昭和56年5月以前に建築確認を受けたマンションは、旧耐震マンションと呼ばれ、耐震性が劣っている可能性がありますので、耐震診断を実施する必要があります。
特に昭和45年よりも前に建てられたマンション(旧旧耐震)や、エキスパンションが設けられていないL字型やコの字型マンション、11階建て以上で下層階と上層階で構造の異なるマンション(一部SRC造)、1階がピロティになっているマンションや、セットバックしているマンションは特に注意が必要です。一方、旧耐震マンションでも、公団型のような階段室型の壁式構造のマンションは耐震性が高くなっています。
建物の構造以外でも、屋上に高架水槽があるマンションや、屋上に看板が設置されているマンションは地震時に被害が発生するおそれが高いです。住戸内に電気温水器がある場合では、地震で転倒し、漏水や断水になるケースもあります。
エレベーターについても、地震時の閉じ込め事故を防ぐため、地震時に自動で最寄階で扉を開いて停止してする、地震感制機能付きのエレベーターに変更することも重要です。また、地震で停止した場合にも、自動で安全性を確認して、異常がなければ自動復旧するエレベーターもあります。
耐震改修の進め方
耐震改修には多額の費用がかかるため、区分所有者の合意形成が重要です。①専門委員会の設置②アンケート調査③広報による情報公開④説明会・報告会の実施⑤臨時総会の開催など、丁寧に段階を踏んで合意形成を進めることが重要です。以下に進め方の例を示します。
① 耐震診断の必要性の検討
・緊急輸送道路沿いのマンションは、耐震診断を実施し、所轄行政庁に報告しなければならない。
② 耐震診断実施の提案と総会決議
・専門委員会の設置
・耐震コンサルタントの採用
・診断にかかる費用の提案・同意
・補助金が出る場合あり
③ 調査診断結果の区分所有者への結果報告
・耐震結果はIs価で示される。
Is価0.3未満:倒壊・崩壊の危険性が高い
Is価0.3~0.6未満:倒壊・崩壊の危険性がある
Is価0.6以上:耐震補強の必要なし
④ 耐震補強方法の具体策検討
・耐震補強方法の比較検討
⑤ 耐震補強設計の実施と総会決議
・耐震補強設計費用の算出
・補強設計費用の提案・同意
・補助金が出る場合あり
⑥ 施工業者選定
・補強設計に基づく業者見積徴収
・各社プレゼン
・施工業者案・発注金額案の選出
⑦ 耐震補強工事実施の総会決議
・施工業者との契約
・補助金が出る場合あり
⑧ 工事の実施
・耐震コンサルタントによる施工監理
上記に示すように、耐震補強工事を実施するためには、耐震診断前・補強設計前・実際の工事前と、3回の総会決議が必要となります。
耐震補強方法
主な補強方法には、以下のような工法があります。
① 外壁補強による方法
バルコニー建物外部や開放廊下外部に、鉄骨ブレースやフレーム架構を追加して補強する方法。マンションで多く採用されている。バルコニー側にブレース(筋交い)が設置される住戸は、眺望が妨げられる。
② 柱の補強
柱外周を鋼板巻き・炭素繊維巻き等で補強する方法。1階のピロティ柱等で採用されるケースが多い工法。
③ 開口部の補強
ピロティなどを含め、開口部に鉄骨ブレースなどを設置する工法。学校や事務所などで多く採用されている。
④ 耐震スリットの設置
柱の靭性(粘り強さ)をアップする目的で、柱に取り付いている腰壁や袖壁にスリットを設ける方法。Is価が高い場合に採用できる簡易な耐震補強方法。
⑤ 免震化
建物足元に免震装置を設置し、上部の建物に地震の水平力がいかないようにする補強方法。費用は高いが、外観を変える必要がなく、文化財等の耐震で多く採用される工法。
その他
耐震補強工事は多くの金額もかかり、高経年マンションでは、工事をためらう例も多く発生しています。築50年超のマンションでは、耐震補強して、後何年このマンションに住むのかという問題もあります。
そのような状況のもと「マンション建替え円滑化法」では、耐震診断によって耐震不足が認定されたマンションは、5分の4以上の特別決議によって、敷地売却が可能となりました。一般的には、敷地売却には区分所有者の全員合意が必要ですが、この要件を緩和し、新たな「高経年マンション」の出口戦略が示されました。
どのような選択をするにしても、旧耐震マンションは、まずは耐震診断だけは、実施しておく必要があります。
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