top of page

定年後67歳で愕然「1300万円のローン残債」が払えなくなった…35年ローンの「落とし穴」

執筆者の写真: 快適マンションパートナーズ 石田快適マンションパートナーズ 石田

更新日:2022年12月7日



 2022年6月26日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。


親がローンを払えなくなった

 義男さん(仮名、67歳)は元会社員、妻の弘美さん(仮名、62歳)、それと別に暮らす一人娘の江美さん(仮名、35歳、会社員)のご家族がいる。

 今回は、FPである私のもとに、娘の江美さんから相談があった。「親が住宅ローンを払えなくなった。肩代わりを頼まれたのだが大丈夫だろうか」という相談だった(FP相談を元にしてありますが、プライバシーに配慮して大幅に内容は変更しています)。

 義男さんは40歳で新築の家を建てた。当時は会社の業績も好調で昇給していた。小学生の娘(=江美さん)もいずれ個室が必要になるだろうと、首都圏郊外の駅から徒歩20分の土地に35年ローンで注文住宅を建てた。総額5000万円で、自己資金は500万円、残り4500万円は住宅ローンを借りた。返済期間は35年で、金利は途中借り換えをして、全期固定金利で現在1.5%、返済月額は13万8000円である。最初は難なく月々の返済ができた。ちょっとキツくなったのは勤め先の業績が悪化し、給与が大幅に下がった頃からであった。教育費の支出もあり、弘美さんはパートに出て家計を支えた。それでも義男さんはどうにか60歳の定年を迎えた。退職金は思ったより少なく、家のリフォームなどでほとんど消えた。それでも再雇用の間はどうにかなったが、65歳を過ぎて年金生活に入ると、状況が変わった。年金は手取りで15万円、少ない預金を取り崩す生活となり、その上、弘美さんは膝痛で立ち仕事のパートが続けられなくなった。

 住宅ローンが完済する75歳まであと8年、万策尽きて娘にすがるしかない事態となった。この事例の詳しい内容は後述するが、問題のポイントは「35年ローン」にあると、私は思う。今回は住宅ローンがなぜ35年かというお話から始めよう。


35年ローンは「当たり前」か?

 FPへの住宅ローン相談を受けていて感じるのは、「変動か固定か」など細かな金利のことは気にするのに、一方でローンの「期間」には無頓着な人が多いことだ。

 家を買う時点で出会う専門家(ディベロッパー、不動産屋、銀行など)は当たり前のように35年ローン前提で話を進める。もともと、住宅ローンの返済期間は25年という時期が長かったが、平成になり標準返済期間が25年から35年になり、フラット35(住宅金融支援機構)が出て35年が定着したといわれる。不動産価格の高騰に買い手の給料がついていかないので、苦肉の策として期間を延ばし、月額返済の軽減をはかったのだ。不動産屋さんの殺し文句は「家賃並みで買えますよ」。その裏側では、月額返済を家賃並みに軽減するために住宅ローンは35年まで伸びた。

 でも、彼らはあなたの老後までは考えてくれない。冷静に考えれば、35年ローンだと60歳の定年までに住宅ローンを完済するには25歳で家を購入しなくてはならない。少なくとも私のまわりでは25歳で家を買った人なんて1人もいない。

 35~40歳(住宅ローンの利用者平均年齢)の人が35年ローンを組んでお金をかりると、完済時に70~75歳になる。FP相談時に「完済が70歳越えてしまいますよ」と言うと「アッそうか!」という顔をし「何とかなるでしょう」と答える。この「何とか」の中身は、だいたい「繰り上げ返済」と「退職金」だ。

住宅ローンを借りる35~40歳と言えば、老後なんて先の先の話だ。借り手は「そのうち給料も上がってドンドン繰り上げ返済すれば、定年までには完済できるだろう」「もしできなくても残債は退職金があるから大丈夫」と考える。もちろん、リストラや病気などのローン破綻のことは情報として知っている。でも自分のこととは考えない。家探しの高揚感でリスク感覚が鈍くなる。

 リスクの中でもハイリスク、つまり会社の倒産やリストラ、病気(団信の保険適応される場合を除いて)などローン返済が出来なくなる破綻状態になれば、任意売却か競売で家を手放し一度精算するしかない。でもそれより軽いリスク、最初の事例のように思ったより給料が上がらず、教育費もかかり、繰り上げ返済が出来なかった、しかも、退職金も減額された、膝や腰が痛くて働けないというありそうな未来だったときはどうなるのだろう。


「70代でローン破綻」のリスク

 年金の支給が65歳からになり、この先、段階的に70歳になりそうだ。今でも高齢者雇用や年金は制度として混乱して高齢者には厳しい状況になりつつある。だから役員(全勤労者の約1%)で残らない限り、70歳すぎても細々とした再雇用収入と年金で完済するまで住宅ローンを支払わなくてはならなくなる。そして払えなければ70歳代でローン破綻となる。

