と目されるブローカーは加藤弁護士の聞き取りに対し、「以前私がいた会社の前身は、このスキームによる不正を8年間で3000件ほどやっていた」と証言したという。

 加藤弁護士は「昨年機構が調査した約150件は、不正に関与した売主業者の社員が発覚を恐れて自己申告したもので、全体の氷山の一角に過ぎない」と指摘。「それらが一括返済の対象になったことで自己破産寸前のケースが増えているだけで、実際にこのスキームで物件を購入したオーナーはもっと多い。これからさらに問題が大きくなっていく可能性があるだろう」


  オーナーはなぜ、フラット35での投資物件購入を決めたのか。そして、彼らは本当に「被害者」なのか。実際に一括返済を求められたオーナー3人に話を聞いた。


遅延損害金が毎月50万円積み上がる

 「4000万円もの残債を一括返済できるわけもなく、毎月約50万円の遅延損害金が積み上がっている状態。借り換えも10行に断られて、任意売却も許されず、もう手の打ちようがありません。このまま競売にかけられたら数千万円の債務が残ってしまう」

 東京都の会社員遠山健司さん(仮名、36)は2017年6月、都内で築2年の3LDKマンションを4600万円で購入した。「老後のために」と買ったその物件が今、目の前の生活を脅かしている。

 以前から不動産投資に興味を持っていた遠山さん。参加していた副業スクールの代表者の紹介で仲介業者のセミナーに出席し、「空室でも家賃は保証され、長期的な資産形成につながる」という説明を受けた。「当時は転職したばかりで将来の退職金も当てにできず、家賃が保証されるならリスクもないのでいいかな、と思ってしまったんです」

 その頃の年収は600万円ほどだった。担当者は「あなたの与信ではなかなか融資を引っ張るのは厳しいです。あと1社だけ、ここならいけるというところが残っているのでトライしますか?」と言ってきた。それが、アルヒの手掛ける住宅ローン「フラット35」だった。

 遠山さんが「住宅ローンなのに大丈夫なんですか?」と尋ねると、担当者は「もうこれしかないんです。みんなやってますし、住民票だけ半年移せば問題ありません」と言った。「プロが言うなら大丈夫なのかなと思って、信頼してしまったのが間違いだった」と遠山さんは振り返る。

 今回問題となっているサブリース契約では、ローン返済や管理費など月々の支出とほぼ同額が保証賃料として設定されているケースが多い。遠山さんが結んだサブリースの契約書にも「本物件の設定キャッシュフロー金額831円を保証する」という記載がある。「月の収支がマイナスになることはない」という意味だ。しばらくは、支出とほぼ同額の18万円ほどが毎月振り込まれていた。


 しかし、昨年11月。アルヒから「面談がしたい」と突然の呼び出しを受けた。アルヒの担当者から「フラット35で契約した住所に住んでいませんよね?」「売買契約書を偽造して差額を抜いていますよね?」と尋ねられた。

 「1点目の住宅ローンについてはたしかに知っていたので、自分の認識が甘かったことを認めました。ただ、2点目については全く心当たりがなかったので『どういうことですか?』と聞いたんです」

アルヒは2種類の売買契約書を遠山さんに突きつけた。本来の売買代金が3990万円なのに対し、アルヒに提出された売買契約書は4580万円になっていた。二重売買契約によって融資額がかさ上げされ、590万円が抜かれていたことになる。遠山さんは「知りませんでした」と訴えたが、「振込伝票にはサインしているでしょう」と言われた。

 遠山さんはフラット35以外にアプラスの諸費用ローンなども組んでおり、契約時の振込伝票を見ると、売主業者に3950万円、仲介会社に830万円を振り込む形になっていた。

 「金額などは仲介業者の担当者がすでに記入していて、名前と連絡先だけを書かされました。どこにいくら振り込むかは説明されず、何も考えずに書いてしまったのが反省点です」。この830万円の一部が、今回のスキームの黒幕などに裏金として流れたとみられている。

 そして今年2月、契約違反として機構から一括返済を求める催告書が届いた。1カ月後までに一括返済できない場合は競売に移行するという内容だった。4000万円強の残債を一括返済できるはずもなく、1カ月後に契約不履行となった。現在は残債に対して遅延損害金14%がかけられ、毎月約50万の金額が膨らみ続けている状態だ。

 「仲介業者は当初、『悪いのは全てアルヒと売主業者で、あなたは何も悪くないし、裁判になっても負けません。いざとなったら弊社のネットワークで売却もできますし、ダメでも買い取りますから』と言っていたんです。それなのに催告書が届いたら態度が一変し、『ウチが買い取る義務はない。契約違反をしたのはあなたでしょう』と言われて…」

 サブリースの保証賃料はまだ振り込まれているが、いつストップするか分からない状況。「このままでは自己破産する」と危機感を抱き、金融機関10行以上に借り換えを打診したが、住宅ローンを利用して投資物件を買ったことを正直に伝えると、その瞬間に門前払いされる毎日だった。不動産会社の売却査定額は3000万程度で、任意売却も機構には認められなかった。このまま競売にかかれば数千万円の債務が残る。

