日本マンション管理士会連合会の11月度の会報に区分所有法改正についての記事がありました。
■ 区分所有法制改正のポイント
区分所有法制については、本年6月に、改正に向けて「中間試案」が発表されました。
中間試案では以下の3点が提示されました。
1.区分所有建物の管理の円滑化
2.区分所有建物の再生の円滑化
3.被災区分所有建物の再生の円滑化
■ 今回の区分所有法制見直しの背景 「高経年マンションが抱える問題」
我が国の新築マンションの供給が続く一方で、高経年マンションストックも増加の一途をたどっています。最近の国土交通省の統計では「築40年以上のマンション数」が、
令和4年(2022年) 126万戸(マンションストック総数の約7%)
令和14年(2032年) 261万戸( 同 約15%)
令和24年(2042年) 445万戸( 同 約25%)
と予想されています。
この高経年マンションでは「二つの老い」「賃貸、空き住戸」という問題が看過できない状況になってきました。
ⅰ)高経年マンションが直面する「二つの老い」
① 区分所有者、居住者の高齢化
新築時には現役世代だった居住者も、マンションの高経年化に併せて高齢化します。高齢者が増えると、マンション管理への関心の低下、役員の成り手不足、管理費等の滞納などの問題が生じてきます。
② マンション建物設備の老朽化
建物や設備は徐々に劣化し、管理組合の機能不全や資金不足により修繕が出来なくなると建物は確実に老朽化します。こうなると退去者が増えるとともに空き住戸が増え、やがてスラム化の道をたどるようになります。
ⅱ)賃貸、空き住戸の増加
築年数が進んだマンションでは、様々な理由で退去する区分所有者が増え、賃貸するケースも増えてきます。この結果、退去した区分所有者のマンションの管理への関心が低下し、内部で管理組合の運営を担う人材が不足してきます。
また、今後「空き住戸」「区分所有者不在あるいは所在不明」が増えてくると想定されます。こうなると滞納の回収が難しくなったり集会の決議ができない事態を招きます。
このような問題が大きくなってくると、管理組合が機能しなくなり、やがてマンションの管理不全に陥ることにもなりかねません。このような事態を未然に防ごうとする考えが今回の改定の根底にあると思われます。
■ 区分所有建物の管理の円滑化の内容
以上のような高経年マンションの問題点に対処するため、法務省は区分所有法制改正によって、管理や建物再生の意志決定手続の円滑化を図り、国土交通省の検討会では、マンションの管理運営、長寿命化に向けた修繕、マンション再生のあり方が議論されています。両者の記録を見ると、法制審議会とあり方検討会は緊密に連携を取り合っていることが窺われます。
1.区分所有建物の管理を円滑にする方策
ⅰ)集会の決議の円滑化
① 現行法では所在不明の区分所有者(当然議決権を行使していない。)は「否認」と扱われてしまうが、これを裁判所の決定で集会決議の母数から除外できるよう改正する。
これにより、所在不明の区分所有者がいる状態では決議が難しかった、規約の改正、大規模
な模様替え等の特別決議や重要議案の成立への道が広がったと言えるでしょう。除外が決定されるとすべての決議に適用され、対象者には集会の招集通知を発する必要がなくなります。
② 区分所有法に対象となる議事を定め、所在不明者及び欠席者を除外して出席した区分所有者及びその議決権によって決議することができるよう改正する。(裁判所の決定は不要。)
前項と同様、管理組合の意志決定を円滑にすることが目的であり、所在不明者と、所在が分
かっていても議決権を行使しない区分所有者を除外した出席者だけで決議ができるとしました。ただし対象となる議案は、普通決議、共用部分の変更、規約の制定改廃、法人設立等に限り法で指定します。
この場合、裁判所の決定は不要ですが、無関心者だけでなく決めかねている区分所有者も除
外される懸念があるので、一定数の出席等何らかの制限を設けることも考えられます。
ⅱ)区分所有建物の管理に特化した以下の3件の財産管理制度を創設する。
① 区分所有者が不明の専有部分は管理不全状態にあることが容易に想定されることから、裁判所が「所有者不明専有部分管理人」を選任し、管理に当たらせることができる制度
② 区分所有者が判明していても、その管理が不適当であるため他人の権利等を侵害する恐れがある場合は、裁判所が「管理不全専有部分管理人」を選任し、管理に当たらせることができる制度
③ 管理不全の共用部分を管理するために、裁判所が「管理不全共用部分管理人」を選任し、管理に当たらせることができる制度
いわゆる「ゴミ屋敷問題」や劣化した配管の未修繕により他者が被害を受けたりそのおそれ
がある場合に、裁判所に選任されたそれぞれの「管理人」が、区分所有者が所有する専有部分と付随する共用部の管理を当該区分所有者に代わって行える制度を創設します。この「管理」は、主に保存・利用・改良行為を指し、これらを超える変更行為は、裁判所の許可か区分所有者の同意がなければ行えません。なおこれらの管理人は善管注意義務と誠実義務を負います。
ⅲ)共用部分の変更決議の多数決要件の緩和
① 区分所有法が定める多数決割合を緩和する。
現行では「区分所有者及び議決権の4分の3以上」となっている決議要件の引き下げが複数案提案されています。ⅰの「所在不明区分所有者を母数から除外する」ことも緩和のひとつですが、さらに多数決割合も緩和することで、マンションの維持・長寿命化に必要な「共用部の変更」をよりやりやすくすることが目的だと思われます。
② 規約による多数決割合を緩和する。
区分所有者数だけでなく議決権においても、規約で多数決の割合を過半数まで減ずることが可能になります。現行では規約で議決権を減じることは認められていません。これも前項同様、「共用部の変更」をよりやりやすくすることが目的です。