 もちろん、給料だってドンドン上がるかもしれないし、退職金だって思ったより多かったり、副業がうまくいくかも知れないし、親の遺産が入ったり、宝くじだって当ったりするかもしれない。プラスになる分には問題ないが、ちょっとでもマイナスに振れれば、住宅ローンの負担でずっとお金の余裕のない貧乏な生活が続き、へたをすると老後の住宅ローン破綻もある。つまり、35年の住宅ローンとはそういうことだ。

 だから家を買うなということではない。家は生活の基本だし必要な物だ。家を買うなんて人生でそうそうあることではない。まして最初は誰だって素人だ。だからといっていわゆる売る側の専門家の言いなりになり、最初の住宅の購入方法に問題を抱えると大変なことになる。


 では、家を買う際のポイントはどこにあるのか。


初めて家を買うときの「3つのポイント」

家を初めて買う時点の重要ポイントは次の3つ。

(1)身の丈にあった物件を選ぶ  (2)60歳までに住宅ローンを完済する (3)30年後を想像する


 まず「身の丈にあった物件」というちょっとよくわからない問題から。

 持ち家が欲しくなるのは、賃貸で家賃を払い続けることに何となく不安を感じる頃だ。独身や子供のいない夫婦なら「老後も賃貸か?」と思うし、子供のいる人はいずれ子供部屋が欲しくなる。賃貸は手狭でファミリー向けの良い物件もないと考える。年齢にすると30歳後半~40歳前半の頃だ。

 家賃を払い続けるより思い切って買っちゃおうとネットで調べたり、モデルルームや住宅展示場を見に行き始める。だが住宅展示場に建つ家の広さをご存じだろうか? たいてい建坪80坪以上の豪邸だ。もちろん内装や設備はハイグレード仕様。

 ちなみに案内係に「この家全部でいくらですか?」と聞いてみるといい。たいてい教えてくれない。

もし気に入り検討に入ると、あれこれあきらめて妥協して、建坪も半分以下、内装や設備も一番安価なクラスに落ち着く。そしてできあがった実物は、展示場の物とはまったく別物となる。家を買ったほとんどの人は「ちょっと背伸びした所もあるかもしれないけど、かなり妥協して選んだ」と言うだろう。これはまだ身の丈の家ではない。


ベンツのショールームに行くようなもの

 私は家を買おうとする人が住宅展示場へいくのは、自動車を初めて買う人がいきなりベンツのショールームに行くようなものだと思う。一番いい物を見た後では、Bクラスだって、国産車だって妥協の選択だ。最後に手に入ったものが妥協した結果なわけだから、それが分相応の身の丈の自動車だとは誰も思わないだろう。

 自動車には外車、国産車、高級車から街乗り車、軽自動車、充実した中古車市場もある。ネットでかなり詳細な情報や評価が開示されているので、当たりを付けて実物を見に行く。スペックを比較し、中古車なら詳しい履歴を調べ納得して購入する。

 それに引き換え、家選びは選択肢が少なく、その上、素人と専門家の知識差が大きい。35年ローンで毎月の支払いを抑え、矛盾を老後に回すことで、本来買うべき身の丈にあった家より1ランクも2ランクも高額の商品を買わされているというのが、私の率直な感想だ。

 夢見る家(高くてとても無理)→妥協する家(借りられる目一杯の金額・期間でローンを組む)→身の丈に合った家(教育費や老後資金を貯められる家)と考えるとわかってもらえるだろうか。家は一生物と思うから、つい背伸びしてしまうが、家だって車と同じように状況が好転すれば買い替えればいいのだ。だから初心者にはまず無理のない安い家や中古をお勧めする。


手取りの20〜25%の返済額をめざす

 さて次は具体的な住宅ローンを考える。

 まず住宅ローンには審査がある。一番チェックが厳しいのが「勤め先」と「年収」である。非正規雇用や自由業など不安定な職業の人はまず借りられないし、年収により借りられる金額が算出される(だいたい、年間の返済額が額面年収の30~35%ぐらいまで)。

 よほど高齢(住宅ローンの完済は80歳までという金融機関が多い)でない限り、借り手本人の年齢や子供の年齢・人数、扶養家族など他の要素はほとんど加味されない。

 安定した職場に3年以上勤めた正社員でそこそこの年収があれば、まず審査には通るだろう。銀行は審査にパスした優良顧客には目一杯お金を貸したがる。

 しばしば銀行が貸すお金と返せるお金は違うといわれる。FPとしては生活にゆとりを持たせるためにも収入(手取り)の20~25%が月々の返済額として望ましいと考える。つまり手取りの20%で買える家が身の丈にあった家である。ちなみに額面の30%と手取りの20%では、その額は大きく異なることに注意する必要がある。額面年収500万円の場合、手取り年収は約400万円で、500万円の30%を月で割ると12万5000円、400万円の20%では月額6万6000円。

 ほかにも、持ち家は賃貸と違い諸経費がかかることがある。マンションなら固定資産など税金や管理費、修繕積立金、一戸建ても税金(固定資産税など)の他に修繕は自費なので積立をしないとリフォームできない。諸経費をザックリ見積もって月額3万円。住宅ローン返済と諸経費合わせて住居費として月額15万5000円と9万6000円となる。その差は5万9000円。

