少し古いですが、2019年4月27日の朝日新聞デジタルの記事を紹介します。
「築44年で老朽化が進み、所有者も散り散りになっていた湯沢新潟県のリゾートマンション(リゾマン)が昨年取り壊され、更地として売却された。所有者全員が同意しての解体は全マンション的にも珍しく、「奇跡的」ともいえる。売るに売れず、税金や管理の負担が重くのしかかる「負動産」の問題を長く取材してきた記者が、現地に向かった。
リゾマンの草分け
上越新幹線の越後湯沢駅から車で約30分。「マンション苗場」があった場所はいま、きれいな更地になっている。
全国屈指のスキーリゾートとして知られる苗場高原にこのマンションが建ったのは1975年。6階建て、40~50平方メートルの30部屋にレストランなどもあり、リゾートマンションの草分け的存在だった。その後、バブル期にかけてリゾマンが次々と建ち、そのバブルも崩壊したため、利用者は激減した。
管理費の滞納も相次ぎ、管理組合は機能不全に。2003年を最後に大規模修繕も行われなくなり、廃虚に近づいていった。
立ち上がったオーナー
朽ちゆくマンションの惨状を見かねて、立ち上がった所有者たちがいる。その一人が新潟県柏崎市の建設会社社長、石坂泰男さん(54)だ。会社名義でマンション苗場の物件2戸を持ち、先代社長だった父は管理組合の理事長をしていた。石坂さんは「このまま廃虚になることだけは避けたい」と、14年に地元の不動産仲介会社ひまわりに相談した。
廃虚同然のリゾマンをどうするか。やらなければならないことは山ほどあった。
まずは休眠状態にあった管理組合の立て直しだ。15年6月に臨時総会を開き、あらためて理事を決めた。
つぎに、散り散りになった所有者たちの意向を確認しなくてはいけない。
石坂さんらは不動産登記簿に載っていた28の個人・法人にアンケートを郵送した。回答は21、無回答が3。4通は宛先不明で戻ってきた。
回答があった21人のうち19人は、すでにマンションを利用していなかった。2人が「年に5~10泊利用している」と答えた。使い続けたいという声は皆無で、解体をめざすという方向性は決まった。保証期間が切れる寸前だったエレベーターを止め、建物は閉鎖した。15年10月に改めて管理組合の定期総会を開き、解体の方針を決議した。
全員同意の「壁」
管理組合の「財布」を調べ直してみると、修繕積立金が約3500万円残っていた。理事を務めていた3人ら、一部の所有者が管理費・積立金を払い続けてきたことが大きかった。解体費用のめどは立った。だがそこで最大の難関が立ちはだかった。「所有者全員の同意」だ。
マンションを壊すのに、なぜ全員の同意が必要なのか。
マンションを壊すのは①建て替える②更地にして売却する――という二つのパターンがある。原則として①では所有者の5分の4以上、②では所有者全員の合意が必要となる。ただし②には特例もある。耐震性が足りないマンションや、大規模に被災したマンションについては5分の4以上の合意があれば、解体・売却できる。
マンション苗場も耐震性が足りない可能性があり、特例の「5分の4以上」の合意による解体も検討した。だが、行政の手続きでかえって時間がかかるかもしれないと判断。全員合意を目指す方針をとった。
特徴的な名前で……
全員から合意を取り付ける仕事にあたったのは大野元さん(61)だ。ひまわりグループのリゾマン専門の管理会社、エンゼルの管理部長としてこの問題を担当した。
大野さんはさっそく壁に突き当たった。所有者不明問題だ。
所有者へのアンケートで、宛先不明で戻ってきてしまったのは3人と1法人。送り先の住所を訪ねてみたが所有者は見つからない。
大野さんは周辺の「聞き込み」から始めた。3人のうち1人は飲食店オーナーだったが、すでに自己破産して行方がわからなくなっていた。ただし、飲食店の元従業員がいることがわかった。訪ねて事情を聴くと、元従業員もかつてマンション苗場を利用したことがあるという。すぐに元オーナーに連絡を取ってくれ、協力を得られることになった。
法人の1社は2部屋を持っていたが、何度か住所が変わった末に事業の実態はなくなっていた。最後の住所地を訪ねるとマンションが建っていて、手がかりはなくなった。
