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  • 執筆者の写真快適マンションパートナーズ 石田

笠間クラインガルテン、2年後の新体制を見据えて民間企業を指定管理者に

更新日:2023年8月4日



 新・公民連携最前線の表題の記事を紹介します。


茨城県笠間市の中部にある滞在型市民農園「笠間クラインガルテン」が2022年9月にリニューアルオープンした。2001年の開業以来、市の直営、JA茨城中央(現在はJA常陸に合併)による指定管理、笠間市農業公社による指定管理を経て、2022年4月から初めて民間企業による指定管理が行われている。指定期間は2年間。2年後には、より民間のノウハウを生かせる形での公民連携体制(手法は未定)への移行を目指すという。


体験農園事業を営むマイファームが指定管理者に

 笠間クラインガルテンは2001年4月、首都圏で初めての滞在型市民農園として開業した。約3万9000m2、50区画と規模も大きく、都心部に住む中高年を中心に人気を博す。滞在型市民農園施設の“老舗”として広く知られた存在だ。開業当初は笠間市が直接運営していたが、2006年3月からJA茨城中央(JA常陸)の指定管理、2016年4月から一般財団法人笠間市農業公社の指定管理に。2022年4月から2024年3月の2年間は、耕作放棄地の再生・収益化事業や体験農園事業を営む民間企業のマイファーム(本社・京都市)が指定管理者に選ばれた。



農地付きのラウベ(宿泊用の小屋)が立ち並ぶ笠間クラインガルテン全景(写真:マイファーム)


 笠間市がクラインガルテンの指定管理者を公募したのは今回が初めて。従来、指定管理者を務めたJA、農業公社は非公募だった。公募で民間事業者を選んだのは、将来(指定管理期間が満了した2年後)の新体制による民間運営を見据えてのことだ。

 笠間市は山口伸樹市長の下、「積極的に公民連携を推し進める」との方針を掲げており、収益が見込める笠間クラインガルテンがその対象になった。2022年度、2023年度の民間企業による指定管理体制は、2024年度以降、公民連携による民間運営へと移行していくための“助走期間”として位置付けている。現在は市が区画の年間契約者を募集しているが、新体制後は民間事業者が募集する。エンドユーザーの施設利用料も民間事業者が設定できるようにする。そのほか、収益を高める工夫や公設民営の手法などをこの2年間で探っていく。

 2年間の助走期間を設けたことについて、笠間市産業経済部農政課の島田耕一主査は次のように説明する。

 「いきなり民間事業者に管理・運営をすべてお任せというのは乱暴な話だ。この施設でどのような事業を展開して収益を確保していけそうか、2年にわたって試行錯誤しながら課題を抽出し、今後の笠間クラインガルテン管理運営における事業スキームなどを市とマイファームで検討していく。管理棟やラウベ(宿泊用の小屋)、トレーラーハウス、地域食材供給施設の改築・改修を含めたハードウエアの本格的なリニューアルは、2024年度以降の新しい公民連携の体制下で行っていくことになる」



笠間クラインガルテン内の施設配置図。クラインガルテンエリアの専用農園付きラウベ50区画はこれまで年単位でのみ賃貸していたが、コモンホール(集会所や事務所)の近くにある1区画を「プレイガルテン」として短期滞在専用とした(出所:笠間市)


 募集要項には、公民連携での運営体制への移行ステップを3つのフェーズに分けて明示した。1期は2021年4月から2022年3月まで(単年度)。民間事業者を募集する準備のため、笠間市農業公社による指定管理を延長した形だ。2期は2022年4月から2024年3月まで(2年間)で、公民連携による指定管理。3期は2024年4月から2029年3月まで(5年ごとの更新)で、公民連携による民間運営を行う。

 2期まではラウベやクラブハウスの改修は不可とし、部分的なリノベーションのみ可能とした。3期では管理棟、直売所、地域食材供給施設、ラウベなどの改修を行える(ただし、2024年度はラウベ改修不可)。また、3期ではラウベの利用料も民間事業者が設定し、2025年から民間事業者による利用者募集を開始する。


市職員が企業3社を直接訪問して応募を促す

 2期(2022~2023年度)の指定管理者の公募に先立って、笠間市は2020年秋頃、笠間クラインガルテンの運営事業者として力を発揮できそうな企業を3社ピックアップして個別に訪問。事業概要を説明し、応募を促した。島田主査は、当時の状況を次のように語る。

 「笠間クラインガルテンは大きな通りには面しておらず、電車の駅からも遠い。何かのついでに立ち寄ったり、通りがかりに目がとまったりする場所ではないので、民間企業に収益性を見出してもらえるか不安だった。そこで、『都市住民との交流により地域の活性化と農業の振興を図る』というクラインガルテンの理念や施設のこと、そして民間主導の公民連携を推し進めていくという今後の方針などを、直接、企業に説明することにした」



