2023年4月23日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。
「国交省は、2017年1月27日付けの通知において、以下のようにマンション大規模修繕に関する警鐘を鳴らしている。
「一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様 の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態が発生している」(*記事内容は編集部が保証するものではありません。実際のマンションの状況に合わせて考え方を参考にしてください)
国交省も警鐘を鳴らす「設計管理方式」の闇
大規模修繕の事業方式は主に、管理会社や建設会社が元請けとなる「責任施工方式」と、設計コンサルタント会社が作成した共通仕様を基に工事会社に相見積もりを取る「設計監理方式」がある。
前者は元請けが全てをマネジメントするのでマンションの管理組合は手間が少ない反面、中間マージンが発生するため、高額になりやすいというデメリットがある。
一方、後者の設計監理方式は現在、主流の事業方式となっており、相見積もりによる競争原理の導入により、安価になると“期待”される。しかし、上記の国交省の通知は「設計監理方式」に関してのもので、現実は違う。
大規模修繕の見積もり見直しサービス「スマート修繕」代表の豊田賢治郎氏が解説する。
「『設計監理方式』は時には談合が行われ、割高になってしまうことがあります。公募をしたとしても、設計コンサル会社の主導で条件設定をすると、結局、彼らと付き合いのある業者が選ばれるように仕組まれていたりします。談合の良し悪しというより、設計会社も最初は選ばれる立場です。不適切な設計会社は、修繕工事における設計監理の見積もりを、工事会社からのキックバック(バックマージン)を見込んで割安な価格で契約を得ようとしますが、トータルで管理組合が支払う工事費は高額になってしまいます」
談合され、高額キックバック業者の施工に
このキックバックの割合は、施工会社が受け取る工事費の10〜20%と言われており、近年では協力会社などを迂回して、そのやり取りもより巧妙化していると業界内では言われている。
「工事会社にとっては、付き合いのある設計会社から実質的には競争不要で斡旋された仕事となり、キックバックの原資も含むため、適切に取得した見積金額よりも割高になってしまうケースがあります。実際、我々が同等仕様であらためて見積もり取得した場合、20~30%程度コストダウンできるケースが少なからずあります。この差分が、不適切な見積もりによる増分である可能性は十分に考えられます。しかし、残念ながら多くの管理組合では相場が分からず、感覚的には高いと思いつつも渋々、割高な工事費を受け入れているように見受けられます」(豊田氏)
「公募」も出来レース
また、別の業界関係者によれば、設計会社の主導で公募しようとすると、『資本金1億円以上』『直近3期のマンション大規模修繕の受注高30億円以上』など、ハードルの高い条件設定を勧められ、結局は設計会社の意中の業者しか応募者できず、事実上の談合と変わらない状況になるという。
実際、大規模修繕の公募情報では、そのような案件ばかりなのが実情で、公募を持ちかけられた時点で怪しんだ方がよさそうだ。
そして「騙されまい」と管理組合主導で見積もりを取ろうとしても、まだ油断はできない。前出の豊田氏がいう。
「管理組合が独自に工事会社から見積もりを取ろうとしたり、公募に関係性のない工事会社が応募したりした際には、『競合排除』が発生するケースもあります。これは、管理会社や設計会社、時には受注予定である工事会社から『他取引とのバーター』、『今後の新規取引の停止』をその工事会社に対して示し、辞退してもらうというものです。見えないところで、このような機会損失が生じている可能性もあるのです」
キックバック業者は施工品質も悪い
しかも、発注する工事会社がキックバックを取っている会社だと、経費圧縮の観点から施工品質にも影響が出かねないという。
一級建築士でマンションコンサルタントの須藤桂一氏が言う。
「私がコンサルで入った談合と思しき割高な大規模修繕では、手抜き施工だらけです。防水や塗装の塗布量も規定に達しておらず、シーリングは古いものを除去せず、“増し打ち”です。タイル補修もやらずにお金だけ請求する事案も確認しています。悪質な設計コンサルや管理会社と付き合うような工事会社は仕事を取ることにコストを費やしていて、施工レベルはひどいものです」
このような談合の排除を目指すことが、正しい大規模修繕の実施に繋がるのだ。
設計コンサルを普通に選べば、談合の被害が“既定路線”に
なぜ管理組合が談合のターゲットになるのか。「スマート修繕」代表の豊田賢治郎氏が解説する。
「管理組合は設計コンサル会社に対する評価軸の知識がないため、管理組合内の多数決になると、自ずと価格と実績で選定することになります。となると、キックバックを多くもらう設計コンサルのほうが価格競争力を有しているので、結果、受注実績を稼ぐことができます。
つまり、不適切な設計会社ほど採用されやすい、という構造的な問題があるのです。残念なことに、この状況は改善されそうにないと感じています」
そうは言っても、実績のない会社に頼むというのもリスクに感じる。そこで工事に関係のない、実績のある第三者的なマンション管理士などに意見だけ聞くのも一つの手だ。しかし豊田氏は、「マンション管理士の多くは管理は詳しいが、工事については詳しいとは言えない人も多い。該当する工事のコンサルティング実績を確認するのも選択肢です」とアドバイスする
管理組合が独自で業者選定をすべき理由