ⅳ)管理に関する区分所有者の義務に関する規律
現行法で区分所有者は、当然に「マンションを管理する団体の構成員」となると定められていて、マンションを相互に協力して管理する「一般的義務」があると解されていますが、マンションを巡る社会経済情勢の変化を踏まえ一般的義務を明文化するものです。
ⅴ)専有部分の保存・管理の円滑化
① 区分所有者は、所有する専有部分または共用部分の保存・改良のため、他の区分所有者が所有する専有部分または共用部分について、現行では「使用を請求できる」となっているが、これに「保存を請求できる」を追加する。
この追加によって、区分所有者が所有する専有部分や共用部分の配管から漏水があった場合に、他の区分所有者が自身が所有する専有部分や共用部を保存するために原因である配管を補修するよう請求できる例が示されています。現行では保存を請求できるかはあいまいです。
② 共用部分の変更において「専有部分の使用または変更が伴う事項を、集会の決議で行うことができる」ことを新たに定める。
具体例として、給排水管が全体として老朽化している場合に、専有部分も一括して交換修繕
する工事を集会の決議で行えるようになります。現行法では「専有部分の工事は区分所有者が行う」となっています。この場合、専有部分の工事も修繕積立金から支出することが可能になると考えられています。
③ 管理組合法人は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で、区分所有権と、一体として管理使用する土地を取得できる規律を設ける。
管理費の滞納で専有部分を競売にかける際、競落人が見つからない場合に管理組合法人が取得できるようになります。ただ、取得後に事故などで管理組合法人が責任を問われることが懸念され、慎重な検討が必要としています。
④ 区分所有者が国外にいる場合に、国内に居住したり、主たる事務所を置く者を国内管理人に選任できる制度を設ける。
区分所有者が国外にいる場合、連絡先の通知がなかったり、管理費の滞納が起こることが少
なくありません。これに関して不動産登記法の改正により住所変更登記が義務付けられ、対象者への連絡が改善される期待はあるものの、管理に関しては当該区分所有者の判断を待たねばなりません。その対応策として創設されるものです。
ⅵ)共用部分等に関する請求権の行使の円滑化
この規律を設ける例として、平成28年7月29日の東京地裁判決「管理者は転売により区分所有者でなくなった当初の区分所有者を代理できず、訴えの原告適格を欠く。」として訴えが却下されたことが示されています。これに対し中間試案の案に改定することにより、区分所有権が譲渡されても原告が代理できることが明確になります。
ⅶ)管理に関する事務の合理化
① 集会におけるウェブ会議システムの活用については慎重に検討する。
このシステムの活用により、対面で参加することが困難な区分所有者が参加できるメリットはあるものの、現行法でも対応可能と考えられ、また不慣れな区分所有者もいるので、中間試案では「慎重に検討する。」としています。
② 現行法第71条第4号「事務報告義務違反に対する罰則」に「正当な理由がないのに」と加えることは慎重に検討する。
新型コロナ禍において集会が開催できず年1回の事務報告ができなかった事例が少なからずあったことから、正当な理由があれば罰則の対象としない考えから「正当な理由がないのに」を追加するものですが、事務報告は管理組合活動をチェックする重要な事項であり、ウエブ会議の活用もありうることから慎重に検討するとなりました。
③ 現行法第33条第2項に、規約の閲覧方法として「電磁的方法による閲覧(データ送信等)」が可能であることを加える。
現行法では、電磁的方法で規約が作成されていても、閲覧者は保管場所に出向く必要があり
ます。これは保管者と閲覧者双方にとって不便なため、メールやインターネットで送付することもできるよう改定するものです。
ⅷ)区分所有建物が全部滅失した場合における敷地等の管理の円滑化
区分所有建物が滅失した場合区分所有権は消滅するが、共有である敷地については、全部消失した時から起算した一定の期間が経過するまでは、集会を開き、規約を定め、管理者を置くことができる規律を設ける。
現行法では、区分所有建物が焼失した場合区分所有権が消滅して管理組合が機能できませ
ん。この場合、民法の規定により建物の再建など著しい変更を伴う行為は「全員同意」が必要となります。今後災害だけでなく建物の老朽化などの理由で全面滅失してしまうことも想定されることから、滅失後も区分所有法の下で管理が行えることが合理的であるとの判断により、この規律を設けることになりました。
ⅸ)第三者を管理者とする場合の監事の選任
「法人化していない区分所有者の団体において、区分所有者以外の第三者を管理者として選任する場合には、監事を選任しなければならないものとする」との規律を設けることについては慎重に検討する。
最近、管理業者を管理者として選任する動きが見られる中、「管理者として自らと請負契約を結ぶ利益相反行為の事例がある」との指摘から、チェッカーとして監事を選任するよう求める考えがあります。ただし利益相反行為は民法では「無権代理行為とみなされ、区分所有者に効果が帰属しない」ことから、区分所有法にこの規律を設けることは慎重に検討することとなりました。
マンションの2つの老い問題や外国人投資家の問題等、昨今の色々な問題を受け、マンション管理がしやすくなるように改正されそうな内容です。
個人的には、第三者管理の場合の監事の専任については、是非実現して欲しいと思います。
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