それでも大野さんは聞き込みを続けた。訪ね歩くうちに、ふと目についた診療所の看板に、元経営者の特徴のある名字と同じ名前があった。その診療所に飛び込んで事情を話すと、医師の父が、探していた法人の元経営者だとわかった。
残った2人には、管理組合が滞納分の管理費の支払いを求める裁判を起こした。裁判所からの手紙である「送達」は、郵便局の転送期限が切れても可能な限り転居先を追いかけて届けられる。これで2人とも連絡が取れた。
このうち1人は、納める管理費を一部減額することを条件に解体に協力してくれた。
最後の1人になった。でも、解体には合意できないという。もともと、管理組合との関係がこじれていた所有者だった。
最後の1人
いざこざの原因は複雑だ。
その人が買ったマンション苗場の部屋は競売物件だった。元の所有者が住宅ローンを滞納したため差し押さえられたのだ。
ここで「債務の引き継ぎ」というやっかいな問題が持ち上がる。
競売物件を買った人が、元所有者の住宅ローンを肩代わりする必要は、もちろんない。ところが、元所有者が滞納していた管理費などの債務は、物件の新たな所有者に引き継がれるのだ。
管理組合は滞納分の支払いを求めたが、新たな所有者は応じなかった。そこで管理組合は、この所有者がマンションを利用することを拒否していた。
説得に当たったのが大野さんだ。「あなた以外の所有者は解体に合意しています。このまま幽霊屋敷になって事故が起きたら、あなたが責任を問われますよ」などと説き、ようやく解体することにだけ合意が得られた。
個人の土地を、管理組合が競売に
ついに全員の合意を取り付けた。17年10月の管理組合総会で解体を決議した。残っていた修繕積立金約3500万円を使って解体を始め、昨年6月に更地になった。
あとは更地を売るだけ、という段階で、最後まで解体に応じなかった1人が土地売却に反対した。そこで管理組合は、その人の所有分である土地を競売にかけることを申し立てた。管理費の滞納があるため、「債権者」である管理組合は土地を競売にかけることができる。今年2月、新たな所有者が落札し、一連の敷地売却が完了した。
こうした苦労を重ねてようやく更地になった敷地を買ってくれたのは、近くのペンション経営者で、500万円を出してくれた。大野さんの努力もあって、滞納管理費など1千万円以上を回収できた。
解体工事費や諸経費などを差し引くと、500万円近くが残った。これを、ずっと管理費などを払い続けてきた7戸の所有者の5人に分配した。
理事長の石坂さんは振り返る。
「管理がない状態が続いて積立金がたまっていたので、工事費に回せた。初期のリゾートマンションだったので、所有者はもともと比較的余裕のある人たちが多く、協力が得られたことも大きい」
思い出のマンション
ほかにも、いろいろな課題に直面した。解体にあたって工事車両の出入りや足場の設置場所が必要だったため、隣の土地を借りたいと頼んだときのことだ。
隣の土地の所有者から、借りるのではなく買うよう求められた。応じざるをえなかった。
解体前、苗場マンションを「社員寮にしたいので丸ごと売ってほしい」という話が舞い込んだこともあった。石坂さんたちは真剣に検討した。しかし、本当に責任を持って使ってくれるかの確信が持てず、断った。
その会社が近くでやると言っていた事業は、いまはない。もし売却していたら、マンション苗場の所有者たちは楽になったかもしれないが、物件そのものは今も放置され、廃虚になっていたかもしれない。
「自分が中学生のときに親が会社の保養所として買い、友達と何度も利用した思い出のマンションだった。廃虚になることが避けられて、本当によかった」
石坂さんはほっとしているという。」
このリゾートマンションは住戸数が30戸と小ぶりだったので、まだ全員同意が取りやすかったのかもしれません。そうは言いながら、この記事を読むと、解体までに色々な苦労があったことがわかります。大型のリゾートマンションでは戸数が100戸を超える場合もあります。古くなって利用されなくなった大型のリゾートマンションが同じようなスキームで解体できるとは到底思えません。
実際に住んでいないリゾートマンションには、実需のマンション以上に問題点が多々あると思いました。
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