笠間市(かさまし)

茨城県中部の県央地域に位置する。首都圏から約100キロメートル、県庁所在地の水戸市に隣接する。人口7万1946人(2022年12月1日現在)、面積240.40km2。江戸時代中期、安永年間(1772~1781年)に始まる笠間焼は、近隣の益子町の益子焼と合わせて「焼き物文化(笠間焼・益子焼)」として、2020年6月に日本遺産に認定された。


 結果としてそのうち2社が公募に応じた。そのほかにも1社が応募し、計3社の中からマイファームが選ばれた。事業者選定に当たった審議会は、市から副市長ら4人、民間から6人で構成。申請書類を審査し、マイファームの「指定管理の実績および今後の公民連携を視野に入れた効率的な運営計画を評価」した。

 マイファーム運営本部チームの林部恭奈氏によると、今回の応募は同社代表の西辻一真氏が熱望してのことだという。

 「当社は会社設立当初から“自産自消”できる社会を目指して活動してきました。自分たちで作ったものを自分たちで食べて、お腹も心も満たされる生活を送ろうという考え方です。オープン当時の笠間クラインガルテンを見学した当社代表の西辻は『これこそ自産自消を実現する施設だ』と非常に感銘を受けたという経緯があります」

 指定管理料は年間1000万円。JAや農業公社が指定管理者だった時期には、指定管理料の支払いはなかった。「今回の指定管理料は、人件費や設備修繕費、草刈りや枝の剪定などの施設メンテナンス費に加え、さまざまなトライアル事業に取り組むことも想定した金額」(島田主査)となっている。

 なお、ユーザーの施設利用料もマイファームが収受する。ただし、敷地には民間からの借地も含まれており、年間借地料の約108万円をマイファームが負担する。笠間クラインガルテンに常駐するマイファームのスタッフは、事務担当、ショップ担当、栽培担当など、アルバイトを含めて6人程度という。



左から笠間市の島田主査、マイファームの林部氏、笠間市の石川主幹(写真:赤坂 麻実)


民間提案で短期滞在施設を用意し、間口を広げる

 こうして、マイファーム運営の下で一部施設のリノベーションなどが行われ、笠間クラインガルテンは2022年9月23日、リニューアルオープンした。

 大きく変わったのは、短期滞在を可能にしたことだ。これまで年単位でのみ賃貸していたクラインガルテンエリアにある農園付きラウベ50区画のうち1区画を、短期滞在(1~4泊)で農業体験ができる「プレイガルテン」として提供することにした。また、年間契約者が友人などを招くためのゲストハウス用トレーラーハウスも、全3戸のうち1戸を、一般利用者向けの短期滞在施設とした。

 なお、農園付きラウベ1区画は約300m2で、約37m2のラウベと約100m2の菜園、芝生がある。年間利用料は41万9030円(税込・2022年4月1日現在)で最長5年間利用可能だ。2組以上の家族またはグループでの共同利用が原則となっているほか、「笠間市民と積極的に交流を持てる」「笠間クラインガルテンの公益部分の共同作業に参加できる」などの利用資格を定めている。



短期滞在ができる「プレイガルテン」。「ラウベ」に専用の農園が付いている。体験料は1泊8800円(税込)+施設利用料1000円(税込)/人だ(写真:赤坂 麻実)




短期滞在施設として提供するトレーラーハウスの内部(写真:赤坂 麻実)




トレーラーハウス3戸に囲まれた中庭にはテント型サウナと水風呂を新設した(写真:赤坂 麻実)


 マイファームの林部氏は「年間契約を申し込む前に、まず見学してみたいという人も多い。それならば、ただ見るだけにとどまらず、泊まって体験してもらえる施設を用意することにした。ガルテナー(年間契約者)になったり、その後の移住を検討したりすることにつながる“ファーストステップ”を設け、間口を広げたい」と狙いを説明する。現在はプレイガルテンもトレーラーハウスも木曜日から日曜日に宿泊可能。毎週月曜日は施設全体の休園日だ。

 さらに、バーベキューパークに隣接する芝生エリアを、車中泊やテント泊ができる「アールブイパーク」にリノベーションした。利用者はシャワー、トイレ、水道が使えて、ごみの引き取りサービス(有料)も受けられる。



アールブイパーク。3台まで停泊できる。1泊1台1500円(写真:マイファーム)


 駐車場から階段を上がったところには農産物直売所と地域食材供給施設があり、それぞれリニューアルした。直売所は「ファームショップ」と呼び、地元産の農産物やみそ、漬物などの食材加工品、地元の作家によるクラフト雑貨、生活用品や飲料、酒などを販売している。

 そば処、薬膳中華料理店と変遷をたどってきた地域食材供給施設は、施設内で収穫した無農薬野菜を使って、東京・池尻大橋でケータリングや弁当販売で人気の「美菜屋」が考案した料理を提供するレストランにリニューアル。2022年10月に開業した。レストランはテナントの扱いだが、賃料は売り上げが一定額を超えた場合に支払う契約という。



