2022年4月21日の朝日新聞デジタルの表題の記事を紹介します。
「「ここに鍵をさして開けるんやで」
マンションはのエントランスホール。京都市の女性(50)は、60代後半だったアルツハイマー型認知症の母に、オートロックの扉の開け方を繰り返し説明した。しかし、どうしても1人ではできなかった。数年前のことだ。母はもともと実家で一人暮らしだった。身の回りの介助が必要になり、女性が住む分譲マンションで、別フロアにあった空き部屋を購入、入居してもらった。
母は自宅玄関の鍵は開けられたが、オートロックを開けてマンションに入ることができなかった。エントランスのインターホンで呼び出されても、エントランスではなく自宅のドアを開けてしまい、オートロックの解錠ができなかった。女性は日中、仕事に出かける。困ったのは母が通うデイサービスの送迎だった。管理員に「送迎が来たらオートロックの扉を開けてもらえないか」と頼んだ。最初は「防犯上できない」と断られたが、対応してくれるようになった。
母は自宅を出て「ひとり歩き」をするようになった。GPS端末が装着できる靴を履いてもらった。女性の部屋を訪ねようとして、マンションの子どもたちに「部屋はどこ?」と聞こうと追いかけてしまったり、別の階の部屋のインターホンを鳴らしたり。一部の住民から「仕事をやめて面倒をみては」と言われたこともある。
冷え込みの厳しかった夜、靴も履かずマンション外に出てしまった母。戻ろうとしてオートロックが開けられず、エントランスで困っているところを、知り合いが見つけてくれた。
「これ以上は危険やな、と思いました」。母は17年に認知症高齢者のグループホームに入居し72歳で亡くなった。
「認知症の人がマンションで暮らし続けるのは難しい。顔認証でオートロックが開き、自宅へ誘導してくれるシステムができたらいいのに、と思います」
■コロナ禍で孤立、妻の症状悪化
同じく京都市の会社員男性(62)も、マンション介護の問題に直面した一人だ。
妻(59)は50代になってアルツハイマー型認知症と診断された。男性は仕事を続けながら、マンションの自宅で介護を7年間続けた。壁はやはりオートロックだった。デイサービスの送迎職員には合鍵を渡した。宅配ロッカーの暗証番号をホームヘルパーらに伝え、鍵の受け渡しをしたこともあった。
「ほんまは防犯上あかんのでしょうけど、会社に行くにはそれしかなかった」
コロナ禍でさらに厳しい状況に追い込まれた。デイサービスで感染者が出て、妻は濃厚接触者とみなされた。利用していた介護サービスがすべてストップ。これをきっかけに症状は一気に悪化した。
深夜に起き出してドアをたたき、「もう帰る」「うそつき」などと大声を出す妻。興奮して足を踏みならし、イスを放り投げることもあった。騒音の苦情があるという注意書きが全戸に配布された。妻のことであるのは明らかだった。管理会社に説明した。しかし、間を置かず2度目の文書が配布された。管理会社側からは、「これ以上続くなら厳しい」と暗に退居を迫られた。
できるのは妻と一晩中ドライブすることぐらいだった。睡眠もとれない。車通りもない琵琶湖近くで、「ハンドルを切ったら死ねる」との思いが頭をよぎった。限界を感じた。
20年秋、妻はグループホームに入居した。苦悩の末の決断だった。長男が「がんばったやん」と声をかけてくれたのが救いだった。妻のために貼った「トイレ」という貼り紙は、そのままだ。「いつか妻をまた家に引き取りたいという気持ちがどこかにあるのかもしれない。一緒にいるのがつらかったのに、妻が可愛(かわい)て可愛て仕方ないんです。
■地域の目届かず、異変見えにくい
地域包括支援センターでの勤務経験もある鎌田さんは、近隣住民や支援機関の見守り機能が、マンションでは大きく低下してしまう、と指摘する。
「一戸建てなら、玄関先から声をかけることができるし、近所の人が心配して支援機関に連絡してくれることもある。だがオートロックのマンションは外の人間が入り込む余地がなく、行動の異変が見えにくい」