 「最初の時点でもう少し調べておけば、契約違反が発覚した時にどうなるかぐらいは考えが及んでいたはず。副業スクールの代表者からの紹介だったこともあり、相手の言うことを軽率に信じ込んでしまったことを本当に後悔しています。これからどうすればいいのか…」


「投資用ローンを使うなんて馬鹿ですよ」

 2018年6月に、フラット35で区分マンションを購入した千葉県の会社員漆原弘毅さん(仮名、31)もその1人だ。

 「もともと仕事で悩みを抱えていて、異業種交流会に参加したりしていたんですが、そこでLINEを交換した人から『手出しゼロで不動産が持てる』と、ブローカーを紹介されたんです。半信半疑でしたが、とりあえず会ってみると、『ローンを20年保証して、最初に200万がもらえて、運営も全てサポートする』という話。そんなにおいしい話はないだろうと思いつつ、販売会社に行ってみると、すごくしっかりした建物で…」

 営業本部長と名乗る男が「住宅ローンを使いますが、しっかり20年保証します。その後は自分で返済して住んでもいいし、手放して売却益を得てもいい。低金利の今しかできない投資です」と説明した。

 実は漆原さん、この会社を訪問する前に別の不動産会社3社とも話をする機会があったという。

「その3社全てが住宅ローンを使ったスキームを勧めてきて、『投資用ローンを使うなんて馬鹿ですよ』という会社もありました。ただ、3社とも小さな会社だったので怪しくて断っていたんです。でも、その時に行った会社はあまりにもオフィスがしっかりしていたので、『本当に当たり前にやられていることなんだ』と。自分で住まなければいけないと分かってはいましたが、それが悪いことだという意識が希薄になってて…」

 当時の年収は400万円ほど。融資審査に通るとは思っていなかったが、営業本部長は「私は金融機関と強いパイプがあるので、必ず通すことができる」と言った。面談時に物件リストを紹介され、後日LINEで「いい物件が新しく入りました。リフォーム済みで、立地も間取りもこの物件がベスト」と連絡が来た。埼玉県にある築24年の2LDKマンションで、価格は2600万円だった。

 「明日までに決めてください。間に合わなければ次の人に回します」その言葉を聞いて、思わず「では、審査に回してください」と伝えた。「今考えればもっとしっかりと調べるべきだったと思うんですが、『早くしないとこの話はなしになります』と急かされて、焦ってしまった」

 住民票を千葉から埼玉に移すよう指示され、アルヒの埼玉県内のフランチャイズ店で金消契約を結んだ。仲介会社からは「とりあえず言われた通りペンを動かすだけでいい。あとは『はい、はい』とだけ答えておけば大丈夫」と指示された。契約は淡々とした雰囲気で終わった。

 「20年保証で200万円もらえる」という話は、「ローンや諸費用全てを20年保証する」「固定資産税は払う必要があるが、代わりに前金として200万円渡す」という内容だった。「二重売買契約という言葉は知りませんでしたが、『実際の物件価格より多く融資を引く』という説明を受けていて、その差額の200万円をもらえるんだという理解はしていました」

 「契約に必要だから」と、4枚の振込伝票を渡された。「僕が司法書士と話をしている間に金額も名前も全て書かれていて、銀行印だけ押すように指示されました」。漆原さんは融資額の水増しのために架空のリフォームローンや諸費用ローンなどを組まされており、その分は売主やサブリース会社のほか、今回のスキームの黒幕と目されるブローカーのペーパーカンパニーなどに送金されていた。

 約束の200万円は後日、現金で受け取った。

 しばらくは保証賃料14万円ほどが入金されていた。購入から4カ月ほど経ったころ、何の気なしにサブリース会社についてネットで調べてみると、「サブリース詐欺」「家賃の支払いストップ」といったワードがずらりと並び、被害者の会まで存在することを知った。「自分も家賃が払われなくなるかも…」。仕事が手につかなくなり、精神的に追い詰められて不眠症になった。

 その2カ月後にアルヒから呼び出され、昨年10月に催告書が届いた。1カ月後までに住宅ローンの残債2500万円ほどを一括返済するよう求める内容だった。

 「ようやく、とんでもないことをしてしまったと気づきました。自己破産するか、命を絶つか、どちらかしかない、と」

 自殺を考えるところまで追いつめられたが、最終的には、両親が退職金などから工面した資金で住宅ローンを一括返済し、なんとか自己破産は免れた。

 住宅ローンは完済したが、「知らぬ間に組まされていた」と語る諸費用ローンやリフォームローンなど6万7000円の支払いが続く。「支払いと同額の保証賃料は入っていますが、最初のサブリース会社は飛んでしまって、今やどこから振り込まれているのかさえよく分からない状態。実賃料が共益費込み8万5000円なので、直接契約に切り替えたいんですが、唯一連絡の取れる担当者に聞いても『詳細は話せない』と言われて…」

 今も後悔の念に苛まれている。「よく考えればマンションを買う必要なんてなかったのに、おいしい話につられて話だけ聞いてみようと思ったのが間違いでした。オフィスがしっかりしていたので信頼できる会社だと思って、このスキームは業界では当たり前なんだと錯覚してしまった。ただ、説明なしにポンポンと話を進められてしまったことについては、正直おかしな話だなという気持ちは抱いています」