ファームショップが入る建物(写真:赤坂 麻実)




ファームショップの一角には地元の野菜が並ぶ。農園付きラウベの年間契約者が収穫したものも(写真:赤坂 麻実)




ショップ棟にイベントの予定などが数多く掲示されている(写真:赤坂 麻実)


 会員制コミュニティ農園「アイアイファーム」も別途会員を募る。野菜栽培のプロが管理して野菜を育て、会員は年間24回まで収穫体験を中心に農業体験ができる。リニューアル前は、地元住民が管理組合を組成して同様のサービスを提供していたが、住民の高齢化などに伴い、マイファームが同じ場所で同様のコミュニティ農園の運営を引き継ぐことになった。

 プレイガルテンやトレーラーハウスの改装、アールブイパークの新設など、一連のリニューアルに、マイファームは約1400万円を投じた。



会員制コミュニティ農園「アイアイファーム」。野菜栽培のプロがここで育てた野菜の収穫体験などができる。水戸や筑波といった県内の中枢都市からの利用を見込んでいる(写真:日経BP)




一般的ないわゆる市民農園もある。1区画30m2程度。アイアイファームと違って、こちらは借りた人が自ら野菜を育てる(写真:日経BP)


30代、40代のファミリー層の取り込みを狙う

 2022年度はクラインガルテンの年間契約に9つの空き枠があり、13組が応募。相変わらず、満室が続く人気ぶりだ。プレイガルテンも土曜日は必ず予約が入るような状況で推移している。アールブイパークを利用して長期滞在するキャンパーもいるという。

 今後はイベント開催などで認知度の向上を図り、ショップやレストランの集客に力を入れる。林部氏は「地域にゆかりのある人や物とコラボしたイベントを開き、施設の存在を多くの人に知ってもらいたい」と話す。

 例えば、茨城出身のシェフが茨城産の食材と笠間焼の器を使って料理を提供する特別ディナーや、笠間焼の若手作家の器を集めた陶器市などを既に開催している。また、地域住民との交流促進にも力を入れる。新たなガルテナーを迎える「入村式」や「夕涼み会」に地元住民を招待するなどの取り組みをしてきた。笠間市産業経済部農政課の石川望主幹は「都会から来た人が急に野菜を育てるのは難しいため、地元の農家からアドバイスを受けるなど、自然な交流も始まっています」と話す。

 「笠間クラインガルテンでの滞在や活動の間に、地域住民との交流が生まれ、最長5年の契約を満了した後に、市内の物件や土地を紹介してもらったり、農地を貸してもらったりして、移住を果たした例も生まれています」(石川主幹)



レストランで提供している料理の例(写真:マイファーム)




陶芸家のKeicondoさんの器を使った特別ディナーで供された一皿(写真:マイファーム)


 2001年の開業以来、笠間クラインガルテンの年間利用から笠間市内への移住につながった例は23世帯に上る(このうち16世帯は2拠点居住者)。移住に伴って市内の空き家が3軒売れた。

 今後も、笠間市がこの笠間クラインガルテンに最も期待するのは、移住・定住の促進効果だ。特にこれからは30代や40代の若い子育て世帯の流入に期待している。

 現在、年間賃貸契約を結んでいるガルテナーは、60代、70代が8割を占めている。シニアが多いのは開業時から変わらない傾向だ。

 それに対して、今回のリニューアルでは、もう少し若い層を意識した。マイファームが新設した短期滞在などの機能の利用者には30代、40代が多く見られるという。プレイガルテンやトレーラーハウスの内装は若い世代に好まれやすいテイストに刷新。さらには、マイファームが発行するメールマガジンや機関誌を使って、同社の体験農園ユーザー向けに笠間クラインガルテンをPRしている。マイファームの農園ユーザーは30代、40代のファミリー層が中心だ。また、「貸テナントに誘致したレストランのオーナー(浅野美奈弥氏)によるSNSでの発信活動も、若年層に響いている」(マイファームの林部氏)という。





“お試し”で短期滞在ができるプレイガルテンのラウベ内部。若年層に好まれる内装を意識した(写真:日経BP、赤坂 麻実)


 働き方改革やコロナ禍の影響で、業種によってはリモートワークがかなり普及してきた。クラインガルテンで農園の野菜をしっかり育てながらの生活が実現できる子育て世代も増えてくる。そうなれば、市の移住政策の中での笠間クラインガルテンの位置付けも一層重要なものとなってくるだろう。」


 クラインガルテンは良く知らなかったのですが、この記事を読んで、とても魅力的な施設だと思いました。田舎暮らしがしたい人にとっての、お試し移住にも、一度利用すればいかがでしょうか?

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