マンションで暮らす認知症の人と接点が多い管理員の人たち。大手マンション管理会社「大和ライフネクスト」が管理員らにアンケートしたところ、3割近くが認知症と思われる居住者に「対応したことがある」と答えた。
2021年秋に公表されたアンケートによると、管理員やフロント社員ら約1700人のうち27%が、なんらかのかたちで認知症と思われる居住者への対応をしたことがあった。特に、1980年以前に完成した「高経年マンション」では、「対応経験あり」が約半数に達した。同社マンションみらい価値研究所所長の久保依子さんは「予想を上回る高い比率だった」と話す。
管理員らの悩みが伝わる様々な事例が報告された。
「デイサービスの予定がない日にエントランスで待ち続ける」
「電気、ガス器具が壊れたと言って部屋に立ち入るよう何度も依頼される」
「修繕工事中の足場に入り込んでしまう」
「他人の自転車のかごに物を入れる」
「隣人が家に侵入して家財を盗んだと訴える」
事例を分類すると、最も多かったのは「同じ話を何度も繰り返す」だった。話を打ち切ることができず、勤務時間を超過してしまうという声もあった。
続いて「マンション周辺で道に迷う」「指定日以外のゴミ出し、ゴミの散乱」。「自分の部屋に戻れない」「オートロックが解錠できない」など、自宅への出入りにかかわるケースも少なくなかった。
「見守ってほしいと家族から要望があったが、なにかあったときに責任が生じるのではと不安」という声も寄せられた。
認知症の心配がある高齢者であっても、特定の居住者への個別対応、支援は原則として業務の範囲外になるという。しかし、見て見ぬふりはできず、管理員が悩んでいる現状が浮き彫りになった。
超高齢社会で、認知症は居住者だけの問題ではない。定年後に再就職したシニアも多い管理員。同社では最長80歳まで管理員として働くことができ、平均年齢は60代半ば。久保さんによると、高齢の管理員自身が、認知症の当事者になる例も発生しているという。
■対応法や相談先、マニュアルに ゴミ出し…間違い注意するより、声かけ誘導を
大和ライフネクストは、管理員らを対象とした独自の社内マニュアル「マンションと認知症」を策定し、今年度から利用を始めた。
マニュアルでは、アンケートで報告が多かった事例をあげ、対応を説明している。
例えば、居住者がゴミ出しの日を間違えてしまったケース。アンケートでは、「注意する」という対応をした例が23%と、「親族に相談」と並んで最も多かった。
マニュアル策定を担当した同研究所の田中昌樹さんによると、「注意」は本来は望ましくないという。
マニュアルでは、直接的な注意は、本人がゴミ出しに恐怖を感じて部屋にゴミがあふれるなど逆効果にもなりかねない、などと解説。「今なら〇〇ゴミを持ってきてもいいですよ」などと声をかけ、回収前に誘導することを促す。
では、オートロックが開けられずマンションに入れなくなるケースはどうすべきか。
田中さんによると、個別対応はしないという原則から、管理員による解錠はしない方針のマンションもある。だがマニュアルでは、「居住者であれば管理員が解錠しても問題ない」と明記した。自室がわからず迷っているのを見かけた場合も、「部屋まで案内する」対応を推奨している。
介護事業者の支援が届かないことにもつながる。マニュアルでは「管理組合に相談して対応方針を決めておくとよい」と助言している。
久保さんは「管理会社だけでできることは限られている。だが本人や家族、管理組合と連携できれば、認知症の人を支援する可能性は広がる」と指摘。「認知症を隠さざるを得ない社会の偏見を解消し、情報を共有しやすい環境にしていくことが重要ではないか」と話している。
「存(ながら)える」「準(なぞら)える」「直向(ひたむ)き」「跋扈(ばっこ)」……。