そのうえで、大規模修繕工事を適正価格で行うポイントは、談合をしない善良な設計コンサルを無理に探そうとするのではなく、多少面倒でも業者選定だけは、管理組合が直接行うことだ。設計コンサルが業者選定に関与できない環境にすることが、談合リスクを抑制する上で重要なのだ。
豊田氏は、設計コンサルの委託業務から「工事会社の選定補助業務」を除外し、管理組合主導で決めていくことも重要だと指摘する。
「とにかく、業界から工事会社を紹介してもらうという行為自体がリスクをはらんでいます。知り得ないところで、談合など不正行為が仕組まれていると思った方がリスクを避けられます。
そして、業者選定をする際の注意点は情報の取り扱いです。見積もり先の工事会社の名前や価格などの情報は、できる限り管理組合の選定担当者以外には知られないようにすべきで、工事会社との見積もり時の手続きや、やり取りすら、設計コンサルや管理会社に任せるのはNGです。
また、『見積金額が相場よりも大きく上回っている』とか『見積金額が修繕積立金残高とほぼ同額である』、『工事会社による見積参加の辞退や見積途中での辞退が複数ある』、『高額な工事にも関わらず施工会社のやる気が感じられない』などの不審な行為がある際は、選定をやり直すか、もしくは手元の見積もりをベースに他ルートで見積もりを取ることも手段の一つです。
手間ですが、それだけで総額で数千万円程度、戸あたりで数十万円のコストダウンが実現するケースもあります」(豊田氏)
巨額利権に群がる「住民スパイ」の正体
もっとも、管理組合主導となると、今度は住民(理事や組合員)の修繕担当者による不正も心配だ。
「修繕担当者の不正を防ぐには、工事のおおよその価格帯の情報共有が不正の抑止になる。前回の修繕実績と比べて物価上昇率以上に高額であったり、一般的な工事スペックで戸あたり税込み130万円を超える見積もりが出るようだと、疑ってみた方がいいかもしれない。工事業者の『施工範囲や施工内容が違う』といった説明を鵜呑みにしてはいけません」(住宅ジャーナリスト)
このように賢明な発注を心がけたいところだが、近年では、なんと身内であるはずの管理組合内部に“スパイ”が暗躍しているケースもあるという。
一級建築士でマンションコンサルタントの須藤桂一氏が注意喚起する。
「実は最近、設計コンサル会社の関係会社が、大規模修繕の計画のあるマンションの居室を購入し、その会社の関係者が理事や修繕委員会に立候補して、『自分は大規模修繕に詳しい』『専門家の知人がいる』などと言って、業者選定に関与するケースを複数見聞きしています。
そして、割高な工事業者を『知っていて信用できる』と受注させ、工事が終われば居室を売却して出て行きます。こういう手口が流行っているので、やたらと高額な工事を進める役員がいる際は注意をした方がいいでしょう」
もちろん、長年の住民でもある担当役員が、修繕事業者から接待や便宜供与を受ける見返りに工事業者の選定に関与してゴリ押ししたりするケースもあるので、気を付けたい。
狡猾な工事費の“吊り上げ”テクニック
このようなリスクを切り抜けて、うまく管理組合主導で見積もりを取得したとしても、まだ安心はできない。
前出の豊田氏が施工業者の工費吊り上げ手法を明かす。
「例えば、外壁修繕の場合では、見積もり時に足場がないため、高所の劣化状況や修繕が必要な数量が不明です。そこで、見積もり時は『仮数量』で見積もります。この際、安く見せるため、仮数量は少なくし、その単価は高く見積もるのです。そして、契約後の『実数清算』では、想定以上の金額を請求される恐れがあるのです」
以上、みてきたように、大規模修繕の工事費は、業者選定や見積もりをうまくとらず、修善寺業者に丸投げ状態だと、途端に高くなってしまう。
修繕積立金が足りない本当の原因は
一級建築士でマンションコンサルタントの須藤桂一氏が指摘する。
「一般的に、あらゆる事業において“お金が足りない”原因は、『1、本当に足りない』『2、計画自体が過剰』『3、費用が割高』の3つです。
大規模修繕においては、ファミリータイプのマンションで毎月1.5万円程度の修繕積立金を徴収していれば、特別な設備がない限り、積立金不足の原因は上記の2と3と思ってほぼ間違いありません。それに加えて、普段から割高で、場合によっては不要な工事や設備更新などの度重なる出費によっても、積立金は減少してしまいます。管理会社の提案は常に営業の側面があることも忘れてはいけません」
そんな管理会社や設計コンサル会社などの修繕事業者にとって、工事で稼ぐための下準備が「長期修繕計画書(長計)」の作成だ。これは次回以降の大規模修繕の内容と工事費を概算するもので、5年程度で見直され、これを元に毎月の修繕積立金が算出される。
「長計」は管理会社や設計コンサル会社が作る
「この『長計』が実は曲者なのです。次回以降の大規模修繕で修繕事業者が自社の利益を見込んで高額化する概算を彼らの匙(さじ)加減で作られてしまえば、毎月の修繕積立金の値上げの根拠となってしまう。そして値上げされ、大規模修繕の時期がやってくると、長計を作った管理会社が『責任を持ちます』と、大規模修繕の元請けになったり、設計コンサル会社なら、工事業者の選定に関与したりするのです。
長計を口実にお金をできるだけ貯めさせて、それを工事で使い切らせ、場合によっては積立金以上の大規模修繕の見積もりを出して、一時金まで徴収して売上に繋げられるか。それが営利企業である彼らの最終目標なのです。この長期修繕計画は彼らの"売上予定表"と揶揄する声もあるほどです。
大手の管理会社や設計事務所だから安心、と思うのではなく、施工自体は外注なのに、一等地にオフィスを構えたり、豊富な事務員を抱えられていられるお金は、一体、どこから来ているのかを考えるべきです」(須藤氏)
マンションの経年劣化は「計画」通りに進行するか?