「借金300万円を帳消しにする」と言われたが…

 今回、一括返済を求められたオーナーの中には、「今の借金を帳消しにして不動産が買える」という営業トークで勧誘を受けた人も多かった。2017年11月にフラット35で投資用マンションを買った会社員吉村典久さん(仮名、50代)も、その説明を受けて購入を決めた1人だ。

 「当時300万円の借金があったんですが、知り合いから『不動産でいい話がある』と、ブローカーを紹介されたんです。『借金を返せるんだったら』と会ってみると、たしかに『借金を返済できて、物件も手に入る』という話。最初は物件を買う前に借金を肩代わりしてくれるという話だったんですが、途中から『物件を買った後に借金を埋めるから』という話に変わり、先に決済することになったんです」

物件は埼玉県内の2LDKマンションで、価格は約2000万円だった。「住宅ローンを使って買うしかないという説明を受けましたが、それが悪いことだという認識は正直ありませんでした。埼玉県内のアルヒのフランチャイズ店で契約する時、仲介業者の担当者から『自分で住みますかと聞かれたら、はいと言ってください』と指示されて…。ローン申込書は自分で署名、押印しました」

 吉村さんは業者の指示で、フラット35に加えてリフォームローンも組んだ。「そのローンで借金300万円を埋めてくれるという認識でしたが、いまだに300万円は手元に届いていません。後日物件を見に行ったんですが、リフォームもされていませんでした」

 そして昨年10月、一括請求を求める催告書が届いた。「300万円の借金を帳消しにする」という約束は反故にされたままだ。

 しかも吉村さんは契約時、ブローカーに120万円を貸していた。「50万円は『申し込みに必要な費用で、後から返す』と言われ、70万円は『あなたのほかに買いたいけどお金がない人がいるから一時的に貸してほしい』という説明でした」。借用書には「スキームを辞退したら50万円は返ってこない」という記載があり、「この縛りがあったから、途中でおかしいと思っても降りられなかった面があった」と吉村さんは言う。

 70万円は後から返ってきたが、50万円は何度催促しても返ってきていない。「最初に50万円を支払ってしまったことで後に引けなくなってしまった。ブローカーに『いつ借金がなくなるんですか』と何度メッセージを送っても『業者待ちです』『遠くにいるので会えません』の一点張りで、最近は電話もメッセージも完全無視なので打つ手がありません」

 吉村さんは3人の子供がいるが、この現状についてはまだ伝えていない。先日、競売に向けて裁判所の調査が入った。

 「借金がなくなると思って買ったのに、逆に自己破産寸前に追い込まれている。自宅が差し押さえられたら家族が住む場所がなくなってしまうので、なんとか個人再生の道を探したいと思っていますが、どうなるのかわかりません。今振り返ると途中で引き返せるポイントがあったのに、流されてしまったことが情けない。戻せるなら時間を戻したい」


 取材を進めていくと、オーナーの多くが契約時に住宅ローンを利用すること自体は理解していたことが分かる。アルヒ・アプラスの投資用マンションローンをめぐる不正では、オーナーの多くが源泉徴収票など審査資料の改ざんを認識しておらず、その点が今回のフラット35と違う部分といえる。

この2つの問題でオーナーからの相談を受けている加藤博太郎弁護士は「投資用マンションローンの問題とは違って、フラット35の場合はオーナー側の落ち度も否定できないと考えている。投資用の方はアルヒ・アプラスへの法的対応も検討しているが、フラット35はアルヒ側の責任追及も容易ではない面がある」と指摘する。

 「住宅ローンを使って投資物件を買うという問題の大きさを正しく認識していなかったオーナーも多く、おかしいと思ったら立ち止まって考える慎重さが必要だったといえる」と加藤弁護士。「ただ、今回は複数の業者がアルヒの特定の代理店からの指示があったと証言しており、オーナー側だけが責任を取ればよい話ではないと考えている。背景に何があったのか、実態の解明を進めていく」


 アルヒは楽待新聞の取材に対し、「昨年機構が認定した不正について、審査は適切なプロセスを経て実施されたと認識している。フランチャイズ店の社員が関与・黙認した事実はなかった」とし、不正への関与を否定。「特定の売主業者やサブリース事業者などで構成するグループの関与の元、オーナーが自己居住用としてフラット35を申し込んでいたということ」としている。



 最近も朝日新聞に、フラット35でオーバーローンを組み、借金返済とあわせてマンションを購入するという詐欺話が出ていました。進めてくる業者は最初から詐欺が目的であり、購入者のことは単なるカモとしか考えていません。

 コロナの持続化給付金でも、簡単にお金が手に入るという話を真に受けて、不正に現金を搾取し、大学を退学になったり、いつ詐欺で訴えられるかとビクビクしながら生活している人も多いようです。うまい話に乗る前に、みんなに胸を張って説明できる内容なのか?今一度、立ち止まって考えてもらいたいと思いました。

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