大きな紙に書き出された難読漢字を、70~80代の女性8人が真剣な表情で見つめる。いわゆる「脳トレ」として取り組む読み方クイズだ。
横浜市戸塚区にある大規模分譲団地「ドリームハイツ」(全23棟、約2300戸)。3月末、地元のNPO法人「いこいの家 夢みん(むーみん)」で、コミュニティーカフェ「ゆめサロン」が開かれていた。
「認知症の心配がある人もそうでない人も、だれでも参加を」と呼びかける。この日訪れた高齢者も運営するボランティアも、全員がドリームハイツの入居者だった。
「私たちの介護予防にもなります」。伊藤さんが笑顔を見せる。
サロンに欠かさず参加するという79歳の女性は、40年以上前、子どもが小学生のころからここで暮らす。夫を亡くし、いまは一人住まい。「人とおしゃべりできるのはここだけ。来ると安心できます」と話した。
介護に橋渡し
ドリームハイツの入居は1972年に始まった。当時子育て世代だった人たちの多くは、高齢期を迎えている。夢みんは、ゴミ出しや買い物同行など高齢居住者への生活支援や見守り訪問も、有償ボランティアで実施する。
こうした活動で、「認知症かも?」という住民の変化に気づくことも少なくない。コーヒー代を払ったことを忘れて何度も払おうとする、プログラムの曜日を間違える、ゴミ出し依頼をしたのにまったく覚えていない――。
地域包括支援センターの担当者に声をかけることもあるという。夢みんの活動にかかわる住民は100人を超える。中心は70代だ。ボランティアでもあり、支援の利用者でもある人も複数いる。
理事長の伊藤さんもその一人だ。いまは一人暮らし。夢みん運営の中核を担いつつ、力仕事や電球交換などでは、ボランティアの力を借りる。
「課題は世代交代です」と伊藤さんは言う。新たな住民ボランティアが必要だが、若い世代の参加が進まない。活動継続のためにも、いまの子育て世代が集える新たな多世代交流カフェを、今年中に設立できるよう準備を進めている。
■様々な症状、学ぶことから
京都府立医科大の成本迅教授は2019年、法律家や福祉関係者らとともに「必携!認知症の人にやさしいマンションガイド」(クリエイツかもがわ)を出版した。都市部のマンションに住む認知症高齢者、とりわけ独居の人の増加が、深刻な社会問題になるという危機感からだ。
住民に何ができるのか。認知症を学ぶことが第一歩と成本教授は言う。「認知症=もの忘れと思い、被害妄想や幻覚などの症状が認知症と結びつかない人が多い。認知症サポーター養成講座を受けるだけでも、対応は違ってくるはずです」
身寄りのない隣人のことを支援機関に伝えたくても、プライバシー上の問題がないかという不安もある。成本教授は「隣人が個人として連絡する分には、個人情報保護法などの規制はかからず、心配はありません」と言い、地域包括支援センターなどにつなぐことを勧める。」
私の住んでいるマンションでも先日、「エントランスのソファで飲食している人がいる。」との通報で管理会社の社員が駆け付けた所、高齢者の一人暮らしの入居者が、携帯電話も持たず買い物に出かけ、途中で鍵を無くして、一晩エントランスホールで過ごしたという事案が発生しました。聞くと、少し痴呆症が進んでいたとのことです。たまたま管理会社の社員が東京に住んでいる娘さんの連絡先を知っていたので、娘さんと連絡を取り対応できたのですが、どこの誰かもわからない状況では、かなり対応に手間取ったのではと思います。
この事故を受け、理事会でも居住者リストの更新と要介護者・一人暮らしの高齢者や、緊急時の連絡先のアンケートを取ろうと対策を行っているところです。
マンションが高経年化してくると入居者も高齢化し、この記事のような事例も増えてくると思います。理事会には、高齢者に対する新たな対策が求められています。
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