一方で、建物の劣化に対処する修繕において、長期修繕計画が実際、どこまで役立つのか、という疑問もある。須藤氏が続ける。
「冷静に考えてください。マンション固有の物理的な経年劣化が、設計会社の作った計画通り進行するわけがありません。しかも、実際の大規模修繕が行われる何年も前に、1万円単位の工事費の正確性のために、数百万円もかけて劣化診断などの調査をやって、長計の見直しをすること自体、全くのナンセンスです。
『マンション管理適正評価制度』などへの対応で、最低限必要なら、50万円程度で、高額な項目だけいくつか調査し、残りの細かい項目は同じ係数をかければ概算は出てきます。その上で、工事の時期になった段階で、どうしても修繕費が足りなければ、2〜3年工事を延期したらその間の積立金徴収で原資は貯まります。それでも足りないなら、工事費自体が割高だと疑うべきなのです。
修繕周期が18年前後に収まれば、建物上も全く問題はありません。つまり計画通りに修繕をする必要はなく、必要な工事をタイムリーにローコストで実施することが大切なのです」
管理会社は工事でも儲ける
マンション管理問題に詳しいスタイルアクト代表の沖有人氏も言う。
「私はマンションの管理会社の幹部に、顧客に負担のある修繕積立金の値上げを無理強いしてまで工事を増やすより、管理物件の数を増やして『管理で稼いだ方が経営も安定するので良いのではないか』と尋ねたことがあります。すると『工事も主要な収益源だから、減らすなんてとんでもない』と言われました」
マンション管理会社の決算書類をみても、修繕工事の売上や利益は、日常の管理業務に匹敵する額を稼いでいる。この粗利(売上総利益)はだいたい20~25%程度だが、修繕工事は工事会社に外注していることを考えると、実質的に取次業務だけでかなりの利益率であると言える。
ブランド志向の住民が多いマンションがカモに
住宅ジャーナリストが言う。
「『大手だから、実績があるからこの会社で大丈夫』という考え方は、業者選定の根拠でもなんでもなく、単なる『丸投げ』と言っていい。修繕事業者に工事範囲と金額の主導権を握られたら良いカモになるだけです。そもそも、彼らがお金になる大規模修繕工事の資金計画である長計を必要最小限の計画にするわけがありません。任せると『あれも必要、これも必要、やらないと万が一の場合、問題になる』と過剰な計画になるのは必至です。
また、こうした過剰な修繕計画を疑おうとしないのは、大手ブランド志向の住民が多い資産価値の高いマンションの管理組合です。工事をしたい修繕事業者にとっては恰好のカモになってしまいます」
イエスマン理事が多い理事会で進む過剰な計画
しかも修繕工事を主導する管理会社が狡猾なのは、管理組合の意思決定を行う理事会メンバーの構成をみて、この人なら与しやすいという面子の時に、一気に計画を進めてしまうことです。
特に2回目以降の大規模修繕の時には住民も高齢化しており、心配性の高齢者の不安心理に付け入れば、割高で根拠の薄い提案でも簡単に通ってしまいます」(住宅ジャーナリスト)
修繕費が足りなくなる心配より、過剰で割高な工事にならないよう注意をする方がはるかに重要なのだ。」
この記事を読むと、コンサルタントも管理会社も施工会社もすべてが信用できなくなります。悪意を持った業者であれば、この記事のようなケースも確かに考えられますが、このような業者ばかりではないことも知っておいて欲しいと思います。私がコンサルタントする場合は、入札では業者決定をせず、見積もり合わせで、業者プレゼン会後に参加者に取るアンケート結果をもって、希望が多い会社に選定する方法としています。業者選定自体が、組合員主体で決まるため、談合しようにも談合できないような仕組みにしています。管理組合のためを思って、真剣に仕事をしている業者もいることを、皆さんに解って欲しいと思います。
Comments