 月々の家計費(ボーナスをならして手取り月額約33万円)からこの差をみると、額面30%の住宅ローンを借りると、住居費が家計費の中にドンと居座り、生活は切り詰めてカツカツ、また他のこと(教育費や老後資金の積立、旅行や趣味)をする余裕もない。

 一方、手取り20%だと生活費に少しゆとりを持たせても、3万5000円ぐらいが積立に回せる。この額を、iDeCoやNISAなど税金の優遇枠を使って平均3%の金利で運用すると25年後に約1561万円になる。これが老後資金になる。

 つまり住宅ローンは、十分な収入が確保できるかあやふやな「グレー期間」である60~70歳まで残さず、60歳までに終わらせられて、しかも手取り20%で借りられる金額にする。「そんな金額で買える家なんかないよ」といわれそうだが、実に簡単な方法がある。それが共働きだ。夫婦の収入が合算された手取り収入の20%を25年ローンで借りられる金額が、購入金額となる。ネットに住宅ローンのシミュレーションソフトが沢山あるので是非、試算してみてほしい。

 そして家を買うとき大事なのが「30年後の自分たち」を想像することだ。若くて家もピカピカだとピンとこないかもしれない。でもどんな新築でも30年たつと家はかなり古くなる。日本の木造一戸建ては30年で取り壊すといわれているし、マンションでも15年ほどの間隔で大規模修繕をするので、2回ほど終えている頃だ。

 その時、誰と何人で住んでいるか? その家は住みやすいか? リフォームするのか、住み替えるか? その時の手持ち資金はいくらあるか? などである。いわゆる出口戦略だが、長いこと住宅ローンを払った家がそのままで「終のすみか」になることはまずないと考えたほうが良いだろう。


江美さん一家の決断

 さて、江美さんの相談への私の提案である。

 江美さんはどうにかして親御さんの助けになりたいと思っていたが、いかんせん普通の会社員で高給取りではない。ご自身も賃貸住まいなので、二重に住宅費を支払うことになると生活できなくなる。預金を切り崩しても2年持たない状況だった。そこで、

(1)銀行と交渉して返済期間を延ばす (2)リバースモーゲージかリースバックを使い、自宅を担保にお金を借り住宅ローンを一括返済する (3)親御さんの家を売却して、親御さんは公営住宅に引っ越す

という選択肢を提示した。


(1)「銀行と交渉して返済期間を延ばす」は、たぶん江美さんが連帯保証人になるか、2世代ローンにすることで可能だと思う。ただし期間が倍になり返済金額が半分になっても、負担そのものは変わらない。

 例えば江美さんが5万円を15年間仕送りするなら親世帯はどうにか生活できるかもしれない。でも親子ともにギリギリの生活で、江美さん自身の35~50歳という人生で一番いい時期を犠牲にすることになる。それに家の修繕にお金が必要になるといっぺんに破綻する。


(2)「リバースモーゲージかリースバックを使い、自宅を担保にお金を借り住宅ローンを一括返済する」は、家を担保にお金を借りる。少ししくみは違うが、どちらもそのまま住み続けられる。最近は住宅金融支援機構がリ・バース60という商品を出しテレビ広告している。特定の高齢者にはとてもよいシステムなのだが、問題は二つ。

 ひとつは、物件の評価額の半分程度しか貸してくれないこと。もうひとつは、元本は亡くなってから売却して返せばいいのだが、金利は毎月支払わなくてはならない。しかも金利が3.5%ほどと高い。義男さんの場合、住宅ローンの残債が1300万円だったので、ギリギリ貸してもらえるだろう。

 しかし毎月3万8000円の利息を死ぬまでずっと支払わなければならない。キャッシュフロー表を作って試算したが、やはり厳しい結果だった。それに古い家の修繕はやはり避けて通れない。


(3)「親御さんの家を売却して、親御さんは公営住宅に引っ越す」は任意売却で、債務のある銀行との交渉が必要となる。


 結局、義男さん、弘美さん、江美さんが話し合って(3)の売却にした。家への愛着があり、つらい決断だったようだ。幸い定年時にリフォームしたのと、小学校と保育園が近かったので子育て真っ盛りの世代の需要があり、古屋つきで2800万円で売却できた。残債の1300万円と諸々経費200万円を引いて1300万円の老後資金が残った。公営住宅も少し遠くなったが3万円で借りることができたという。


 このような場合「親を助けるのは子供の義務だ」という考えと「親が子供の人生を犠牲にするのは良くない」という意見がある。江美さんのご両親が後者を選択したことに私もホッとした。

家を買おうと考えている方たち、くれぐれも住宅ローンで一生を台無しにしないでくださいね。」


 35歳で35年ローンで家を買っても70歳でローン完済。40歳から借りれば75歳でローン完済と、退職後も延々とローンを払う必要が出てきます。この記事にもあるように、持ち家に固執せず、最後は公営住宅に入居するのも一方法だと思います。特に配偶者が亡くなり一人暮らしになれば、郊外の広い一戸建てよりも、街中のワンルームに住む方が快適な生活が送れるのではないでしょうか。


閲覧数:1,376回0件のコメント

最新記事

すべて表示

コメント


bottom of page