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  • 執筆者の写真快適マンションパートナーズ 石田

中古オーナーに権利なし? マンション共用部に「欠陥」でも損害賠償できないケース



 2023年12月20日の楽町不動産投資新聞の表題の記事を紹介します。


「購入した区分マンションに欠陥があった場合、購入者は、売主に対して損害賠償などの責任を追及することができます。この場合、部屋の中など専有部分の欠陥であれば、当事者同士の話となります。

 一方、廊下や外壁、土地の擁壁など共用部分の欠陥については、管理者(管理組合の理事長な ど)が全区分所有者に代わって損害賠償請求を行うことができます。しかし、区分所有者の中に、中古で購入し後から所有権を取得した区分所有者がいた場合は話が変わります。現行法の規定によれば、この場合には管理者が損害賠償を請求することが非常に難しくなるのです。

 この点は現在法改正の議論にもなっています。現行法の問題点と今後の改正の動向について解説します。


問題となるのはどんなケース?

 問題となるのは例えば次のようなケースです。

 ある区分マンションで、分譲から数年後に外壁のタイルが剥離して落下するなどの問題が起こりました。調査の結果、マンションの施工の問題によるものだということが判明します。

 これを受けて管理組合は、契約不適合責任により分譲時の売主に契約不適合責任などに基づき補修工事を要求しました。しかし、売主が補修工事を拒否したため、管理組合は損害賠償を請求することにしました。

 通常は、管理者(管理組合の理事長など)が全区分所有者に代わって損害賠償請求を行います。また、相手が任意に支払わなければ訴訟を起こすことになります。

 しかしこのマンションでは、現在までの間に、全体の1割ほどが転売により所有者が変わっていました。実は、このような事案で、区分所有法などの規定により管理者は訴訟をすることができないとされた裁判例があるのです(東京地裁2016年7月29日判決)。


法律上の論点は

 なぜこのような結論となったのか。前提として法的な論点を整理します。

 まず、購入した建物などに(専有部分・共用部分に限らず)欠陥がある場合には、契約不適合責任などに基づき損害賠償請求権が発生します。もっとも、この請求権はその後に建物などを譲渡しても当然には移転しません。よって、損害賠償請求権は、これを別途譲渡する合意がない限り当初の所有者にとどまり続け、後に購入した所有者は原則として損害賠償請求権を有しないのです。

 次に、区分建物の共用部分について損害賠償請求権が発生した場合、法律上は全区分所有者が分割して請求権を持つとされます。そして、全員がそれぞれ請求するのは効率が悪いため、区分所有法の規定により管理者がまとめて請求できるとされており、また管理者は区分所有者のために訴訟を行うことができるとされています(26条4項)。


裁判例の結論

 もっとも、前述の東京地裁判決では、この規定により管理者が訴訟を起こせるのは区分所有者全員が損害賠償請求権を持っている場合に限る、と判断されました。

 この裁判例に従えば、区分マンションの一部が売却され所有者が変わっている場合には、新しい所有者は請求権を持っていないため管理者が訴訟を起こすことはできないことになります。

 分譲から年数が経って欠陥が発覚した場合など、損害賠償請求を行うまでに時間がかかってしまったケースではこのような問題が生じやすくなるといえます。


損害賠償を請求するには?

 もちろん、一部の所有者が変わっていても請求が全く不可能になるわけではありません。

 しかし、全額を請求するためには、(損害賠償請求権を持っている)当初の所有者に連絡をとり、今の所有者に債権譲渡してもらう必要があります。簡単に譲渡してくれるかは不明ですし、また損害賠償請求の時効が迫っていれば交渉を行う時間的余裕もありません。また、先ほどの結論はあくまで管理者が区分所有者に代わって請求する場合の話です。そこで、管理者を通さず、現に損害賠償請求権を持っている区分所有者自らが請求することは当然可能です。

 しかし、この場合に各区分所有者が請求できるのは自分の持分に応じた金額だけです。合計しても補修費用の全額は得られません。

 そのため、もし当初からの所有者が半分しか残っていなければ、補修費用として回収できるのは合計しても半額だけです。補修工事を行うためには残り半額を自腹で負担しなければなりません。


改正に向けての議論

 上記の裁判例の存在により、現行法の下では、管理者が区分所有者に代わって全額を請求することは差し控えられ、当初からの区分所有者だけで補修費用の一部のみを請求せざるを得ないというのが現状です。しかし、これでは区分所有者が損失を負う一方で、本来損害賠償義務を負うべき当初の売主が不当に得することになってしまいます。そこでこのような問題に対処するため、現在、法務省の法制審議会にて区分所有法の改正が議論されています。

 基本的には管理者が過去の区分所有者(損害賠償などの請求権を持っている区分所有者)の分まで代理して、損害賠償などを全額請求できるようにする方向で改正するよう議論が進められています。

 早ければ来年の通常国会で法案が提出される見込みですが、改正が実現し施行されるまでは、この問題は残り続けることになります。


 建物の建設工事や土地の造成工事などに問題がある場合、それが発覚するまでに長い年月を要することもあります。そして、当然ながらその頃には区分所有者が変わってしまっている、ということは多く想定されます。

 しかしながら、このような場合に必要な損害賠償請求ができなくなってしまうのです。現行の区分所有法にこのような穴があることは意外と知られていません。必要な補修工事ができなければ、マンションの管理や価値の維持にとって大きな障害となってしまいます。一刻も早く改正が実現されるよう望みます。」


 この記事にあるように、現在の区分所有法には、他にも問題があり、現在改正について議論されている状況です。一刻もやはく改正が行われることを望みます。


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